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第2章 ランベルトスの陰謀
最終話 いざ、新たなる冒険の旅へ!
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アルティリア北方の高山地帯。
勇者ロイマンの一行は、雪に覆われた山道を進んでいた。
その時、太陽が瞬くような光を放ち、上空に幼い少女の映像が浮かび上がる。
「オッ? なんだ?」
ゲルセイルは手で庇を作りながら、青い空を見上げる。
太陽までの距離が近いせいか、より映像は鮮明だ。
「ミルセリア大神殿からの宣託です」
銀髪の少女が語った内容は、ランベルトスのギルド制度が全世界へ適用されるというものだった。少なくとも、今の彼らには価値の無い情報だ。
「フン。ペテン師め」
「うふふっ……」
ロイマンは一笑に付し、構わず雪山を進む。
ハツネは物憂げな目で空を見上げたあと、ロイマンの背中に続く。
「チェ。ランベルトスか。嫌な名前を聞いチマッタゼ」
「いいなー、あたしも銀髪にしたかったかも! あっ、待ってよゲルっちー!」
ロイマンらの後をゆくゲルセイルを、アイエルが慌てて追いかける。
そんな彼らの最後尾で、ラァテルだけが静かに空を見つめていた。
「銀髪か……」
ひとり呟いたラァテルの脳裏に、一人の男の姿が浮かぶ。
「エルス――。貴様の〝烙印〟は、俺が貰う」
紅い瞳に殺意と決意の炎を宿し、ラァテルは静かに歩を進めた。
*
「ふぅむ。どうやらザグドは失敗したようですね。――まあいいでしょう。どのみちあれの〝弟〟は、とうに逃げ出していましたからね」
「研究所の転送装置も壊れちゃったみたいねん。むしろ好都合かしらん?」
「ええ。もうランベルトスは用済みです。支援者は他にもいますからね」
ボルモンク三世は神経質そうに廊下を歩きながら、さきほどの研究所での成果を、せっせと手帳に書き込んでいる。彼らの右手側には円形の大きな窓が並び、そこから太陽の光と共に、少女の幻影が覗き見える。
「銀髪……。そう、あの時もそうだった……」
ゼニファーは足を止め、窓の外を見遣る。かつて自身が魔法学校の学生だった頃、空に浮かんでいる人物が〝勇者ロイマン〟の誕生を告げたことを思い出していた。
「じゃあ、やっぱりエルスって――」
「何をしているのです? ゼニファー。急ぎなさい!」
「ごめんなさい、博士。すぐに行くわん」
主からの叱咤を受け、ゼニファーは小走りで彼の元へと向かう。
「これは……。まだ黙っておいたほうがイイかもねん……」
はるか前方を往く穢れた白衣を追いながら、ゼニファーは小さく呟いた。
*
魔法王国リーゼルタに在る〝王立魔法学校〟にて。
校舎の窓から外を眺め、ジニアが溜息をついていた。
「銀髪かぁ。誰かさんを思い出すわね……」
太陽を背にするように、青空に浮かぶ少女の映像。
あの彼女はさきほどから、なにやら小難しい話をし続けている。
「ランベルトスかぁ。エルスたちが行ってるんだっけ。元気かなぁ、ニセルさん」
どうにか理解できる単語を拾い上げ、ジニアが再び大きな息を吐く。
「ジッニアー! お昼だよー! 一緒に買出しに行こーぜー!」
「うふふふ。ジーちゃん、いそご? ほら、いそいで? ね?」
「ちょっ!? 二人とも、いつからいたの!?」
頭の中で甘美な妄想が広がりかけた矢先――。
不幸にもジニアは学友たちによって、現実へと引き戻されてしまったのだ。
「って言うか! ジーちゃんは止めなさいよねっ!」
「ええー? かわいいのに。ねぇ? ほら、かわいい。うふふふふ……」
「なんで壁に話してんのよっ……! わかったから! はやく行くわよっ!」
ジニアはズレた眼鏡を正し、二人の少女を引き連れて購買部へと向かう。よほど〝宣託〟が珍しいのか、屋外の浮遊岩の上では、多くの生徒が弁当を広げていた。
*
世界中に〝宣託放送〟が行き届き、太陽も月へと変化した頃。エルスはアリサ、ニセル、ミーファと共に、勝利の宴を開いていた。
