ミストリアンエイジ

幸崎 亮

文字の大きさ
上 下
5 / 69
Fルート:金髪の少年の物語

第5話 王都への道

しおりを挟む
 街へ向かうための準備を終え、僕の前に姿をみせたエレナ。
 彼女は農作業着から厚手のワンピース姿に着替え、っていた髪もほどいている。

 そして少し照れた様子でからだをくねらせながら、はにかんだ笑顔を浮かべてみせた。

 うーん。
 やっぱり思ったとおり、エレナはかわいい。

 今の服も、どちらかというと〝防具〟といったようなデザインだけど、それでもったい農作業着と比べると、格段に愛らしさが増している。


「あっ……あのっ。それじゃ出発しよっ……?」

 こちらの視線に気づき、エレナは早足で玄関の扉を開ける。
 そして外の陽射しを受けながら、にっこりと僕にほほんだ。


 ◇ ◇ ◇


 エレナと共に長閑のどかな農道を進む。

 さきほど取扱説明書マニュアルで確認した地図によると、アルティリア王都は東の方角にるようだ。

 わだちの刻まれた土の路面は、やがて石でそうされたものへと変わり、視界の両側にはさくによって囲まれた、広大な農地が確認できるようになった。


「すごい広さだ。ここもエレナたちが?」

 僕の問いに対し、エレナは顔を伏せながら小さく首を振る。

 なんでも、ここを管理している者はガルヴァンという人物で、いわゆる〝偉い人〟らしい。彼女はそれだけをかんけつに答え、以降は固く口を結んでしまった。

 何かいんねんのある人物なのか。心なしか、エレナの歩行速度も増し、わずかないらちが感じられる。

 これ以上、大農園ここについてたずねるのはひかえるべきだろう。僕は周囲の景色を眼に焼きつけながら、だまって彼女の後ろに続いた。

 ◇ ◇ ◇

 やがて農地を抜けると今度は林が現れ、路面も再び地肌へと戻る。

 そして林へと差し掛かるや、とつじょとしてかげから〝ひとかげ〟のようなものが飛び出してきた!

「あっ、魔物だよ! 気をつけて!」

 エレナの声に反応し、僕は反射的に剣を抜く。

 飛び出してきたのは細身の人体に、犬の頭をくっ付けたような魔物。
 それは最初の一体を皮切りに、左右の林から群れをして現れ続ける。


 ざっと数えただけでも七体以上。それらはまつな剣を右手に握り、よだれを垂らしながらうなごえをあげている。

「これはコボルド、かな?」

 僕のつぶやきに、エレナは小さくうなずき――そして身に着けていたポーチからおもむろに、立派な長槍ロングスピアを取り出した。

「私は左側を! いくねっ!」

 いったい、どうやって長槍そんなものを持ち歩いていたのか。

 ぎもを抜かれている僕を尻目に、エレナは両手で槍を構え、さっそうよくの魔物へと突っ込んでゆく。

 僕も負けじと武器を手に、コボルドとの戦闘を開始した。

 ◇ ◇ ◇

 昨日の初戦とは打って変わり、今日は右手だけでも軽々と剣を振ることができる。

 レベルアップしたということかな? 痛みがないため気がつかなかったが、オークから受けた腕の傷も、いつの間にかすっかり治っていた。

 コボルドは攻撃を剣で受けようとするも――僕の一撃は軽々と、ボロボロの剣ごと魔物を斬り裂いてゆく。斬られた魔物それからだからは黒い煙が立ちのぼり、またたくうへと消え去っていった。

 数だけは多いけど、強さは大したことない。
 これならどうにかなりそうだ。

 エレナの側へ目をると、彼女は槍を激しく回転させながらおおまわりを演じていた。もしかすると武器さえあれば、あのオークさえも単独ソロで撃破できたのではないだろうか。


「――それなら、試させてもらおうかな」

 戦闘には余裕があるということで。僕は取扱説明書マニュアルを確認した際に見た〝じゅもん〟を思い出し、それを一文字ずつえいしょうする。

 そして離れた位置のコボルドに対し、真っ直ぐに左手をかざした。

「ヴィスト――!」

 僕の呪文ことばに応じるように。
 風の魔法・ヴィストが発動し、左手から風の刃が発射される。

 放たれたふうじんは対象へ向けて直進し、二体のコボルドを胴から真っ二つに切断した!

