ミストリアンクエスト

幸崎 亮

文字の大きさ
上 下
43 / 105
第1章 ファスティアの冒険者

第42話 コンフリクト

しおりを挟む
 霧の中、長い林道を抜け――ようやく目的地である盗賊団の根城アジトへ辿り着いたエルスたち。洞窟の入口前には、見張りと思わしき四人の男らがたむろしていた。

 ニセルの見立てによると洞窟内には罠が張られており、彼らとの交戦を避けて三人が侵入することは不可能だ。

 霧に乗じて見張りへ奇襲を掛けるべく、ニセルは二人に簡単な作戦を話す――。

 「オレが向こうへ回り込み、あの二人を始末する。こっちの二人を、お前さんたちで一人ずつ片づけろ。――いけるか?」

 「はいっ!」
 「……わッ、わかった……!」
 「よし。それでは――」

 「――ちょ、待ったッ……!」
 行動に移りかけたニセルを、エルスが慌てて引き留める。

 「どうした?」
 「もしさ――俺がアイツに苦戦しても、二人とも手を出さねェでくれ……」

 一人の冒険者として、自分自身でやらなければいけない。
 エルスは何度も、自身に言い聞かせる――。

 「ああ、わかった。ただし死ぬなよ? 向こうは遠慮なく、お前さんを殺しにくるだろうからな」
 「エルス、気をつけてね?」

 「お……おうッ……!」

 消え入りそうな声で言い、エルスは引きつった笑顔と共に親指を立てる。
 そんな彼の指先は、いまだ震えたままだ――。


 「では作戦開始だ。増援を呼ばれる前に、手早く片づけるぞ」

 ニセルは霧に隠れながら洞窟の前をかいし、エルスらと反対側へと回り込む――。

 ついに〝人〟との戦闘が始まる。

 エルスとアリサは剣を抜き、静かに息をむ。ほどなくして、目的の地点に辿り着いたニセルが小石を拾い、広場の中央へ投げた――!

 「んあ? なんだ?」

 物音に気づいた男たちは抜き身の武器を手に、中央へ集まってくる。
 そんな彼らを囲むように、エルスたちも勢いよく飛び出す――!

 「チッ!――敵か? 冒険者をすとは、あの腰抜け連中め!」
 「ここは俺らの縄張りだ! せやがれ自警団の犬どもが!」
 「――ふっ。悪いが、そういうわけにはいかん。念のためにくが、賊から足を洗うなら見逃してもいいぞ?」

 「ふざけんじゃねぇ!――いくぞテメェら、ぶっ殺してやる!」

 ニセルの提案に、当然ながら良い返答が戻るはずもなく――
 盗賊の決まり文句のような台詞せりふと共に、戦闘の幕が切って落とされた――!


 「そうか。残念だ」

 宣言通り。ニセルは一切の無駄のない動きで二人の盗賊の息の根を止め、刃に付いた血を振り払う――!

 あっさりと。
 悲鳴すら上げることなく。
 二人の男は、ニセルの足元に転がった。

 「ふっ」

 ニセルは息を吐き、エルスの方へ目をる。彼ひとりでも、難なくこの場を制圧できただろう。それも不意打ちならば、相手が言葉を発する暇さえ与えずに。

 それでも、あえて正面からの戦闘に持ち込んだのは――
 彼らへの優しさであり、冒険者としての試練なのだ。

 「自分なりの答えを探せ。絶対に死ぬなよ?」

 霧の中から戦況を見守るべく――
 ニセルはたいしあう四人から距離をとる――。


 「よく見りゃ、女とガキじゃねぇか! ナメやがって!」
 「ガキじゃないもん! やあっ――!」

 片手持ちの斧を振り上げ、盗賊の男がアリサに襲いかかる!――だが、彼女の素早い剣によって胸を貫かれ、男はく大地に崩れ落ちた!

