44 / 156
寧々ちゃんと車窓から
しおりを挟む
とりあえずお疲れ様の抱擁を二人で楽しんだ。
会社の真ん前なので、顔見知りも出てくるけどそんなのもうどうでもよくなってる、辰巳さんが好き過ぎるからいけないのだ
私は悪くない、好きの塊になっちゃってる辰巳さんのせい。
「もっとぎゅって辰巳さん」
「何か嫌な事あった? 大丈夫?」
「私、強くなりたいです」
「なれるよ僕がついてる」
体屈めて私の眼鏡を直してからキスしてくれる、唇だけじゃなくて頬や額や頭にも。
いい匂いがして体あっつくなって辰巳しゃん! ってやっぱり抱き付いて、ふと横にやった視線の先にさっき更衣室で声を掛けてきた子達がいた。
目が合っちゃって、こ、怖くない怖くない、怖くないもん怖い……どうしようかと思ったら、
「寧々ちゃん」
顔を上げる前に顎を持たれて、近付く唇が薄く開いてて条件反射で私の口も開いちゃって舌の交わるキスだった。
ぬるってして鳥肌立っちゃう、え、待ってそれはちょっとやりすぎ!! って抵抗しようと思ったら顎に添えられてた手が後頭部に回って動きを封じてきて人前でありえないエッチなキスをされた、わざとやらしい音出して長いしゾクゾクしちゃって腰がグラつく。
「んんんっ……」
「柔らかくて温かい直ぐ溶けちゃうね我慢してたから最高に気持ちいいよ」
「も……やッ」
抜けそうな腰を支えてもらって舌なめずりする辰巳さんの翡翠が光ってて眼鏡を直す向こうの目が誰を見ていたかは知らないけど、気付いた時には彼女達はいなかった。
上がった息を整えてる間に辰巳さんは乱れた服を直してリップも塗り直してくれた。
「大きい荷物だね、持たせて」
「大丈夫です、これ見た目の割に重くないんです服なので」
「服?」
「えっと……明日着ていくお洋服……家に可愛いのがなかったんで…………んっと……その……新しく買って預かってもらってて……それは……明日はお仕事ですけど……でも生まれて初めてのデー……ゴニョゴニョ」
「Awwwwwwwww I love you so much!」
「だから、大事大事なので私が持ちたいんです」
「はあ凄い……人間って極度の愛しさがこみ上げると眩暈を催すんだね」
辰巳さんは目頭を押さえてクラクラするってやってて、そんな寄った眉間も格好いい。
それじゃあ僕はそんな寧々ちゃんを支えて上げなきゃって腰に手回されて歩いて、腕がぶつかるから必然的に組んじゃうんだけど、本当辰巳さんって距離なしお化けで恐ろしいよ、いつの間にかぴっとりくっついてる、嬉しい!
電車に乗って、朝も帰りも同じ電車だなんてこんなの夢みたい。
「それで、何か食べたい物ある?」
「ああ……えっとそれって」
「お夕飯」
そっか……お泊まり……。
「んっと、それなんですけどお泊りは……どうしようかなって……ご飯は食べたいなって思ってるのですが」
「なぜ」
「だって急だし」
「いつだってラブストーリーは突然にですよ」
「そうですけど、後……お母さんから話したい事があるってさっき……」
「ふぅん? 君は?」
「?」
「寧々ちゃんはお母さんに話したい事あるの?」
「私は特に……」
「だったら、もう何言われるかなんてわかっているでしょう。それを言われるためにわざわざ家に帰る必要ってある?」
「……ないです、私もそれは分かってて」
「こないだこれにない牽制をしたからね。お母さんにとってこんな得体の知れない未知な男は脅威だったと思うよ。家まで知られて娘の気持ちも傾いてて家族も囲われてて……きっとこれからお母さんは本気で寧々ちゃんを取り返しにくると思う」
「…………」
「今まで以上の手を使って君の気持ちを無視して、傷つけても自分の元に置いておこうとするんじゃないかな。そんな場所に僕が寧々ちゃんを帰すと思う?」
電車が停車して、四ツ谷、そしてまた電車が出発する。
ドアの前、隅に寄り掛かって目の前は辰巳さんで封じられてるから退路はない。
「辰巳さんあのね……」
「うん」
