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第20話 エリオット

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「・・・・・・エリオット、あのね・・・」

「何だい?」

ついこの間、フランから『特別な呼び方をしたい』と可愛くお願いをされ、それから『エリオット』と呼ばれるようになった。
フランはいたって自然に呼ぶが、私は正直くすぐったいような感じがして慣れない。

「や、やっぱり、いいわ」

「どうしたんだい?気になるな。
・・・悩み事?」

「・・・ううん、違うの。
言いにくいんだけど・・・・・・あのね、王妃様が侍女を使って私の悪口を言わせてるみたいなの」

悪口を?リリーが?
リリーが、そんなことする訳ない。
最初は信じていなかった。
でも、実際にフランの侍女が泣いている場面を見たり、何度も落ち込むフランを慰めてているうちに、真実なんじゃないかと考えるようになった。
しかも、同じタイミングで酷似した噂話が蔓延していれば疑ってしまうというものだ。

王妃であるリリーには影が付いている。
気は進まなかったが、王妃の行動に変化があれは知らせろと命じたところ、以外な答えを聞くことになる。

「王妃様は夜会での休憩時、いつもご利用される控え室ではなくバルコニーで涼まれることが増えています。
そして、そこでスタインベック公爵閣下と談笑されています」


数日後フランのもとへ向かうと、泣き出しそうなフランが侍女を抱きしめている場面に遭遇した。
何があったか尋ねると、
「王妃様がフランチェスカ様のことを泥棒猫と罵り、あの女のドレスを間違えた振りでもして、汚してしまえ。と命令されて・・・」
怯えながら話してくれた。

目に涙を溜めてるいるフランを思い出すと居ても立っても居られなくなり、側近にリリーを呼びに行かせた。

部屋へ現れたリリーは、背筋をピンと美しく伸ばし、平然と私の目を見て用件は何かと尋ねた。
その姿に、何とか口を割らせようとするも、陛下• •と呼ばれ、逆にリリーに視野の狭さを突きつけられる。
陛下• •・・・・・・
距離を感じる呼び方に、影の報告を思い出した。

叔父上スタインベック公爵は叔父とはいっても父上の年が離れた弟で、私と七つしか違わない。
華やかな容姿に話し上手で、とても魅力的な人物だ。

叔父上と、親しくしているのか?



心に引っかかるものを残したまま、晩餐会に出席した。
いつも何も考えずにリリーをエスコートしていたのが不思議なくらいに、歩くスピード、リリーとの距離、触れる力加減に二の足を踏んだ。

今夜同じ会場にいる二人が気になって仕方がなかった。
涼しい顔でごまかして、客人と話した。
そして、シャンパンを一口飲み終えた時、歓談中の叔父上がこちらに顔を向け、リリーとほんの一瞬視線を交わした。

見つめ合う二人を見ていると、自分の中に仄暗い感情のようなものが生まれたことに困惑を覚えた。




「側妃だと?」

後日、宰相から国王夫妻の不仲、世継ぎ問題が貴族の間で不安視されていると聞いて頭を抱えた。

「はい。側妃をとの声も多く、既に名乗りをあげる者が」

こちらになります。
宰相に側妃候補をリストアップされたものを渡された。

「父上と母上は結婚五年目で私を授かった。
まだ、時期が早いとは思わないか?」

「出過ぎたことを申し上げますが、陛下と王妃様のご関係をお見受けする限り、世継ぎは難しいとの判断は致し方ないかと。
仮のお話でございますが、側妃様との間に跡継ぎが誕生すれば周囲も落ち着くでしょう。
陛下にとっても、大切な方にとっても、決して悪いお話ではないと存じます」


『陛下と王妃様のご関係をお見受けする限り、世継ぎは難しいとの判断は致し方ないかと』

宰相の言葉に、自分の中で最近生まれたばかりの感情が大きく蠢くのを感じた。






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