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第1章 ファスティアの冒険者
第12話 はじまりの遺跡
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はるか古の旧世界――創生紀より存在したとされる、はじまりの遺跡。
荘厳な神殿だったと思しき石造りの外壁は大きく崩れ、その隙間からは薄暗い内部の様子が見え隠れしている。
旧世界が終了し、再世紀となった現代では、この崩壊した建造物が如何なる役割を有していたのか、もう窺い知ることはできない――。
カダンからの報告通り――いま現在、このはじまりの遺跡の正面入口からは、原因不明の異変によって、魔物たちが止め処なくわき出していた。
一行は魔物に気づかれぬように外周を回り込み、裏口と思われる小さな入口から遺跡内部へと侵入する。
この場所は広間のような空間となっており、魔力灯のおかげで明るく照らされている。すっかり薄暗くなった外部との差に、エルスは多少の眩しさを覚えた。
自警団ならびに冒険者たちは現時点において、広間を行動の〝拠点〟としているようだ。
ザインは、風の結界の動きを完全に停止させて術を解き、エルスたちを硬質な石床の上に降ろした。
「おおっと!――なんか、久しぶりに自分の足で立ったような気分だぜ」
「そうだね。ずっとフワフワしてたのに。不思議な感じ」
二人は足場を確かめるかのように、何度も靴を踏み鳴らす。この感覚に慣れるまでは、うっかりバランスを崩してしまいそうだ。
いずれにせよエルスたちは、運搬魔法によって素早く現地へ到着することができた。カダンはザインに近づきながら、彼の働きを労う。
「ザイン、ご苦労だった! 魔力素を消耗しただろう。しばらく休んでくれ!」
「はい。――皆様、ご武運を。『酒場でお行儀良く』なんて、御免ですからね?」
ザインは一同に敬礼し、広間の一角にある細い通路へと去ってゆく。
アリサは口元に指を当てながら、彼の後ろ姿を見送った。
「さっきの話、ちゃんと聞いてたんですね。ザインさん」
「ハハ……。ああ見えて彼はかなりの酒豪ですからな! さあ、我々はこの部屋です」
カダンに連れられ、エルスたちは広間に幾つかある扉の一つを潜る。
案内された部屋は、拠点部屋よりも小規模な空間だった。
ここでも数本の魔力灯が煌々と室内を照らし、簡易の寝台が多数並べられている。これらの設備は、かつての〝騎士訓練所〟時代の名残らしい。
カダンは、二人にそうした薀蓄を語り終えると、入口の脇に立つ自警団員に接近する。現在、この部屋は救護室として使用され、運び込まれた負傷者らの治療が行なわれているようだ。
「任務、ご苦労!――状況は?」
「ハッ! 団長! 残念ながら芳しくありません。あふれ出る魔物は闇雲に相手をせずに外へ流し、周囲の冒険者たちに対処いただいております!」
そこまで報告した団員は周囲を気にするかのように、声を抑えながら続ける。
「我々はこの原因の大元を探るべく、内部を探索しておりますが……。なにぶん負傷者の収容で、手一杯となっている状況です……」
「ウム、良い判断だ。くれぐれも人命を最優先で頼む! ファスティア自警団は〝人々と街の安全〟を守ってこそ、だ!」
「ハッ! 承知いたしました!」
部下からの報告を受けたカダンは、エルスらの元へと戻る。
そして彼は神妙な面持ちのまま、二人の正面で直立した。
「お聞きの通りです、お二方。我々はこれより遺跡内部を探索し、この異変の何らかの原因を発見し、そして取り除きます!」
「おッ……、おう! 了解だぜ!」
「すごいことになったねぇ。エルス」
「新兵の訓練所として利用されていたとはいえ、この場所は歴とした古代の遺跡! くれぐれも油断なされぬよう願います!」
三人は拠点部屋へ戻り、今度は遺跡の奥へと通じる扉の前へ集まる。
扉は粗末な木材を組み合わせ、この場で急造されたもののようだ。
しかし、周囲には今朝エルスが依頼人の店で見たカーテンのように、薄らと淡い光が浮かんでいるのが確認できた。
「この〝魔法障壁〟から先は、魔物の巣窟です! 障壁も万全とは言えませんが、危険を感じたら直ちに、拠点へ引き返しましょう!」
カダンは身振りを交えつつ、エルスらに注意を喚起する。彼の真剣な様子に緊張しながらも、二人は戦いへの覚悟を決めた。
「――準備は良いですな? 行きます!」
カダンは手近にあった魔力灯を手に取ると扉を開け、暗闇の中へと進み出た。
