メッセージ

長寿俊之介

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メッセージ

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 スマホのメッセージアプリに知らない人からメッセージが入ってきた。

『明日、会える?』

 私は、誰かが間違えてメッセージを送ってきたんだなと思い、無視しようとした。

 だが、ふと、待てよと考えた。

 間違えるってこと、あるだろうか?

 登録してある番号へ送るなら、間違えることはないだろう。

 もしくは、偶然にも私の電話番号を登録してしまったのだろうか?

「多分、美湖(みこ)ちゃんだ」

 私の結論はこうだ。
 友人の美湖ちゃんが電話番号を変えた。それで送ってきたのだ。
 私は念のため、美湖ちゃんの古い番号に電話をかけてみた。
 おそらく、つながらないだろう。

「何? どうしたの?」

 いつも通り、美湖ちゃんの声だった。

「え? 番号、変えたんじゃないの?」

「ううん、変えてないよ」

「え? じゃあ、誰なんだろう?」

「どうしたの?」

 私はいきさつを美湖ちゃんに話した。
 私には友人と呼べる人が美湖ちゃんしかいない。

『明日、会える?』

 というメッセージを送ってくるのは、美湖ちゃんしか考えられなかった。

「他の人が間違えたんじゃない?」

 美湖ちゃんは軽く言った。

「そうかもね」

 私も軽い感じで応じた。

「会社の人の番号も入ってるでしょ?」

「2人くらいだけどね。あとは、家族」

「その中の誰かが間違えて送っちゃったんだよ、きっと」

「けど、番号変更したって聞いてないけどな~」

「気になるなら、返信してみたら?」

「えー、でも、ほんとに知らない人からだったらイヤじゃん」

「まあねー。知らない人がたまたまあんたの番号に送っちゃったってことも考えられるからね」

「まあ、詐欺メールとかじゃないから、放っておくよ」

「うん」

「ありがとう。またね」

「またねー」

 私はそれ以上、見知らぬ人からのメッセージを気に留めるでもなく、やり過ごすことにした。


 ところが、翌日・・・。

 再び同じ人からと思われるメッセージが届いた。

『何で来てくれないの! 待ってるのに!』

「え?」

 私は絶句した。

「続いてる?」

 そうなのだ。メッセージの相手は、間違えたはずなのに、内容としては続いているようなのだ。

「どういうこと?」

 私は恐くなった。
 そして、私の番号と間違えていることをメッセージの相手に伝えてあげないと、関係が崩れてしまうかもしれないと考えた。
 私が教えなかったばかりに、どこかの誰かさんの友人? 恋人? 家族? 関係にひびが入ってしまうかもしれない。
 私は、一応、美湖ちゃんに尋ねてみることにした。

「私、どうしたらいいかな?」

「うーん、伝えなくてもいいんじゃない?」

「ええー、でも、関係が悪化しそうだよ。誰かさんの」

「間違えてる向こうが悪いんだから、放っておけば?」

「う、うん」

「気にすることないよ。見ず知らずの人のことなんか」

 美湖ちゃんの言うとおり、今回も私は放っておくことにした。
 よっぽど、向こうも間違えていることに気がつくだろう。
 私は忘れることにした。


 そのまた翌日・・・。

 再び、メッセージが届いた。

『もういい加減にして! 今からそっちへ行くからね!』

 ああ、関係はエスカレートしてるなー、と私は思った。

 ひょっとして、修羅場ってやつ?

 不謹慎かもしれないが、私は少し面白くなってきた。
 この2人の関係はどこまでこじれるんだろう?
 間違えていることに気がつかないことで、どんどんエスカレートしていき、関係が破綻するかもしれない。

 人の不幸は蜜の味・・・。
 どこまでこじれるか、見物かもしれない。
 私は、男と女の修羅場を想像すると、にやけてきた。

『今からそっちへ行くからね!』だって。

 今頃は取っ組み合いのケンカでも起きているかもしれない。
 男と女のもめ事ほど面白いものはない。
 どういう人たちなんだろう?
 想像して楽しんでいると、

 ピンポーン・・・。

 誰か来た。宅配かもしれない。この間、ネット注文したものだろう。
 私は玄関のドアを開けた。

「はい・・・」

 誰もいない。
 おかしいな。宅配業者じゃなかったのかな。
 まあ、いい。
 それよりも修羅場はどうなるのかな。

 私がほくそ笑みながら後ろを振り返ると、女性が立っていた。

「ヘっ」

 いつの間に、私の家に上がり込んだんだろう?

 私に背を向けて、若い女性が立っていた。
 突然のことで、私は声が出なかった。
 というよりも、私は金縛りにでもあったかのように、動けずに声も出なかった。

 女性はゆっくりとこちらへ顔を向けた。

「ひっ」

 その顔には見覚えがあった。

 中学校の頃の親友の鈴音(すずね)ちゃんだ。

 私と美湖ちゃんと鈴音ちゃんは大の仲良しだった。
 いつも一緒に遊んでいた。
 けれど、鈴音ちゃんがクラスのイジメのターゲットにされたとき、私と美湖ちゃんは他のみんなと同じように、鈴音ちゃんを無視した。
 鈴音ちゃんは一人、ひどいイジメにあっていた。

 それでも、私たちは無視し続けた。

 中学を卒業する直前、鈴音ちゃんは自殺した・・・。

 これまで鈴音ちゃんのことを忘れたことはない。
 友だちを作るのが恐いのも、鈴音ちゃんの影響だ。

 鈴音ちゃんは学校の校舎の屋上から飛び降りて亡くなった。
 顔の半分がつぶれていたと聞いた。

 今、目の前にいる鈴音ちゃんの顔も半分つぶれていた。
 私は身動きもできず、声も出せず、ただただ恐ろしかった。

「やっと会えたね」

 鈴音ちゃんの声とは思えない、太い声だった。

 私はごめんねと言おうとした。

 けれど、声が出せなかった。身動きも取れなかった。

 鈴音ちゃんはゆっくりと近づいてきた。

「待ってたよ。私たち友だちだもんね」

 嘘だ、嘘だ。

 これは現実じゃない。

 私は自分に言い聞かせた。

 鈴音ちゃんはなおも言った。

「私、寂しいの。だから、一緒に来て」

 私はブルブルとその場で震えだした。

 鈴音ちゃんは私の耳元でささやいた。


「殺して、あ、げ、る」


 終
   
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