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第2章 ランベルトスの陰謀
第12話 陰謀の手がかりを求めて
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商人ギルドの陰謀を阻止すべく、依頼を請け負ったエルスたち。
酒場の店主から依頼内容の大まかな説明を受け、まず一行は街で情報を集めることに。詳しい事情を知る依頼人・クレオールとは「明日になるまで会うのは難しい」そうだ。
「最初に来た時より慣れたとはいえ、やっぱ気になるよな……」
「うーん。だからって見てる人に訊いても、答えてくれないもんね」
大通りへ出るなり、周囲からは値踏みするような視線が向けられる。アリサの言う通り、こちらから彼らへ話しかけても嫌な含み笑いを返されるだけだった。
「ふふー! こうなったら大声で『悪の商人ギルドよ! 出てこい!』って叫ん――むぐぐぅ!?」
「しッ……! やめとけッて!――駄目だな、ここに居ても収穫は無さげだし、ニセルの言う〝アテ〟の方に行ってみッか」
「そうだね。でもニセルさん、案内してくれればよかったのに。わたしたちだけで大丈夫かなぁ?」
「問題ないのだ! 悪の巣窟でも屈しない! これも正義の試練なのだー!」
「ミーファ、あンまり外で〝悪〟とか言うのは止そうぜ……? ほら、一応この街の、王様みたいなモンなんだしさ!」
「うー。仕方ないのだ。ご主人様には絶対服従するのが、奴隷としての正義なのだ!」
ミーファの大声に、好奇の視線が一層こちらへ向けられる。
最早これ以上、この場に留まるのは得策ではないだろう。エルスは彼女を抱きかかえ、足早に目的地へと走り去った――。
「よう。そこのキツいのを貰えるかい?」
怪しげな匂いの漂う露店で、ニセルは銀貨を見せながら言う。声に反応し、カウンターの下で目を伏せていた老婆が顔を上げ、醜悪な笑みを浮かべてみせた。
「……ぁあ? ニイさん。わかってるじゃないかい。フェッフェッ……、早死にするよ?」
「ふっ。これくらいじゃないと、躰を維持できなくてね」
差し出された木箱には――邪悪な顔で煙を吐く、茄子のようなキャラクターが描かれている。商品を受け取ったニセルの左手を見て、老婆は饒舌に続けた。
「おや、魔導義体かね? ニイさんも先生に世話になってんのかい? でもさ――」
老婆は声をひそめ、小さく手招きをする。
彼女の右手は、金属で造られた三本の爪に挿げ替わっていた。
「……あそこは近頃、特に〝元締〟から目をつけられてるからねぇ? フェッフェッ……。いつ〝人形屋〟に変わっちまうやら、ヒヤヒヤもんだよ」
「ほう、なるほどな。さすがに全身を義体にされるのは遠慮したいものだ」
「ヒャッヒャッ! まぁそういうこった!……ニイさんも気をつけな」
老婆に礼を言い、ニセルは再び雑踏へ混じる。
周辺の者たちも、彼にはあまり視線を向けていないようだ。
「まっ、半分までなら悪くはないがな――。さて、エルスたちは無事に着いたか?」
ニセルは呟き、左耳に意識を集中させる。
おびただしい雑音の中から目的の音を探り当てると、彼の左眼が淡く光を放った。
「問題ないようだな。ふっ、オレも向かうとしよう――」
エルスたち三人は大通りから細い路地へ入り、ニセルから教わった建物に辿り着いていた。どうやらこの街は枝分かれした三本の大通りと、そこから無数に延びる路地によって構成されているらしい。
「ここが、錬金術工房……なんだよな?」
「おー! オンボロなのだー!」
目の前に現れた建物は古びた木造で、所々が銅のような金属で補修されている。
この建物を示す目印といえば、ハンマーと小手が交差した看板くらいだ。
「誰も住んでないのかなぁ? 壊れたところ、直ってないし」
「でも、こうやって人の手で直してるっぽいしさ。とりあえず入ってみようぜ?」
エルスはドアノブに手を掛け、戸を開く――。
ツリアンの廃屋と違い、それは軋むこともなく軽やかに開いた。室内は見かけ通りに古びており、粗末な棚には見慣れた日用品や魔道具の類がポツポツと並んでいる。
「店か? でも誰も居ねェな。奥のドアの先か?」
「危ない街なのに。不用心だねぇ」
「イシシシッ……! いらっしゃいませ。何をご所望で?」
不意に足元から聞こえた声に視線を下ろすと――腰下くらいの背丈をした人型生物が、大きな目玉でエルスを見上げていた。肌は緑色で、頭には小さな角が生えている。
「うわッ! まッ、魔物かッ!?」
「これはこれは、お客様。ゴブリン族は初めてで? こんな姿ですが、立派な人類なのですぜ」
