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第18話 マーク・エヴァンス
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「まぁ、私が夜会に!
マークのエスコートで?」
「ああ。
あまり時間が無いからドレスは既製品になると思うが、好きなものを選んでほしい。
アクセサリーも持って来るように手配しているから」
殿下に言われた夜会まで10日を切っていた。
『クラリスは、私の恩人なんだ。
彼女には幸せになってほしい』
殿下の口癖は、もう何回、何十回聞いただろう。
私とミラは仲の良い夫婦として有名で、次期公爵夫人の美しく聡明なミラはどこへ行っても羨望の的だった。
周りは、そんなミラを苦しめるクラリスとう存在が現れたことに注目し、噂好きの貴族の中にはクラリスを悪く言う者もいた。
殿下に悪気は無いのは分かる。
でも、それによってミラの立場がどうなるかなんて、まるで考えてはいなかった。
『人気のあるドレスメーカーのマダムソシエに声を掛けておいたから屋敷に来てもらうといい』
今話題のドレスメーカーが来ることを伝えるとクラリスは目を輝かせた。
「公爵様のエスコートですもの、華やかな装いをしなきゃね」
そうだな。そう相槌を打つと、クラリスは嬉しそうにドレスのデザインはどうしようか、今の流行りは何か侍女に相談しなくちゃ。と張り切っていた。
クラリスとノアを別邸に迎え入れると同時に、私は父上から爵位を受け継いでエヴァンス公爵となった。
貴族社会では愛人を持つ者は決して少なくはない。
でも、愛人との子どもを跡継ぎにする者はいないに等しい。
二人を守る意味合いも含めて、公爵という立場になる必要があった。
「旦那様、王城へはアニーと向かいますので、馬車は別にしていただけますか」
夜会当日にミラにそう言わせてしまったことに、どうして気が回らなかったのか自責の念にかられた。
ミラは、いつものシャンパンゴールドのドレスではなく、ブラウンの飾り気のない控えめなドレスを着ていた。
自分の色を纏っていないミラに寂しさを感じたが、その慎ましいともいえるドレスがミラの美しさを際立たせていた。
「わかった。
あちらで落ち合おう」
ミラの指には、あの大切にしていたブルーダイヤモンドの指輪が無かった。
『旦那様・・・』
そう呼ばれるようになってから、ミラの指から消えているのは知っていた。
でも、もしかしたら今夜は・・・馬鹿みたいにそう期待していた。
「旦那様、少し疲れたので先に戻りますわ」
「済まなかった。・・・・・・ミラ。
ゆっくり休んでくれ」
夜会ではクラリスを知り合いに紹介してばかりで、ミラに気を回すことが出来なかった。
ミラを、公爵夫人を放っている自分に嫌気がさした。
自分は何をしているのか。
自分はそれを望んでいるのか。
私は・・・・・・
ミラの去って行く後ろ姿を見ていると、ミラを追いかけたい気持ちが込み上げてくる。
「マーク、あちらの方がお待ちよ」
「・・・・・・ああ、そうだな。
伯爵、お待たせして申し訳ない」
少なくともあと数人にクラリスを知ってもらう必要があった。
表情を作り、今やるべきことに集中した。
そんな矢先だったーー
「この国はあんな美しい夫人をひとりにしておくのか。
信じられないな」
この言葉と、これを言った人物を見て・・・・・・体が凍りついた。
ブルージェ王国の国王様ーー
「国王様がエヴァンス公爵夫人に声をかけられてるのご覧になりました?」
「ええ。夫人をお気に召したご様子でしたわね」
「それより、宰相様とのダンスよ!」
「宰相様と夫人、息がピッタリで見惚れてしまいましたわ」
「最後の夫人をクルリと回されたの!