「よーッし! みんなお疲れさんッ! さぁ、乾杯だッ!」
仲間たちと宴席を囲みながら、エルスが右手でカップを掲げる。ニセルのグラスを除き、それらには新鮮なランベルベリージュースが、なみなみと注がれている。
「あーッ! 美味ェ! 依頼を終えたあとの一杯は最高だぜッ!」
「ふっ、これが冒険者の醍醐味ってやつさ。良いもんだろう?」
「うんっ。それにしても、すごい金貨の山だねぇ」
テーブルの中央には今回の報酬として受け取った〝金貨〟が堆く積まれ、それを囲うかのように、多くの御馳走が並べられていた。
「ふっふー! 黄金の力は聖なる力! つまり、正義の証なのだー!」
ミーファは皿に盛られたカラアゲにフォークを突き刺し、次々と口へ運ぶ。エルスも負けじと手を伸ばし、それを一口かじった。
「おッ? これって、ツリアンで食ったヤツじゃねェか?」
「ほう……。気づいたかい? やるもんだ……」
厨房から現れた店主が、新たな料理をテーブルの隙間に置く。これはツリアン名物の一つである、〝卵ソースのサラダ〟のようだ。
「じつは今ぁ……。ツリアンから来たシェフに、料理を教わっていてな……」
「こんばんは! 皆さん!」
店主に続いて姿を見せた女性が、丁寧な御辞儀をする。なんと彼女は、ツリアンの宿で出会った〝ロマニー〟だった。
「あッ、あン時の姉さん! ッていうか、その服ってミーファの……」
「おー! まさに正義のメイド服なのだー!」
「そうです! あまりにも可愛らしくて、私も頑張って作ってみました!」
メイド服を着たロマニーが嬉しげに、その場でくるりと回ってみせる。
「すごいなぁ。みんな器用だねぇ」
「ああ。よく似合っている」
「皆さんのおかげですっ! ありがとうございました!」
アリサとニセルに応えるように、可愛らしくポーズを決めた後、再びロマニーは厨房へと戻っていった。いつもは閑散としている店内も、心なしか賑やかだ。
「ウチの妻さんも、あの服が欲しいとよ……。なんでも、街道沿いの林が綺麗になぎ倒されてぇ、ここへの近道が出来たんだと……」
店主は溜息をつくと同時に〝お手上げ〟のジェスチャをしてみせる。妻を深く愛している夫としては、思うところがあるのだろう。
「街道沿いのッて……。まさか……」
「あっ……。あの時の、正義の道」
「ふふー! ミーたちの正義は、見事に継承されたのだー!」
ツリアンを出たエルスたちが林を抜け、ランベルトスへと向かう際。魔物と共に多くの木々を粉砕していた。結果的に、それが新たな〝通行路〟となったようだ。
「アンタらの仕業かい? 俺からも礼を言うぜ……。おかげさんで、ウチにも美味いメニューが増えたしな……。客足も上々だ」
店主はニヤリと口元を上げて一礼し、カウンターの裏へと戻っていった。
*
「そっか。ツリアンにも人が増えるといいなぁ」
「とりあえずは戦争の心配も無さそうだしなッ!」
「ご主人様、つまるところ〝商人ギルドの陰謀〟とは何だったのだー?」
ミーファが疑問を口にするも、彼女の料理を掴む手は止まらない。
「あー、それな……。念のために訊いたんだけどよ……」
なぜか声を潜めながら、うんざりとしたような様子でエルスが頭を抱える。
「あの悪趣味な人形を大量に作って、世界中に売りさばくことだってさ……」
エルスが大盟主・シュセンドの口から聞かされた、陰謀の真相とは――。
まずは、より精巧で美しい少女の人形を造り、世界各地の富豪や要人らへと売りさばく。その後、人形の魅力によって骨抜きにされた彼らから〝機密情報〟を聞き出し、ランベルトスが介入することによって、内側から支配するというものだった。
「なるほどな。下手に兵力を持つよりも、恐ろしいかもしれんな」
「そうなのか……? 馬鹿らしくて、上手くいくとは思えねェけど……」
「ふっ……。まぁな」
ニセルは含みを持たせるように言い、静かにグラスを揺らす。すでに彼の左腕は元通りに修復されているものの、いわく「まだ中身は空っぽ」とのことだ。
