【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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 会社の近くにある天丼屋さんの二階は広いお座敷になっていて、今回はそこを貸し切りにして飲み会が始まった。

 大好きな柚子はちみつサワーを小海老の天ぷらに藻塩をかけてチビチビやりながら、私は今日も気の合う他部署の二人とヒソヒソ話をしていた。

 初めは各部署で座ってるんだけど時間が経つにつれバラバラになって最終的に皆好きな所に座るのだ。

 私を挟んで右側にいるのは24才のリア腐女子(普通に彼氏持ちヲタ話をする時だけなんか口調キモくなる)、経理のつくしちゃん。
「やややー寧々氏のこないだ傑作、腹黒生徒会長が凶悪ヤンキーを性で黙らせる話は王道でありながら萌えましたよ~やっぱり口の悪いオラついた受けって最強ですな。体は屈服してる癖に意地張って泣きながら煽ってんのきゅんときます!」

 左側にいるのは44才の2児持ち貴腐人(入社した時たまたま目が合って、あれ……何かこの人……イケる………………!! って謎のテレパシーを感じたお姉さん)、事務の優子さん。
「アタシはその前の双子の兄弟に寝取られる義父の話も最強に萌えたけどね。NTRは本当に背徳感揺さぶられて気持ち良いよねぇ……夫婦の寝室に忍び込んで寝てるお母さんの前で処女を奪われメスにさせられる義父さん可愛かったよぉお……しかも双子の学校の体育教師で学校プレイもあるし、受けのがたいが良いってツボ、筋肉の書き方がまた一段と上手くなっててニヤニヤしちゃった」
「ちなみにつくしの今一押しは【異世界企画もありですね】が良かったです!」
「へぇそのタイトルまだ読んでないどんなの」
「バリ受けのAV男優が男しかいない世界に転移して、アナルセックスを知らない世界の住民をお尻の穴で征服する話」
「最高かよ」
「始まりが魔王のちんちんにインした状態で転移なのでイッた瞬間男優のレベルが99999に! スタート一秒合体カンスト!」
「設定エグすぎ! 本当こんなクオリティーの高い書物を無料で提供してくれるなんてマジ寧々様神だから!」
「ふふふ、ありがとう。ちなみに今度…………ゆ、百合も描いてみようと思うんだけどどう思う?」
「「良き!」」

 ああ、よかった二人は賛同してくれた。

「どんな話を書くんですか」
「…………い、いつのまにか上司が好きになっちゃってる部下の子の話とか……? 純愛を……」
「…………エモイ」
「だったら実はその先輩は結婚してて叶わぬ恋とかだと切なさも倍増さ」
「んぐ!」
「寧々氏どうなされた!」
「な、何でもないです」

 そこまで現実に寄せなくても! と思わず鼻からサワーが出ておしぼりでぎゅってした。

 机を挟んだ向こう側の席ではその上司が飲んでる訳で、この飲み会があってミーティングが出来なかったからと辰巳さんと桐生さんの間に尾台さんは座っていた。
 だから初めの三十分位は書類片手に仕事の話をしてて、うちの島だけ他の社員も真剣に話を聞いてたよ、今はそれも終わって和やかだけれど。

「なんとゆー眼福ですか寧々氏~桐生さんの隣には有沢さんもいるし、営業の美しい顔が全部揃って何の祭りかのぅ」
「キラキラがキラキラを呼んでキラキラキラキラ集まって本当に営業はカースト上位者がお集まりでちょっと距離が近いだけで皆腐って見えてくるよ」
「見てる分には素晴らしいけどそこに放り投げられた私の孤独感半端じゃないからね」

 本当、造形美が多すぎて名前呼ばれる度ビクッ! ってなるこっちの身にもなってくれよな訳だけど、見てるだけなら本当にふつくしい。
 尾台さんは自分のグラスと桐生さんのグラスを見比べて首を傾げていた。


「あれ? 桐生さんが頼んでたのもレモンサワーでしたよねぇ? なんだか私のと違う……」
「ん? ああ尾台が頼んだのは普通のだろ、僕が頼んだのは塩レモンサワーなんだよ」
「塩レモン……?」
「ほら尾台のとレモンの切り方が違うの、 これが塩漬けのレモンでさ」

 と上に乗ってたレモンを千切って尾台さんの口に運んでに食べさせてる。

「あ、本当だすっぱしょっぱい」
 目をきゅって瞑る尾台さんを見てクスッて桐生さんは笑う。
「ここレモンサワーだけで5種類あるから面白いよレモンのシャーベットが乗ってるのもあるしレモンのゼリーが入ってるのとか」
「へぇ」
「愛媛の宇和島産の契約農家から直送されてるレモンでノーワックスだからこの輪切りのはそのまま食えるし疲れてる時飲むと異様に旨いんだよね、全然二日酔いにもなんないし、寝付きが良くなって最高~」
「今日は? 今日は辛いですか? 異様に旨い日ですか?」
「………………ふふふ内緒、尾台酒弱いから他の飲みたかったら誰かしら飲んでくれるし途中で止めていいよ」