 「ごぼッ……!……この女……!」
 「あっ、女は合ってたかも」


 ニセルとアリサによって、あっという間に三人が倒され――エルスと対峙している盗賊にも、焦りの色が浮かぶ。

 「クソが……! ふざけやがって、どこにこんな……」

 禿げ上がった額に、後頭部付近に残った黒髪を逆立てた、中年の男。粗末で野性味あふれる革製の服をまとった彼は、どこから見てもゴロツキらしい風体ふうていだ。

 「なッ、なぁ?――よかったら降参しねェか? 仲間もやられちまッたことだしさ……」

 「なんだと!? 馬鹿にするんじゃねぇぞガキが!――死にやがれ!」

 降参の提案を挑発と受け取った男が、剣を振り上げエルスに斬りかかる!
 力任せの斬撃をエルスは辛うじて受け止めるが、腕には強いしびれが走る――!

 これまでの、魔物相手とは違う――
 明確な〝殺意の言葉〟と共に繰り出される攻撃は、酷く、鋭く、重い。

 「ぐッ……。やるしかねェのかッ……!」
 「エルス……」

 アリサは剣を手にしたまま、心配そうにエルスを見つめる。
 エルスがそちらへ目で合図を送ると――アリサは小さく頷いて、霧の中へと後ずさる――。

 「ぅおぉ――ッ!」

 叫びと共にエルスは剣を振るうが、どうにも力が入らない。太刀筋にも迷いが表れ、男の剣によってやすやすと弾かれてしまう!

 「なんだザコが!? その程度で偉そうにしやがって!」
 「うわッ――!」

 剣先がのどもとへと迫り――エルスは、ギリギリで回避する!
 迷いのあるエルスとは違い、男の剣は確実に急所を狙ってくる。
 ――相手をなのだ。

 ふとると――足元には、アリサが仕留めた男のなきがらが転がっている。このままでは、次にこうなるのはエルス自身だ。

 アリサは旅に出た時から、すでに覚悟を決めていたのだろう。
 いずれ、こういう日が来るということも理解して――。


 「チックショオォ――ッ!」

 エルスは雄叫びを上げ、居合いのように剣を振り抜く!――鋭い剣先が男の剣を弾き飛ばし、彼の腹にもひとすじの赤い線を残した!

 「ぐはァ……。やるじゃねえか……クソガキが……!」

 男の口からは血がしたたり落ち、傷は浅くないことを示している。しかし彼はニヤリとわらい、さらにふところから小型の斧を取り出した!

 「なッ、なあ? もうやめようぜ……? 今なら回復魔法で助かるしさ、もういいだろ……?」

 真っ赤な雫の滴る剣をぶら下げ、エルスは引きつるような笑顔で言う――。

 「――おい、教えてやるよ。テメェみてえな甘っちょろいガキがなぁ……?」

 額にあぶらあせにじませつつ、男は目の前にギラリと光る斧を構える!――それを見て、エルスも慌てて剣を構え直す!

 「テメェみてえなザコのせいでなぁ! 仲間だれかが死ぬんだよぉ――ッ!」

 そう叫ぶと、盗賊は斧を真っ直ぐ右へ――
 アリサの方へとうてきした――!

 「――あっ!? きゃあぁぁ――っ!」
 「な……ッ! アリサ――ッ!」

 まともに不意打ちを受けたのか、アリサは今までに聞いたことのないような悲鳴を上げる! 続いて、大地に人の倒れる音が――エルスの耳に、木霊こだました――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完】真実をお届け♪※彷徨うインベントリ※~ミラクルマスターは、真実を伝えたい~

