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第21話

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伯父様は弟達がスティーブン様に戯れているのを見て驚いていた。

「その様子だと公爵様とは親しくしていたみたいだね。
ジョイ、私はこの申し込みは喜ばしいことだと思うよ。
夜会でジョイの姿が知れた以上、また厄介ない高位貴族に目をつけられる恐れもある。
少しの間はクリケット伯爵家が盾になってくれていたが、これ以上迷惑はかけられないし、婚約者がいた方が安心できる。
騎士団長でもあるフォックス公爵様がお相手ならこんな心強いことはない。

二人でクリケット伯爵邸の庭を散策してきたらどうだい」

弟達はスティーブン様がお土産に持ってきてくれたお菓子を食べながら、『いってらっしゃ~い』と笑っていた。

私はスティーブン様にエスコートされて庭へ向かった。
クリケット伯爵邸の庭は私達の家からの通り道で毎日歩いているのに、なぜか今は違う場所のように感じた。

これから何を話せというのか。
スティーブン様のことは、そりゃあ素敵だと思う。
それに、あの2ヶ月間は夢のようだった。
氷の公爵とも言われるスティーブン様が、私の前では蕩けるような笑顔で毎朝欠かさずに薔薇を届けに来てくれた。
デート先でも優しくて、さりげない気遣いは完璧だった。
そして、楽しかった。
弟達にも優しくて、文句のつけようがない人だ。

『あいつはもう術に掛かっていないし、君に好意を抱いたのが始まりだよ』
アンドリュー様も、言っていた。

「ジョイ」

気づけばクリケット伯爵邸の自慢ともいえる美しい薔薇園まで来ていた。

「俺は君が好きなんだ。
始まりがあんなだったから俺に対してまだ不信感があるかもしれないけれど、それはこれからの俺を見てもらって違うと証明してみせるよ。
ジョイとこの先の人生を共に歩みたい。
朝起きて目を覚ました時に最初に君を見たいし、眠る時も隣に居てほしい。
ジョイ、愛している。
結婚してほしい」

「はい」

流れで、返事をしてしまった。
いや、心のどこかでこうなることを夢見ていた。

「ああ、ジョイ!」

スティーブン様が急に抱きしめてくるものだから、上向きだった私の顎がどこか硬い部分にぶつかって少し痛んだけれど、スティーブン様はまったく気づいてないのでそのままでいた。

大きな逞しい体は温かくて、ほんのりシトラスのような香りがしてドキドキした。

「ジョイ、本当にいいんだね」

「スティーブン様こそ、返品不可の上3人の弟付きというのをお忘れなく」

「ジョン、ジャック、ジャンと家族になれるなんて、俺の方こそ嬉しいよ。
ジョイこそ俺から逃げないでね」

「スティーブン様が私を忘れない限りはないのでご安心を」

「もう二度と忘れない」

そう言うと、私の頬に口づけをした。



私達は婚約を結び、晴れて婚約者となった。
私の首には、庭園で貰った魔法石のネックレスが光っている。
これは私に危険が起これば、スティーブン様にすぐ知らせが行く仕組みになっているらしい。

ジョンとジャックは試験に見事合格した。
ジョンは文官になりたいものの、父と同じ道を歩むのも癪らしい。
ジャックにはなんと魔法の適性があるらしく、魔法学校に通うことになった。
アンドリュー様は『将来が楽しみだね』と笑っていた。
考えてみると、赤ちゃんだったジャンを寝かしつけるのも泣き止ませるのもジャックがいちばん上手かった。
紅茶を淹れるのも上手い。
『魔法だね』アンドリュー様にあっさり言われた。

ジョンとジャックが学園に入学する前に、スティーブン様は私達を約束していたサーカスに連れて行ってくれた。
サーカスはあまりの人気に公演がさらに2か月延長されたらしい。
弟達は大はしゃぎしていた。


3ヶ月後、学園で寮生活を始めたジョンとジャックに別れを告げて、私とジャンはフォックス公爵家へと向かった。
婚約期間中に、時期公爵夫人になるべく学ばなくてはならないことがあるからだ。

歌劇にもなっている、花屋の娘から公爵夫人になったスティーブン様のお母様であるマリア様から公爵夫人のあれこれを教わることになった。
マリア様が元平民ということもあり、一応肩書きは男爵令嬢でも元メイドの私を公爵家は温かく迎えてくれた。

ヘンリーさんとジェレミーさんは、私に平謝りしてきた。
私の方こそ給金をたんまり貰った手前、謝られると申し訳なかった。

スティーブン様はとにかく甘い。
公爵家の使用人一同が驚くほどで、『俺は術には掛かってないぞ』と口癖のように言っている。
そして、隙があればすぐに私の唇に口づけをする。
最近はまだ結婚前だというのに深い口づけも頻繁にしてくるし、よく私の首に口づけをして痕を残してはマリア様に怒られている。

今思うと、マテオ様は私の首に痕を残したんだろう。
マテオ様は精神的な病気と診断され、国の外れにある魔法による監視付きの病院にいるらしい。





そして10年の月日が経った。

ジョンは文官となり王宮に勤めていて、ジャックは魔術師となりアンドリュー様に仕えている。
そして、小さかったジャンは剣の才能を認められ、クリケット伯爵領で学園の騎士科に通っている。

スティーブン様はというと、10年の間ずーっと甘い。
私達は2人の男の子に恵まれ、現在も3人目を授かっている。
大きくなったお腹をスティーブン様はそっと触った。

「ジョイ、俺は証明できたかな」

証明?
・・・ああ、そういえば・・・。

「そんなの、今の今まで忘れてしまうくらいに毎日幸せですよ。
・・・それより、私に飽きたからって返品不可ですよ。
今更帰る場所もないですから」
 
「ジョイこそ、俺から逃げ出さないでね」

「スティーブン様が私を忘れない限りはないのでご安心を」

「二度と忘れないよ」

そう言うと、私の唇に口づけをした。



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