「はは、すごい! 本当に魔法だ!」

 〝剣と魔法の世界〟というからには、魔法はとも使ってみたかった。

 今の攻撃によって目立ってしまったのか、残りのコボルドたちの注意がこちらへ向くが――僕は初めての魔法をはなてたこうようかんもあり、難なくそれらを斬り伏せることができた。

 ◇ ◇ ◇

 やがてすべてのコボルドは黒煙となって消滅し、林道には勝者である、僕とエレナだけが残される。彼女は額の汗をそでぬぐい、僕の元へと笑顔で駆け寄ってきた。

「おつかれさまっ! すごいね、アインス。魔法まで使えるなんて」

「ちょっと試してみたくてね。エレナが頑張ってくれたおかげだよ」

「えへへっ、よかった」

 僕らはたがいの健闘をたたえあい、二人並んで林道を進む。また敵が飛び出してくる可能性があるため、エレナは長槍ロングスピアを手にしたままだ。


「これ、お父さんの形見なんだ」

 僕の視線に気づいてか、エレナは不意に話しはじめた。

「私が小さい頃に二人とも殺されて……。両親の記憶は無いんだけどね」

 エレナは言葉を続けながら、槍を抱きしめるかのように自身の胸に押さえつける。

 彼女いわく、この形見で戦っているときだけは、まるで父親が守ってくれているかのようにびんに動くことができるらしい。


「――ねぇ。アインスの両親って、どんな人?」

「僕は……わからない。気づいた時には土や根っ子を掘っていて、ずっと一人で生きていたから」

 最下級労働者は、世界統一政府によってされるだけの存在だ。

 生物としての繁殖方法は知識として教育インストールされるものの――そもそも、僕らは遺伝情報を組み合わされただけで、実在の人間から誕生したのかさえも定かではない。

 僕の説明が理解できたのかはわからないけれど、だいにエレナはまゆじりを下げ、僕の方へと一歩だけ身を寄せてきた。


「そっか……。アインスは、大変な世界から旅してきたんだね」

「そう……なのかな。僕にとってはが普通だったから。よくわからないや」

「私だったら、ちゃんとお母さんから産まれたいし、いつか子供を産んでお母さんになりたいもん……」

 そこまで言ったエレナはハッとした様子で顔を上げ、あわてて僕から距離をとる。そして頬を染めながら、しきりに「違うの!」と繰り返しているが――その様子が愛らしく、僕は思わず笑いだしてしまった。


「もうっ。そういうのじゃ、ないんだから……」

「あはは、ごめん。わかってるよ」

 僕がそう言って微笑むと、エレナもにっこりと微笑み返す。

 さっきの照れた上目遣いも可愛いかったけれど。
 いまは口に出さないでおこう。

 ◇ ◇ ◇

 その後も何気ない会話を交わしながら、ひたすらに林道を進み続けると――。
 やがて両側の樹々の合間に、立派な城の姿が浮かびはじめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

勇者は世界を平和にする!

幸崎 亮
ファンタジー
「俺が勇者だ! さあ、平和をはじめよう!」 俺は勇者として異世界へ降り立った! なぜなら、勇者は平和の使者だからだ! 平和とは何か? 勇者とは何か? 最後はちょっと泣ける――かもしれないな! <短編:全8エピソード・1万字以下> ※さらに全体的に文章を見直しました。  文字数は1万字以下(ルビによる加算を除く)のまま、変化ありません。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

滅びゆく世界と創世の神々

幸崎 亮
ファンタジー
〝ある異世界の行く末。その植民世界は〝真世界〟たり得るのか?〟 ただ一つの大陸のみが残された、異世界ミストルティア。 偉大なる神々によって創生された、この〝植民世界〟は、今や消滅の危機に瀕していた。 その原因の一端となったのが、ラグナス魔王国によるフレスト聖王国への侵攻だ。 そして敢えなく聖王は討たれ、聖なる玉座は魔王の手に陥ちた。 この危機に際し、聖王国の天才神官長である〝バルド・ダンディ〟は時を操る力を秘める、〝時の宝珠〟を発動させる。これこそが聖王国と世界を救う、たったひとつだけの希望。 この瞬間――。 植民世界ミストルティアの命運は、彼の選択に委ねられた。 <全4話・1万文字(ルビ符号を除く)> 【登場人物紹介】 バルド・ダンディ: フレスト聖王国に仕える神官長。 若くして要職に上りつめた、天才的な男。 ナナ・ロキシス: ラグナス王国出身の若い女性。明るく天真爛漫な性格。 交換留学生として、フレスト聖王国を訪れていた。 イスルド: ナナの恋人。フレスト聖王国の新米騎士。 誰に対しても好意的に接する。人あたりの良い好青年。 ウル・ロキス・ラグナス: ラグナス王国の第一王子。 実妹である第二王女との結婚が決まり、晴れて王位継承者となった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

処理中です...