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第25話 ディラン・スタインベック公爵
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「王妃殿下、一曲踊って頂けませんか?」
アイツが側妃候補とダンスを踊る間、一曲だけリリーをダンスに誘う。
間違ってもリリーに悪評が付かないように、許される範囲内でリリーを見つめたり、ダンスの終わりには名残惜しいと言わんばかりに、リリーの少し冷たい手に触れそうでいて決して触れない口づけをを落とす。
『公爵様は側妃問題に胸を痛める王妃様を慰め、心を寄せていらっしゃる』
『叶わぬ恋・・・お辛いですわ』
叶わぬ恋?随分と失礼だな。
でも、思惑通りにリリーを悪者にする噂話はなりをひそめていった。
最初の頃は少し力が入っていたリリーも、自然に笑顔を見せるようになっている。
《慣れていらっしゃるのね》
たまにグサリとすることも言われるが。
アイツが側妃候補と踊っていても決して王妃の顔を崩さないリリーが、珍しく本音と思われる寂しさを見せた時には、
『私がずっとそばにいる』
口からでてしまいそうな言葉を飲み込んで、抱き寄せたい衝動を必死に抑えた。
明日から二週間の予定でスパンディア王国へ行く。
カミンスキー公爵が違法薬物をスパンディア王国の売人と取引していたのは分かっていたが、人物を特定出来ずにいた。
だが、先日捕まった売人がカミンスキー公爵の名前を出していると聞いて急遽向かうことになった。
もうすぐ、あと少しで終わる。
でも、なぜか胸騒ぎを感じていた。
カミンスキー公爵に、これといった動きはない。
あやしい動きも。
静か過ぎて、それが不気味だった。
《私が居ない間、用心して欲しい》
《わかりましたわ。でも、優秀な護衛騎士がおりますから》
ご心配なく、と微笑む。
《そうだな。だが、一応私の手のものにも見張らせよう》
その方が、自分も安心できる。
《ふふふ、心配症ですね》
大切な君のそばを離れるんだ。
伝えられないもどかしさを感じながら、頼りになりそうな人物の顔を思い出した。
《そうだ、兄上に・・・》
《大丈夫ですよ。
土産話楽しみにしてますね》
一曲はあっという間に終わってしまった。
いつものように、リリーの冷んやりした手に決して触れない口づけを落として、名残惜しくリリーの去って行く後ろ姿を見つめた。
スパンディア王国までは馬車と鉄道を乗り継いで、どんなに急いでも丸二日はかかる。
リリーの近くには、一番優秀であり王宮内にも詳しい者、ジークを置いてきた。
元々は影だったが大怪我を負い、その時ちょうど王弟から公爵になった私について来て、今までずっと近くで守ってくれた頼りになる存在だ。
あの男なら大丈夫だろう。
兄上に便りも出して、安心していた。
出発して予定通り二日後にはスパンディア王国の王都に到着。
売人は司法取引が決定しているので、洗いざらいカミンスキー公爵の違法薬物の入手ルート、取引に関わる人物を白状した。
この後は、午後から王国王陛下に謁見する予定だった。
まだ時間もありますし、昼食にこの国の名物料理でも食べに近くのレストランへ案内しますよ。宰相に誘われ、腰を上げた時だった。
「スタインベック公爵!
ルボア王国からあなた様宛てと思われるメッセージが!」
一枚の紙を持った職員が走ってきた。
[オウヒ オソワレル]
リリーに、何があった・・・・・
「ルボア王国からは距離があり過ぎで、受信はこれが限界です」
「どうにかならないのか?