ドワーフ族と魔族の間に生まれた者はゴブリン族となり、魔物のような外見と引き換えに、強い生命力と高い技能力を持つ。
「ゴブリンたちは、ミーの同胞なのだ! ご主人様、安心するのだー!」
「あッ?――ああ、悪ィ! 知らなくてさ。失礼なコト言っちまったな……」
「いえいえ。初めての方はそういうものですぜ。イシシシッ!」
「ねぇ、ゴブリンさん。わたしたち、ここの錬金術士さんに会いに来たんですけど――お会いできますか?」
「おや、マスターに? 見た所、どなたも五体満足のようですが。まぁ宜しいでしょう。ミーファ様とご一緒ですし、悪い方ではなさそうだ」
「ん? ミーファと知り合いだったのか?」
「シシシッ! 我らもドワーフの端くれ。姫様のことは存じておりますぜ。お伺いをたてて参りますので、しばしお時間を……」
紳士のように一礼をし、彼は奥の扉の中へと入っていった。
すると今度は入口が開き、ニセルが店へと入って来た。
「よう。無事に来られたようだな」
「ああッ! ニセル、どこ行ってたんだ?」
「なに、ちょっと煙草を仕入れにな」
ニセルは露店で買った木箱を見せる。
それを間近で覗き込んだミーファは、思わず顔を仰反らせた。
「うえぇ……。とっても体に悪そうなのだー」
「ふっ、その通り。瘴気がたっぷり入った〝特別製〟さ」
「瘴気って、魔物から出る黒いヤツだろ? なんだッてそんなモン……」
エルスが話していると奥への扉が開き、ゴブリン族の紳士が再び現れた。
「お待たせしました――。おやおや、そちらのお知り合いでしたか」
「邪魔させてもらうぞ、ザグド。まっ、今日は別件なんだがな」
「イシシ、いずれにせよ喜ばれるでしょう。では、工房へ……」
ゴブリン族のザグドに案内され、エルスたちは工房へ入る――。
店舗部分と違い、床や壁は石材と金属によって充分な補強がされている。入口には魔法障壁が仕掛けられていたのか、立ち入った瞬間に金属を叩く音や、炉で燃え盛る炎の音などが耳へと襲いかかってきた。
すぐ左手側の突き当たりにはドアがあり、四人はそこへと通された。
この場所はどうやら、小さな作業場のようだ。
「マスター、お連れしましたぜ。お一方、増えてしまわれましたが。シシシッ!」
「あいよ、ご苦労さん――。あら? ニセル君じゃないのさ。もう壊しちまったのかい?」
机で作業をしていたドワーフ族の少女が、こちらを見るなり椅子から跳び降りる。気風のいい口調に対して、彼女の見た目通りに声色は幼い。
「よう、ドミナ――。今日は別の依頼でな。少し時間をもらえるかい?」
酒場の店主から依頼内容の大まかな説明を受け、まず一行は街で情報を集めることに。詳しい事情を知る依頼人・クレオールとは「明日になるまで会うのは難しい」そうだ。
「最初に来た時より慣れたとはいえ、やっぱ気になるよな……」
「うーん。だからって見てる人に訊いても、答えてくれないもんね」
大通りへ出るなり、周囲からは値踏みするような視線が向けられる。アリサの言う通り、こちらから彼らへ話しかけても嫌な含み笑いを返されるだけだった。
「ふふー! こうなったら大声で『悪の商人ギルドよ! 出てこい!』って叫ん――むぐぐぅ!?」
「しッ……! やめとけッて!――駄目だな、ここに居ても収穫は無さげだし、ニセルの言う〝アテ〟の方に行ってみッか」
「そうだね。でもニセルさん、案内してくれればよかったのに。わたしたちだけで大丈夫かなぁ?」
「問題ないのだ! 悪の巣窟でも屈しない! これも正義の試練なのだー!」
「ミーファ、あンまり外で〝悪〟とか言うのは止そうぜ……? ほら、一応この街の、王様みたいなモンなんだしさ!」
「うー。仕方ないのだ。ご主人様には絶対服従するのが、奴隷としての正義なのだ!」
ミーファの大声に、好奇の視線が一層こちらへ向けられる。
最早これ以上、この場に留まるのは得策ではないだろう。エルスは彼女を抱きかかえ、足早に目的地へと走り去った――。
「よう。そこのキツいのを貰えるかい?」
怪しげな匂いの漂う露店で、ニセルは銀貨を見せながら言う。声に反応し、カウンターの下で目を伏せていた老婆が顔を上げ、醜悪な笑みを浮かべてみせた。
「……ぁあ? ニイさん。わかってるじゃないかい。フェッフェッ……、早死にするよ?」
「ふっ。これくらいじゃないと、躰を維持できなくてね」
差し出された木箱には――邪悪な顔で煙を吐く、茄子のようなキャラクターが描かれている。商品を受け取ったニセルの左手を見て、老婆は饒舌に続けた。
「おや、魔導義体かね? ニイさんも先生に世話になってんのかい? でもさ――」
老婆は声をひそめ、小さく手招きをする。
彼女の右手は、金属で造られた三本の爪に挿げ替わっていた。