宰相様、やりますわね」
ミラが従兄のブルージェ王国の宰相であるディクソン侯爵にロージーを紹介する話を聞いて、スタンリー伯爵家まで馬を走らせた。
昨夜の夜会であの話を耳にしてから落ち着かず、胸騒ぎがしていた。
「とーしゃま!」
抱きついてくる愛しいロージーを抱き上げて、ミラとディクソン侯爵のもとへ向かった。
少しばかり距離が近く、親しげな雰囲気のふたりにチクリと胸が痛んだ。
昨夜のお礼を侯爵に伝えれば、従妹と踊っただけだ。と返された。
切れ者としてその名を轟かせるローリー・ディクソン侯爵。
20歳と若くして王太子から国王になった御本人からの指名で宰相となり、若き国王を支える手腕は他国からは恐れられている。
ミラとは従兄で、ミラが幼い頃からよく話に聞いていた。
たわいもない話をしていると護衛に呼ばれて、時間だな。と残念そうにミラとロージーに別れを告げて歩き出した。
はずだったーー
「エヴァンス公爵。
夫人は・・・私の従妹はとても魅力的だ。
余所見をしていると、攫われるかもしれませんよ」
私を見るその眼差しは、限りなく冷たかった。
マークのエスコートで?」
「ああ。
あまり時間が無いからドレスは既製品になると思うが、好きなものを選んでほしい。
アクセサリーも持って来るように手配しているから」
殿下に言われた夜会まで10日を切っていた。
『クラリスは、私の恩人なんだ。
彼女には幸せになってほしい』
殿下の口癖は、もう何回、何十回聞いただろう。
私とミラは仲の良い夫婦として有名で、次期公爵夫人の美しく聡明なミラはどこへ行っても羨望の的だった。
周りは、そんなミラを苦しめるクラリスとう存在が現れたことに注目し、噂好きの貴族の中にはクラリスを悪く言う者もいた。
殿下に悪気は無いのは分かる。
でも、それによってミラの立場がどうなるかなんて、まるで考えてはいなかった。
『人気のあるドレスメーカーのマダムソシエに声を掛けておいたから屋敷に来てもらうといい』
今話題のドレスメーカーが来ることを伝えるとクラリスは目を輝かせた。
「公爵様のエスコートですもの、華やかな装いをしなきゃね」
そうだな。そう相槌を打つと、クラリスは嬉しそうにドレスのデザインはどうしようか、今の流行りは何か侍女に相談しなくちゃ。と張り切っていた。
クラリスとノアを別邸に迎え入れると同時に、私は父上から爵位を受け継いでエヴァンス公爵となった。
貴族社会では愛人を持つ者は決して少なくはない。
でも、愛人との子どもを跡継ぎにする者はいないに等しい。
二人を守る意味合いも含めて、公爵という立場になる必要があった。
「旦那様、王城へはアニーと向かいますので、馬車は別にしていただけますか」
夜会当日にミラにそう言わせてしまったことに、どうして気が回らなかったのか自責の念にかられた。
ミラは、いつものシャンパンゴールドのドレスではなく、ブラウンの飾り気のない控えめなドレスを着ていた。
自分の色を纏っていないミラに寂しさを感じたが、その慎ましいともいえるドレスがミラの美しさを際立たせていた。
「わかった。
あちらで落ち合おう」
ミラの指には、あの大切にしていたブルーダイヤモンドの指輪が無かった。
『旦那様・・・』
そう呼ばれるようになってから、ミラの指から消えているのは知っていた。
でも、もしかしたら今夜は・・・馬鹿みたいにそう期待していた。
「旦那様、少し疲れたので先に戻りますわ」
「済まなかった。・・・・・・ミラ。
ゆっくり休んでくれ」
夜会ではクラリスを知り合いに紹介してばかりで、ミラに気を回すことが出来なかった。
ミラを、公爵夫人を放っている自分に嫌気がさした。
自分は何をしているのか。
自分はそれを望んでいるのか。
私は・・・・・・
ミラの去って行く後ろ姿を見ていると、ミラを追いかけたい気持ちが込み上げてくる。
「マーク、あちらの方がお待ちよ」
「・・・・・・ああ、そうだな。
伯爵、お待たせして申し訳ない」
少なくともあと数人にクラリスを知ってもらう必要があった。
表情を作り、今やるべきことに集中した。
そんな矢先だったーー
「この国はあんな美しい夫人をひとりにしておくのか。
信じられないな」
この言葉と、これを言った人物を見て・・・・・・体が凍りついた。
ブルージェ王国の国王様ーー
「国王様がエヴァンス公爵夫人に声をかけられてるのご覧になりました?」
「ええ。夫人をお気に召したご様子でしたわね」
「それより、宰相様とのダンスよ!」
「宰相様と夫人、息がピッタリで見惚れてしまいましたわ」
「最後の夫人をクルリと回されたの!
宰相様、やりますわね」
ミラが従兄のブルージェ王国の宰相であるディクソン侯爵にロージーを紹介する話を聞いて、スタンリー伯爵家まで馬を走らせた。
昨夜の夜会であの話を耳にしてから落ち着かず、胸騒ぎがしていた。
「とーしゃま!」
抱きついてくる愛しいロージーを抱き上げて、ミラとディクソン侯爵のもとへ向かった。
少しばかり距離が近く、親しげな雰囲気のふたりにチクリと胸が痛んだ。
昨夜のお礼を侯爵に伝えれば、従妹と踊っただけだ。と返された。
切れ者としてその名を轟かせるローリー・ディクソン侯爵。
20歳と若くして王太子から国王になった御本人からの指名で宰相となり、若き国王を支える手腕は他国からは恐れられている。
ミラとは従兄で、ミラが幼い頃からよく話に聞いていた。
たわいもない話をしていると護衛に呼ばれて、時間だな。と残念そうにミラとロージーに別れを告げて歩き出した。
はずだったーー
「エヴァンス公爵。
夫人は・・・私の従妹はとても魅力的だ。
余所見をしていると、攫われるかもしれませんよ」
私を見るその眼差しは、限りなく冷たかった。
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