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第1章 王子は私を追いかける
行きたくありません
しおりを挟む皆さまご機嫌よう。ジゼル=ウェリスです。
私が今どこにいるかというと、ウェリス侯爵家の庭園の奥の方の低木の裏です。
何でこんなところにいるのかというと―――。
「ジゼル様!もう準備をしなければお茶会に間に合いません!出てきてください!」
私付きの侍女、ドロシーが私を探しています。ドロシーとの鬼ごっこ?は実に1532回目。ドロシーは小動物みたいでとても可愛くて、今も私が見つからなくておろおろと涙目です。「ここだよ!」と出ていきたい衝動に駆られますがじっと我慢。
私はそのお茶会にど~~しても行きたくないのです。
「ジゼル様ぁ~!王子殿下に怒られてしまいますぅ~!」
「どうしたのです、ドロシー」
「侍女長!ジゼル様の行方が分からなくて困っていて……」
見つからなくて目に涙を溜めているドロシーを助けたのは侍女長のイリーナです。
げっ、イリーナはまずい。逃げなきゃ。
イリーナは庭園をぐるりと見渡すと、私の隠れている低木をじっと見つめ、そしてこちらに歩いてきました。いい笑顔で「ジゼル様~?」と近づいてきますが、目が笑っていないとはこういうことです。私は怖すぎて諤々と震えています。
私はそろりそろりと四つん這いになりながら逃げますが、イリーナにはやはり勝てません。黒い笑顔で「ジゼル様」と言われてしまえば「ハイ」と頷くしかありませんでした。
私は半ば連行されて部屋に向かいます。途中走って逃げようとも考えましたが、後ろから轟轟とブリザードが吹いている音が聞こえるので断念しました。私は肝心なところでチキンハートなのです、ええ。あ、繊細なガラスの心の方がよかったかしら?……やめましょう。イリーナの、んな訳ないだろ、という毒舌のツッコミがきそうです。
……ドロシーは私より蒼白で倒れてしまいそうです。今のイリーナ怖いけど今は完全にターゲット私だからね、そんなに震えなくて大丈夫よ?
そんなこんなで私たちは帰ってきました。私の自室は、ヒラヒラフリフリの白とピンクです。私の趣味ではなく、私の父様の趣味です。……え、父様そんな趣味だったのですか。自分で言っておいてびっくり。
抵抗する私は、イリーナの「始めましょう(やっておしまい!!)」という言葉をきっかけに、あれよあれよとお茶会用の準備されます。
湯あみやマッサージの時に眠くなってそのまま寝てしまいそうになりましたが、たたき起こされました。……私一応侯爵令嬢よね?いいけど。
ぴかぴかに磨かれた私は、完全に戦闘態勢です。嘘ではないわ。確実にあそこは戦場になるわよ。
「ジゼルちゃん!」
鏡の前に立っていたところでやってきたのは私の姉マリア=ウェリス。私の6個年上で、優しくてきれいな自慢の姉様です。18歳の姉様は最近結婚して、次期伯爵夫人として社交界でお仕事をしています。まだ12歳の私は社交界デビューしていません。憧れです。
「とっても可愛いわ~!この元々の素材を生かしてるから輝いて可憐ね!イリーナ、素晴らしいわよ」
「お褒めのお言葉光栄にございます」
目を輝かせて私の周りをぐるぐると動き回る姉様。姉様は完全にシスコンです。身内贔屓に苦笑いですが、それよりも。
イ リ ー ナ が 別 人 の 件 に つ い て
さっきの黒いのどこ行った。あれは私限定なのか?
「姉様ありがとう。早く帰ってくるわね」
すると姉様はぷくーッと頬を膨らませました。しかし直ぐにパァァっと明るくなりました。
「え~王子殿下とラブラブしてきていいのよ?きっと殿下はジゼルちゃんに一目ぼれするわ!私の勘はあたるのよ?ふふふふっ!恋バナ楽しみにしているわね!」
そう言って私に柔らかくハグした姉様はウインクをして去っていきました。私は姉様から言われたことが未だにぐるぐると残っています。そして―――。
「い~~や~~だ~~!!!!」
「ジゼル様、落ち着きましょう」
絶叫しました。イリーナに怒られましたが。
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