「今朝、お母さんに昨日渡されたお見合いの写真を目の前で捨てました。私を幸せにしてくれる人はもういるって……これは必要ないって」
「夜、辛そうにしてたのはそれだったんだね」
「今までも小さな反抗はしてたけど、こんなハッキリとお母さんの面目を潰す様な反抗って初めてで」
「うん」
「だから……もちろん、私は今一番辰巳さんが大事でそれが本心ですけど……ここまで来てお母さんが今どんな気持ちなのか気にならないと言ったら嘘で」
「そうだよね、寧々ちゃんは優しいもんね、そんな簡単に見捨てられないよね」
「…………見捨てる……」
【まもなく新宿です】
沈黙を車内アナウンス破って電車が新宿のホームに進入する。
バッグと洋服の入った袋を握り込んでどうしよう、背中に汗かいてきた。
減速して、停車して立っていた方の扉が開く、いっぱい人が降りて、乗ってきて……発車のメロディが鳴って、
「降りるよ」
ドアが閉まる寸前の所で腰を攫われてそのまま私は新宿のホームに立っていた。
ドアが閉まって、電車は私からゆっくり離れていく。
「辰巳さん……?」
「ねえ寧々ちゃん、生きるってさ……不安だらけだよね。ああなったらどうしよう、こうなったらどうしようって……何でそうなると思う?」
「?」
真っ直ぐ向き合って顔を持たれて視線が絡む、的確な答えが頭に浮かばなくて顔を左右に振った。
眼鏡を直して長い睫毛の瞼が上がる、静かな辰巳さんの声が週末の雑踏音を制した。
「自分に自信がないからだよ」
「自信……」
「そうでしょう、明日のテストが楽しみなのは勉強したって自信があるからだよ、人前に出るのが怖くないのは自分の外見や意見に自信があるから。寧々ちゃんがどこにいても不安で苦しいのは自分に自信がないからなんだよ。失敗したら恥ずかしい、怒られたらどうしようって。失敗を責められたら、もうそこか先には進めないもんね失敗を怖れて自信がなくなっていく。本当の君はこんなに魅力的なのに、そばにいる人がそれを伝えなかったから。あなたは生きてるだけで素晴らしいって存在を認めて自信を付けさせてあげなかったから失敗を次の挑戦に繋がるように慰めてあげなかったから、だから寧々ちゃんは自分を信じてあげられない。そういう他人を慈しむ心を何て言うか知ってる?」
「…………」
親指が唇をなぞって、耳がキンッとして周りに行き交う人までも消える、緑に囚われる、世界に私達しかいなくなる。
「愛でしょう。それが愛情じゃないの、そこにいるだけで愛しいと思う気持ち。何もいらないから、隣で鼓動を聞いてるだけで幸せになる気持ち生まれてきてくれてありがとうって思う気持ち」
「………………そうですね」
瞬きをしたら、涙が溢れそうなので息で震えを逃しながら瞳をただ見続けた。
「自分に自信が持てれば世界は180度変わります。小さな「でも」や「だって」を僕と少しずつ減らしていきませんか」
「うん、減らしたいです」
「僕が死ぬまで寧々ちゃんを愛してあげるから」
耐えきれなくなって抱き着けば大きな手が背中を撫でてくれた。
「前に言った事、覚えてる? 寧々ちゃんが欲しいと思う方を選択してほしいって」
「奪うとかじゃないって話……?」
「そう、あれはね例えば今ここで僕は君を無理矢理家に連れて帰る事も出来るんだよ奪い去るように。でもそんな強引な方法は寧々ちゃんのお母さんとしている事が同じだし、それだとしっかり決別できていないから、時間が経てばお母さんに罪悪感が出てくるでしょう。頭からお母さんが離れないままで、ふいに今までされてきた事が僕にまで及んだらと考えて、僕を巻き込みたくないって寧々ちゃんは優しいから色んな恐怖に悩まされると思う。だから僕はちゃんと寧々ちゃんの意思で僕と居たいって言ってもらいたいんだ。お母さんとは決別するって自分で線を引いて君の人生をスタートしてほしい。他人なんていいから私だけを考えて」
「はい」
「自分の人生を正しく生きる事を自分勝手だなんて言わないんだよ。自分の言葉に自信をもって責任をもって僕が必要なんだと言ってほしい。僕は愛する人のためなら、この世に怖いものなんて何もない」
