【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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 空は少し曇っていた。

 終日曇りで夜中から雨、お帰りの早い方は傘の必要はないでしょうって気象予報士のお姉さんが言ってた。
 会社のロッカーには折り畳みもあるし、私は傘を持たずに家を出る。

 いってきますの言葉にお母さんからのいってらっしゃいは返ってこなかった。


 一歩ずつ家が遠退いて、頬に当たる風が冷たくてマフラーに顔を埋める、取り返しのつかないような事をしてしまった気がして怖い。


 一日経って怒りが冷めて、やっぱりお母さんの事を考えてしまう、自分の沽券の為かもしれないけど私に時間を割いて探してくれたのには変わりないんだよなって変な罪悪感でてる。
 怒ってるのかな、どう思ってるのかな、泣いてないかな、決心したくせに心の片隅で無意識に彼女の顔色を窺ってしまう。

 ダメダメだ、考えるのは止めだ、だって辰巳さんに会えるんだもん暗い顔で会いたくない。


 それにしてもいつになくドキドキする朝だ、約束して会うなんてないから、正直これだって軽いデートのようなものじゃないか!!

 電車に乗って眼鏡曇ってないかなって拭いとく、何なら前髪も直す、ちょっと耳穴ほじって辰巳さんの声最高水準で聞こえるようにしておかないと!!
 それで、し、し、新宿キタ!!!

 色んな人乗ってくる中で、キラキラな金髪が見えた! ああそっか辰巳さん身長高いから電車のドア潜るスタイル!
 こないだ降りた時は手を引かれてたし下見てたから気付かなかった、ああ広告も避けるしなんなら吊革も当たるんだ、そうだエレベーターも頭下げて乗ってた。
 にこって朝から優しい笑顔にきゅんってきて両腕を押えた。

 うぉおおおお! 我が両の腕に宿りし煉獄の焔よ!! 的なあれではない、この手を離すと辰巳さんに抱きついてしまうからである! 我慢だ寧々!! ここは電車ぞ!

「おはよう寧々ちゃんどうしたの朝からそんな苦しそうな顔をして、組織の人間から追われてるんですか」
「た、辰巳さんへの気持ちを一生懸命自分の中に押し込めているところですぐぐぐ……」
「何それそんな子初めて見た」
「私も初めての経験なので自分でもどうしたらいいかわからなくて。止めてそれ以上近寄らないで飛び付いてしまう」
「無理」

 注意してるのに辰巳さんが人に押されて目の前から更に一歩近付いてきて服が触れてビクッてなる、なったら手が勝手におっきな体をぎゅってしてしまった。

「我が両の腕に宿りし絶対なる力的なものが勝手に!」
「僕も宇宙に蔓延りし電波的なものに体を支配され!」

 って片腕で抱き締められたんだけど、これいよいよ頭可笑しなカップルになってないかな!!
 彼女中二病で彼氏電波系って! 

「私は本当によくわかんなくて混乱中で我慢できないあれなので、辰巳さんは大人なんだから我慢できるでしょ! 年の功で自制して下さい恥ずかしいよ」
「自分は抱き付いておいておじさんは止めろってどういう理屈? 本当理解不能な所が愛しいよbaby」
 少し辰巳さんのお腹クンクンしただけでも安心して、曇ってるけど気持ち晴れやか……。

「はぁあ、ふぅ……それにしても辰巳さんって電車乗るだけでも大変そうですね」
「ん? 身長? の事かな電車なんかはもう慣れたけど、そうだね知らない場所に行った時は頭上に注意しながら歩いてるよ。でも急にこの身長になった訳じゃないからね避ける術みたいのは成長と共に身に着けたかな。高身長も便利な時あるんですよ、待ち合わせ場所の目印になるし、商談も体のお陰で雰囲気で負ける事ないですしね威圧的に出るって意味じゃなくてね。でも見た目で舐められるってないですから営業向きな体格です」
「そうですか」
「そしてこうやって僕が壁になったら寧々ちゃん隅っこに閉じ込められるからやりたい放題できて最高」
「あ、やだ」

 頭にいっぱいキスしてくるんだけど、押し込まれちゃって動けない。
「止めて下さい電車で迷惑です」
「I don't understand Japanese」
「治外法権発動しなくていいですからぁ!」
「そうだ飴食べた?」
「え……っと食べてないです」
 もったいなくて。
「だと思った。美味しいんだよコレ、ほら寧々ちゃん顔こっち僕を見て」
「?」

 何って顔上げたら歯に飴挟んで見せてくる、さすがに口移しはしてこないけど、え、それってどういう意味。
 んって顎で促されて、こういう意味? ってちょっと口開けたら顔左右に振られて緑の瞳が違うだろ? ってしてきてこんなとこでドキドキが急上昇して汗かいてきた!!
 見下されてゾクゾクきて舌を出して口を大きく開けたら辰巳さんが角度を調整して飴が落ちる。
 ころって舌で受け止めて辰巳さんにやってするんだけど、朝からなんの儀式かなこれは!!

 閉じた口を両手で塞いで、んんん! ぬるい甘酸っぱい。

「おいし?」

 いっぱい頷いたらよしよしって頭撫でてくるよ、はい間違いなく美味しいです、あ、味の話だよ!!

