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20話 ウィリアム

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魔法省のルル先輩の机の上には、手紙が10通近く乗っていた。

「何?その手紙の量?」

1通手に取り差出人を確認した。

「何何?ハリー・ロックウェル?あぁ、ロックウェル侯爵家の次男か」
 
一応は第二王子。この国の貴族のことは頭に入っている。
確か彼は、第一騎士団に入団したはず。
ん?この手紙、全部同じ差出人・・・
ふ~ん、ルル先輩とロックウェル侯爵令息がねぇ~
2ヶ月も戻らないから、心配したと見える。

ルル先輩に手紙の返事を出す事を勧め、令息が第一騎士団に入団した事、訓練を一般公開していることを教えてあげた。

僕も王宮に帰らないと。
2ヶ月も空けていたとなると、流石にやるべき事が溜まりに溜まっているだろう。



翌日、王宮で王妃である母上、王太子である兄上と、その婚約者である同盟国の第二王女とお茶会の最中だった。

胸元が,熱い。何だ?
ピンバッジが、ルル先輩の魔力の異常を知らせていた。

何かあった?

すぐに転移したかったが、第二王女の前では無理があり、非礼を詫びて席を立った。
庭園でのお茶会のため、目立たない場所まで移動しルル先輩の元へ転移した。

着いた先は、騎士団の公開訓練場だった。
僕の登場にざわめき立ったが、無視して
見学者の人混みからルル先輩を探す。
見当たらないし、魔力も感じない。
行き違い?他の場所に転移した?

ルル先輩の居場所へ新たに転移すると、そこは草原が広がる丘だった。

1人草原に佇むルル先輩が居た。
茶色にブロンドが混じった長い髪が、風で靡いている。

魔力はかなり落ち着いたようだが、不安定なブレを感じる。


第一騎士団の訓練場で何があった・・・



僕が昨日、余計な話をしなければ・・・



しばらくすると、ルル先輩は草むらの上に横になった。

それ以上の魔力のブレは感じられないので、僕は魔法伯爵の所へ転移した。



魔法伯爵、ステファンは既に事の次第がわかっているようだった。
エヴァンもステファンも、僕と同じピンバッジを持っている。
仕事の早いこの男のことだ。
当然と言えば当然か。

「ルルが戻ったら、辺境の話をしてみますよ」

この男にしては珍しく、少し疲労の色が窺えた。  
ここはステファンに任せて、王宮へ戻った。


翌日、エヴァンからルル先輩が辺境行きを断ったと聞いて驚いた。
短期間でも、行くと思っていたから。
いや、行って欲しかったから。

正確には、断ったというより、「まだ力不足だから」と言う理由らしい。
あれだけの魔力と魔法のセンスを持っていて力不足とは。
まぁ、ルル先輩らしいか。

エヴァンの話では、ロックウェル侯爵令息とは昨夜仲直りしたらしい。
ステファンにしてもエヴァンにしても、ルル先輩の恋愛に関しては静観する構えだろう。

でも、僕は少し違った。
もちろん介入するつもりは無いが、ただ確認したかった。
ロックウェル侯爵令息は貴族で、時に思うようにいかない場合もあるだろう。
ルル先輩を不安にさせていないか。
それを知りたかった。


けれど、次にルル先輩に会えたのは数ヶ月後だった。
デルの森以外でも魔獣の大量出現が起こり、その対応や結界の張り直しに忙殺されていたから。

ルル先輩は、あれ以降魔力も安定していて顔色も良かった。
学園も卒業し、正式な魔法省勤務になり僕同様に忙しくしているらしい。

問題無いとは思うけど、少しふざけた感じでルル先輩に確認する。

「そーいえば、聞きましたよ。
ロックウェル侯爵令息がどこぞの令嬢をぶら下げてて、ルル先輩が凄い幻影魔法を見せて消えたって。
聞いた話では、花びらが舞って香りが一面に広がったらしいけど、
見たかったな~」

!!!

「ソレは、一応解決したんだ。
でね」

大丈夫。魔力のブレも一切ない。
良かった。

その後ルル先輩から、貴族男性への誕生日プレゼントは何が良いか聞かれた。
貴族男性って、間違いくロックウェル侯爵令息だろう。
上手くいってるみたいでなによりだ。

プレゼントには、侯爵家の家紋の刺繍のはいった剣帯を勧めた。

僕がルル先輩の刺繍の腕を心配すると、素晴らしい刺繍のハンカチを見せてくれた。
その中に、興味深い物を見つけた。
その黄ばんだハンカチに入った家紋は、辺境伯のものだった。






安心していた。
長い間ピンバッジへの反応が無いから。
でも、それは突然不安定な魔力のブレを知らせ、それ以降も頻繁に起こるようになった。

何かを訴えているかの様な魔力のブレだった。

僕はエヴァンからある物を受け取り、仕事から戻って来るルル先輩を魔法省の部屋で待った。

帰って来たルル先輩は、見ていられないようなひどい顔色だった。

「ルル先輩、随分やつれてますよー」

1年程前に魔道具はピンバッジから、ロックウェル侯爵令息に貰ったペンダントに付け替えていた。
ペンダントならいつも身につけているから。

優しく回復魔法を掛けながら、新しい魔道具を魔法でペンダントに取り付ける。

ペンダントを見ていて、怒りが湧いてくる。

お前が原因だろ!
お前が!

「ありがとう。ウィル」

ハッと我に返る。

「じゃ、僕、忙しいんで行きますね~
あと、困った時は相談に乗りますよ。
貸しが増えますけどね~」


人の問題に介入するべきではない。
そんなこと分かっている。
でも、あの魔力の流れは、ブレは、ルル先輩の心の訴えを無視出来ない。

だから、新しい魔道具を取り付けた。
魔力の異常を予測して作動する。
誰が、何を、言ったか。
どんな風に傷つけたか。
言葉も、映像も。
ルル先輩を害する者が、僕に伝わる。

きっとルル先輩は、誰のことも頼らないだろう。
自分で解決したいはず。

だけど、もしルル先輩の、魔力が暴走したら・・・






















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