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第20話

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「ジョイ、怖い思いをしたね。
さぁ、中に入ろう」

振り返ると、アンドリュー様が伯爵邸の入口に立っていた。

「はい」

アンドリュー様の所へ行くと、なぜか私の姿をしげしげと見てきた。

「あ、このマントはスティーブン様が掛けてくれたんです」

「いや、そうじゃなくてね。
このドレスは着替えたほうが良さそうだね。
あと、ちょっといいかい」

そう言うと、私の首に手をかざした。
すると視界に柔らかな光が入って、温かくなった。

「魔法・・・」

「ちょっと目立っていたからね。
どうりであいつがあんなに急いでたわけか。
まぁ、大丈夫・・・だろう・・・多分。
私の部下も居るし。

ああ、気にしないで。
こっちの話だから。

さぁ、着替えはグレースに準備させるから行っておいで。
ついでに湯浴みもしてくると良い」

目立っていたって何だろう。
今魔法を掛けたのって首の辺りだった。
首といえば、マテオ様に・・・。
確かに痛かったけど、あれって齧られていたとか。

アンドリュー様はグレースさんに声をかけると、ゆっくり温まっておいで。と、優しく微笑んだ。
その顔にはどこか懐かしさを感じた。


グレースさんはとても心配してくれたみたいで、私を見て目に涙を浮かべていた。
すでに大きな浴槽にお湯が張られ、浴室は優しい花の香りがした。
私はゆっくりとお湯に浸かった。

ひとりになると先ほどの出来事を思い出してしまう。
本当に怖かった。

恐ろしくて動けなかったし、力も強かった。
スティーブン様が来てくれなかったら、どうなっていたか・・・。



メイド服に着替えて、アンドリュー様の待つ部屋へ行くと、そこには伯父様も居た。

伯父様は私と同じ痺れ薬のようなものを口に当てられ、馬車の中で眠っていたらしく、気づけば騎士に救助されクリケット伯爵邸へ戻っていたらしい。

私は自分に起こった出来事を二人に話した。
伯父様は、『無事で良かった』と涙を流していた。

アンドリュー様によると、マテオ様には同い年の婚約者がいたが、4年前のある日その婚約者は庭師と駆け落ちしたらしい。
2人で隣国へ向かう船に乗るも、運悪く嵐に巻き込まれて船は転覆、還らぬ人になった。
その後マテオ様は“悲劇の令息”と言われ、見目の良さと家柄に多くの女性の関心を集めるも、家業のひとつである鉱石の輸出の仕事に従事し、社交の場にも姿を見せる機会は減った。

でも、偶々出席した3年前のあの夜会で元婚約者を思わせる私を見かけ、そして、先日の夜会でまた私を見かけたマテオ様は行動に出た。
夜会でアンドリュー様にエスコートされ、スティーブン様とも関わりがあるのを知ると、2人が王族関連の仕事で忙しくなる日を狙って伯父様に揺さぶりをかけた。

あの橋を渡った先は、ジョーンズ侯爵家の親戚筋でもある子爵領で、そこに入った途端に薬品で眠らされ、そして、近くにあるジョーンズ侯爵家の別荘に運ばれた。

「まだ完全に取り調べは終わってないけど、大まかにはこんなところだと思う。
ジョイ、ウッズ男爵、今回は我が伯爵領から出てすぐに危険な目に遭わせてしまい申し訳ない」

一通り話終わったアンドリュー様に頭を下げられた。
でも、謝られるなんて以ての外、むしろダニエルさんがいち早くアンドリュー様に知らせてくれたおかげで、スティーブン様に助けられた。
改めて、伯父様とふたりでアンドリュー様とダニエルさんにお礼を言った。

伯父様は今夜は伯爵邸に泊まることになり、弟達もお屋敷にお呼ばれしてみんなで夕食を頂いた。
今回の出来事は弟達にはいらぬ心配をかけたくないので秘密だ。

かの有名な魔術師団長で、しかも新しいタイプの美貌のアンドリュー様に弟達は興味津々だった。
アンドリュー様は楽しそうに弟達からの質問に答えていた。
伯父様を覚えていたジョンとジャックが母似なのを見て、伯父様は嬉し涙を浮かべていた。

私は食事中にこっそりと、スティーブン様がまた術に掛かったようで様子がおかしく、私に婚約を申し込む宣言した話をした。

「あいつはもう術に掛かっていないし、君に好意を抱いたのが始まりだよ。
明日の朝が楽しみだね~」

笑っていた。




翌朝、薔薇の花束を持ったスティーブン様が伯爵邸を訪れ、伯父様に私との婚約を申し込んだ。
伯父様は驚きで倒れそうになり、弟達は大喜びでスティーブン様にとびつき、ジャンはちゃっかり肩車をされていた。


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