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16:昔の私
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走るのは別に苦手ではない。
けれどペースを遅くして走るのは結構苦痛だ。
マラソン大会中一人で希樹はぼんやり考えた。
今日は学年のマラソン大会で途中までは友達2人とだらだらと歩いていた。
けれど到着順は成績にも関係あるので、友達と別れ少しスピードをあげた。
といっても希樹には歩いているようなもので、息なんて切れない。はっきり言って暇だった。
もきゅ…もきゅ…
(今日の晩ご飯はなんだろうな…。)
もきゅ…もきゅっきゅ!…もきゅ…
(お腹すいたからおやつのチョコレート…あとでこっそり食べよう…。)
もきゅ…もきゅ…もきゅもきゅもきゅ
(それにしても……。)
ちらりと希樹は横のピンク色の物体を薄目で見つめる。
(このピンクのペンギンみたいな河童みたいな生物なんだろう!?)
そう、先程から希樹の隣には子犬サイズの河童のようなペンギンのような
謎の2等身の生物が一生懸命走っていたのだ!
全身薄い桃のようなピンク、頭には黄色い河童の皿のようなものがちょこんと乗っている。
嘴はぬいぐるみのペンギンのように丸くポテッとしており、つぶらなまん丸な瞳が可愛らしい。
何故か苺柄のかぼちゃのパンツを履いていて、短い手足で一生懸命走っている。
ちなみにもきゅもきゅいっていたのは足音のようだ。
一瞬幻覚が見えたかと思った希樹だったけれど、ほっぺをつねっても現実だった。
――この子、意思疎通できるのかな?
っていうかなに?……か…河童…なの…?それとも…ペンギン…?
とはいえヒーヒーキューキュー辛そうに走っている河童?に話しかける雰囲気ではないので
とりあえず見るだけに留めておこう、と前を向くと急に足音がやんだ。
「きゅー!」
「か、カラス!」
カラスが河童?のパンツに爪を引っ掛けてさらっていってしまった。
まぁ……あれも自然の摂理か……と合掌しようと思っていたが
キューキュー泣いている河童(仮)とタマ先輩の姿が重なってしまった希樹は、足元にあった石をカラスめがけて投げつけた。
丁度足にあたってカラスは河童(仮)を落としたので、すかさずそれをキャッチした。
「きゅ~!!!きゅきゅ!ありがとうございますでし!!あなたは命の恩人でしゅ!!」
「しゃ、しゃべったーーー!!!」
なんとピンクの河童は日本語を話すようで、希樹にお礼をいってきたのであった。
◇◆◇
「――というわけで、かくかくぽぺぽぺなのでしゅ」
「なるほど、あなた――ポペちゃんのご主人様は忘れ物をしてしまい
それを渡すために一生懸命走って探していた……ってわけなんだね。」
「でしでし!まーったく困ったご主人様なんでしゅ!!」
「それにしてもこのあたりにいるっていうのは確実なの?」
今現在希樹はピンクの河童――ポペと名乗った生物を抱えて走っている。
どうせただ走っているだけではつまらないのと、2等身の河童程度持ち歩いたくらいでバテる体力はしていないので
途中まで連れて行くことにしたのだ。
――途中でまたカラスに連れ去られても後味悪いし。邪険にするのも可哀想だし。…かわいいし。
まるでぬいぐるみみたいな可愛いポペに、希樹はにっこりと笑顔になった。
「ご主人様の匂いがするでし!確実でしゅ!」
「……ポぺちゃんは河童なの?」
「ふふん♪ポペは純血の河童族でし!」
「そうなんだー!いっぱい聞きたいことあるけど何から聞いていいのかわかんないなぁ…」
ふんふんと嬉しそうに鼻歌を歌うポペは悪い生物には見えない。
見た目で判断するのもどうかと思うが、警戒する気が起きないほど気を抜いているのが分かる。
河童族……そんなものが日本に存在していたのかと驚いたが
そういえばバラの妖精も祝福もある世界なのだから
河童族がいてもおかしくないだろう……と希樹は納得してしまった。
「やっぱり河童って……普段川とかに住んでるの?」
「ん~~ポペみたいにご主人様がいる河童族はご主人様と住んでいるんでしゅ
でもご主人さまを持たない河童族は川とか、大人の河童族だけなら海にもいるでし!」
「頭のお皿は乾いたらやっぱりダメなの?」
「お皿は週に1回お水をかければいいでし。でもポペは毎日シャワー浴びてるでしゅ!!