「ありがとう辰巳さん」
踵を上げて伸ばした腕を肩に回して私からキスして、またぎゅってしてもらう。
「寧々ちゃん好きだよ」
「辰巳さん……知ってますか好きの反対は嫌いなのに、嫌いの反対は好きにはならないんです」
「ん?」
「人に対して一番の不快感を表す言葉って大嫌いじゃないんです」
「うん」
「お母さんは……色々おかしかったけど私に人を拒絶する最大限のその言葉を使った事はなかった」
体を少し離して、鞄を持ち直した、ホームには次の電車が入ってくる。
停車して人が降りて、
「大丈夫、私は辰巳さんとこの先も一緒にいたいって思ってます夕飯も食べるしお泊まりも……します。でも、どうしても大切な物が家にあって、それだけでもいいから取りに帰りたいです。お母さんの言葉には耳を貸さないから」
「そんなの無理でしょう」
「でも本当に大事なモノなんです」
「僕よりも?」
「辰巳さん位……大事」
「それが君の選択なの……なら僕も一緒に」
辰巳さんの手が緩んで、今しかないと思って鞄を押し付けた。
「これ、この鞄ないと会社いけないし人質だと思って持ってて下さい、必ず辰巳さんの家には行きますから」
「寧々ちゃん」
「ごめんなさい」
「待って」
「大好き辰巳さん」
「寧々ちゃん」
鞄を全力で押して閉まる電車に乗り込む、長い手が届く前に扉が閉まって背を向けて見ないようにした、電車が辰巳さんから遠ざかっていく。
金曜日の人が入り雑じる車内、涙を拭いて眼鏡を直した。
車窓から真っ暗な夜を一人で眺めた。
会社の真ん前なので、顔見知りも出てくるけどそんなのもうどうでもよくなってる、辰巳さんが好き過ぎるからいけないのだ
私は悪くない、好きの塊になっちゃってる辰巳さんのせい。
「もっとぎゅって辰巳さん」
「何か嫌な事あった? 大丈夫?」
「私、強くなりたいです」
「なれるよ僕がついてる」
体屈めて私の眼鏡を直してからキスしてくれる、唇だけじゃなくて頬や額や頭にも。
いい匂いがして体あっつくなって辰巳しゃん! ってやっぱり抱き付いて、ふと横にやった視線の先にさっき更衣室で声を掛けてきた子達がいた。
目が合っちゃって、こ、怖くない怖くない、怖くないもん怖い……どうしようかと思ったら、
「寧々ちゃん」
顔を上げる前に顎を持たれて、近付く唇が薄く開いてて条件反射で私の口も開いちゃって舌の交わるキスだった。
ぬるってして鳥肌立っちゃう、え、待ってそれはちょっとやりすぎ!! って抵抗しようと思ったら顎に添えられてた手が後頭部に回って動きを封じてきて人前でありえないエッチなキスをされた、わざとやらしい音出して長いしゾクゾクしちゃって腰がグラつく。
「んんんっ……」
「柔らかくて温かい直ぐ溶けちゃうね我慢してたから最高に気持ちいいよ」
「も……やッ」
抜けそうな腰を支えてもらって舌なめずりする辰巳さんの翡翠が光ってて眼鏡を直す向こうの目が誰を見ていたかは知らないけど、気付いた時には彼女達はいなかった。
上がった息を整えてる間に辰巳さんは乱れた服を直してリップも塗り直してくれた。
「大きい荷物だね、持たせて」
「大丈夫です、これ見た目の割に重くないんです服なので」
「服?」
「えっと……明日着ていくお洋服……家に可愛いのがなかったんで…………んっと……その……新しく買って預かってもらってて……それは……明日はお仕事ですけど……でも生まれて初めてのデー……ゴニョゴニョ」
「Awwwwwwwww I love you so much!」
「だから、大事大事なので私が持ちたいんです」
「はあ凄い……人間って極度の愛しさがこみ上げると眩暈を催すんだね」
辰巳さんは目頭を押さえてクラクラするってやってて、そんな寄った眉間も格好いい。
それじゃあ僕はそんな寧々ちゃんを支えて上げなきゃって腰に手回されて歩いて、腕がぶつかるから必然的に組んじゃうんだけど、本当辰巳さんって距離なしお化けで恐ろしいよ、いつの間にかぴっとりくっついてる、嬉しい!
