【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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「やっと話してくれたね」
「私だってお母さんを利用してたんです。自分の償いのために……全然いい子じゃないです」
「知っていましたよ」
「?」
「それが親友だとか具体的には分かりませんでしたけど、寧々ちゃんが大事な人を喪ったのは知ってました。表情で」
「そう……ですか……十年以上かかっちゃいました、ここまで来るのに」
「時間なんて関係ないでしょう、悲しいものは悲しいでいいじゃないですか。忘れる必要だってない、大好きだった人を亡くしたんだから泣いて悔やんで寂しくて当然です。それが人で正しい心の在り方だよ」
「はい」

 ポツっと街灯に照らされた墓石が濡れて、私の頭にも雨が落ちてきた、そうだ今日の天気予報は夜から雨だったと思い出した。
 冷たい雨だけど、辰巳さんに抱っこされてるから寒くはなかった。


「でも大事な事にも気付いて下さい。分かったでしょう人は絶対死にます。何もしなくたって死にますお金持ちでも英雄でも権力者でも誰だって明日生きてる保証なんてない。だから今を大切に、人の為じゃなくて自分の為に生きて下さい、君が幸せになる為に」
「はい」
「千代さんを早く安心させてあげないと」
「そう……ですね、本当は分かっていたんです。こんな事してても何も変わらないって泣きながら我慢してる姿見て千代ちゃんが喜ぶはずないって、でも……そう、私はあんな酷い事言って生きてて幸せになっていいのかなって……そんな事を思っている内に気付いたら、もうどうやって生きていいのかわからなくなってました」
「大丈夫、これからは僕がついてるからわからなくなったらいつでも聞いて? 何度でも君の幸せを一緒に探すよ、僕の幸せは君と共にある」
「怖い……」
「なぜ」
「怖い位嬉しいの、そんな事言ってくれる人が側にいるなんて夢みたいで……辰巳さんが好き」
「素直でいい子、顔上げてごらん」

 顔を両手で包まれて、強まる雨なんて気にしないで辰巳さんはキスをしてくれた。
 触れ合ってる唇がビリビリする、優しくて温かくて舌が絡まってる訳でも体を触られてる訳でもないのに腰が砕けそうだった。


 好きだ、本当にこの人が。


 雨の音が心地いい、湿った空気が辰巳さんのいい匂いを運んできてお腹がじくじくしてくる、こんな所でキスしただけでその先まで想像して私の頭の中男の子かな。

 恥ずかしくなって唇を離して体の距離を取った。
 唇を隠したら笑ってくれて、美形とかイケメンとかそういうんじゃなくて、綺麗な人だなって思った。
 水滴のついた眼鏡の奥の緑眼がキラキラしていた。

「風邪をひいたら困るから車に戻ろうか」
「はい、じゃあ最後に」

 しおりを両手に挟んで胸の奥から千代ちゃんへの気持ち。











「千代ちゃん大好きだよ」














 言って、コーヒー牛乳の下にしおりを挟んだ。





「私に素敵な世界を教えてくれてありがとう、そっちに行くまでたくさん書くから待っててね。【ごめんね】は会ってからでいいよね。その日まで私は…………私を一生懸命生きるよ」




 振り返れば辰巳さんは私に手を伸ばして待ってくれいた、大きな手を握って包まれて生を感じて、もう一回千代ちゃんにまたねって言った。

 歩いて来た道は雨に濡れてぬかるんで更に歩きにくくなっていた。

「ごめんなさい、辰巳さんの革靴が汚れちゃう」
「ふふ……そんな事気にしてるの? 可愛いな。明日一緒に洗えばいいよ、寧々ちゃんのブーツも汚れてるし」
「そうですよね、車も汚れちゃう……」
「ね? 素敵だよね。寧々ちゃんが色んな壁を乗り越えた証だよ、雨の中よく頑張ったね」
「…………ほめ過ぎですよ」
「君にはそれくらいが丁度いいかなって、僕達は雨に縁があるね神の恵み」

 車に乗って辰巳さんは直にハンカチで髪や顔を拭いてくれた。
 上着も脱ごうねって何から何まで優しい。

「じゃ、じゃあ私も辰巳さん脱がす……します!」
「大丈夫だよ」

 ってパッと脱いでチューしながらシートベルト着けられて車発信して。
 ぬぬぬぬぬ……!! 今の私的には良い雰囲気だったと思うんだけどな!!

 そしてあの、甘酒渡されてしまっていい感じにお腹も心もほっこり満たされてしまって、仕事の話とか町の話とか他愛もない会話を無理なくしていたら車が一軒の家の前に停まった。

「着きました」
「辰巳さんの家……」
「はい、僕の家です。あまり綺麗とは言えませんけどね」

 それは伝統的な瓦屋根の古民家で大きくはないけど庭には大きな木が植えてあって立派な門構えで。

「辰巳さんここで育ったの?」
「そうですよ、父が一目惚れして買った古民家で自分でリフォームしたって……古そうに見えて意外と耐震強度あるんです」
「入りたいです」
「ただいまって言って下さいね」

 くすっと笑って辰巳さんがダッシュボードに置いてあったリモコンを操作すれば木製のガレージが開いてもう一台車が置いてあった。

 停車して、傘取ってきますねって辰巳さんは車を降りて、こういう時本当にどうしていいのか分からない。
 ドア開けられてありがとうございますは普通だし、待ってたわよ? みたいのはなんかいらっとするし。
 ああ、そうか! 靴脱いで椅子に正座して待っていた、誠意を示す尾台スタイル!

