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内見 パート1

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「もしもし、翔?今から時間ある?」
「あー…今から不動産を見に行こうとしてて…」
「僕も行く」
「楽しくないですよ」
「君に会いたいんだ。それに君に見合う物件か僕も確かめないと。すぐ行くから待ってて」

本当に隆弘さんは僕に有無を言わせない。仕方ないので彼が来るまで時間がかかるのならどこかの店に入って待っていようかなと思っていたら、電話を切られてすぐに肩をポンポンと叩かれる。振り向けばそこには隆弘さんが立っていた。

「えっ?なんでココに…」
「物件探しの手伝いだ。ほら行こう」

一つも答えになっていない。どうして僕の居場所を知っているのか。絶対ストーキングされてるじゃん、と思いながらも彼に続いて不動産屋に入店した。

「家賃の予算は?」
「五万以下だと嬉しいなと思います」
「なるほど。部屋のご希望は?」
「個人用のお風呂とトイレがあれば嬉しいです。それ以外はあまり気にしません」
「わかりました。エリアの中でも大学に近いところでお調べしてみますね」

店員さんに希望要件を伝えると、店員さんパソコンと向き合って調べてくれる。大学の近くの場所を選んだからか、学生相手は得意のようで、スムーズに話を進めてくれるからすごく助かる。

「翔、家賃が五万って本気か?」
「何か問題が?」
「安すぎる。そんな場所で生活できるのか?」
「今の家賃も四万五千円ですよ」
「なッ…」

あなたのくれた服だけで一年間分の家賃なんて余裕で支払えるということをやっと分かってくれただろう。
さんざん僕にお金持ちの生活を見せつけて驚かせてきたんだから、僕だって庶民の生活を教えてあげようではないか。

「今の時期ですと、選択肢は少なめですが三月のピークからかなりお値段は下がっているのでお値打ちな物件がいくつか見つかりましたよ」
「……この物件、かなり好条件ですね」
「オーナーも良い人なので、本当にイチオシです」
「もっと好条件の優良物件がココにいるんだが」

一番に目に入ったのが築年数はそれなりだけどユニットバス付きの五畳のワンルーム。キッチンもついて四万三千円。
大学までは徒歩15分、駅までは徒歩20分という距離。不動産屋の言う20分だから実際にはもう少しかかるとしても、自転車を使えば大学も駅も10分程度で行けるだろう。バイト先までは少し遠くなるけどこの条件であれば許容範囲だ。
きっとこの時期じゃなかったらプラス一万ぐらいするそうですごくお値打ちだと思う。

「コレの内見してみたいです」
「本気で君はタダで都内の一等地の最上階の3LDKに住めるのに、わざわざ金を払ってワンルームに住むつもりか?」
「しつこい男は嫌われますよ」
「君は頑固すぎる。…そうだ、僕の部屋にも内見に来てくれ。それなら同棲したくなるはずだ」

キメ顔で彼は僕に向かって手を差し出した。手を取ればそのまま家にまでエスコートするという事だろう。
正直なところ、散々同棲については断っているのだが、彼の住む家を見てみたいとは思っている。どれだけ豪華なのか、はたまた案外シンプルなのか。
まあこれまでも同棲の誘いずっと断れたし家を見るぐらいきっと何とかなると軽い気持ちで僕は彼の誘いを承諾することにした。

「わかりました。じゃあこの物件と隆弘さんの家を見に行きます」
「コチラでしたら今からでも内見できますよ」
「僕の家もいつでも大丈夫だ」
「それじゃあ今からでお願いします」

日付を調整しないでいいからラッキーと思いながら、店員さんについて行き、案内されるがままに不動産屋の持つ車に乗り込もうとすると、背中から肩をぐっと掴まれる。

「な、なんですか!?ビックリした…」
「僕のほうがビックリした。危ない」
「…何が?」
「知らない男と二人で車に乗るな。僕の車に乗って」

なんだそのクソみたいな心配は。店員さんも仕事なんだから何もしないに決まっている。それになんならどちらかと言えば僕は店員さんより隆弘さんと二人っきりのほうが危ない気がしている。


僕と隆弘さんの乗る車はひたすらに不動産屋さんの車の後をつけて近くの駐車場に車を止める。そこから歩いて三分で目的のアパートについた。

「ココの一階です」
「一階なんて危ない。辞めておこう」
「そんなに治安悪くないし大丈夫です」

文句しか垂れない彼の腕を引っ張りながら部屋に入る。外観は築年数相応の雰囲気であったが、内装はかなりキレイである。トイレも改装してあるようでユニットバスとはいえ、ウォシュレットや温座機能の付いた最新式のものになっている。

「…狭い」
「今とほとんど変わらないよ」

とは言ったものの、広いわけじゃないので不動産屋さんの近くの環境についての話に耳を傾ける。広めの住宅街がすぐそこにあるのでスーパーや百均、コンビニや本屋などの施設はかなり整っていた。
住みやすそうだしココにしちゃおうかな。

「内見自体は以上となりますが…」
「なら次は僕の家だ。不動産の君は断りの電話を待機しててくれ。きっとすぐ掛ける」
「すみません、ありがとうございました!」

やっとの自分の番が来たと言わんばかりに彼は僕の腕を引っ張り車に乗せると、いつかの日のチラシに書いてあったようなメリットを語り始める。それ自体はまた始まった…と思いつつも、ワクワクはしていた。

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