 桐生さんにメニューを見せられて、お酒のせいで少し頬を染めた尾台さんはサワーってこんなにたくさん種類があるんですねぇ、と細い人差し指で文字を追っていた。

 桐生さんはメニューを覗き込んで尾台さんの手を取るとここっと何かを指した。

「このぶどうサワーなんだけどここの店のは果肉が入ってるんだよ、しかもこの下の枠内のトッピングができるから……」
「ほぉ、えっと……メープルシロップ、はちみつ、レモン、柚子、ミックスベリー、ナタデココ……あ、ナタデココ」
「そう、ナタデココ入れてもらうとあの缶ジュースの味になりそうなんだけど、女子すぎて僕じゃ頼めないんだな」
「え、じゃあこれ飲み終わったら私たーのも! 楽しみ」

 二人で笑ってそれで、辰巳さんが話し掛けて三人で話したり辰巳さんの隣の社員も話に加わったりで……。


「あれー? 寧々氏、尾台さんの婚約者ってあれ? 桐生さんだっけ……?」
「違うよ袴田君でしょ? うちの部署の子がいつの間にか私達の袴田君が婚約してた……! ってショック受けてたもん」
「そうだよ、間違いなく尾台さんは袴田君と付き合ってるよ」

 そーなのだ私も婚約の話を聞いた時、てっきり桐生さんとしたのだと思っていた。
 だって二人の間にはたまに今みたいな誰にも邪魔できないような不思議な空気が流れるし、どう見たって両想いに見えてたのにな…………。

 でもここの所ずっと尾台さんはそわそわしてたし、桐生さんにも違和感があった、で、突然尾台さんが無断欠勤したかと思えば、翌週には私結婚するのって言ってきた。

 唐突すぎて意味がわからなかったけど結婚って本当にタイミングなんだなと思った。

 でも、うんそうだな、今の尾台さんは笑ってるし楽しそうではあるけれど、袴田君を前にした時の弾けそうなテンションと変な動きと、うわ、眩しっ!! みたいな光は放たれてないな。

 それからまた時間が経って、一度尾台さんは開発に挨拶に行くって席を立ってまた戻ってきた。


 私は気になる携帯のせいでいつもよりお酒が進んでいたと思う。
 すっごい何件もメッセージ着てても、うわってなるし、かといって一件もなかったら…………なかったら?

 そんなことを考えるとついついお酒をぐっとやって、ふぅ! ってしちゃう訳ですよ。
 いつもならお酒が頭にきたなと思ったらペースダウンするのに、何故だか今日は優子さんコールが止まらない(自分じゃ店員さんに声かけられないからママに頼んでもらう戦術、ご飯も取ってもらうし、トイレも一緒に行ってもらう、たまに箸の持ち方を注意される)。
 で、頭もふわふわでいつも以上に妄想捗りまくりんぐ!

「えっちが好きで毎日色んな男に抱かれるけど、やっぱり心は寂しいままなので本命を待ってる訳ですよ本当は一途なの素直になれなくて的な! 悪いと分かってても抱かれてしまうそんな私」
「はいはいわかりみ~純情ビッチ応援したくなるよねぇ」
「寧々氏はそうゆうの好きですもんね」
「後はやっぱり攻める時は徹底的に攻めないと! 特技は攻める事ですって言える位やらないと攻めとは言えないよね私は相手が失神するまで攻めますからね」
「極端大歓迎」
「アヘ顔ダブルピースは基本仕様ですね!」

 酔いも回ってもうそんな話家でしろよな所まで来ている気がする。
 そろそろ止めないと会社行きにくくなるパターンだぞ飲み会の私死んでくれになるパターンだぞ大丈夫か私よ。
 いつの間にか辰巳さんいなくなってるし。

 尾台さんはくすくす笑ってるから、あ、あれ大分酔ってるなと思った。

 そしたら、辰巳さんの席を詰めた社員が尾台さんに聞いた。

「何で袴田君と入籍しないの?」
「ん? ふふふちょっとー色々あってへへ」
 桐生さんが、
「色々って?」
「別に悪い意味じゃないですよ? この日って決めてる日にちがあるんです」
「へぇ、じゃあそれまでは尾台さんフリーって事ですか?」
「ほ? フリー? え? フリーってどういう意味ですか? 独身もフリーに含まれるなら…………んんん? ふふふ」

 そしたら、桐生さんの向こうにいた有沢さんが乗り出してきた。

「え? マジ?! まだワンチャンあんの!!」

「ワンチャンって? ああ……わんチャン? わんちゃんは好きですよ、へへへ大好きわんちゃん!! わんちゃんならいつでも超ウェルカムですえへへ」
 ちょっと待ってそこでヘラヘラしちゃうんだ!!


 す、隙だらけの鬼……!

 これは久瀬さんの代わりに私が助けた方がいいのでは!!

「マッジかよ、やったーじゃー今度飯食い行こ! おーだい」

 そしたら突然、桐生さんが有沢さんの頭に上に手を伸ばして振り下ろされた何かを掴んだ。
 頭を掠める寸前で掴まれた手は未だに力が加えられているのかプルプル震えている。

 気配を消していつの間にか背後に立っていたその人を桐生さんは引きつった苦笑いで見上げた。



「ちょっとちょっとこれは勘弁してよ灰皿で人を殴ろうとするってどんな総務だよ。これ殺人事案でしょ




 袴田君」


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