*
「そういえば、次の目的地は決まったかい?」
「ああ、それなんだけどさ――」
エルスは食事を中断して食器を置き、仲間たちの顔を見回す。
「こっから東にあるっていう〝ガルマニア〟に行ってみてェなッて」
「おー! ミーは賛成なのだ! あの地からは強烈な悪の気配を感じるのだー!」
「あの〝魔王に滅ぼされた〟っていう国?」
アリサは二セルの顔を見遣る。
彼女からの視線を受け、ニセルが静かに頷く。
「そうだ。今は近隣のトロントリアに、帝国の残党騎士たちが集まっている」
「じゃあ、魔王を?」
今度は一同の視線が、エルスへと集中する。
そんな仲間たちの顔を見回したあと、エルスが満面の笑みで握り拳を作る。
「ああッ! 倒しにいくぜッ!」
「そうか。それが、お前さんの目的だったな」
ニセルは「ふっ」と息を吐き、改めてエルスに向き直る。
「だが、ガルマニアは謎が多い。魔王が生み出した壁と結界によって、近づくことも出来んそうだ。下手をすれば、残党騎士団と戦闘になる可能性もあるぞ」
「上手く説明できねェけど、まだ俺の魔王――」
エルスは言いかけた言葉を慌てて修正する。
「じゃなくッて。……まだ俺が狙う魔王は倒せるとは思えねェ。だからさ、魔王の〝手がかり〟だけでも見つけたいなッて」
数十年前、魔王によって滅ぼされ、今なお〝闇〟の中に封印されているとされるガルマニア帝国。エルスは彼の地に〝魔王〟の痕跡を求めるべく、謎に包まれた帝国を目指す決意を仲間たちに熱く語る。
「わかった。――かなり危険な旅になるな。充分な準備をしておこう」
「そうだね。わたしも次の冒険の前に〝準備したいもの〟があるし」
「ふふー! あの忌まわしき地に、我らの正義を刻むのだー!」
エルスの熱意が通じ、仲間たちからの同意を得ることもできた。
そこで彼は立ち上がり、気合いを入れるべく拳を高々と突き上げる。
「ありがとな、みんなッ! よしッ、次の冒険はガルマニアに決定だ――ッ!」
新たなる目的地を定め、エルスたちの冒険は続く。
彼らの物語は、まだ始まったばかりなのだ――!
ミストリアンクエスト:第2章/ランベルトスの陰謀 【終わり】
勇者ロイマンの一行は、雪に覆われた山道を進んでいた。
その時、太陽が瞬くような光を放ち、上空に幼い少女の映像が浮かび上がる。
「オッ? なんだ?」
ゲルセイルは手で庇を作りながら、青い空を見上げる。
太陽までの距離が近いせいか、より映像は鮮明だ。
「ミルセリア大神殿からの宣託です」
銀髪の少女が語った内容は、ランベルトスのギルド制度が全世界へ適用されるというものだった。少なくとも、今の彼らには価値の無い情報だ。
「フン。ペテン師め」
「うふふっ……」
ロイマンは一笑に付し、構わず雪山を進む。
ハツネは物憂げな目で空を見上げたあと、ロイマンの背中に続く。
「チェ。ランベルトスか。嫌な名前を聞いチマッタゼ」
「いいなー、あたしも銀髪にしたかったかも! あっ、待ってよゲルっちー!」
ロイマンらの後をゆくゲルセイルを、アイエルが慌てて追いかける。
そんな彼らの最後尾で、ラァテルだけが静かに空を見つめていた。
「銀髪か……」
ひとり呟いたラァテルの脳裏に、一人の男の姿が浮かぶ。
「エルス――。貴様の〝烙印〟は、俺が貰う」
紅い瞳に殺意と決意の炎を宿し、ラァテルは静かに歩を進めた。
*
「ふぅむ。どうやらザグドは失敗したようですね。――まあいいでしょう。どのみちあれの〝弟〟は、とうに逃げ出していましたからね」
「研究所の転送装置も壊れちゃったみたいねん。むしろ好都合かしらん?」
「ええ。もうランベルトスは用済みです。支援者は他にもいますからね」
ボルモンク三世は神経質そうに廊下を歩きながら、さきほどの研究所での成果を、せっせと手帳に書き込んでいる。彼らの右手側には円形の大きな窓が並び、そこから太陽の光と共に、少女の幻影が覗き見える。
「銀髪……。そう、あの時もそうだった……」