エルスも右手で剣を抜き、団長の後に続く。
「よしッ! 気合い入れていくぜッ! 戦闘開始だ――ッ!」
荘厳な神殿だったと思しき石造りの外壁は大きく崩れ、その隙間からは薄暗い内部の様子が見え隠れしている。
旧世界が終了し、再世紀となった現代では、この崩壊した建造物が如何なる役割を有していたのか、もう窺い知ることはできない――。
カダンからの報告通り――いま現在、このはじまりの遺跡の正面入口からは、原因不明の異変によって、魔物たちが止め処なくわき出していた。
一行は魔物に気づかれぬように外周を回り込み、裏口と思われる小さな入口から遺跡内部へと侵入する。
この場所は広間のような空間となっており、魔力灯のおかげで明るく照らされている。すっかり薄暗くなった外部との差に、エルスは多少の眩しさを覚えた。
自警団ならびに冒険者たちは現時点において、広間を行動の〝拠点〟としているようだ。
ザインは、風の結界の動きを完全に停止させて術を解き、エルスたちを硬質な石床の上に降ろした。
「おおっと!――なんか、久しぶりに自分の足で立ったような気分だぜ」
「そうだね。ずっとフワフワしてたのに。不思議な感じ」
二人は足場を確かめるかのように、何度も靴を踏み鳴らす。この感覚に慣れるまでは、うっかりバランスを崩してしまいそうだ。
いずれにせよエルスたちは、運搬魔法によって素早く現地へ到着することができた。カダンはザインに近づきながら、彼の働きを労う。
「ザイン、ご苦労だった! 魔力素を消耗しただろう。しばらく休んでくれ!」
「はい。――皆様、ご武運を。『酒場でお行儀良く』なんて、御免ですからね?」
ザインは一同に敬礼し、広間の一角にある細い通路へと去ってゆく。
アリサは口元に指を当てながら、彼の後ろ姿を見送った。
「さっきの話、ちゃんと聞いてたんですね。ザインさん」
「ハハ……。ああ見えて彼はかなりの酒豪ですからな! さあ、我々はこの部屋です」
カダンに連れられ、エルスたちは広間に幾つかある扉の一つを潜る。
案内された部屋は、拠点部屋よりも小規模な空間だった。
ここでも数本の魔力灯が煌々と室内を照らし、簡易の寝台が多数並べられている。これらの設備は、かつての〝騎士訓練所〟時代の名残らしい。
カダンは、二人にそうした薀蓄を語り終えると、入口の脇に立つ自警団員に接近する。現在、この部屋は救護室として使用され、運び込まれた負傷者らの治療が行なわれているようだ。
「任務、ご苦労!――状況は?」
「ハッ! 団長! 残念ながら芳しくありません。あふれ出る魔物は闇雲に相手をせずに外へ流し、周囲の冒険者たちに対処いただいております!」
そこまで報告した団員は周囲を気にするかのように、声を抑えながら続ける。
「我々はこの原因の大元を探るべく、内部を探索しておりますが……。なにぶん負傷者の収容で、手一杯となっている状況です……」
「ウム、良い判断だ。くれぐれも人命を最優先で頼む! ファスティア自警団は〝人々と街の安全〟を守ってこそ、だ!」
「ハッ! 承知いたしました!」
部下からの報告を受けたカダンは、エルスらの元へと戻る。
そして彼は神妙な面持ちのまま、二人の正面で直立した。
「お聞きの通りです、お二方。我々はこれより遺跡内部を探索し、この異変の何らかの原因を発見し、そして取り除きます!」
「おッ……、おう! 了解だぜ!」
「すごいことになったねぇ。エルス」
「新兵の訓練所として利用されていたとはいえ、この場所は歴とした古代の遺跡! くれぐれも油断なされぬよう願います!」
三人は拠点部屋へ戻り、今度は遺跡の奥へと通じる扉の前へ集まる。
扉は粗末な木材を組み合わせ、この場で急造されたもののようだ。
しかし、周囲には今朝エルスが依頼人の店で見たカーテンのように、薄らと淡い光が浮かんでいるのが確認できた。
「この〝魔法障壁〟から先は、魔物の巣窟です! 障壁も万全とは言えませんが、危険を感じたら直ちに、拠点へ引き返しましょう!」
カダンは身振りを交えつつ、エルスらに注意を喚起する。彼の真剣な様子に緊張しながらも、二人は戦いへの覚悟を決めた。
「――準備は良いですな? 行きます!」
カダンは手近にあった魔力灯を手に取ると扉を開け、暗闇の中へと進み出た。
エルスも右手で剣を抜き、団長の後に続く。
「よしッ! 気合い入れていくぜッ! 戦闘開始だ――ッ!」
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