ご主人様のしゃんぷーでお皿を洗ってるでしからいい香りでしゅ!!
ご主人様はしゃんぷーにこだわってて、フローラルないい香りなんでしー♪」
(――あー!このかわいい生物セフィラさんに教えてあげたい!!!)
そんなどうでもいい確信に触れない会話をしつつ走っていると、近くで大声が聞こえた。
それにポペも希樹も気づき足が止まる。
「ーーーっ!!!ーーー!」
しかもその声は聞き覚えのある留香の声で、無意識に希樹は歩きだそうとする。
だがポペは震えだし、希樹の胸元を叩くが全くびくともしない。
「ぽぺっ!そっちにいくでしゅ…?こわい気配がするでし!!!
ポペは嫌でしゅ!!ご主人様ぁぁぁぁ!!!!!」
「あ!ポペちゃん!!!ってはやっ!!」
大声に腕を緩めると震えだしたポペは
先ほど走っていた時とは比べ物にならないほど高速に走り去っていってしまった。
(――逃げ足は、早い。)
また一つ河童の生態に詳しくなった希樹は見えなくなったポペを心配しつつも、声のもとへと向かった。
◇◆◇
「ふざけるなっ!」
希樹が丁度角を曲がると、留香が同じ学校の男の子を殴ったその瞬間に出くわしてしまった。
男の子は殴られた勢いで後ろに倒れ、頬を真っ赤にしている。
あたりには誰もおらず、学校の裏の畑しかない閑静な通学路だ。
「っ希樹……!」
「…留香くん…」
留香は突然現れた希樹に驚いたあと、ハッとしたようにあたりを見渡す。
なにか確認したあと、安心したように息をついて、バツが悪そうに視線をそらした。
(なにがなんだか分からないけれど、修羅場みたい……。
……あんまり関わりたくないし、かかわらない方がいいのかな…。)
――とはいえ。
殴られた男の子はピクリともせず呆然としていて、少し心配だ。
希樹は殴られた男の子に近寄り、顔を覗き込むと口を切ってしまったのか少し血が流れていた。
どこか見覚えのある顔だし、このマラソンにいるということはきっと希樹と同じ学年なのだろう。
特筆した特徴という特徴はないけれど、男の子にしては丸い目はちょっと可愛らしい。
中肉中背でどこか気が弱そうな感じの態度は、昔の希樹にどこか似ているような気もする。
しかも体操着がボロボロで、もしかしたら一発だけでなく何発か留香に殴られたのかもしれない。
それに罪悪感を覚えて、希樹はポケットからタオル生地のハンカチを差し出す。
「大丈夫……?よかったら、これ使って」
「あ……あり、がとう…」
男の子は呆然としながらも無意識で差し出されたハンカチを受け取って
泣きそうな目元にぐりぐりと押し付けた。
「留香くん、なんでこんなこと!」
文句をいおうとすると留香は振り返らず、そのまま去っていく
「―――…っはぁ~~」
希樹は気が抜けて肩で息をした。
男の子に振り返ると、静かに泣いていて、そっとしておいて欲しいという空気が流れている。
まぁ喧嘩の1つや2つ、あるだろう。
理由を聞くなんて野暮なことしないでおこうと
もやもやしつつもマラソンに戻るため、道へと歩き出す。
けどその前に、と一瞬男の子に声をかけた。
「――そのハンカチ、あげる!」
男の子は一瞬、顔をあげると、歯を食いしばって頭を下げた。
――そのボロボロの姿は、やはり昔の自分に似ていた。
けれどペースを遅くして走るのは結構苦痛だ。
マラソン大会中一人で希樹はぼんやり考えた。
今日は学年のマラソン大会で途中までは友達2人とだらだらと歩いていた。
けれど到着順は成績にも関係あるので、友達と別れ少しスピードをあげた。
といっても希樹には歩いているようなもので、息なんて切れない。はっきり言って暇だった。
もきゅ…もきゅ…
(今日の晩ご飯はなんだろうな…。)
もきゅ…もきゅっきゅ!…もきゅ…
(お腹すいたからおやつのチョコレート…あとでこっそり食べよう…。)
もきゅ…もきゅ…もきゅもきゅもきゅ
(それにしても……。)
ちらりと希樹は横のピンク色の物体を薄目で見つめる。
(このピンクのペンギンみたいな河童みたいな生物なんだろう!?)
