真世界へと駆け抜ける風

幸崎 亮

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第1話 風使いのアクセルとグリード

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 世界の〝終わり〟は突然に訪れる。
 戦争? 災害? 異世界からの侵略?

 残念ながら、どれも違う。

 言うなれば、神の気まぐれ。
 大いなる力を持つ者の、ほんのさいな思いつき。

 植民世界ミストリアスはごうまんなる神々によって終了を宣告され、それはすべての人々の知るところとなった。

 そして、そのしゅうえんの日も、すでに間近へと迫っていた。


 ◇ ◇ ◇


「おい、アクセル! 手を抜いてんじゃねぇぞ!」

「お前もな。グリード」

 二人の青年が大空を舞い、たがいに魔法を撃ち合っている。

 一人は濃い青色の髪を逆立てた男、アクセル・マークスター。
 そして緑色の髪をセンターで分けた、グリードという名の男。

 彼らは風の結界をまとい、空を舞台に激しい戦いを繰り広げている。

「どうせ、もうすぐ終わる身だ。俺様の最大火力をお見舞いしてやる!」

「ふっ、望むところだ」

 グリードは空中に魔法陣を描き、大魔法のえいしょうに入る。
 対するアクセルは受けて立つとばかりに、彼の真正面で身構えた。

「むっ? あれは……」

 しかしアクセルは何かに気づき、の地上へ視線を落とす。そしてにわに急降下し、グリードとの戦闘から離脱してしまった。

 ◇ ◇ ◇

「……おいっ!? どういうつもりだ、アクセル!」

 グリードは大魔法の詠唱を中断し、あわててライバルのあとを追う。
 彼が地上に降り立つと、そこにはねこを抱いたアクセルの姿があった。

「猫だ」

「……見りゃわかる! それがどうした!?」

かれそうになっていてな」

 そう言ってアクセルがあごで示した方向には、すなけむりと共に北へ遠ざかってゆく馬車の姿が見えた。それも地平線の彼方へ向けて、数台が列をなしている。


「なんだありゃ? たいしょうか?」

「いや、王国軍だな。魔王軍の討伐に向かうのだろう」

「ご苦労なこった! どうせもうすぐ、ってのによ!」

 グリードは皮肉を吐きながら、豆粒ほどの大きさとなった馬車を見つめている。彼の隣でアクセルが猫を下ろすと、静寂しじまを求めて静かな森へと去っていった。


「あの先は北の国境だな。どうする?」

「あぁ? どうするって、まさかお前……」

「暴れたいんだろう? ものに魔王。相手には困らんぞ?」

 彼らは古くからの友人で、互いに盗賊としてしのぎを削っていた仲だ。何かとけんばやいグリードがアクセルにみつくことが多く、たびたび命を賭けた真剣勝負に発展することも珍しくない。

「ハッ! 盗賊が魔王退治ってか? おもしれぇじゃねぇか」

「ふっ、決まりだな」

 二人は少年のような笑みを浮かべ、風の魔法で結界を纏う。
 そしてそのまま空中に浮遊し、北へ向かって飛び去った――。
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