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第2章 私は学園で恋をする

トラウマになりました

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 私が固まっている間に、殿下とフリージア様はいつの間にか席に付いていました。挨拶はこちらからしなければなりません。

 席に腰かけるジルフォード殿下に頭を垂れます。



「ごきげんよう」

「……リ……いや、ジゼル嬢。おはよう」



 挨拶を返してくれたことに吃驚しましたが、動揺は隠して姿勢を正しました。

 次に右側にいるフリージア様に同様に礼をして挨拶をしましたが、ちらりと視線を向けられただけで一蹴されました。えぇ、傷つきませんよ、傷なんて付かないんだから。



 そして3人とも席に付いたまま誰もしゃべらず無言の時間が過ぎるという、なんともアウェーな雰囲気になってしまい、私はちらりちらりと視線だけ動かして周りを観察します。

 すると、偶然こちらに向いた王子様と目が合ってしまいました。お互いに双眸を見開いて僅かの間見つめ合いましたが、それは刹那の出来事で直ぐに私が逸らします。

 右から視線を感じるなぁと思い盗み見れば、扇で口元を覆いながら瞳だけがっつりこちらに向けているフリージア様が。そうですよね、お慕いしている相手の隣に気にくわない女がいたら、そりゃ嫌でも気になりますよね。

 安心してください。ちゃんと殿下に謝罪したら近づかないので!











 **











 ……と、決意してから約2週間が経過しました。

 自室で私は令嬢らしからぬ頬杖をつきながらため息をこぼしました。ここにイリーナがいればいい笑顔で叱られるところですが、今日くらいは許してほしいです。



「ジゼル様ぁ、どうなさったのですか……?」



 紅茶を差し出しながら私の顔をうかがうドロシー。安定の可愛さです。私の癒し。



「殿下に謝らないととは思っているのだけど……」



 何度も何度も殿下を訪ねました。男子寮には入ってはいけないので学園にいる間を狙うしかないのですが、いかんせんジルフォード殿下が一人になる時が少ないのです。なぜなら、フリージア様が常に隣にいるから。サロンに顔を出しても、近衛の人に首を横に振られて面会を拒絶されますし。

 これは嫌われましたね、完全に。王族に嫌われるとなるとこの先の人生が危ういです。消されます。

 もう一度肩を落とした時、こんこんとノック音が響きました。



「フリージア様がジゼル=ウェリス様にお話があるようですので、通して頂けませんか」



 !!!!
 な、何か私やらかしましたか……?

 ドロシーにおずおずと首を振って通してもらうと、侍女を二人連れて腕を組んでいるフリージア様が目を吊り上げながら立っていました。ひぃぃぃいい!



「グラシエ公爵令嬢様、何か失礼なことをしてしまいましたら、申し訳ありません」



 怖いので腰を落としてカーテシーをしました。すぐに私の頭上に影が落とされ、ぎゅっと瞼を閉じた私でしたが、「立ちなさい」と言われ、ゆっくりと直ります。



「ついてきなさい」



 ぱしりと扇を閉じたフリージア様は、その綺麗な縦ロールを靡かせながら前を先導して歩き始めます。私とドロシーも後に続きました。表情とは裏腹に心臓バクバクです。これはロマンス小説によくあるイビリでは無いですよね?断じて違いますよね?

 若干俯き気味でしたが、フリージア様の足取りが止まったので頭を浮上させます。



「え……?」



 そこは、王族用のサロン。私が追い返された場所です。
 その時を思い出して私は体が強張ってしまいます。何故フリージア様が私をここに連れてきたのか、その意味も全く分かりません。



「……グラシエ公爵令嬢様、わたくしは、失礼いたしますわ。その……お邪魔してはいけませんし……」



 と、後ずさりして去ろうとしました。ですがフリージア様は腕をギチギチ掴んで離しません。ど、どういう意図ですかこれは!

 私の腕を掴んだまま、フリージア様はノックをしてしまいます。



「フリージア=グラシエでございます。殿下はいらっしゃいますか」



 いないで!



「どうぞ」



 いた。いてしまった。
 そして無理矢理引っ張られた私は、フリージア様と共にサロンに踏み入ってしまいました。














***********


………君達、そろそろ仲直りしない……?

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