そう、先程から希樹の隣には子犬サイズの河童のようなペンギンのような
謎の2等身の生物が一生懸命走っていたのだ!
全身薄い桃のようなピンク、頭には黄色い河童の皿のようなものがちょこんと乗っている。
嘴はぬいぐるみのペンギンのように丸くポテッとしており、つぶらなまん丸な瞳が可愛らしい。
何故か苺柄のかぼちゃのパンツを履いていて、短い手足で一生懸命走っている。
ちなみにもきゅもきゅいっていたのは足音のようだ。
一瞬幻覚が見えたかと思った希樹だったけれど、ほっぺをつねっても現実だった。
――この子、意思疎通できるのかな?
っていうかなに?……か…河童…なの…?それとも…ペンギン…?
とはいえヒーヒーキューキュー辛そうに走っている河童?に話しかける雰囲気ではないので
とりあえず見るだけに留めておこう、と前を向くと急に足音がやんだ。
「きゅー!」
「か、カラス!」
カラスが河童?のパンツに爪を引っ掛けてさらっていってしまった。
まぁ……あれも自然の摂理か……と合掌しようと思っていたが
キューキュー泣いている河童(仮)とタマ先輩の姿が重なってしまった希樹は、足元にあった石をカラスめがけて投げつけた。
丁度足にあたってカラスは河童(仮)を落としたので、すかさずそれをキャッチした。
「きゅ~!!!きゅきゅ!ありがとうございますでし!!あなたは命の恩人でしゅ!!」
「しゃ、しゃべったーーー!!!」
なんとピンクの河童は日本語を話すようで、希樹にお礼をいってきたのであった。
◇◆◇
「――というわけで、かくかくぽぺぽぺなのでしゅ」
「なるほど、あなた――ポペちゃんのご主人様は忘れ物をしてしまい
それを渡すために一生懸命走って探していた……ってわけなんだね。」
「でしでし!まーったく困ったご主人様なんでしゅ!!」
「それにしてもこのあたりにいるっていうのは確実なの?」
今現在希樹はピンクの河童――ポペと名乗った生物を抱えて走っている。
どうせただ走っているだけではつまらないのと、2等身の河童程度持ち歩いたくらいでバテる体力はしていないので
途中まで連れて行くことにしたのだ。
――途中でまたカラスに連れ去られても後味悪いし。邪険にするのも可哀想だし。…かわいいし。
まるでぬいぐるみみたいな可愛いポペに、希樹はにっこりと笑顔になった。
「ご主人様の匂いがするでし!確実でしゅ!」
「……ポぺちゃんは河童なの?」
「ふふん♪ポペは純血の河童族でし!」
「そうなんだー!いっぱい聞きたいことあるけど何から聞いていいのかわかんないなぁ…」
ふんふんと嬉しそうに鼻歌を歌うポペは悪い生物には見えない。
見た目で判断するのもどうかと思うが、警戒する気が起きないほど気を抜いているのが分かる。
河童族……そんなものが日本に存在していたのかと驚いたが
そういえばバラの妖精も祝福もある世界なのだから
河童族がいてもおかしくないだろう……と希樹は納得してしまった。
「やっぱり河童って……普段川とかに住んでるの?」
「ん~~ポペみたいにご主人様がいる河童族はご主人様と住んでいるんでしゅ
でもご主人さまを持たない河童族は川とか、大人の河童族だけなら海にもいるでし!」
「頭のお皿は乾いたらやっぱりダメなの?」
「お皿は週に1回お水をかければいいでし。でもポペは毎日シャワー浴びてるでしゅ!!
