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おしまいの後

尾台さんとコスプレ

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 日曜のお昼、

「あれ? うちにこんなお皿ありました?」
「う?」

 尾台さんは自家製のピクルスをお皿に盛っているのだが、そのお皿は初見だった。
 真っ白い磁器のお皿にはコバルトの薔薇が淡く咲いている。

「綺麗ですね、買ったの?」
「んっと、おじいちゃんから頂きました」
「おじいちゃん?」
「はい、袴田君のおじいちゃん」
「あれ? おじいちゃんって距離近くなってませんか? 前までお祖父様って呼んでませんでしたっけ?」
「んっと……親しみを込めておじいちゃんに?」
「込めなくていいんですけど。え? 何? いつですか、いつ貰ったの?」
「木曜日、会社の帰りに……」
「帰りに、とは?」
「会社に迎えに来てくれて一緒にお買い物したんです」

 と尾台さんはパプリカの欠片を摘まんで食べてる、なんなら俺にもくれる。

「何何、そんなの初めて聞いた。え? 二人って何で? 何のために?」
「内緒にしてた訳じゃないですよ! これから色々お金がかかってくるから出せるところは出すって私が買ったって言うと雄太気を使うから聞かれるまで言わなくていいって」
「気を使うというか俺がキレるからですよね…………あれ、そのエプロンも初めて見ました」

 尾台さんは真っ赤なリネン生地に雪の結晶が舞ったエプロンを身に付けているのだが、凄く可愛くて似合ってるけど、まさかそれも。

「ああ! そうこれも頂いたんです、可愛いですよね。一万円以上するエプロンなんて初めてです。イギリスの老舗リネンメー」
「俺の女に勝手に貢ぎやがって何考えてんだあのクソジジイ、そろそろ生前整理させとくか」
「ちょっと袴田君直ぐ怒るの止めてっていつもゆってるよね!?」
「尾台さん俺が嫉妬深いって知ってますよね、俺の知らない所で祖父と会わないで下さい、うちも虚礼廃止にしようかなぁ」
「虚礼……って失礼な言い方しちゃダメでしょ! ちゃんと真心こもってるよ!」

 グラスを取りに立ち上がったついでに尾台さんを後ろから抱いて、頭にキスして。
 本当ダメだなこの人は、俺がどんだけ好きだかまるで分かってないな。

「ねぇじゃあ尾台さんさ」
「はい」
「俺が会社の帰りに尾台さんのお姉さんの職場に車で迎えに行って一緒にお買い物やご飯食べてたらどう思います? しかもそれ内緒にしてるの」
「え」
「尾台さん都合つかないからって尾台さんのお母さんと二人きりで模擬挙式見に行ったり楽しそうな写真いっぱい撮ってその写真尾台さんに送ったりさ」
「………………」
「腕組んで歩いて」
「袴田君の浮気者!! 私が一番って言った癖に!」

 尾台さんは振り返って抱き付いてきて、ばかぁ!! って睨んできた。

「ね? 嫌でしょう? 自分がされて嫌な事を人にしてはいけないよ」
「ううう……ごめんなさい…………なんてゆうか……おじいちゃん孝行じゃないですけど、ほら袴田君のお母さんとの関係なんかを前に聞いたのでお母さんに出来なかった事? みたいのを少しでも私にできたらいいかなぁ……なんて思ってしまって」
「ああ……」

 まあそんな風だとは思ってたけど。

「でも袴田君が私の知らない所で私以外の女の人仲良くするのは例え身内でもむむむ! ってなるからもう止めますね」
「止める、までしなくていいんですよ……でも俺も尾台さんとお皿買いに行きたいしエプロン買ってあげたいです。尾台さんの初めては全部欲しいんですよ。この気持ち分かる?」
「わかりすぎる、私も袴田君に私の初めて全部あげたいよ!」
「ね? だから何となくでいいから、俺がしてたらヤダなって思う事はしないで下さい」

 言ったら尾台さんは手で自分の目を覆った。

「じゃあもうこうするしかないですね」
「え? ああ何、俺の視界に女の人が入るのすらやなの? ええ……尾台さん心の広さが素粒子じゃないですか小さすぎるよ」
「だって袴田君優しいから皆勘違いするんだよ!」

 指の隙間から不満気な目で見てきて可愛くて抱き締める腕に力が入ってしまう。

「そうですよ、ですよ」
「ほらあ!」
「そんな仮面で満足する人達に嫉妬する必要ないでしょう? 俺がドエスだって知ってるのは絵夢だけだよ」

 大きな目が瞬きをして口をわなわなさせて、嬉しいみたいな恥ずかしいみたいな表情で尾台さんは俺の首に手を回してきた。
 あ、後総務に二人俺の性格を知ってる奴いるなと思ったけど言わなくてもいいか。

