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第2章 私は学園で恋をする

想いの偽装《ジルフォード視点》

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「――――レヴィロ公爵、少しよろしいですか?」



 私の背後で「……あんのバカ殿下っ」とボソリと呟くフリージア嬢を無視して、仲睦まじく話すリズとクリストファーの方に向かっていった。



「もう、仕事は終わりましたよね?」

「……えぇ、終わりましたね。手伝って下さりありがとうございました」

「―――――ではリズから離れて頂けますか」



 クリストファーは寂しげに微笑んで、素直に引き下がる。唇を引き結んで傷ついたような表情をするリズがその奥に見えるのが心苦しい。



「お話があります、お時間宜しいですか」



 笑みを貼り付けて王子の仮面を被る。突然空気を変えた私に驚いたリズやフリージア嬢とは違い、クリストファーは既にこうなる事を予期していたように、動揺は一欠片もしていなかった。寧ろ、この時が来たかと悟っているかのようにも見えた。

 リズは煩慮を抱いているようで、ここに留まれるよう考えているようだが、退出してもらおう。すまない、これは、貴方がいて出来る話では無いんだ。

 近衛を呼び、リズとフリージア嬢をそれぞれ寮に送って貰う。パタンとドアが閉まったのを確認してから、私は上げていた口角を一気に落とす。冷たく震える空気に、後ろに控える近衛達が唾を呑み込んだのが分かった。



「――――今からはジルフォード=ヴィア=フランデルの立場として話をしようか」

「はっ、殿下」



 クリストファーは至極真面目な顔で私を見つめる。
 その、なんの感情も読み取れない、無機質な、いや、その心の奥を隠して決して表に出さず、無を貫く、単色で、光も影もない、その気持ちの悪い瞳が、私は大嫌いだ。

 ―――――その血に濡れた藍で、今お前は何を考えている?



「クリストファー、ジゼル=ウェリス嬢をどう思っている」

「……といいますと………」

「しらばっくれるのは認めない。そのままだ。ジゼル嬢をどう思っているんだ」



 何も映らない藍色のガラス玉を細めて、薄い唇に弧を描かせるクリストファー。強烈な笑みは、私の脈を強くし、時折あの時の記憶をフラッシュバックさせる。



「―――殿下こそ、ジゼル嬢をどう思っていらっしゃるのですか?」



 クリストファーは私の質問には答えず質問に質問を返す。



「それを答えて、お前に何か得があるかい?」

「ええ、ありますよ」

「へぇ、何だそれは」



 微笑みながら首を傾げ、「僕にとって最高な幸せを掴む事が出来ますよ」と僅かに喜色を乗せて穏やかに言った。眉間に皺を寄せ訝しむ私をみてクスクス笑うクリストファー。



「……殿下、それでは僕に貴方の想いが明け透けですよ」



 事実、リズが絡むと、普段は余り波立たない感情の起伏が激しくなる。だが、クリストファーに知られてしまうのは分が悪い。

 奥歯を噛めば、前の言葉に間を開けずクリストファーは私に語りかける。



「ジゼル嬢が好き、なのですね?」



 私はクリストファーの目を見て、「そうだ」と断言した。「彼女は私が守る」とも。

 しかし――――――――。



「――――殿下、果たしてその想いは本当でしょうか」

「……何だ?」



 クリストファーの視線が私を射貫く。それが、何故か、痛かった。



「殿下は半年前の王家主催のお茶会でジゼル嬢とお会いしたそうですね」

「それが何かあるのかい?」

「―――――殿下のその気持ちは、偽りだと申し上げているのです」

「っ……?!」



 目の前が真っ赤に染まる。気付けば拳を握り締め、無表情を貫いていたのに目は釣り上がり、魔力がじわじわと放出していた。今のクリストファーは口角を落とし、表情の無い顔をしている。



「……私の気持ちが偽りだと言うのか?どういう意味だ、クリストファー=レヴィロ」

「貴方のジゼル嬢に対する執着は、恋心ではありません。殿下、貴方は、自分に振り向かないジゼル嬢を――――――」





 ―――――――遊戯ゲームとして楽しんでいるだけ。





「心当たりはありますよね?ジゼル嬢にわざと反応を試すような真似をして、邪魔をして、嫌がられているのを、知っていて貴方は彼女に執着する」

「……っ」



 もう、何も言えなかった。
 実際リズは嫌がっている。それは分かっていた。
 クリストファーの言葉には、私の体を鎖で縛り付けるような、剣先を喉元に突きつけられたような、そんな刺々しさがあった。



「断じて、違う………っ」

「…………そうですか」



 目の前の男は、いつものクリストファーの笑みを浮かべる。その藍には、光が灯っていた。その光の意味を、私は掴めなかった。



「ですが―――――私は彼女に本気です」



 だから、と。



「―――――殿下には渡さない。絶対に」



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