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第11話
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「エヴァンス公爵様ったらクラリス様をエスコートされてるわ」
「クラリス様の、あのブルーダイヤモンドののネックレス、なんて豪華なのかしら」
「ミラ様、お気の毒ですわね」
あれから会場に3人で入場してからというもの、ずっと好奇の目にさらされている。
旦那様とクラリス様は挨拶回りをしている。
ちょっとした人だかりができている、あの辺りにいるのかもしれない。
知り合いも、今夜は私と目を合わせるのを極力避けているのが手に取るようにわかる。
旦那様と仲睦まじいと周りに言われていた私達が蓋を開ければこんな状態だったなんて、誰が思っただろう。
しかも、何年も身につけていたドレスの色までが地味なものに変わってしまったんだから。
チラチラと向けられる哀れみを含んだ視線が正直痛かった。
今夜は気丈に振る舞う。と、そう決めたはずだったのに・・・心が折れそうになる。
真っ直ぐに前を見ているはずだったのに、目線がどんどん下がっていくのを感じていた。
そして、少しの間、ほんの少しの間、ロージーの笑顔を、抱っこをねだるロージーを、カーテンに頭だけ隠しているロージーを思い出していた。
だから、近づいていた足音に気がつかなかったーー
「これはこれは、夜会会場の片隅に、こんな美しい女性がいるなんてーー」
いきなり耳に飛び込んできた、少し響きを持ったゆっくりと話す声に、自分でも驚く程に反応してビクッとしてしまった。
「・・・・・・し、失礼いたしました」
「こちらこそ、驚かせちゃってごめんね」
顔を少し上げて、笑いを含んだその声の主の顔が目に入った途端に、心臓がものすごい勢いで音を鳴らし始めた。
ブルネットの長めの髪に、この世の者と思えないほどに整った顔立ちーー
そして、瞳の色は・・・金色・・・・・・。
金色の瞳は、ブルージェ王国の王族のみが持つ色ーー
この方は・・・
ブルージェ王国の国王様ーー
「大変失礼致しました」
慌てて、頭を下げお辞儀をする。
「大丈夫、大丈夫。
私から声をかけたんだから、気にしないでよ。
ねぇ、顔を上げてくれる?
私が虐めてるって、隣に居る厄介な君の従兄に睨まれていて気が気じゃないんだ」
「それは元々の私の目つきですから」
「ほらね、怖い怖い」
懐かしい、落ち着いたその低音の声に顔を上げると、いつもはボサボサにしていた黒髪は後ろに撫でつけていて、でも、深いグリーンの瞳は昔から変わらない、従兄のローリーが居た。
「・・・・・・ローリー・・・
ディクソン侯爵様」
「お久しぶりです。
エヴァンス公爵夫人」
「え?何?ものすごい美人なんだけど。
しかも、エヴァンス公爵夫人?
あの王太子の側近の?
こんな美人をひとりにしておいて、公爵は何してるわけ?」
はぁ~とローリーがため息をついている。
「ねぇ、ふたりは久しぶりなんでしょ。
折角だから、踊りなよ」
「貴方が迂闊に仰るひと言は、命令に近いことをお忘れなく」
「ああ、怖い怖い。
彼って昔からこうだった?」
生きていて、お目通りすることすらあり得ない雲の上の方の気さくな対応に、ただ軽く微笑むことしかできない。
「ご自分のお立場を全く理解しておられませんね。
『はい、そうです』と貴方相手に、答えられる者はそういませんよ」
「まぁ、そうなるかもね。
本当なら私がダンスに誘いたいけれど、婚約者がいるものでね。
だから、ふたりで踊りなよ。
こんな魅力的な女性が隅にいるなんて、我が国ではあり得ないからね」
私は、あちらに行ってるよ。と、国王様は側近達と歩いて行ってしまった。
取り残された私とローリーは、目を合わせた。
小さな頃から、スタンリー伯爵家に遊びに来ていたローリーに最初に会ったのは、今のロージーくらいの時だったかもしれない。
どれくらい、そうしていただろう。
「エヴァンス公爵夫人、踊っていただけますか?」
「はい、ディクソン侯爵様」
