【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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ご飯

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「だから尾台ちゃん、このセルをどうするんだって?」
「ですから、選択して右クリックして【挿入】を選択して下さいってさっきから」
「え、何何右クリックして何すんの?」
「だから【挿入】してって言ってるんです」
「どこに?」
「ここに!」
「何するの?」
「【挿入】してって」
「えっとどこだっけ」
「もう、早くここに入れて下さい!」
「ごめんもっかい説明しイッテ!!」
「こら有沢!! いい加減にしろバカ! お前本当に懲りてないのな! 自殺願望でもあんの?」

 桐生さんに丸めた本で頭を叩かれて営業部のエース、童顔フェイスの有沢さんはうるせうるせって口を尖らせる。

「いいじゃん、ちょっと位セクハラしたってさー」
「よくないんですけど! 気持ち悪いし迷惑だし近寄らないで下さい!」
「だって尾台ちゃんが最近俺の資料に手抜くんだもん、怒ってよ課長ー」
「そんなの有沢さんがギリギリになってから資料作ってって言うからあんなのしかできないんでしょう! 私達のせいにしないで下さい」

 と実はその資料作ったの私なんだけど、尾台さんは分かっていて言い返してくれた。

「セクハラかましてるお前も問題だし、ギリギリだからって手を抜いてるって言い切る尾台も問題だな、その資料って最終的に誰が見るんだよ尾台」
「あぅ……あっの…………取引先の方です」
「あ、マジ……桐生君尾台ちゃんは悪くなくて俺が」
「お前に聞いてないよ」
「申し訳ありません」

 桐生さんの声色が変わって尾台さんは直に謝って、とりあえず仕事に戻りなさいと桐生さんは顎で指示した、有沢さんは席を離れる間際、尾台ちゃんごめんねって手を合わせて言ったけど、尾台さんは知らないもんバカってツンと顔を横に向けた。

「尾台さん、有沢さんの私が作った資料ですよね……ああ、あの……」
「いいよ、言った通りだよ。急な要望になんてこっちだって応えられる限度があるし」
「その急に応えられるよう、余裕を持った計画が大事って訳ですよねえ社員様方」

 尾台さんの向こうでPCを叩く久瀬さんは棒付きの飴を舐めながらプリントアウトした資料を尾台さんに手渡した。

「尾台先輩これ許諾開始日がずれてますけど大丈夫ですか、後原題表記も少し違いますよ、それと半角スペースなのか全角なのか統一して下さいリストの見栄えが悪いです」
「えっと……ごめんなさいこれは私まだ目を通してない資料で……」

 んんんっと目を細めて尾台さんは全体的に目を通して私に資料を見せてきた。

「これあの、寧々ちゃんが作った資料だったよね? ごめんね、もう少し丁寧にチェックしてもらっていいかな?」
「え! あっ……直ぐ見直します!」

 うわぁ……死にたい……。
 受け取ろうと思ったら、久瀬さんが尾台さんの手を止めて。

「ああ……でもこれ今日中に必要でしたよね、だったら私が作ります?」
「んんっと……」
「あの、尾台さんこの契約書なんですけど見てもらっていいですか」
「尾台ちゃん、午前中うちにお客さん来るの見積書できてるよね?」
 他の事務員や営業さんにも話し掛けられて尾台さんは私に向かって頷いた。

「そうだね、資料は一旦久瀬さんに任せて、寧々ちゃんは手持ちの仕事終わったら午後にある部会のレジェメが人数分あるかチェックしてもらっていいかな、久瀬さんの仕事だったんだけど代わりに頼める?」
「はい、やらせて下さい」

 頭下げて返事して、尾台さんは他の仕事の話を始めて、久瀬さんは私の仕事引き継いで……。
 こういう時私いる意味あんのかなって思ってしまう本当役立たずすぎて帰りたい。

 でも溜め息吐いたりとか投げ出したらそれこそ、これすらできない人間になっちゃうから与えられた事だけはしっかりやらなきゃ。

 ただ今日は不思議といつもより気持ちが沈んでなくて、頭のもやもやも落ち着いてて見積もった時間より早くレジェメの確認も出来たし、その分久瀬さんの手伝いもできた。

 一緒に仕事をしてたら久瀬さんは言った。

「私、無駄が嫌いだから少し冷たいような言い方しちゃうけど、一番は八雲さんの助けたいだけですからね。えったん八雲さんの漫画楽しみにしてるし、私八雲さん好きですよ」
「?!」
「だって一途じゃないですか、私そういう人って好きです。素直に生きる人卑屈にならずに頑張る人」

 胸ぎゅっときて、やだ本当に私百合っ気あんのかよ泣きそうよ、私も好きです久瀬さん、いつも怖いってビビってた久瀬さんに胸ドキドキきてる!!