桜 鴬
ファンタジー
スキル無限収納は、別名を亜空間収納といわれているわ。このスキルを所持する人間たちは、底無しとも言われる収納空間を利用出来るの。古の人間たちは誰もが大気中から体内へ無限に魔力を吸収巡回していた。それ故に誰もが亜空間を収納スペースとして利用していた。だけどそれが当たり前では無くなってしまった。それは人間の驕りからきたもの。 やがて………… 無限収納は無限では無く己の魔力量による限りのある収納となり、インベントリと呼ばれるようになった。さらには通常のスキルと同じく、誰もが使えるスキルでは無くなってしまった……。 主を亡くしたインベントリの中身は、継承の鍵と遺言により、血族にのみ継承ができる。しかし鍵を作るのは複雑て、なおかつ定期的な更新が必要。 だから…… 亜空間には主を失い、思いを託されたままの無数のインベントリが……あてもなく……永遠に……哀しくさ迷っている………… やがてその思いを引き寄せるスキルが誕生する。それがミラクルマスターである。 なーんちゃってちょっとカッコつけすぎちゃった。私はミラクルマスター。希少なスキル持ちの王子たちをサポートに、各地を巡回しながらお仕事してまーす!苺ケーキが大好物だよん。ちなみに成人してますから!おちびに見えるのは成長が遅れてるからよ。仕方ないの。子は親を選べないからね。あ!あのね。只今自称ヒロインさんとやらが出没中らしいの。私を名指しして、悪役令嬢だとわめいているそう。でも私は旅してるし、ミラクルマスターになるときに、王族の保護に入るから、貴族の身分は捨てるんだよね。どうせ私の親は処刑されるような罪人だったから構わない。でもその悪役令嬢の私は、ボンキュッボンのナイスバディらしい。自称ヒロインさんの言葉が本当なら、私はまだまだ成長する訳ですね!わーい。こら!頭撫でるな!叩くのもダメ!のびなくなっちゃうー!背はまだまだこれから伸びるんだってば! 【公開予定】 (Ⅰ)最後まで優しい人・㊤㊦ (Ⅱ)ごうつくばりじいさん・①~⑤ (Ⅲ)乙女ゲーム・ヒロインが!転生者編①~⑦ 短編(数話毎)読み切り方式。(Ⅰ)~(Ⅲ)以降は、不定期更新となります<(_ _*)>

滅びゆく世界と創世の神々

幸崎 亮
ファンタジー
〝ある異世界の行く末。その植民世界は〝真世界〟たり得るのか?〟 ただ一つの大陸のみが残された、異世界ミストルティア。 偉大なる神々によって創生された、この〝植民世界〟は、今や消滅の危機に瀕していた。 その原因の一端となったのが、ラグナス魔王国によるフレスト聖王国への侵攻だ。 そして敢えなく聖王は討たれ、聖なる玉座は魔王の手に陥ちた。 この危機に際し、聖王国の天才神官長である〝バルド・ダンディ〟は時を操る力を秘める、〝時の宝珠〟を発動させる。これこそが聖王国と世界を救う、たったひとつだけの希望。 この瞬間――。 植民世界ミストルティアの命運は、彼の選択に委ねられた。 <全4話・1万文字(ルビ符号を除く)> 【登場人物紹介】 バルド・ダンディ: フレスト聖王国に仕える神官長。 若くして要職に上りつめた、天才的な男。 ナナ・ロキシス: ラグナス王国出身の若い女性。明るく天真爛漫な性格。 交換留学生として、フレスト聖王国を訪れていた。 イスルド: ナナの恋人。フレスト聖王国の新米騎士。 誰に対しても好意的に接する。人あたりの良い好青年。 ウル・ロキス・ラグナス: ラグナス王国の第一王子。 実妹である第二王女との結婚が決まり、晴れて王位継承者となった。

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

レアモンスターの快適生活 ~勇者や魔王に目を付けられずに、楽して美味しくスローライフしよう~

スィグトーネ
ファンタジー
 剣と魔法のファンタジー世界。  その森の片隅に住む【栗毛君】と呼ばれるウマこそ、今回の物語の主人公である。  草を食んで、泥浴びをして、寝て……という生活だけで満足しない栗毛君は、森の中で様々なモノを見つけては、そのたびにちょっかいを出していく。  果たして今日の彼は、どんな発見をするのだろう。 ※この物語はフィクションです ※この物語に登場する挿絵は、AIイラストさんで作ったモノを使用しています

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。 そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。 「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。 ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね? という「誰が勇者だ?」的な物語。

処理中です...