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第1章 王子は私を追いかける
婚約なんて所詮政略的だ《ジルフォード視点》
しおりを挟むジルフォード殿下視点です。
*************
私はフランデル王国の第一王子、ジルフォード=ヴィア=フランデル。
父上と母上に婚約者を決めると言われ、私は素直に頷いた。王族に生まれたからには政略結婚は付き物で、恋愛結婚が出来るわけがないと思っていたので、想定外の申し出ではなかった。
寧ろ想定済みだったため、面倒だなとも思っていた。
「お友達」作りだと言って、あらゆる令嬢や令息と会ってきたが、めんどくさい事この上ないったらありゃしない。
令嬢たちは私の顔を見るなり目をキラキラと輝かせ、期待するような視線を向けるし、その親も親でなんとかして自分の娘を婚約者にさせようと画策する。肉食獣のような令嬢達に、どろどろとした権力の誇示に、私は辟易していた。
令息の場合もそんなところだ。
会えば媚びを売られ、是非側近にと推され、あしらうのに一苦労である。
簡単に「お茶会」に了承した私を心配してか、父上も母上も「嫌ならば嫌と言っても良い」と言ってはくれたが、どうせ決めなければいけないものをわざわざ後回しにする意義が分からないので、その必要はないと否を示せば、あからさまに悲しそうな顔をされた。
別に私も誰でも良いという訳ではないのだ。
多少の苦はありにしろ、そこまで気が合わないわけでもなく、面倒な家柄でもないそこそこの令嬢に声をかければいいや位の気持ちだった。
しかし私は「お茶会」当日、予想にもしなかった出会いを果たした。
**
「お茶会」当日。
登場した途端肉食令嬢たちに絡まれた。
花の香りと混ざる人工的な香水の匂いに鼻がひん曲がりそうになり、私は顔を顰めそうになったがなんとか踏みとどまる。服がよれるほどもみくちゃにされ、猫撫で声を出して甘ったるい視線を360度から受け、私は気が狂いそうになっていた。
そして抜け道は無いかと、一気に私に喋りかける令嬢達に適当に相槌をうちつつ辺りを探る。
―――誰だ、あの令嬢。
栗色の緩くウェーブのかかった髪をハーフアップにした、薄紫色のドレスを着たとある令嬢に視線が止まった。「お友達」の挨拶に来ていた覚えはなく、私は急いで脳内で資料を漁った。
―――フェリス侯爵家のジゼル嬢、か。
私の側近であるフィリップはジゼル嬢の兄だ。確かに雰囲気や顔立ちは似ているなと思う。
『そういえば、フィリップには妹がいたな』
『妹は可愛いですよ、殿下。食べちゃいたいくらい!』
普段、フェリス候のように冷徹に切り捨てるフィリップがジゼル嬢にデレているのを見て絶句したのはいつだったか。
『そうか。お前の妹なら会ってみたいと思う』
『会わせませんよ、殿下』
秒で却下されたな。
かといって何が何でも会いたいわけではないし、いずれ顔は合わせるだろうと思い、それは放り投げていたのだ。
不思議とジゼル嬢に目が釘付けになった。
柔らかく細められる紫の瞳。
揺れる艶やかな栗毛。
ふっくらとした唇に桃色に染まった頬。
華奢な手足は折れてしまいそうだ。
目の前の令嬢たちの方が何倍も着飾っている筈なのに、私には彼女が一番美しく見えたし実際そうだと思う。
―――話してみたい。その声を聴いてみたい。
令嬢に興味を持った初めての瞬間だった。
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