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第1章 王子は私を追いかける
【閑話】主と妹の観察日記(Ⅰ)《フィリップ視点》
しおりを挟むジゼルの兄、フィリップ視点
****************
僕はウェリス侯爵家嫡男、フィリップ=ウェリスだ。
どうも主であるジルフォード殿下の様子がおかしい。
先程「殿下の妃探し」が目的であるお茶会が終わった後なのだが、いつもなら、ゴテゴテの衣装を着てセクハラ並に擦り寄ってくる頭のイカれt………こほん、積極的なご令嬢達に疲れ果てて、ソファーに沈み込む殿下が、今は紅茶を飲みながらニヤニヤしている。
ちょっと気色わr………いや、失言だ。
口が滑りすぎだな。これでは殿下の側近としても家を継ぐ人間としても気をつけなければならない。
「フィリップ」
殿下に名前を呼ばれたので、作業を止めて振り返る。自然な笑みを浮かべ、何かに想いを馳せるように話し始めた。
「絶対に私の妃にしたい令嬢がいたんだ」
「良かったですね」
今まで、良く言えば冷静、悪く言えば冷徹に、その手本のような輝く笑顔の裏で切り捨ててきた殿下が、今本当に嬉しそうにしているのを目の当たりにして、側近としても大変喜ばしかった。
「1人遠くにいて、私をじっと見つめるあの瞳に惹かれたよ。2人で話が出来て、その時に彼女がこの紅茶を飲んでいたんだ」
だからか。頑なにストロベリーティーを所望されたのは、そのご令嬢が好まれたからだったようだ。
「ふふふっ、私から今すぐにでも離れたそうにしていて」
なんだかうちの妹と気が合いそうなご令嬢だと思った。リズもお茶会に行きたくなさすぎて逃走した口の令嬢だ。我が妹ながら大分変わっていると思う。まぁ外では完璧な淑女のようだが。
「珍しい方もいらっしゃるのですね」
「その令嬢は栗色の髪にアメジストのような綺麗な紫の瞳だったよ」
その瞬間私は書類を片付けようと伸ばした手をフリーズさせてしまった。………嫌な予感がする。
案の定、殿下は訝しむ私の目を見て、一層笑みを深くする。
「だからフィリップ、君の妹を望むよ」
はい、当たり。あーあ。
可愛い可愛い妹が、こんな腹黒冷血漢王子に捕まるとは。リズの場合は逃げて逃げて逃げ回るが、我が主によって外堀を埋められて撃沈だろう。
「………殿下、今の前フリはわざとですね」
「ふふふふっ。でもリズを好ましく思っているのは事実だよ」
きっと、いや必ず、リズは殿下との婚約は嫌がる。
だから、妹の望まない婚約はぶっ潰す心づもりだったが、側近として今まで誰にも興味を示さなかった殿下が幸せになれるチャンスを見つけたので、そちらも応援したいと思う気持ちもある。
「………妹が嫌がれば私は全力で邪魔しますよ」
「そう言うと思っていたよ」
肩を竦めたジルフォード殿下は、茶化すように言った。
「キューピットにフィリップがなってくれたら心強い味方が出来る訳だけど、まぁいいよ。……私一人でも落とすしね」
「妹を傷つけたらいくら殿下でもぶっ潰しますからね」
「容赦ないな」
「えぇ、勿論です」
そんな話をしてから何日か後。
「はい、迫らない」
妹を殿下の婚約者にしたくないが、殿下には幸せになって欲しい殿下の側近の出来上がり。
だから、ジルフォード殿下。
どうにかしてリズの心を掴まないと、貴方の幸せはやって来ませんよ。僕が全身全霊を掛けて妹を守るので。でも大丈夫です。貴方の目の前に、すぐそこに、貴方の幸福はあるのですから。
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