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第33話

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ノアの婚約者であるパーカー伯爵令嬢に次期公爵夫人としての指導を行い、1年後に旦那様と離婚する。  

ノアと旦那様と3人で話し合い、そう決まりつつあった。


旦那様は途中何度も納得できない様子を見せていたけれど、クラリス様が次期公爵夫人の仕事を放棄するなら、これが自然な流れだろう。

離婚については契約内容とは変わるが、そもそもが当時王太子殿下であった陛下にクラリス様をエスコートするように言われてから約束を違えていた。

ノアは契約書に目を通すと、顔色を変えた。

「何ですか、これは!
こんなの、そもそも守られてませんよ。
別邸のメイドは母上の機嫌を伺い、言いたい放題でしたから」

「何だって?言いたい放題だと!」

「そうですよ。
・・・・・・母上が、本妻に相応しい。
・・・早く奥様とお呼びしたい」

「メイドの教育は厳しくしていたはずだ!
執事にも侍女長にも強く伝えていた!」

「父上。でも、実際には違いました。
僕が聞いたのは一度ではありませんよ」

私の耳にはそんな話は入ってこなかった。
別邸には足を運ばないから。
でも・・・ロージーは、いつも走り回ってノアを追いかけて別邸にも行っていた。

「ノア・・・・・・、
ロージーは、ロージーはもしかして、そのメイド達の話を・・・」

「ロージーと一緒の時に耳にしたことはありませんが、可能性は高いかもしれません」

自分がお屋敷で何事も無かったから、気が回っていなかった。

ロージーは今、王女殿下の留学に付き添いブルージェ王国の学園に通っている。
私は急いでロージーの元へ、ディクソン侯爵家へ向かった。



「ロージー、お母様とお父様ね、1年後に離婚を考えている「お母様!」」

向かいのソファに座っていたロージーは立ち上がったと思ったら、勢いよく抱きついてきた。

「・・・ロージー・・・・・・」

「やっとね!遅すぎるくらいよ」

「ロージー・・・・・・」

「賛成よ!賛成に決まってるでしょ!」

ブルーの瞳をキラキラさせながら喜んでくれるロージーに、気になって仕方がないあのことを聞いてみた。

ロージーは一瞬困った顔をして、7歳頃に噂話を聞いた話を教えてくれた。
その後、お母様が迎えに来てスタンリー伯爵家へ行ったこと、しばらくは落ち込んだし成長するにつれ旦那様に嫌悪感を抱いたこと。

「気づかなくて、ごめんなさい。
ロージー、辛い思いをさせて、ごめんなさい」

「・・・お母様、謝らないで。
大好きよ」

ロージーと抱き合った。
そして、いろんな話をした。
学園での話、鍛練の話、工房の話。

ロージーは、これからのことはゆっくりと考えるわ。そう言うと、早くローリーおじさまに報告に行ったら。と急かしてきた。


それから1週間はディクソン侯爵家でお世話になり、ゆっくりと過ごした。
ロージーに会いにここへ来ると、温室ではいつも私の好きなフルーツが食べ頃を迎えている。
ここに暮らすロージーの部屋はともかく、たまにしか訪れない私の部屋も快適に整えられている。

「ミラ!ほら、ぶどうも甘そうだぞ」

いつからか、見慣れたはずの深い緑色の瞳を見ると、ドキッとする。

「あ!本当ね!」

ここに、ずっと居られたらいいのに。
そんな気持ちが胸に広がる。




国へ戻ると、ノアにパーカー伯爵令嬢を紹介された。
知的で、そして想像以上に優秀な彼女は飲み込みも早く、1年もかからずにほとんどの指導を終えた。

あれから、旦那様には何度も謝罪された。
私より、ノアやロージーに謝罪してください。そう言えば、なぜか項垂れていた。

ロージーは国へ戻り、今はこちらの学園へ通っている。
卒業まであと1年半は、今のところは公爵家で暮らす予定だ。

クラリス様は馴染みメイドが皆居なくなり塞ぎ込んでいるらしい。


工房は、今ではその地位を確立しつつあり、貴族女性達からもドレスの注文が絶えない。
久しぶりに訪れた工房で、クリスタルの置物が目に入った。


ーーもうすぐ、やっと貴方に会える。



離婚の手続きが済み、ロージーと抱き合った。
しばらくはスタンリー伯爵家にお世話になる。
ロージーは、私もすぐに行くわ。と笑っていた。

旦那様と握手をして、

18年住んだ公爵家を後にした。




サリンジャー氏から手紙を受け取ったのは、ひと月前。

ーーぜひお会いしたい。

手紙には、そう記されていた。

場所は、ブルージェ王国の王都にある最新の建物の最上階。



大きな扉の前で深呼吸をして、ノックした。

「どうぞ、入ってくれ」

扉の向こうから、微かに聞こえたその声は思った通りの人のもので・・・・・・

取手を掴もうとするのに、あと一歩進もうとするのに、体が動かなくなった。



ローリー


「おい、どうした?
どうして入ってこない、ミラ、
・・・・・・ミラ」

大きな音と共に、いつも私を呼ぶ馴染みの声がした。

そちらをに目を向けるも、視界がぼやけていて、自分が泣いていることにやっと気づいた。

「ミラ・・・」

止まらない涙を手で拭うと、困った顔をしたローリーがあたふたしていて、私はその人に抱きついた。


すると、私の背中に温かな手の感触が広がった。






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