ゼニファーは足を止め、窓の外を見遣る。かつて自身が魔法学校の学生だった頃、空に浮かんでいる人物が〝勇者ロイマン〟の誕生を告げたことを思い出していた。
「じゃあ、やっぱりエルスって――」
「何をしているのです? ゼニファー。急ぎなさい!」
「ごめんなさい、博士。すぐに行くわん」
主からの叱咤を受け、ゼニファーは小走りで彼の元へと向かう。
「これは……。まだ黙っておいたほうがイイかもねん……」
はるか前方を往く穢れた白衣を追いながら、ゼニファーは小さく呟いた。
*
魔法王国リーゼルタに在る〝王立魔法学校〟にて。
校舎の窓から外を眺め、ジニアが溜息をついていた。
「銀髪かぁ。誰かさんを思い出すわね……」
太陽を背にするように、青空に浮かぶ少女の映像。
あの彼女はさきほどから、なにやら小難しい話をし続けている。
「ランベルトスかぁ。エルスたちが行ってるんだっけ。元気かなぁ、ニセルさん」
どうにか理解できる単語を拾い上げ、ジニアが再び大きな息を吐く。
「ジッニアー! お昼だよー! 一緒に買出しに行こーぜー!」
「うふふふ。ジーちゃん、いそご? ほら、いそいで? ね?」
「ちょっ!? 二人とも、いつからいたの!?」
頭の中で甘美な妄想が広がりかけた矢先――。
不幸にもジニアは学友たちによって、現実へと引き戻されてしまったのだ。
「って言うか! ジーちゃんは止めなさいよねっ!」
「ええー? かわいいのに。ねぇ? ほら、かわいい。うふふふふ……」
「なんで壁に話してんのよっ……! わかったから! はやく行くわよっ!」
ジニアはズレた眼鏡を正し、二人の少女を引き連れて購買部へと向かう。よほど〝宣託〟が珍しいのか、屋外の浮遊岩の上では、多くの生徒が弁当を広げていた。
*
世界中に〝宣託放送〟が行き届き、太陽も月へと変化した頃。エルスはアリサ、ニセル、ミーファと共に、勝利の宴を開いていた。
「よーッし! みんなお疲れさんッ! さぁ、乾杯だッ!」
仲間たちと宴席を囲みながら、エルスが右手でカップを掲げる。ニセルのグラスを除き、それらには新鮮なランベルベリージュースが、なみなみと注がれている。
「あーッ! 美味ェ! 依頼を終えたあとの一杯は最高だぜッ!」
「ふっ、これが冒険者の醍醐味ってやつさ。良いもんだろう?」
「うんっ。それにしても、すごい金貨の山だねぇ」
テーブルの中央には今回の報酬として受け取った〝金貨〟が堆く積まれ、それを囲うかのように、多くの御馳走が並べられていた。
「ふっふー! 黄金の力は聖なる力! つまり、正義の証なのだー!」
ミーファは皿に盛られたカラアゲにフォークを突き刺し、次々と口へ運ぶ。エルスも負けじと手を伸ばし、それを一口かじった。
「おッ? これって、ツリアンで食ったヤツじゃねェか?」
「ほう……。気づいたかい? やるもんだ……」
厨房から現れた店主が、新たな料理をテーブルの隙間に置く。これはツリアン名物の一つである、〝卵ソースのサラダ〟のようだ。
「じつは今ぁ……。ツリアンから来たシェフに、料理を教わっていてな……」
「こんばんは! 皆さん!」
店主に続いて姿を見せた女性が、丁寧な御辞儀をする。なんと彼女は、ツリアンの宿で出会った〝ロマニー〟だった。
「あッ、あン時の姉さん! ッていうか、その服ってミーファの……」
「おー! まさに正義のメイド服なのだー!」
「そうです! あまりにも可愛らしくて、私も頑張って作ってみました!」
メイド服を着たロマニーが嬉しげに、その場でくるりと回ってみせる。
「すごいなぁ。みんな器用だねぇ」
「ああ。よく似合っている」
「皆さんのおかげですっ! ありがとうございました!」
アリサとニセルに応えるように、可愛らしくポーズを決めた後、再びロマニーは厨房へと戻っていった。いつもは閑散としている店内も、心なしか賑やかだ。
「ウチの妻さんも、あの服が欲しいとよ……。なんでも、街道沿いの林が綺麗になぎ倒されてぇ、ここへの近道が出来たんだと……」