「袴田君袴田君!!」
「はいはい」
「しゅきしゅき、ちゅうして?」
「うん俺も好きです、ご飯食べましょう」

 キスして、グラスをテーブルに置いてお昼はシラスとキャベツのパスタだった。
 冷蔵庫にキャベツしかないのにご飯作りますって言うから何を? と思って見てたら冷凍庫からシラスが出てきて驚いた、小さなタコさん入ってる! 当たり!! ってやってる尾台さん非常に可愛い。

 バターと醤油の塩梅も絶妙で、あ、イカさんもいた! って超ちっちゃいの俺にくれるのどうにかして、愛しくて背もたれなかったら倒れてるレベルで好き。

 食べ終わって洗い物をしていたら尾台さんが背中にくっ付きながら甘えてくる、午後はお散歩行こうね大好きだよって体を揺すられて幸せだなって思う。

「目的地はありますか」
「んー? 別にどこでも! 袴田君と歩きたいだけ、ああ……でもそうだなあ、じゃあ秋葉原まで歩いて行こうかな」
「ええええ?!! 秋葉原?!?!」
「何? いや?」
「いえいえ、急にコスプレショップに行きたいなんて言うからビックリしただけです」
「言ってないし」
「でも気になる?」
「うん気になる!」

 背中でこくって頷いてて可愛い。

「そう言えば色んなシチュエーションでエッチしてる割にはコスプレでした事ないですね」
「うん、しかもどんなシチュエーションでしても結末は私の、自我崩壊快楽連続絶頂中出しエンディングで全部一緒だしね」
「それを何も読まずに淡々と言える尾台さんマジリスペクト」
「ありがとう自分を誇りに思います」
「それで? 何かしたいコスプレあるんですか?」
「ん? うーんと……」

 尾台さんは背中でもじもじ初めて、何か言いたそうだな、洗い物は終わったから布巾を洗って絞ってテーブルを拭いて、その間ずっと背中でまごまごしてる。

「どうしたの? 今更何言われても引かないよ、教えて?」
「えっと……」

 使った布巾を漂白剤に浸けて手を洗って振り向いたら尾台さんは抱き付いてきて胸の所でまだいじいじ。
 顎掴んで上向かせたら、瞼をきゅっと閉じて目合わせませんってしてる。

「俺は尾台さんを嫌いになんてなれないから、言って?」
「う」
「大好き」
「うう……」
「絵夢」
「あの!」
「はい」
「私じゃなくて……袴田君が……」
「うん?」

 瞼が開いて泣きそうな顔。

「袴田君がね?」
「うん」
「警察官とか……」
「ああ」
「白衣とか……軍服とか海軍とかドラキュラとか看守とか着物とか神父さんとか陰陽師」
「陰陽師? へえ、ああそっかなるほど、俺に着て欲しいの」

 コクコクしながら指先で胸弄ってくるんだけど。

「ちょっと止めてよ尾台さん乳首つねってこないで」
「やだ、ごめんつい」

 手を取って、メってしたらキスしてくる。

「一番して欲しいのはなんですか」
「……」
「やっぱり直ぐ出てきた警察官?」
「………………好き」
「おまわりさんになった俺に肉の警棒突っ込まれてあんあん言わされたいの?」
「う」
「手錠されて体の隅々まで取り調べされたいんだ?」
「ひぅ!」

 言いながら背筋をなぞっただけで細い体がびくって跳ねて悲鳴を上げて、どんだけ淫乱だよ。
「何尾台さん、想像して濡れた?」
「行こ行こ秋葉原行こ袴田君」
「わかったわかった支度するから待ってて」

 私もしてくりゅ! と興奮気味に語尾を噛んで尾台さんは洗面所に姿を消した。
 あの子……常に頭の中えっちな事ばっかりなんだけど大丈夫かな。
 着替えてたら、尾台さんはベッドに倒れ込んではあはあしてる。

「何妄想しちゃったの」
「言えにゃい」
「ああそう」

 眼鏡か……眼鏡はどうしようかな、眼鏡か……てブツブツ言ってる。
 にやにやしながら布団にどんどん潜っていっちゃうんだけど、

「ちょっと待って尾台さんそんなとこで一人エッチしないで」
「ヒッ!」

 布団開けたらもじついてて、いい匂いするから首のとこにキスした。

「どんだけスケベ尾台さん、中学生なの」
「営業事務なの」
「秋葉原行くの」
「…………」
「はいはい、じゃあ来週行きましょうね」

 布団の中に引き込まれて、散歩以上の運動量に二人で寝てしまった。



 俺の腕の中で静かに寝息を立てる綺麗な顔を見て自然と笑みが零れた、うんそうだな尾台さんは敵のアジトで捕まって悶絶狂乱凌辱拷問を受ける女スパイのコスプレが似合いそうだなと思った。

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