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第1章 王子は私を追いかける
行かなくてはダメですか?
しおりを挟む翌日。
父様に呼ばれた私は執務室に足を運びました。父様の顔は酷くゲッソリ……、いえ、目が据わっていて、私には背後に虎が見えます。こんなに荒れている父様を見るのは実に久しぶりで、私は嫌な予感しかしませんでした。
「リズ……すまん。今日も王城に行ってくれ……」
は~い、大正解!
え、行かなくちゃダメですかね。というかなんででしょう。
もしかして、あの後「よし!潰してくるよ!」と、すごい勢いで王城に行った父様と一緒に不敬罪で罰せられるのでしょうか?
「父様、逃げましょう!」
「そうだな!」
『あぁ朋よ!同志よ!』と手を握り合って目を輝かせて逃亡を図る私達に「またですか」と呆れた目をするイリーナと、不安そうに瞳を揺らすドロシーがいました。
するとそこに「まぁとても楽しそうね」という美しいソプラノが聞こえました。
「ローザ!」「母様!」
明るいブラウンの髪を後ろで束ね、すっきりとしたドレスを身に纏った儚げ美人。その人こそが私の母様、ロゼリア=ウェリスです。父様は母様に駆け寄って、逃亡計画の事を話しました。
すると母様はにっこりと手本のように微笑んで―――父様の胸倉を掴みました。
父様は慌てた顔をして必死に弁明を図っていますが全く聞き入れられる様子はありません。母様は見た目からは想像出来ないほどパワフルな人です。なのでこうやって怒らせると大変なことになります。
「レイモンド様?一体どういうことかしら?」
地を這うような声で言われた父様は「ひぃ……!」と情けない声を出しています。頑張って、父様。助けられませんが。母様は両手で胸倉を掴んだまま激しく父様を揺らしました。父様の残像しか見えません。
「ろ、ローザ、お願いだから一旦地に足をつけさせてくれないか……?それとレイモンド呼びやめてくれ、怖いし悲しい」
しょんぼりとしている父様を見て母様はピタリと動きを止めて溜息を一つついた後手を放しました。父様はその瞬間絨毯の上にへたり込みます。私は父様に駆け寄りました。
「リズ、一体どうして王城に行くことになっているの?」
母様は優しい声色で聞きました。私はお茶会で殿下に捕まって、逃げてきたことを話しました。おそらく不敬罪で罰せられるのだ、と。
母様は少し考え込んだ後、少し回復してきた父様に聞きます。
「リズは嫌がっていたわよね?どうして殿下に目を付けられるのかしら?あ゛?」
最後は気迫たっぷりで私達は肩をびくんと揺らしました。
「いや……それは……わからん」
「はぁ。レイ、何があっても回避して。じゃないと可哀そうよ、リズが」
「勿論だ。次こそ潰す。抹消する」
「ええ、よろしくね。……リズも殴ってでもいいから、「絶対嫌!」って叫ぶのでもいいから、逃げたいなら本気で「否」と見せなさい」
「……ハイ」
忘れてました。母様も父様と同族でした。
チキンハートの私が実際本人たちを前にして言えるかどうかは些か疑問ではありますが、どうしても断りきれない時の切り札として使いましょう。
そうして父様と私は王城に向かいました。
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