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連載
煙草 ※
しおりを挟む絶対に自分を裏切らない。
という存在を手に入れてからの尾台さんの成長は目まぐるしいものがあった。
一番嬉しかったのは信頼しているからゆえに起こる俺への反発だった、誰にでも礼儀正しく優しい尾台さんが俺にだけ反抗期なのだ。
いくら酷い言葉を投げかけたって俺は尾台さんを嫌いにならない全部受け止めてくれる、その自信が彼女の心を大きく動かしたと思う。
あっちいってとかどっかいってとか触らないでとかもう嫌いとか直に言う、それでいてチラチラ見てくる可愛い以外に表現できない。
好きだよって言えばふんってそっぽ向きながら抱き着いてくる、恥ずかしいのって襟足にキスしてきて押し倒してしまいそうになる。
俺にだけ反抗して宥められて愛されて、新たな気持ちを理解したら視野の広がった彼女は一番近くにいる友人を心配して一歩踏み込もうとしていた、やっぱり人を大事にする子だ。
でも嫌われたら、の怖気づく心にそっと肩に手を添えるだけで尾台さんは頷いて前進した。
気を使い過ぎて孤立して、お酒依存して、私なんて……と停止していた思考がゆっくり動き出したように見えた。
当たり前だった毎日が突然消えて、何もかもが無意味に見えて投げ出して殻に閉じこもって。
そんな彼女が今また光を見るために顔を上げてくれた、俺に出来るのは絶対に手を離さないからと彼女の側に寄り添う事だと思った。
だって、俺の言葉を押し付けて強制するのもおかしいし、かといって何も考えなくていいんだよなんてのは優しさじゃなくて放棄だろ。
必要以上に詮索しないし、必要以上に甘やかさない(ちょっと無理)。
そんな風に今度は俺が彼女の心の拠り所になって、自分の気持ちは素直に好きだ大好きだと言い続けた。
根が真面目で真情で頑張り屋さんな尾台さんは、一生懸命俺に心を開く努力をしてくれた。
初めてのデート、泣いてしまうと分かってたけど、少し付き放したら涙を流して引き止めてくれた、本当はこんな私じゃダメだってわかってるって一緒にいたいって抱き着いてきた。
俺の方が泣きそうになって苦しいくらいに体が震えた、そしたらまさかのティーバッグだったしスゲー萌えた。
にゃんにゃんさんはこんなにも心が綺麗で素直で傷付きやすい人、それでいて人を癒してくれる。
しかもエッチで可愛くて意地張ってツンツンする割に心の声はダダ漏れで一緒にいると胸の奥の奥の奥の方から好きってため息が出るんだ。
ちょこちょこ意地悪して怒らせたりデレたり飽きる時間が一秒もない。
大好き……本当に好き一生一緒にいたい。
素直にそう、思うのにこの始まりが体の関係にある脅しからスタートしてしまった事。
そしてもう少し遡れば、桐生さんがいなければ俺達は出会えなかったと思うと途端に弱気になって彼女の初めてを奪う事が出来なった。
尾台さんに良く思われたくて、助けに来たなんて大見栄を切った、そして尾台さんは俺を待ってたなんて言ってくれた。
でも俺をここに導いたのは他でもない桐生さんなのにやっぱりそれが言えなかった。
俺のものにしたい、セックスしたい、一つになりたい、離れたくない。
俺の感情は一方的な汚い欲のように思えて、これが最後だって決めたのに傷付いたっていいって言った癖に彼女の一生に一度しかないそれを突き破る事が出来なかった。
それでも彼女は俺の話も聞いてくれると言ってくれた、私の話も聞いてほしいって。
ああそうじゃないだろ、俺はまた尾台さんに救われようとしている。
そして当たり前の事だが、眠っていたヒーローが目を覚ました。
分かっていた事だ、桐生さんが黙っていられるはずがないって、そのタイミングは尾台さんが人との関わり合いをもう一度構築していこうと、人を受け入れる土台を取り戻した時に来るだろうと思っていた。
尾台さんは開きかけた心に裸の感情をぶつけられて混乱していた。
俺以外の男に流す涙、首に着いたキスマークに桐生さんの香水の匂い、嫉妬心に支配されかけたけれど冷静に声色を変えずに尾台さんを落ち着かせる事を優先した。