電車に乗って、朝も帰りも同じ電車だなんてこんなの夢みたい。
「それで、何か食べたい物ある?」
「ああ……えっとそれって」
「お夕飯」
そっか……お泊まり……。
「んっと、それなんですけどお泊りは……どうしようかなって……ご飯は食べたいなって思ってるのですが」
「なぜ」
「だって急だし」
「いつだってラブストーリーは突然にですよ」
「そうですけど、後……お母さんから話したい事があるってさっき……」
「ふぅん? 君は?」
「?」
「寧々ちゃんはお母さんに話したい事あるの?」
「私は特に……」
「だったら、もう何言われるかなんてわかっているでしょう。それを言われるためにわざわざ家に帰る必要ってある?」
「……ないです、私もそれは分かってて」
「こないだこれにない牽制をしたからね。お母さんにとってこんな得体の知れない未知な男は脅威だったと思うよ。家まで知られて娘の気持ちも傾いてて家族も囲われてて……きっとこれからお母さんは本気で寧々ちゃんを取り返しにくると思う」
「…………」
「今まで以上の手を使って君の気持ちを無視して、傷つけても自分の元に置いておこうとするんじゃないかな。そんな場所に僕が寧々ちゃんを帰すと思う?」
電車が停車して、四ツ谷、そしてまた電車が出発する。
ドアの前、隅に寄り掛かって目の前は辰巳さんで封じられてるから退路はない。
「辰巳さんあのね……」
「うん」
「今朝、お母さんに昨日渡されたお見合いの写真を目の前で捨てました。私を幸せにしてくれる人はもういるって……これは必要ないって」
「夜、辛そうにしてたのはそれだったんだね」
「今までも小さな反抗はしてたけど、こんなハッキリとお母さんの面目を潰す様な反抗って初めてで」
「うん」
「だから……もちろん、私は今一番辰巳さんが大事でそれが本心ですけど……ここまで来てお母さんが今どんな気持ちなのか気にならないと言ったら嘘で」
「そうだよね、寧々ちゃんは優しいもんね、そんな簡単に見捨てられないよね」
「…………見捨てる……」
【まもなく新宿です】
沈黙を車内アナウンス破って電車が新宿のホームに進入する。
バッグと洋服の入った袋を握り込んでどうしよう、背中に汗かいてきた。
減速して、停車して立っていた方の扉が開く、いっぱい人が降りて、乗ってきて……発車のメロディが鳴って、
「降りるよ」
ドアが閉まる寸前の所で腰を攫われてそのまま私は新宿のホームに立っていた。
ドアが閉まって、電車は私からゆっくり離れていく。
「辰巳さん……?」
「ねえ寧々ちゃん、生きるってさ……不安だらけだよね。ああなったらどうしよう、こうなったらどうしようって……何でそうなると思う?」
「?」
真っ直ぐ向き合って顔を持たれて視線が絡む、的確な答えが頭に浮かばなくて顔を左右に振った。
眼鏡を直して長い睫毛の瞼が上がる、静かな辰巳さんの声が週末の雑踏音を制した。
「自分に自信がないからだよ」
「自信……」
「そうでしょう、明日のテストが楽しみなのは勉強したって自信があるからだよ、人前に出るのが怖くないのは自分の外見や意見に自信があるから。寧々ちゃんがどこにいても不安で苦しいのは自分に自信がないからなんだよ。失敗したら恥ずかしい、怒られたらどうしようって。失敗を責められたら、もうそこか先には進めないもんね失敗を怖れて自信がなくなっていく。本当の君はこんなに魅力的なのに、そばにいる人がそれを伝えなかったから。あなたは生きてるだけで素晴らしいって存在を認めて自信を付けさせてあげなかったから失敗を次の挑戦に繋がるように慰めてあげなかったから、だから寧々ちゃんは自分を信じてあげられない。そういう他人を慈しむ心を何て言うか知ってる?」
