ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第2章 ランベルトスの陰謀

第4話 正義の賞金稼ぎ・ミーファ

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 ミーファと名乗った、メイド姿の賞金稼ぎ。
 彼女はツインテールの金髪をパサリと払い、不敵な笑みを浮かべる。

 「うーん……。やっぱ気が引けるよなぁ……」

 剣を構えながら、エルスは仲間たちへ目をる。
 すでにアリサとニセルは、ジニアをかばうように街道脇へ移動していた。
 彼らも武器を構えてはいるが、やはり攻撃するのは躊躇ためらっているようだ。

 エルスの視線に気づき、ニセルは小さく頷いてみせる。
 こっちは任せろ――と、いう意味のようだ。

 「よそ見してると危ないのだ!――それっ、どーんっ!」

 ミーファは高くちょうやくし、空中で斧を振り下ろす――!
 まだこちらとは距離があり、斧の間合いには遠すぎる。

 「エルス! けてっ!」

 アリサが叫ぶ!――と、同時に斧の先端部分が外れ、巨大な刃が飛来した!
 エルスはとっに右に飛び退き、間一髪でてっかいかわす――!

 「うおおッ!? あッ、危ねェー!」
 「ちょっと! 見た目にまどわされちゃ、真っ二つにされるわよ!」

 飛んできた斧頭部アクスヘッドからは細い鎖が伸びており――
 ミーファが柄を軽く引くと、元の形態へと戻っていった。

 さきほどの一撃で街道の敷石は無残に砕け、えぐれた地面があらわになっている。

 「ふっふっふー! 悪人にしては、いい動きなのだ!」

 「……すげェ怪力だな……ッ! アリサ以上かもしれねェぞ……」
 「もー。わたし怪力じゃないもんっ」

 冷静に突っ込むアリサだが、視線はミーファから外していない。
 彼女が得体の知れない武器を使う以上、一瞬たりとも油断もできない。


 「あんなモン、ずっと避けきれる自信はねェぞ?――ここは攻めるしかッ!」

 エルスは覚悟を決め、ミーファの元へはしる!
 まだ彼女は、斧を構えたまま微動だにしない。

 剣の間合いに入り――同時にエルスは刃を振り下ろす!
 だが、ミーファは斧をくるりと回転させただけで、難なく攻撃を受け流した!

 「ふふー! そんな弱い力、ミーには通じないのだ!」

 「へッ! それなら、これでどうだッ!」
 ――エルスは左の拳を突き上げ、唱えていた魔法を解き放つ!

 「ヴィスト――ッ!」

 風の精霊魔法・ヴィストが発動し、ミーファの足元から小型の竜巻が発生した!
 竜巻は巨大な斧ごと、ミーファのからだを空中へと吹き上げる!

 「わわっ! 急に魔法は卑怯なのだー!」
 「おまえだってヘンテコな武器使ってるし、お互い様だッ!」

 エルスは彼女の落下点に素早く移動し、迎撃の構えをとる――!

 「前に跳べ!――エルス!」
 「お?……おうッ!」

 ニセルの指示に従い、エルスは受身を取りつつ前方へ飛び込む!――直後、大きな破砕音と共に、彼のいた地点が砂煙に包まれた!

 砂煙の中からは次第に――街道に深々と突き立った斧と、柄の上で腕組みをしているミーファの姿が現れる――!

 「なんて奴だッ、あの体勢から攻撃してきやがったのかよッ……」
 「ふっふっふー! 正義の賞金稼ぎは、悪い奴なんかに負けないのだ!」

 ミーファは斧から飛び降りるとそれを引き抜き、再びエルスに向かって構えをとる!

 一対一で戦うのが彼女の流儀なのか――
 幸い、仲間たちの方へ攻撃を仕掛けるつもりは無いらしい。


 「ヘタな攻撃じゃ駄目だ……。動きを止めねェと……」
 「無駄なのだ! ミーの正義は誰にもめられないのだー!」

 「……よしッ。アレを試すかッ!」
 「もう卑怯な手は通用しないのだ! とりゃーっ!」

 ミーファは斧を水平に構え、自らの身体をグルグルと回転させはじめた!――その遠心力を利用し、エルスへ向けて高速で襲いかかる!

 「うわッと! フレイト――ッ!」

 風の精霊魔法・フレイトが発動し、エルスを風の結界が包み込む!
 ――そして結界の反動を利用し、彼は高く跳び上がった!

 「避けても無駄なのだ! まだまだ行くのだー!」

 「へッ! 追いつかれてたまるかッ!」
 ――さらなる追撃を、エルスは高速移動で難なくかわす!

