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第1章 王子は私を追いかける
素晴らしい策を思いつきました
しおりを挟む「そ、そっ、そうは言ってないわよ!」
「ではどうすれば殿下とわたくしが婚約はしないと信じて頂けますか?」
「それは……」
「宣誓書、しかも血判付きは本人が書いたという確たる証拠となるのですから、これ以上証明するのに相応しいものは無いかと存じます」
「……」
「ですから、書きますわ?」
ね?と微笑めば、眉間に皺を寄せていたフリージア様の表情がだんだん歪んできました。と、思うと彼女の大きな目に涙が溜まっていき、はらりはらりと大粒の涙が頬を伝って零れていきます。
え?え?……え?!
わ、わ、わ、どうしよう、そんなに怖かったのかしら……
「グラシエ公爵令嬢様、怖がらせてしまったのでしたら、大変申し訳ありませんでした……そんな、つもりでは、なかったのです……」
小鳥の刺繍入りハンカチを差し出し謝りましたが、許して貰えるかどうか……
押しすぎてしまったのでしょうね……私が。本当に申し訳ない事をしました。
「ひっく、うぅ、違うのっ、ちょっと、ひっく、貴方のことがっ、う、羨ましくてっ、ひっく、わたくしはっ、ずっと殿下の事が、好きだからっ、うぅぅ、ひっく、やだっただけなの、うぅぅごめんなさいぃぃいいいいっ!!」
滝のような涙を流して、私をハグしながらそう言ったフリージア様。お茶会の時からフリージア様は本気でした。公爵令嬢という立場の彼女ならば、お茶会前から殿下とは交流があってもおかしくはないですし、私が知らないずっと前から殿下を想っているのでしょう。
「殿下を……お慕いしているのですね」
「貴方だってっ、そうだと思ったのっ!ひっく、だって、殿下は、うぅ、お優しい方だからっ、わたくしだけじゃなくてっ、他の人にまでっ、ひっく、優しくするからぁぁあっ、うわぁぁああん!!」
殿下は……そうですね。お優しいと思いますよ。殿下はおそらく、どの令嬢にも同じように、マニュアル通りに対応していたのでしょう。あの王子様ならば十分にありえます。
目が合ったら微笑むこと。
挨拶は手を取ってキスを落とすこと。
エスコートは優しく丁寧に。
……etc。と、こんな風に。
殿下の対応は決して間違ってはおりません。寧ろ適当で正しい判断だったと言えましょう。ですが、残酷ですね。それが純粋な恋するご令嬢達の心に、刃物のような凶器になって突き刺さるのですから。
恋愛をして女は強くなる、と言います。結婚に「愛情」を求めていない殿下ですが、それはまだ彼が恋を経験した事が無いからでしょう。私も恋をしたことはありませんから、フリージア様の気持ちを全て理解することは難しいでしょう。
ですが、そんな彼女を後押しすることは出来ます。
私が殿下の婚約者になって欲しい人No.1は断トツフリージア様他ならないのです。恋の相手が殿下でなければ婚約者にすんなりなれたのでしょうが……。
あぁ、じれったい。
どうにかすることは出来ないのでしょうか。
フリージア様の背中を撫でて落ち着かせながら、打開策を必死に考えます。
フリージア様は、殿下に超ウルトラスーパー相応しい。
フリージア様は私が婚約者になるものだと勘違いしていましたが、それは無事に解決。
となると、あとは殿下の結婚観。
……ん?
結婚観の話は散々殿下と……。
あぁ!そうだ!
私が友達として、殿下に恋愛結婚について教授することになっていましたね。ではそれを利用して、殿下に理解を深めてもらって、フリージア様と何度も逢瀬を重ねれば、バッチリですよね!
私からもフリージア様がいかに素晴らしい方か教え込みますし、絶対に上手くいくこと間違いなしです。
「グラシエ公爵令嬢様。わたくしが殿下の友達として、婚約者に貴方を推薦いたしますわ!任せて下さい!」
ふっふっふっ、と寄り添って微笑みあう二人を想像して口の端を引き上げました。
************
嫌な予感しかしない作者です。
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