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第10話

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「ミラ・・・・・・殿下から夜会でクラリスをエスコートするように言われたんだ」

「・・・・・・そう、ですか」

「すなまい・・・だから、次の夜会では君をエスコートできない」

1ヶ月前に別邸の改装が終了して、クラリス様とノアはそちらへ移った。
クラリス様は順調に回復して、今では問題なく生活されている。

てっきり旦那様も別邸へ行くものと思っていたら、今まで通りに本邸に帰宅してこちらで過ごしている。

早く眠ってしまうロージーの寝顔を眺めてから夕食をとり、一緒にお茶を飲みながらロージーの話しやお互いの最近の出来事を報告し合う。
寝室こそ別だけれど、こうしていると何事も無かったようにすら感じてしまう。

『殿下はクラリスに助けられているから、今のこの愛人という弱い立場にあることを心苦しく思っておられる』

そんな話を何度か聞いていたから、あまり驚かなかった。

「私も、出席するということですよね?」

「そういうことになる・・・。
殿下は、エヴァンス公爵夫妻・・・君とクラリスの関係が円満なのを周知させたいみたいだ」

「クラリス様のドレスやアクセサリーの手配はお済みですか?」

「ああ、明日別邸に来るように手配している」

私とクラリス様がどうこうというよりは、旦那様の寵愛がクラリス様にあるのを知らしめたいんだろう。

最近はお茶会でも、旦那様が愛人を正式に別邸に住まわせ、その子どもを跡継ぎにしたという噂話がちらほらと耳に入る。

これ以上噂がひとり歩きする前に、旦那様がクラリス様をエスコートする姿を見せるのが一番効果的だからーー

「ミラ・・・・・・」

「・・・・・・私は、大丈夫です」

疲れたので休みますね。と、自分の部屋へ戻った。

エスコート無しで夜会に出席。
ドレスだって・・・クラリス様が旦那様の色を身に着けるから、私はいつものシャンパンゴールドのドレスは避けないといけない。

先月、別邸が完成した段階で旦那様が爵位を継ぎエヴァンス公爵となった。
公爵夫人としての最初の夜会・・・・・・。

考えるだけで、気が重かった。



結局ドレスは、ブラウンにゴールドが混じったシンプルなドレスに決めた。
でも、あまりにもシンプル過ぎるので、少しばかりブルージェ王国の刺繍を入れようと思い、ここ数日は刺繍に専念していた。

「奥様、大変お美しいです」

「ありがとう、アニー」

旦那様に馬車は別にしてほしいと話し、アニーと二人で王城へ向かった。


王城へ到着して、旦那様とクラリス様を探していた。
エスコートは無くても、一緒に入場しなければならないから。

すると、辺りが急に騒めき始めた。
足を止めて、同じ方向を見ている。

「まぁ、あれは!」

「ご覧になって!ブルージェ王国の国王様ではなくて?」

「宰相様もいらっしゃるわ」

そんな声があちこちから聞こえてきた。

ブルージェ王国の『宰相様』って言った?
アニーの顔を見ると頷いている。


ブルージェ王国の宰相とは、私の従兄のローリーだーー

ブルージェ王国、ローリー・ディクソン侯爵。

もう、何年会っていないだろう。
私が幼い頃は毎年のように実家のスタンリー伯爵家に来ていたけれど、いつの間にか会えなくなった。

そして、3年前にブルージェ王国の宰相になったと聞いた。

大国であるブルージェ王国の国王様の登場に、周りの貴族達は道を開けて端に寄る。

私とアニーも端に寄って、頭を下げた。



黒髪の後ろ姿が遠ざかって行くのを懐かしく感じながら見ていると、旦那様とクラリス様がこちらに向かって歩いてきた。

クラリス様の美しい赤い髪はアップにされ、背中のあいたマーメイドラインのゴールドのドレスを着ている。
胸元には、ブルーダイヤモンドが散りばめられた豪華なネックレスが輝いていた。

「さあ、行こうか」

旦那様とクラリス様の後ろ姿を見ながら、私はゆっくりと歩き出した。








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