「ああ、それに身長で大変よりも僕はこの蛍光灯の光のが苦手で大変なんだよねえ」

 辰巳さんは窓に手を付きながら私がグラつかないように支えてくれて車内の電気を視線で示す。

「ほら僕目が緑でしょ虹彩って色が薄ければ薄い程光の入ってくる量が増えるんだよね。だから寧々ちゃんより僕のが光を眩しく感じるって訳。日本ってやたらと明るいでしょトイレとかオフィスとかうちの会社間接照明にしたいよ夜でも眩しくて頭痛くなる」
「そういえば海外って地下鉄やレストランが暗かったかも」
「そうそう、あのくらいでも充分明るいんだよね」
「辰巳さん目からビームが出そう……」
「ふふふ寧々ちゃんが僕に惚れちゃうビーム出たらいいな?」

 見つめ合ってちょっと沈黙しちゃって辰巳さんは首傾げてにこってしてくれる。
 ふぁ! 格好いいそんなの分かってたけど格好いい。

 ドキドキするのに変な事思い出して、あのあの、それであのあの、あの日萎えちゃってたんですか……ってすっごい気になるけど聞けない、私背低いから視線下げたら直ぐ辰巳さんの辰部が視界に入っちゃうんだけど…………ええええ?! 勃ってないじゃん! どうして?!! え、やっぱり私じゃ勃たないの? ……ってああそっか電車の中だった! 良かった、勃ってなくて良かった。

「たってる」
「いやいやいや、勃てなくていいですこんなとこで!!」
「え? 立ってる方が意外と楽で車とか飛行機のエコノミーなんか足入りきらなくて痛いんだよねって話を」
「私の足長おじさん!!」

 えい! っと誤魔化すために抱き付いとく!!!

「あらあらじゃあ一生援助しますね」
「あん、そういう意味じゃないです」
「わかってますよ」

 お腹の少し上の所から顔を上げればやっぱり額にキスしてくれた。

「私、辰巳さんの事何も知りませんが」
「はい」
「お話しするのとっても楽しいです」
「So do I」
「周りから見たら全然お似合いじゃないし、辰巳さん凄い人だから私頭悪いし理解できない事ばかりかもしれないけど、でも無理してる訳じゃなくて……本当に一緒にいたいからいて、無理矢理好きになってるんじゃなくて……その……えっと、何の……話でしたっけこれ……」
「分かってます大丈夫、僕達はお似合いだし寧々ちゃんは賢いし素直に会いたくて早く家出てきてくれたの知ってます、心から僕が好きなんだってちゃんと分かってるよ」

 思ったより恥ずかしかったので見上げるの止めて横を向いとく。

「好きって気持ちは当人同士が通じ合ってればそれでいいんだよ、他人の言葉に惑わされないで下さい、寧々ちゃんは僕だけを見て僕だけを信じて」
「はい」

 いつの間にか電車は四ツ谷駅を発車してて次は御茶ノ水だ、私は阿佐ヶ谷からなので辰巳さんとの乗車区間は快速だから二駅だけ。

「今度は各駅でゆっくり行く? それとも僕の家から出勤しちゃう?」
「なっ!  …………えっと、辰巳さんの家ってこないだ世田谷って言ってましたよね」
「うん代々木上原、まあ池ノ上って井の頭線でもう少し近い駅があるんんだけど、その駅からだと乗り換えも多いし所要時間も長いから代々木上原使ってるんだ。駅から歩いて12分」
「急いでなければ毎日行き帰りのお散歩には丁度いい時間ですね」
「そう、ちなみに下北沢までも歩いて12分なんだよ」
「下北沢?」

 って確か……。

「そう、今度のイベントの場所ね。僕の家住所は世田谷区北沢だから下北は散歩道」
「へえ……おしゃれな所に住んでるんですね」
「実家だよ父も母もいないから空き家になってしまって代わりに僕が住んでるだけ一人で住むには広いかな」
「世田谷が実家……」
「あれ? ねえちょっと寧々ちゃんさあ……」
「?」

 ん? 何? 突然顎クイされて眼鏡の奥の翡翠が困ってる。

「今の…………土曜日、うちから行かない? ってお誘いだったんだけど気が付かなかった?」
「!!!」
「今日さ……僕の家にお泊りして……一緒にご飯作ったり? お風呂入って…………今夜は僕のベッドで……」
「ぅ……」

 あ、やだ……変な事想像しちゃうヤダヤダ、唇震えちゃう!!

「あ、もう直ぐ御茶ノ水だ」
 顎から手が離れてふわわわ……!
 解放された……って思ったのに大きな手の平を胸の前で見せられた。
「はい、ポーチ渡して貰えますか」
「!」
「一応、今日はお持ち帰り予定だけど持ってきてるんでしょう? ポーチ」
「…………」
「寧々ちゃんはいい子だから持ってきてると思ったけど」

 そそそそそ、そんなもの!! 持ってきてるわけ! 

 鞄のチャックを開けて取りやすい位置に入っていたポーチを出して辰巳さんの胸に押し付けた。

「本当に、本当に本当に本当に洗う以外に使っちゃだめですからね」
「ふふふ、使うって何よ。朝からエッチだなぁ寧々ちゃんは」

 そんな事ないです! っていいたいのに、降りるよって絶妙な力加減で腰を引き寄せられて変な声出たし、それだけで体じんじんしてしまった。
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