 辰巳さんが来て、

「お待たせしました、傘を…………え、どうしてそんな切腹の前の侍みたいな顔してるの」
「遊びで来たんじゃないのよ! の顔です。一夜の過ちで来たんじゃないんです……ほら私達……そんな始まりだったし……でも今日は、住む覚悟!」
「過ち? ああ、そうなの、僕は全くそんな風には思っていなかったけど、まあいいやじゃあ抱っこで行こうね」
「やあだ」
「でもそっちの方が楽だし、苺持っていっていいのかな」
「あい」
 車体とドアに傘を掛けて辰巳さんが両手を差し出してくれるから勝手に抱き付いちゃってそのままさらわれる。
 安定感抜群の抱っこに私が傘を持った。
 辰巳さんは車庫から玄関までの間にある花や木の名前をゆっくり教えてくれて、雨に濡れながら桶にプカプカ浮かぶアヒルのじょうろが可愛かった。


「はい、到着」
「た、ただいま!」
「おかえりなさい寧々ちゃん」

 桧の引分け戸を開けて玄関に降ろされて、大きな体の向こう側を覗けば視界に広がる本の洞窟に鳥肌が立った。

 階段のスペースも、もちろん玄関の棚も廊下も、手を伸ばせば本が置かれている。

「図書館みたい! わくわくする素敵です辰巳さん!!」
「ふふふ最高の反応だね」
「全部読んだ本ですか」
「目に付くものは全部読んでいるよ」
「しゅごい! 泊まる!!」
「うん、永住しちゃって?」

 どんな本かは知らない、でもこんな空間異次元過ぎて、手を伸ばして本を開けばどこにでも行けて何者にだってなれるなんて………………本の量が壮大すぎて立ち尽くしてしまった。
 見上げれば大きな吹き抜け、柱の棚に隙間無く並ぶ本、何ここ最高の空間。

「父は若い頃英会話講師もしていたけど、本職は言語学者だったんだ。母は翻訳家、主に日本の小説をロシア語に翻訳していました」
「へえ」
「だから同じ本が言語違いで何冊かあるのは当たり前、翻訳家の捉え方によって微妙に内容も違う心情とかね、面白いよ」
「ほぉ」

 辰巳さんは立ったままの私をまた抱きかかえて部屋に連れて行ってくれた。

「ご飯は体が温まってからにしようか? 着替えを持ってくるよ、僕の服だけどいいよね」
「はい」

 辰巳さんは私をこたつに入れると部屋を出て行って、日本家屋の作りに畳みに何だか胸が綻んだ。

 ここ、好き……。

 お洒落なインテリアに間接照明にラグジュアリーな空間……みたいな部屋より全然いい。
 家より落ち着く……温かい……ふぁ、眠い……。

 コテッとテーブルに頭を預けて、うとうとしてしまう。
 でもここ人んち! いや、私んち?! 必死に睡魔と戦ってたらほっぺにちゅってされた。

「たちゅ……」
「んー……可愛いなぁ疲れたもんね、安心して寝ちゃうの? 僕の家来て五分足らずで? いいよ寝ちゃって、僕はお風呂入ってこようかな」
「…………ん」

 微睡んで、辰巳さんは他にも何か言ってたけどまた視界から消える。



 えっと……何だっけ? 辰巳さん何て言ってたっけ。

 お風呂…………ああ、お風呂?!!

 え、何で一人でお風呂入っちゃうの!
 あっ私が眠たそうにしてたから?

 ダメダメダメ! 起きなさい寧々!


 一生懸命自分を奮い立たせて、顔を振ったら肩にけっとが掛かってて優しくてえへへってなる。

 ってそんなのはいいから、お風呂どこ!!
 彼女寝かせて一人でお風呂とかマジ辰巳さん私じゃ勃たないなんてアレじゃないよね?!
 色々話して回りに回って宇宙の壁発動してたりしてないよねぇえ?!!

 家が思いの外広くて迷ったけど、シャワーの音がしてお風呂発見!

 脱衣所に辰巳さんの脱け殻が置いてあってクンクンするべきか迷う、いやしないけど(ふぁ……いい匂い)。
 すりガラスにおっきな人がいるの見えて、いやちょっと待って勢いで来ちゃったけど、何する気なのか私は!

 あの……別にな、何にもしなくていいから、辰巳さんのちんちんを見………………たいってどんな変態彼女だよ!
 しかも今の状態じゃ通常な訳で、要は私で壁が発動されてないか知りたいのであります!!


 って事はやっぱり…………。








 ガラス戸を引けば湯気と桧の香りのする空気が流れてきて、もじもじしながらお風呂場に忍び込む。

「ん? 何、寧々ちゃん? どうしたの?」

 頭を洗っていたのか辰巳さんは濡れた金髪をかきあげて私を見て、はじゅかしすぎて体は見れなくて直ぐに目を逸らした。






「あっ……と……あの……お、お背中流しに…………来ました」
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