店主は溜息をつくと同時に〝お手上げ〟のジェスチャをしてみせる。妻を深く愛している夫としては、思うところがあるのだろう。
「街道沿いのッて……。まさか……」
「あっ……。あの時の、正義の道」
「ふふー! ミーたちの正義は、見事に継承されたのだー!」
ツリアンを出たエルスたちが林を抜け、ランベルトスへと向かう際。魔物と共に多くの木々を粉砕していた。結果的に、それが新たな〝通行路〟となったようだ。
「アンタらの仕業かい? 俺からも礼を言うぜ……。おかげさんで、ウチにも美味いメニューが増えたしな……。客足も上々だ」
店主はニヤリと口元を上げて一礼し、カウンターの裏へと戻っていった。
*
「そっか。ツリアンにも人が増えるといいなぁ」
「とりあえずは戦争の心配も無さそうだしなッ!」
「ご主人様、つまるところ〝商人ギルドの陰謀〟とは何だったのだー?」
ミーファが疑問を口にするも、彼女の料理を掴む手は止まらない。
「あー、それな……。念のために訊いたんだけどよ……」
なぜか声を潜めながら、うんざりとしたような様子でエルスが頭を抱える。
「あの悪趣味な人形を大量に作って、世界中に売りさばくことだってさ……」
エルスが大盟主・シュセンドの口から聞かされた、陰謀の真相とは――。
まずは、より精巧で美しい少女の人形を造り、世界各地の富豪や要人らへと売りさばく。その後、人形の魅力によって骨抜きにされた彼らから〝機密情報〟を聞き出し、ランベルトスが介入することによって、内側から支配するというものだった。
「なるほどな。下手に兵力を持つよりも、恐ろしいかもしれんな」
「そうなのか……? 馬鹿らしくて、上手くいくとは思えねェけど……」
「ふっ……。まぁな」
ニセルは含みを持たせるように言い、静かにグラスを揺らす。すでに彼の左腕は元通りに修復されているものの、いわく「まだ中身は空っぽ」とのことだ。
*
「そういえば、次の目的地は決まったかい?」
「ああ、それなんだけどさ――」
エルスは食事を中断して食器を置き、仲間たちの顔を見回す。
「こっから東にあるっていう〝ガルマニア〟に行ってみてェなッて」
「おー! ミーは賛成なのだ! あの地からは強烈な悪の気配を感じるのだー!」
「あの〝魔王に滅ぼされた〟っていう国?」
アリサは二セルの顔を見遣る。
彼女からの視線を受け、ニセルが静かに頷く。
「そうだ。今は近隣のトロントリアに、帝国の残党騎士たちが集まっている」
「じゃあ、魔王を?」
今度は一同の視線が、エルスへと集中する。
そんな仲間たちの顔を見回したあと、エルスが満面の笑みで握り拳を作る。
「ああッ! 倒しにいくぜッ!」
「そうか。それが、お前さんの目的だったな」
ニセルは「ふっ」と息を吐き、改めてエルスに向き直る。
「だが、ガルマニアは謎が多い。魔王が生み出した壁と結界によって、近づくことも出来んそうだ。下手をすれば、残党騎士団と戦闘になる可能性もあるぞ」
「上手く説明できねェけど、まだ俺の魔王――」
エルスは言いかけた言葉を慌てて修正する。
「じゃなくッて。……まだ俺が狙う魔王は倒せるとは思えねェ。だからさ、魔王の〝手がかり〟だけでも見つけたいなッて」
数十年前、魔王によって滅ぼされ、今なお〝闇〟の中に封印されているとされるガルマニア帝国。エルスは彼の地に〝魔王〟の痕跡を求めるべく、謎に包まれた帝国を目指す決意を仲間たちに熱く語る。
「わかった。――かなり危険な旅になるな。充分な準備をしておこう」
「そうだね。わたしも次の冒険の前に〝準備したいもの〟があるし」
「ふふー! あの忌まわしき地に、我らの正義を刻むのだー!」
エルスの熱意が通じ、仲間たちからの同意を得ることもできた。
そこで彼は立ち上がり、気合いを入れるべく拳を高々と突き上げる。
「ありがとな、みんなッ! よしッ、次の冒険はガルマニアに決定だ――ッ!」
新たなる目的地を定め、エルスたちの冒険は続く。
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