 フレイトは本来、長距離を移動するための魔法だ。
 エルスは過去の経験から、それを戦闘に応用したようだ。

 「ジェイドには感謝しねェとなッ!――おおっと!」
 「このー! 逃げてばっかりで卑怯なのだ!」

 「――ッと! そんなモンに当たったら、死んじまうだろッ!」

 とはいえ、逃げ続けていてもらちがあかない。
 どうにか状況を打開すべく、エルスは次の呪文を唱える。

 ミーファも回転をピタリと止め、斧を構えなおす。
 相変わらず自信たっぷりな笑みを浮かべているが、彼女の額にもうっすらと汗がにじんでいる――。


 「……ふふー! そろそろ降参するのだ!」
 「んッ? 降参すりゃ、話を聞いてくれンのか?」
 「駄目なのだ!――悪人は、正義の斧で成敗するのだ!」

 「じゃあ負けンのと一緒じゃねェか! フラミト――ッ!」

 水の精霊魔法・フラミトが発動し、ミーファの足元に粘性の水溜まりが出現した! 
 水溜りから伸びた水色の触手が彼女を絡めとり、動きを封じる!

 「うひゃ! うっ、動きにくいのだー……!」
 「ヘッ、どうだッ! 今度はこっちの番だッ!」

 エルスは間合いを詰め、剣を振り下ろす! ミーファは斧で攻撃を弾くが、どんそくの魔法で明らかに動きがにぶっている!

 「どうするッ!? 降参するなら、今の内だぜッ!」
 「わっ、悪い奴に、まっ、負けないのだー!」

 「チッ……!――もう仕方ねェ!」

 この戦闘は不本意ではあるが、ミーファは手加減しながら勝てる相手ではない。

 エルスは歯を食いしばり、水平に剣を振る――!
 だが、刃が彼女の胴をぐ寸前!――ミーファが魔力を解放した!

 「カレクトぉ――!」

 土の精霊魔法・カレクトが発動し、ミーファをこんじきの結界が包み込む! 守護の結界にはばまれ、エルスの一撃は硬質な音と共に弾かれてしまった!

 それと同時に――ミーファに絡みついていた水の触手も、跡形もなく消滅した!

 「ぐッ……! 土で消しやがったッ!?」

 精霊魔法には、それぞれ優位性が存在する。
 水には土が。土には風の魔法が有効だ。

 「ふっふっふー! ミーを甘く見ないほうがいいのだ!」

 水のいましめから解放されたミーファは軽やかにステップし、大技を繰り出すべく、大きく間合いを取った――!


 「さー! 正義の裁きを受けるのだ! レイゴラぁム――!」

 土の精霊魔法・レイゴラムが発動し、巨大な斧が黄金こがねいろの輝きを放ちはじめた!

 「げッ!? 魔法剣まで使いやがるのかよッ!」
 「エルス!――使ってっ!」

 危機を悟ったアリサは、持っていた剣をエルスのそばとうてきする!
 魔法剣に特化した武器・エレムシュヴェルトだ。

 エルスは自らのものを納め、地面に突き立った剣を抜き放つ――!

 「サンキュー、アリサ!――よしッ、来るなら来やがれッ!」
 「ふっふー、いい度胸なのだ! よーい、ずっどーんっ!」

 ミーファは斧を構えて跳躍し、空中で回転しながらこちらへ迫る――!

 対するエルスは剣に手をかざし、呪文を唱える。
 彼の銀髪と瞳がかすかに緑色に輝く!

 「魔法剣ッ! レイヴィスト――ッ!」

 風の精霊魔法・レイヴィストが発動し、エルスの剣に風の魔力が宿った!

 「とりゃー! 正義は勝つのだー!」
 「へッ! 負けてたまるかよ――ッ!」

 襲来した金色の旋風を――エルスは風の刃と、左手に集中させた風の結界で受け止める! 身体能力では不利だが、魔力においてはエルスの方が圧倒的に有利だ!

 少しずつ風が土を削り取るように――
 ミーファの斧に掛かっていた魔法も、徐々に消滅しはじめる――!

 「うおぉぉおー! 戦闘終了ォ――!」

 エルスは気合いと共に攻撃を押し返し、くるりと一回転しながら剣を振りぬく!
 斧で斬撃は防いだものの――魔法剣による衝撃で弾き飛ばされたミーファは、激しく大地に叩きつけられてしまった!

 「ぎゃうぅー!……ううっ、負けたの……だっ……」

 あおけに倒れたまま、ミーファは街道で目を回す。
 負けを認めたためか、巨大な斧も跡形もなく消えてしまった。

 エルスも魔法を解除し、大きく深呼吸をする――。

 「はぁ……はぁ……。 ふぅぅ……! なんとか勝てたぜ――ッ!」
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