軍部の通信機器はどうだ」
「ここと同じです」
「スタインベック公爵、顔色が真っ青です。大丈「・・・宰相、私は国へ戻ります。陛下には大変申し訳ありませんが・・・・・・」」
用意してくれた馬車に飛び乗った。
[オウヒ オソワレル]
リリー、リリー
頼むから、無事で・・・・・・
神様・・・お願いします
リリーを、リリーを、お守り下さい
体が震えて仕方がなかった。
『国境沿いのブレアという都市の軍部ならば、長文のメッセージの受信も可能でしょう』
宰相が話を通してくれていたようで、夕刻にブレアの軍部に到着すると、すぐに通信室へ案内された。
「こちらが、今日の昼前にルボア王国から受信した全文です」
[オウヒ オソワレル
ヤクヒン ニヨリ イシキ ウシナウ
イマダ メザメズ
ハンニン イコクノ テダレ
スデニ ジシ
イコクノ テダレ ニ
ネムラサレ キキテ ヲ フショウ
ソシ デキズ モウシワケゴザイマセン]
「そして、こちらが、二時間に受信したものです」
[オウヒ ユクエ ワカラナク ナル
ヘイカノ シジト オモワレル
ゼン コクオウサマ ニ レンラク ズミ]
アイツがリリーを・・・
意識も戻っていないリリーをどこに。
こうなったら頼りにできるのは兄上だ。
軍部の職員に通信機器の使用許可を得て、兄上にはリリーの無事の確認を。
ジークには感謝と静養するように、メッセージを送った。
リリーを襲ったのは、カミンスキー公爵で間違いないだろう。
異国の手練れーー
『あの公爵、元スパイでもある私の優秀なボディーガードをお宅の国に連れて行ったんですよ。
何だか、二人の間で話がまとまって、私はたんまり金貨を貰いましたけど』
売人が話していた。
ジークがやられ、王宮の影でも阻止出来なかった人物。
そんな危険な奴を国に引き入れ、王宮に侵入させ、王妃であるリリーを襲った罪は重い。
お礼を述べ、国へ帰るため鉄道に乗り、到着した東の都市から王都へは、護衛騎士と馬で向かうことにした。
この方が、早く到着できる。
リリー、今すぐに行くから。
すぐに行くから。
ただその思いで、馬をひたすら走らせた。
アイツが側妃候補とダンスを踊る間、一曲だけリリーをダンスに誘う。
間違ってもリリーに悪評が付かないように、許される範囲内でリリーを見つめたり、ダンスの終わりには名残惜しいと言わんばかりに、リリーの少し冷たい手に触れそうでいて決して触れない口づけをを落とす。
『公爵様は側妃問題に胸を痛める王妃様を慰め、心を寄せていらっしゃる』
『叶わぬ恋・・・お辛いですわ』
叶わぬ恋?随分と失礼だな。
でも、思惑通りにリリーを悪者にする噂話はなりをひそめていった。
最初の頃は少し力が入っていたリリーも、自然に笑顔を見せるようになっている。
《慣れていらっしゃるのね》
たまにグサリとすることも言われるが。
アイツが側妃候補と踊っていても決して王妃の顔を崩さないリリーが、珍しく本音と思われる寂しさを見せた時には、
『私がずっとそばにいる』
口からでてしまいそうな言葉を飲み込んで、抱き寄せたい衝動を必死に抑えた。
明日から二週間の予定でスパンディア王国へ行く。
カミンスキー公爵が違法薬物をスパンディア王国の売人と取引していたのは分かっていたが、人物を特定出来ずにいた。
だが、先日捕まった売人がカミンスキー公爵の名前を出していると聞いて急遽向かうことになった。
もうすぐ、あと少しで終わる。
でも、なぜか胸騒ぎを感じていた。
カミンスキー公爵に、これといった動きはない。
あやしい動きも。
静か過ぎて、それが不気味だった。
《私が居ない間、用心して欲しい》
《わかりましたわ。でも、優秀な護衛騎士がおりますから》
ご心配なく、と微笑む。
《そうだな。だが、一応私の手のものにも見張らせよう》
その方が、自分も安心できる。