ご主人様のしゃんぷーでお皿を洗ってるでしからいい香りでしゅ!!
ご主人様はしゃんぷーにこだわってて、フローラルないい香りなんでしー♪」
(――あー!このかわいい生物セフィラさんに教えてあげたい!!!)
そんなどうでもいい確信に触れない会話をしつつ走っていると、近くで大声が聞こえた。
それにポペも希樹も気づき足が止まる。
「ーーーっ!!!ーーー!」
しかもその声は聞き覚えのある留香の声で、無意識に希樹は歩きだそうとする。
だがポペは震えだし、希樹の胸元を叩くが全くびくともしない。
「ぽぺっ!そっちにいくでしゅ…?こわい気配がするでし!!!
ポペは嫌でしゅ!!ご主人様ぁぁぁぁ!!!!!」
「あ!ポペちゃん!!!ってはやっ!!」
大声に腕を緩めると震えだしたポペは
先ほど走っていた時とは比べ物にならないほど高速に走り去っていってしまった。
(――逃げ足は、早い。)
また一つ河童の生態に詳しくなった希樹は見えなくなったポペを心配しつつも、声のもとへと向かった。
◇◆◇
「ふざけるなっ!」
希樹が丁度角を曲がると、留香が同じ学校の男の子を殴ったその瞬間に出くわしてしまった。
男の子は殴られた勢いで後ろに倒れ、頬を真っ赤にしている。
あたりには誰もおらず、学校の裏の畑しかない閑静な通学路だ。
「っ希樹……!」
「…留香くん…」
留香は突然現れた希樹に驚いたあと、ハッとしたようにあたりを見渡す。
なにか確認したあと、安心したように息をついて、バツが悪そうに視線をそらした。
(なにがなんだか分からないけれど、修羅場みたい……。
……あんまり関わりたくないし、かかわらない方がいいのかな…。)
――とはいえ。
殴られた男の子はピクリともせず呆然としていて、少し心配だ。
希樹は殴られた男の子に近寄り、顔を覗き込むと口を切ってしまったのか少し血が流れていた。
どこか見覚えのある顔だし、このマラソンにいるということはきっと希樹と同じ学年なのだろう。
特筆した特徴という特徴はないけれど、男の子にしては丸い目はちょっと可愛らしい。
中肉中背でどこか気が弱そうな感じの態度は、昔の希樹にどこか似ているような気もする。
しかも体操着がボロボロで、もしかしたら一発だけでなく何発か留香に殴られたのかもしれない。
それに罪悪感を覚えて、希樹はポケットからタオル生地のハンカチを差し出す。
「大丈夫……?よかったら、これ使って」
「あ……あり、がとう…」
男の子は呆然としながらも無意識で差し出されたハンカチを受け取って
泣きそうな目元にぐりぐりと押し付けた。
「留香くん、なんでこんなこと!」
文句をいおうとすると留香は振り返らず、そのまま去っていく
「―――…っはぁ~~」
希樹は気が抜けて肩で息をした。
男の子に振り返ると、静かに泣いていて、そっとしておいて欲しいという空気が流れている。
まぁ喧嘩の1つや2つ、あるだろう。
理由を聞くなんて野暮なことしないでおこうと
もやもやしつつもマラソンに戻るため、道へと歩き出す。
けどその前に、と一瞬男の子に声をかけた。
「――そのハンカチ、あげる!」
男の子は一瞬、顔をあげると、歯を食いしばって頭を下げた。
――そのボロボロの姿は、やはり昔の自分に似ていた。
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