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第3話

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あれ?
ここは?
ベッドの上? 
このベッド、すっごいフカフカしてる。

「あら、目が覚めた?」

離れたところから、すごくハスキーな声が聞こえてきた。

「はい」

誰だろう。
起き上がろうとすると、頭がズキンとした。

「ああ、無理しないで。
あなた、頭を打ったの」

そういえば、床に頭をぶつけた記憶がある。
でも、でも、今はこのハスキーな声の主の方が気になった。
声がした方へ頭を少し傾けると、艶やかな黒髪に赤い瞳の妖艶美女が目にはいった。
女性にしてはやや高めの身長にハスキーボイス。

この人は、魔術師団長アンジー・クリケット様。
こんな近くでお会いするのは初めてだ。

素敵、だなぁ。 
知らないうちに、アンジー様を頭の先から足の先まで眺めていて、それに気づいて慌てて目線を離した。

「フフッ、あなた、面白い子ね。
医者の診察はもう済んでるわ。
しばらく安静にすれば大丈夫らしいわよ。 
侍女長が薬を預かっていたから、後でもらって頂戴」

私が返事をすると、アンジー様はベッド脇に移動してきて、話し始めた。

「スティーブンが目を覚ましたの」

スティーブン様、そうだった。
私は監視役で、仮眠するつもりなんてなかったのに、うとうとしてしまって・・・。

「ベッドに取り付けていた魔道具は、あの男が目覚めたと同時に破壊してしまったみたい。
だから、音も鳴らなかった。
あなたの仮面が壊れた状態で、少し離れた場所に落ちてたの。

スティーブンに、顔を見られた?」

スティーブン様ーー
海のような深いブルーの瞳を、思い出した。

「一瞬目が合った記憶があるような」

「そう」

少し考え込んだ後、アンジー様は「面倒なことになったかも」聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声で呟いた。

でも、私は全然気になんかしていなかった。
魅了なんてものは別世界の話で、あんな目を一瞬見たか見ないかでどうにかなるんだろうか。
部屋だって薄暗かったから顔だって見えてないはず。

気になったのは、むしろ10倍のお給金。
もらえる・・・よね。
正直、不安がよぎった。

だけど、考えれば私は違反はおかしていない。
アンジー様が話してた。
ベッドの魔道具は、スティーブン様が壊して、私の仮面を取ったのもスティーブン様だ。
そして、私は決まりに従って魔術師団長であるアンジー様を呼ぶボタンを押した。
多少遅くなったのは、あくまで公爵家当主の転倒による頭の強打を心配したから。
使用人として、当たり前のことだ。

よし。
もしマーサさんにお給金を渋られたら、反論しよう。

その後、アンジー様は私に眼鏡を手渡してくれた。
『この眼鏡、なくても素敵よ』
美しく微笑んで、去って行った。


どうしようか。
まだ疲れてるし眠いけど、ここに居座るのもなぁ。
考えながら、フカフカのベッドから出られない、出たくない自分がいた。

窓からは朝日が入っている。
もう少しだけ、少しだけ横になろう。
弟達、ちょっとだけだから。
私は、ゆっくりと目を閉じた。



バタン!

う~ん・・・ 

「スティーブン様!勝手に入らないで下さい!」

「おやめください!」 

騒がしいなぁ。

掛け布団を引き寄せてすっぽりと顔までかぶると、ガバッと布団を剥がれた。

寒い。

そう思った瞬間、ものすごい力で抱きしめられた。

「ぎゃぁぁぁぁぁ」

「スティーブン様!駄目ですって!」

「しょうがない。
スティーブン様を捕獲しろ!」

くる・・・苦しい・・・。
何が起こって・・・。
潰されてしまう・・・。

圧迫感に気を失うのではないかと、どこかでぼんやり考えていると、ドタドタと数人の足音が聞こえ、体が楽になった。


ああ、苦しかった。
ゼェゼェしていた呼吸がやっと戻り、騒めく辺りを見渡した。

ええ!

そこには、護衛騎士3人に体をがっちり押さられるスティーブン様に、青白い顔の執事ヘンリーさんと、侍従のジェレミーさんが居た。

「ジョイ、逢いたかった」

そう言ったスティーブン様は、蕩けそうな笑顔だった。














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