「……あそこは近頃、特に〝元締〟から目をつけられてるからねぇ? フェッフェッ……。いつ〝人形屋〟に変わっちまうやら、ヒヤヒヤもんだよ」
「ほう、なるほどな。さすがに全身を義体にされるのは遠慮したいものだ」
「ヒャッヒャッ! まぁそういうこった!……ニイさんも気をつけな」
老婆に礼を言い、ニセルは再び雑踏へ混じる。
周辺の者たちも、彼にはあまり視線を向けていないようだ。
「まっ、半分までなら悪くはないがな――。さて、エルスたちは無事に着いたか?」
ニセルは呟き、左耳に意識を集中させる。
おびただしい雑音の中から目的の音を探り当てると、彼の左眼が淡く光を放った。
「問題ないようだな。ふっ、オレも向かうとしよう――」
エルスたち三人は大通りから細い路地へ入り、ニセルから教わった建物に辿り着いていた。どうやらこの街は枝分かれした三本の大通りと、そこから無数に延びる路地によって構成されているらしい。
「ここが、錬金術工房……なんだよな?」
「おー! オンボロなのだー!」
目の前に現れた建物は古びた木造で、所々が銅のような金属で補修されている。
この建物を示す目印といえば、ハンマーと小手が交差した看板くらいだ。
「誰も住んでないのかなぁ? 壊れたところ、直ってないし」
「でも、こうやって人の手で直してるっぽいしさ。とりあえず入ってみようぜ?」
エルスはドアノブに手を掛け、戸を開く――。
ツリアンの廃屋と違い、それは軋むこともなく軽やかに開いた。室内は見かけ通りに古びており、粗末な棚には見慣れた日用品や魔道具の類がポツポツと並んでいる。
「店か? でも誰も居ねェな。奥のドアの先か?」
「危ない街なのに。不用心だねぇ」
「イシシシッ……! いらっしゃいませ。何をご所望で?」
不意に足元から聞こえた声に視線を下ろすと――腰下くらいの背丈をした人型生物が、大きな目玉でエルスを見上げていた。肌は緑色で、頭には小さな角が生えている。
「うわッ! まッ、魔物かッ!?」
「これはこれは、お客様。ゴブリン族は初めてで? こんな姿ですが、立派な人類なのですぜ」
ドワーフ族と魔族の間に生まれた者はゴブリン族となり、魔物のような外見と引き換えに、強い生命力と高い技能力を持つ。
「ゴブリンたちは、ミーの同胞なのだ! ご主人様、安心するのだー!」
「あッ?――ああ、悪ィ! 知らなくてさ。失礼なコト言っちまったな……」
「いえいえ。初めての方はそういうものですぜ。イシシシッ!」
「ねぇ、ゴブリンさん。わたしたち、ここの錬金術士さんに会いに来たんですけど――お会いできますか?」
「おや、マスターに? 見た所、どなたも五体満足のようですが。まぁ宜しいでしょう。ミーファ様とご一緒ですし、悪い方ではなさそうだ」
「ん? ミーファと知り合いだったのか?」
「シシシッ! 我らもドワーフの端くれ。姫様のことは存じておりますぜ。お伺いをたてて参りますので、しばしお時間を……」
紳士のように一礼をし、彼は奥の扉の中へと入っていった。
すると今度は入口が開き、ニセルが店へと入って来た。
「よう。無事に来られたようだな」
「ああッ! ニセル、どこ行ってたんだ?」
「なに、ちょっと煙草を仕入れにな」
ニセルは露店で買った木箱を見せる。
それを間近で覗き込んだミーファは、思わず顔を仰反らせた。
「うえぇ……。とっても体に悪そうなのだー」
「ふっ、その通り。瘴気がたっぷり入った〝特別製〟さ」
「瘴気って、魔物から出る黒いヤツだろ? なんだッてそんなモン……」
エルスが話していると奥への扉が開き、ゴブリン族の紳士が再び現れた。
「お待たせしました――。おやおや、そちらのお知り合いでしたか」
「邪魔させてもらうぞ、ザグド。まっ、今日は別件なんだがな」
「イシシ、いずれにせよ喜ばれるでしょう。では、工房へ……」
ゴブリン族のザグドに案内され、エルスたちは工房へ入る――。
店舗部分と違い、床や壁は石材と金属によって充分な補強がされている。入口には魔法障壁が仕掛けられていたのか、立ち入った瞬間に金属を叩く音や、炉で燃え盛る炎の音などが耳へと襲いかかってきた。
すぐ左手側の突き当たりにはドアがあり、四人はそこへと通された。
この場所はどうやら、小さな作業場のようだ。
「マスター、お連れしましたぜ。お一方、増えてしまわれましたが。シシシッ!」
「あいよ、ご苦労さん――。あら? ニセル君じゃないのさ。もう壊しちまったのかい?」
机で作業をしていたドワーフ族の少女が、こちらを見るなり椅子から跳び降りる。気風のいい口調に対して、彼女の見た目通りに声色は幼い。
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