大好きな笑顔が涙で滲んでいて舐め取りたいけどメイクしてるからハンカチで水滴を拭う、拭ってるのにまた今にも零れそうな顔をして唇を噛もうとするからキスで阻止した。
そうか、分かってしまったんだ。
自分が桐生さんを好きだったって。
憧れとか、尊敬じゃない。
好きだったって気付いてしまった。
かき乱された心を制御できない尾台さんは暴走気味に俺の口を貪って、忘れたい、違う、そうじゃない、でも…………と気持ちを交錯させながら答えを求めていた。
顎を掴んで俺も激しく彼女を攻め立てた、俺も欲が全身に回って血が熱くなる、そうしたら尾台さんは下半身を擦って言ったんだ「えっちしよ」って追いつめられたその先にあるのは俺への感情ではなくて、体の繋がりだった。
もうこのまま妊娠したっていいから抱いてって…………。
誰か、俺は間違った事をしていたんだろうか、間違っていたとしたらどこから直せばよかったんだろうか、いや、初めから勝ち目がないと、それ覚悟で卑怯な手を使った始まりだったじゃないか。
どうしてそれで真正面から受け止めて貰えると思っていたんだよ、うぬぼれるなよ、わかっていたのに何だか泣けてきて……いや、尾台さんが俺を好きなのは分かってるけど。
俺に出来るのはここで尾台さんとセックスしない事だ。
してはいけない、彼女をこれで殺してはいけない。
こんな場所で初めてを奪って血を垂らせて何の意味がある、幸いにも尾台さんは俺ので達する快楽を知らないからいつもの場所を擦りあげて後は舌で誤魔化した、罪悪感でいっぱいのはずなのに上も下も蕩けさせた尾台さんの体はすげーエロくて心臓が破裂するかと思った。
尾台さんの味も匂いも全部好きすぎて舐めても舐めても欲しくなる、そんで彼女もされたらされた分だけ奥から溢れ出してくるからエンドレスなんだよな。
こんな時にダメだってわかってんのに尾台さんが言う所のドエスが出てしまって困った。
運よく古い建物のせいで給湯室の換気扇がうるさくてここの音が掻き消される、それくらい掻き消してもらわないと困るくらい俺は尾台さん舐め回してるって事だ。
セックスしたいって尾台さん思った時、一瞬でもその頭に桐生さんが浮かんだとしたらとんでもねー位胸が疼いたんだ。
自分から誘った手前抵抗しない彼女に乗じてこっちを向かせて片足の下着とストッキングを下げる、その足をシンクに乗せて足首を掴んで見せつけるように目を合わせたままグチャグチャに濡れた入り口を舐め上げた。
舌を奥まで突っ込んで体液を掻き出して、桐生さんで濡れた分は全部飲み込みたいんだ。
吸い出して啜る音と舌が動く音が響いて尾台さんは手の甲を噛んで必死に声を抑えていた。
「またイキたくなってるね素直になって? 俺の口でイキたいの?」
理性の飛び掛かった尾台さんがこくこく頷いて、何がしたいんだよって自問自答も答えがでず、俺は執拗に彼女を言葉で虐めて勃った所を舐め擦って彼女を性で黙らせた。
なんてくだらない男なんだと落胆する。
正面から向き合っていないのは俺の方だ。
少し落ち着いて後日、尾台さんがお昼一緒に食べませんかと誘てくれた。
もちろんイエス!! 以外の答えはないのだが、残念な事にいらない二人が合流した。
それでも俺的には穏便に昼食を済ませた、つもりだったのに店を出て桐生さんが俺の肩を叩いた。
「袴田君~一服してから行こうよ~」
「結構です、俺尾台さんと二人で飯食いに行けると思ってたんで煙草持って来てないんです」
「ああ、煙草は僕のあげるよ」
「桐生さんって」
「セッター」
桐生さんは内ポケットから煙草を取り出して振った。
「俺甘い煙草嫌いなんですよね」
「怖い?」
「は?」
茶色い瞳が細くなって口角を上げて続ける。
「あのまま有沢に尾台連れてかれて袴田君に都合悪い事言われるのも、ここで僕に何か言われるのも」
「…………一本貰います」
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