こんなふうに、余所余所しくローリーと話すのが可笑しくなって、ほんの少し吹き出してしまうと、ローリーは昔からよくする意地悪そうな目を向けてきた。
「クラリス様の、あのブルーダイヤモンドののネックレス、なんて豪華なのかしら」
「ミラ様、お気の毒ですわね」
あれから会場に3人で入場してからというもの、ずっと好奇の目にさらされている。
旦那様とクラリス様は挨拶回りをしている。
ちょっとした人だかりができている、あの辺りにいるのかもしれない。
知り合いも、今夜は私と目を合わせるのを極力避けているのが手に取るようにわかる。
旦那様と仲睦まじいと周りに言われていた私達が蓋を開ければこんな状態だったなんて、誰が思っただろう。
しかも、何年も身につけていたドレスの色までが地味なものに変わってしまったんだから。
チラチラと向けられる哀れみを含んだ視線が正直痛かった。
今夜は気丈に振る舞う。と、そう決めたはずだったのに・・・心が折れそうになる。
真っ直ぐに前を見ているはずだったのに、目線がどんどん下がっていくのを感じていた。
そして、少しの間、ほんの少しの間、ロージーの笑顔を、抱っこをねだるロージーを、カーテンに頭だけ隠しているロージーを思い出していた。
だから、近づいていた足音に気がつかなかったーー
「これはこれは、夜会会場の片隅に、こんな美しい女性がいるなんてーー」
いきなり耳に飛び込んできた、少し響きを持ったゆっくりと話す声に、自分でも驚く程に反応してビクッとしてしまった。
「・・・・・・し、失礼いたしました」
「こちらこそ、驚かせちゃってごめんね」
顔を少し上げて、笑いを含んだその声の主の顔が目に入った途端に、心臓がものすごい勢いで音を鳴らし始めた。
ブルネットの長めの髪に、この世の者と思えないほどに整った顔立ちーー
そして、瞳の色は・・・金色・・・・・・。
金色の瞳は、ブルージェ王国の王族のみが持つ色ーー
この方は・・・
ブルージェ王国の国王様ーー
「大変失礼致しました」
慌てて、頭を下げお辞儀をする。
「大丈夫、大丈夫。
私から声をかけたんだから、気にしないでよ。
ねぇ、顔を上げてくれる?
私が虐めてるって、隣に居る厄介な君の従兄に睨まれていて気が気じゃないんだ」
「それは元々の私の目つきですから」
「ほらね、怖い怖い」
懐かしい、落ち着いたその低音の声に顔を上げると、いつもはボサボサにしていた黒髪は後ろに撫でつけていて、でも、深いグリーンの瞳は昔から変わらない、従兄のローリーが居た。
「・・・・・・ローリー・・・
ディクソン侯爵様」
「お久しぶりです。
エヴァンス公爵夫人」
「え?何?ものすごい美人なんだけど。
しかも、エヴァンス公爵夫人?
あの王太子の側近の?
こんな美人をひとりにしておいて、公爵は何してるわけ?」
はぁ~とローリーがため息をついている。
「ねぇ、ふたりは久しぶりなんでしょ。
折角だから、踊りなよ」
「貴方が迂闊に仰るひと言は、命令に近いことをお忘れなく」
「ああ、怖い怖い。
彼って昔からこうだった?」
生きていて、お目通りすることすらあり得ない雲の上の方の気さくな対応に、ただ軽く微笑むことしかできない。
「ご自分のお立場を全く理解しておられませんね。
『はい、そうです』と貴方相手に、答えられる者はそういませんよ」
「まぁ、そうなるかもね。
本当なら私がダンスに誘いたいけれど、婚約者がいるものでね。
だから、ふたりで踊りなよ。
こんな魅力的な女性が隅にいるなんて、我が国ではあり得ないからね」
私は、あちらに行ってるよ。と、国王様は側近達と歩いて行ってしまった。
取り残された私とローリーは、目を合わせた。
小さな頃から、スタンリー伯爵家に遊びに来ていたローリーに最初に会ったのは、今のロージーくらいの時だったかもしれない。
どれくらい、そうしていただろう。
「エヴァンス公爵夫人、踊っていただけますか?」
「はい、ディクソン侯爵様」
こんなふうに、余所余所しくローリーと話すのが可笑しくなって、ほんの少し吹き出してしまうと、ローリーは昔からよくする意地悪そうな目を向けてきた。
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