「あ、あの……あり」
「でも、仕事の話は別件なんでいい加減レイアウトを微妙に間違えるの止めてもらっていいですか、ちゃんと確認して下さい。出演者の名前もたまに間違えてるんですけどコピペするだけですよね? どこに間違える要素が? 修正するの面倒臭いんで勘弁してください本当に時間の無駄、そういうのマジ嫌いなんで」
「すみません」


 怖い。





 それでお昼は屋上で食べた。
 私は大体誘われない限り一人で食べてる、どうしてもな仕事があれば自席で食べてる。

 普通屋上なんて事故防止のため開放してる会社少ないと思うんだけど、うちのビルは古くて管理がまだまだ薄い。
 特別景色も良くないし綺麗じゃないし人が寄り付かないから南京錠で施錠もされてなくて、鍵はかかってるけど勝手に開けて外に出られる。

 そう、ぼっち飯にはうってつけの所なのだ。

 屋上に続く階段に置いてあったブルーシートを引っ張ってきて冷たいコンクリートに敷いて、朝コンビニで買ったおにぎりを二つ置いた、お茶だけは魔法瓶に入れてきた。
 風が吹いて頬にかかるボブがくすぐったい。
 眼鏡を直して、寒いなぁって思った。

 久々に来たけど、そりゃコート着る季節だもんな。
 おにぎり食べたら早く戻ろう、今度はフロアの隅っこにある自販機の前でぼっちしてよって私は何歳になっても一人になれる場所を探してしまう。

 皆といないと不安って時もあった、同調勢力だっけ私も仲間にならなきゃいけないって思った時期もあったけど疲れて辞めた。

 おにぎりの包みを引っ張っていたら。




「やっぱり天使は空に一番近い場所で食事を?」


 ふわっと肩にふわふわのブランケットが舞って香水のいい匂いがして止 め て 下 さ い!

「ち、違います一人の方が落ち着くだけです」
「分かりますよ“声”は雑音に遮られますからね」
「そういうんじゃないですってば」

 隣に座った辰巳さんは巾着を持ってて、あれ手作り? 中身は何だろうピロシキ? ボルシチ? 確かお母さんがロシア人だって聞いたな、凝視してたら出て来たのはアルミに包まれたおにぎりだった。

「ふふふ、ピロシキでも出てくると思いました?」
「え!! そんな」
「僕は日本人だって言ったでしょう」
「それ辰巳さんが握ったんですか」
「もちろん、父は他界して母は今ロシアにいますから一人暮らしです。母の両親もロシアにいて父の両親はイギリス人のおばあちゃんは亡くなってお墓はこっち日本人のおじいちゃんは生きていて近くに住んでます。元気にしてますよ」
「クォーターってなるとなんだか複雑に感じちゃいますね」
「年を取ってバラバラになって別の場所で暮らすってどこの家庭でもあるけれど、僕の場合それが国境を越えるからね」

 辰巳さん自身の話なんて初めて聞いたなって横を向けば食べます? っておにぎりを差し出されて好奇心から自分の持っていたコンビニのおにぎりと取り替えてもらった。

「出会いなんかを話すと、日本に一人旅に来ていたおばあちゃんが道に迷って、それをおじいちゃんが身振り手振りで助けて、そんなおじいちゃんを気に入ったおばあちゃんはそのまま日本に残った………………ってそんな所からのスタートです」
「何だか可愛い」
「それで父が生まれてバイリンガルな父が日本語学校の講師をしていた時に知り合ったのがロシア人の母です」
「なるほど」
「そして僕が生まれました」

 アルミホイルの包まれた真っ黒のおにぎりは、正直辰巳さんが持つには不釣り合いな気がした、その位辰巳さんには日本の血が薄い。
 金髪で真っ白で骨格も私達とは違くて目も緑色で目と鼻の間隔も堀の深さも何もかも違う。
 でも私と同じイントネーションで日本語を話す。

「元々日本料理に興味があって来日した祖母だったので、結婚したら更に日本料理にはまって母国料理はほとんど作らなかったそうです。正月なんか豪華なお節料理を作ってましたよ。母も売ってる食材が食材なので基本は和食で、でも味付けはロシアっぽかったり……たまに郷土料理を一緒に作ったりしました。でも基本は米に味噌汁でロシア料理もイギリス料理も馴染みはないです」
「へえ」

 頂きますって辰巳さんが握ったおにぎりパクって食べたら焼きたらこだった。

「美味しい」
「良かった」

 もぐもぐしてたらいいこいいこしてくれる。

「辰巳さん」
「はい」
「私料理って何にもできません」
「うん、僕出来るし大丈夫だよ。覚える気はあるの?」
「あります、お母さんがキッチンにいれてくれなくてお料理習えなかっただけで、作ってみたいです」
「なら問題ないね目玉焼きから作ろうか」
「はい、もう1個も取り替えてもいいですか?」
「いいですよ」

 2つともおにぎりを交換して、お礼に魔法瓶の温かいお茶とポケットに入っていたチョコを辰巳さんにあげた。
 本当は自販機に退散する予定だったけどブランケットが温かかったからじっとしてた。

「あの……」
「なあに」
「家を出ようと思った事もあったんです」
「うん」
「そしたら、だったら今までにかかった学費を全額返しなさいって言われて」
「そっか、寧々君は私大でしたっけ」
「はい、それで……断念しました。まあ家を出ても生活力ないんですけどね。でも行きたくなかったピアノも先生が怖かったお習字も遅くまで帰れなかった塾もお母さんが憧れてた女子高もお母さんが行きたかった大学も、全部私がお金借りて行ってたなんて驚きでした」
「安いね」
「え」

 辰巳さんは顎をくっと引っ張ってキスしてきて、眼鏡がかちゃっと擦れた。

「一千万位だよね? 総額で……そんなお金で天使が手に入るなんて安いね」
「な、何言ってるんですか」
「ん? 日本語。自分の娘に金額で価値をつけるか……ふぅん面白いな」


 くすって笑う辰巳さんの言葉は電波な時より意味が分からなくて電波を感じた。

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