「…………」
親指が唇をなぞって、耳がキンッとして周りに行き交う人までも消える、緑に囚われる、世界に私達しかいなくなる。
「愛でしょう。それが愛情じゃないの、そこにいるだけで愛しいと思う気持ち。何もいらないから、隣で鼓動を聞いてるだけで幸せになる気持ち生まれてきてくれてありがとうって思う気持ち」
「………………そうですね」
瞬きをしたら、涙が溢れそうなので息で震えを逃しながら瞳をただ見続けた。
「自分に自信が持てれば世界は180度変わります。小さな「でも」や「だって」を僕と少しずつ減らしていきませんか」
「うん、減らしたいです」
「僕が死ぬまで寧々ちゃんを愛してあげるから」
耐えきれなくなって抱き着けば大きな手が背中を撫でてくれた。
「前に言った事、覚えてる? 寧々ちゃんが欲しいと思う方を選択してほしいって」
「奪うとかじゃないって話……?」
「そう、あれはね例えば今ここで僕は君を無理矢理家に連れて帰る事も出来るんだよ奪い去るように。でもそんな強引な方法は寧々ちゃんのお母さんとしている事が同じだし、それだとしっかり決別できていないから、時間が経てばお母さんに罪悪感が出てくるでしょう。頭からお母さんが離れないままで、ふいに今までされてきた事が僕にまで及んだらと考えて、僕を巻き込みたくないって寧々ちゃんは優しいから色んな恐怖に悩まされると思う。だから僕はちゃんと寧々ちゃんの意思で僕と居たいって言ってもらいたいんだ。お母さんとは決別するって自分で線を引いて君の人生をスタートしてほしい。他人なんていいから私だけを考えて」
「はい」
「自分の人生を正しく生きる事を自分勝手だなんて言わないんだよ。自分の言葉に自信をもって責任をもって僕が必要なんだと言ってほしい。僕は愛する人のためなら、この世に怖いものなんて何もない」
「ありがとう辰巳さん」
踵を上げて伸ばした腕を肩に回して私からキスして、またぎゅってしてもらう。
「寧々ちゃん好きだよ」
「辰巳さん……知ってますか好きの反対は嫌いなのに、嫌いの反対は好きにはならないんです」
「ん?」
「人に対して一番の不快感を表す言葉って大嫌いじゃないんです」
「うん」
「お母さんは……色々おかしかったけど私に人を拒絶する最大限のその言葉を使った事はなかった」
体を少し離して、鞄を持ち直した、ホームには次の電車が入ってくる。
停車して人が降りて、
「大丈夫、私は辰巳さんとこの先も一緒にいたいって思ってます夕飯も食べるしお泊まりも……します。でも、どうしても大切な物が家にあって、それだけでもいいから取りに帰りたいです。お母さんの言葉には耳を貸さないから」
「そんなの無理でしょう」
「でも本当に大事なモノなんです」
「僕よりも?」
「辰巳さん位……大事」
「それが君の選択なの……なら僕も一緒に」
辰巳さんの手が緩んで、今しかないと思って鞄を押し付けた。
「これ、この鞄ないと会社いけないし人質だと思って持ってて下さい、必ず辰巳さんの家には行きますから」
「寧々ちゃん」
「ごめんなさい」
「待って」
「大好き辰巳さん」
「寧々ちゃん」
鞄を全力で押して閉まる電車に乗り込む、長い手が届く前に扉が閉まって背を向けて見ないようにした、電車が辰巳さんから遠ざかっていく。
金曜日の人が入り雑じる車内、涙を拭いて眼鏡を直した。
車窓から真っ暗な夜を一人で眺めた。
0
お気に入りに追加
1,063
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる