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第1章、異世界と私
第23話:故郷
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「瑞樹さん、ここでお別れですね」
智大大蔵の駅には、陽ざしが柔らかく差し込み、駅舎の鉄骨がキラキラと輝いていた。
「すいません、送って頂いて」
「いえいえ。あ、クロックタウンについてからはタクシーとか、ギルド行きバスに乗ってくださいね。」「いえ、近くなんで歩こうかなと」「ギルドは改札出て?」「右?」「左の東口です。バスは8番ですよ」
たった二日間とはいえ、このギルドメンバーやリョウと触れ合って、仲良くなった気になった。
「リョウさん、ありがとうございました」
私は素直にそう伝えた。何より、男友達がこの世界にもできたのは嬉しかった。
「こちらこそ。瑞樹さんのおかげで、新しい刺激をもらいました。それでは、また。これはマーガレットのエーテルを混ぜたクッキーです。朝食に食べてください。」
「ありがとうございます。ではまた。」
リョウとの別れを惜しみつつも、クロックタウンに戻る列車に乗り込んだ。
車内はすでに何人かの乗客が座っていて、私も空いた席に腰を下ろす。エンジンが静かに動き出し、車内に蒸気の音が響く。私は窓の外に広がる景色を眺めながら、しばし思いにふけった。
クロックタウンまでは蒸気列車でおよそ15分。3駅分の短い旅だが、自分の成長を感じる瞬間がいくつもあった。魔物に向き合った経験といい、この異世界に来たばかりの頃の私とは違う自分がいることに気づく。
エーテルの不思議な力、魔物の脅威、そして人々の優しさや逞しさが、少しずつ私の中に浸透していった。普段は食べないけど、口寂しくマーガレットのクッキーは、程よく甘く、さきほど駅で買った紅茶とよくあった。
「帰ってきたな」
クロックタウンの駅に降り立ち、一人、静かにそうつぶやく。私にとってクロックタウンは、異世界での新しい「家」になりつつあるのかもしれない。
「すいません。左に行ったと思ったんですが」「いや、お前さん、中央駅からギルドまで真っ直ぐだろ?」「きっと駅前の川が私を惑わせたのかも」「渡るだけだよ?」
途中で顔見知りのパン屋に会ったので、ギルドに連れてきてもらうと、すでにリリーや他のギルドメンバーは揃っていた。軽く挨拶を交わし、今回の調査と魔物討伐の一部始終を伝えた。
「ご苦労さまでした、瑞樹さん」
ギルド職員が静かに言葉をかけてくれた。その温かい声と笑顔に、改めて達成感を感じて笑顔を禁じ得ない。
ギルド職員から報酬が提示され、サインした。明日の朝には銀行に振り込みがされるらしい。
リリーが右手を私の肩に置いた。左手の義手はあの日オーバーヒートしてしまい、明日まで調整中だ。だが、リリーは変わらず、穏やかに微笑んでいる。
その静かな青い目に、初めて自分の力で得た報酬の実感が湧き上がった。異世界で自分の足跡を刻むことができたのだ。
「ありがとうございます」
少し談笑したあと、その場を後にする。クロックタウンの空気が私を迎え入れるように包み込む中、家への道を歩きながら、一つの思いがふと浮かんだ。
湯船に浸かりながら、私はリリーとの出会いを思い返していた。目覚めた時からいてくれたリリー。もうすぐ終わってしまうこの時間。
「せっかくだから、初めての報酬でリリーにお礼をしよう」
そんな思いがふと湯の中で浮かんできた。リリーに何かを贈りたい。具体的なアイディアはまだないが、その考えはとても魅力的に思えた。
智大大蔵の駅には、陽ざしが柔らかく差し込み、駅舎の鉄骨がキラキラと輝いていた。
「すいません、送って頂いて」
「いえいえ。あ、クロックタウンについてからはタクシーとか、ギルド行きバスに乗ってくださいね。」「いえ、近くなんで歩こうかなと」「ギルドは改札出て?」「右?」「左の東口です。バスは8番ですよ」
たった二日間とはいえ、このギルドメンバーやリョウと触れ合って、仲良くなった気になった。
「リョウさん、ありがとうございました」
私は素直にそう伝えた。何より、男友達がこの世界にもできたのは嬉しかった。
「こちらこそ。瑞樹さんのおかげで、新しい刺激をもらいました。それでは、また。これはマーガレットのエーテルを混ぜたクッキーです。朝食に食べてください。」
「ありがとうございます。ではまた。」
リョウとの別れを惜しみつつも、クロックタウンに戻る列車に乗り込んだ。
車内はすでに何人かの乗客が座っていて、私も空いた席に腰を下ろす。エンジンが静かに動き出し、車内に蒸気の音が響く。私は窓の外に広がる景色を眺めながら、しばし思いにふけった。
クロックタウンまでは蒸気列車でおよそ15分。3駅分の短い旅だが、自分の成長を感じる瞬間がいくつもあった。魔物に向き合った経験といい、この異世界に来たばかりの頃の私とは違う自分がいることに気づく。
エーテルの不思議な力、魔物の脅威、そして人々の優しさや逞しさが、少しずつ私の中に浸透していった。普段は食べないけど、口寂しくマーガレットのクッキーは、程よく甘く、さきほど駅で買った紅茶とよくあった。
「帰ってきたな」
クロックタウンの駅に降り立ち、一人、静かにそうつぶやく。私にとってクロックタウンは、異世界での新しい「家」になりつつあるのかもしれない。
「すいません。左に行ったと思ったんですが」「いや、お前さん、中央駅からギルドまで真っ直ぐだろ?」「きっと駅前の川が私を惑わせたのかも」「渡るだけだよ?」
途中で顔見知りのパン屋に会ったので、ギルドに連れてきてもらうと、すでにリリーや他のギルドメンバーは揃っていた。軽く挨拶を交わし、今回の調査と魔物討伐の一部始終を伝えた。
「ご苦労さまでした、瑞樹さん」
ギルド職員が静かに言葉をかけてくれた。その温かい声と笑顔に、改めて達成感を感じて笑顔を禁じ得ない。
ギルド職員から報酬が提示され、サインした。明日の朝には銀行に振り込みがされるらしい。
リリーが右手を私の肩に置いた。左手の義手はあの日オーバーヒートしてしまい、明日まで調整中だ。だが、リリーは変わらず、穏やかに微笑んでいる。
その静かな青い目に、初めて自分の力で得た報酬の実感が湧き上がった。異世界で自分の足跡を刻むことができたのだ。
「ありがとうございます」
少し談笑したあと、その場を後にする。クロックタウンの空気が私を迎え入れるように包み込む中、家への道を歩きながら、一つの思いがふと浮かんだ。
湯船に浸かりながら、私はリリーとの出会いを思い返していた。目覚めた時からいてくれたリリー。もうすぐ終わってしまうこの時間。
「せっかくだから、初めての報酬でリリーにお礼をしよう」
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