《ふふふ、心配症ですね》
大切な君のそばを離れるんだ。
伝えられないもどかしさを感じながら、頼りになりそうな人物の顔を思い出した。
《そうだ、兄上に・・・》
《大丈夫ですよ。
土産話楽しみにしてますね》
一曲はあっという間に終わってしまった。
いつものように、リリーの冷んやりした手に決して触れない口づけを落として、名残惜しくリリーの去って行く後ろ姿を見つめた。
スパンディア王国までは馬車と鉄道を乗り継いで、どんなに急いでも丸二日はかかる。
リリーの近くには、一番優秀であり王宮内にも詳しい者、ジークを置いてきた。
元々は影だったが大怪我を負い、その時ちょうど王弟から公爵になった私について来て、今までずっと近くで守ってくれた頼りになる存在だ。
あの男なら大丈夫だろう。
兄上に便りも出して、安心していた。
出発して予定通り二日後にはスパンディア王国の王都に到着。
売人は司法取引が決定しているので、洗いざらいカミンスキー公爵の違法薬物の入手ルート、取引に関わる人物を白状した。
この後は、午後から王国王陛下に謁見する予定だった。
まだ時間もありますし、昼食にこの国の名物料理でも食べに近くのレストランへ案内しますよ。宰相に誘われ、腰を上げた時だった。
「スタインベック公爵!
ルボア王国からあなた様宛てと思われるメッセージが!」
一枚の紙を持った職員が走ってきた。
[オウヒ オソワレル]
リリーに、何があった・・・・・
「ルボア王国からは距離があり過ぎで、受信はこれが限界です」
「どうにかならないのか?
軍部の通信機器はどうだ」
「ここと同じです」
「スタインベック公爵、顔色が真っ青です。大丈「・・・宰相、私は国へ戻ります。陛下には大変申し訳ありませんが・・・・・・」」
用意してくれた馬車に飛び乗った。
[オウヒ オソワレル]
リリー、リリー
頼むから、無事で・・・・・・
神様・・・お願いします
リリーを、リリーを、お守り下さい
体が震えて仕方がなかった。
『国境沿いのブレアという都市の軍部ならば、長文のメッセージの受信も可能でしょう』
宰相が話を通してくれていたようで、夕刻にブレアの軍部に到着すると、すぐに通信室へ案内された。
「こちらが、今日の昼前にルボア王国から受信した全文です」
[オウヒ オソワレル
ヤクヒン ニヨリ イシキ ウシナウ
イマダ メザメズ
ハンニン イコクノ テダレ
スデニ ジシ
イコクノ テダレ ニ
ネムラサレ キキテ ヲ フショウ
ソシ デキズ モウシワケゴザイマセン]
「そして、こちらが、二時間に受信したものです」
[オウヒ ユクエ ワカラナク ナル
ヘイカノ シジト オモワレル
ゼン コクオウサマ ニ レンラク ズミ]
アイツがリリーを・・・
意識も戻っていないリリーをどこに。
こうなったら頼りにできるのは兄上だ。
軍部の職員に通信機器の使用許可を得て、兄上にはリリーの無事の確認を。
ジークには感謝と静養するように、メッセージを送った。
リリーを襲ったのは、カミンスキー公爵で間違いないだろう。
異国の手練れーー
『あの公爵、元スパイでもある私の優秀なボディーガードをお宅の国に連れて行ったんですよ。
何だか、二人の間で話がまとまって、私はたんまり金貨を貰いましたけど』
売人が話していた。
ジークがやられ、王宮の影でも阻止出来なかった人物。
そんな危険な奴を国に引き入れ、王宮に侵入させ、王妃であるリリーを襲った罪は重い。
お礼を述べ、国へ帰るため鉄道に乗り、到着した東の都市から王都へは、護衛騎士と馬で向かうことにした。
この方が、早く到着できる。
リリー、今すぐに行くから。
すぐに行くから。
ただその思いで、馬をひたすら走らせた。
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