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第3話:街角と水仙の夢
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「うん?あなたはどこから入り込んだので?」『ちゅう』「この翻訳機、なかなか素晴らしい」『ちゅ』「あ、こんなとこに!すいません、エリザベスがご迷惑を」「このハムスターさんはエリザベスさんですか」「はは、ハムスターではなく天竺鼠です。この病棟は怪我人の短期病棟なので、ペット持ち込み可なんですよ」『ちう!』「なるほど、かわいいですね」「でしょう?」
リリーはあのまま、私が落ち着くことを優先し、私に対する詮索もせずに立ち去ってくれた。
広辞苑程度の分厚い本をめくり始めれば、もう止まらなかった。
エーテルとは生命エネルギーであり、それをエネルギー源として動くエーテルギア――機械の記述が目を引く。
新しい技術、新しい世界。初めてテレビに触れた日のように、唐突に世界が広がっていく感覚に身震いがする。
夜、窓の外を眺めると、月の光を浴びた青い天空の城が空に浮かぶ、その絵に、息を呑む。
迎えた翌朝、軽い運動をしていたら、リリーからお誘いを受けた。「お加減よければ、少し街を散策してみませんか?」と。
今の私にとって、情報こそが最優先だ。彼女の誘いに「ありがとう」と答える。笑顔が抑えきれなかった。
「これは‥」
病院を一歩出れば石造りの建物が並び、そこかしこに歯車や蒸気管が組み込まれている。空には蒸気船が浮かび、異世界に来たことを強く感じさせる。
「今日は中央街にいきましょうか。ここから歩いて30分ぐらいです。もし疲れてきたらバスやメトロにしましょう。ブランチのおすすめはパンケーキですが、橘さんは甘いものはお好きですか」
「ええ、嫌いではないです。」
花の香りがする歩道の脇を宙に浮いている車が走っている。そんな並木道をリリーと会話しながら歩いていると、ふと、視線を感じる。ショーウィンドウに映された私が、私を見つめ返してきた。それは随分と若い私だった。
元の世界の家族や友人たちと顔を思い出す。もう、会えないことが実感として襲ってきた。それは、本当に、寂しかった。
見上げた空には、ゆったりと浮かぶ蒸気船や機械仕掛けの鳥が飛び交い、私はどこか、途方にくれてしまった。ひとり、時間と世界に取り残され、私が私であることを誰も知らないと、ガラスに写った私に心で溢した。
「どうですか、クロックタウンは?」とリリーが誇らしげに問いかけてきた。私がこの街に驚き、言葉がでないと思われたのだろう。事実、私はしばらく言葉が出ず、ただ頷くしかなかった。
下っ腹に力を込めて、改めて見返せば、この街は機械と人々が共存し、それがまるで自然のように調和している。リリーが誇らしげなのは当然だろう。
「まるで街全体が生き物のようです」
「そうなんです。この街が特に豊かなのは、近くに世界樹があるからなんですよ」
そのまま、話が途切れそうで視線を彷徨わせると黄色い水仙の花が咲いているのが見えた。思わず「この花は水仙ですね?」と尋ねると、リリーは微笑んだ。
「ええ。水仙には『夢を追いかける』という意味があります。橘さんも、ここエルヴァニアの我が街クロックタウンで新しい夢を見つけられるかもしれませんね」
その言葉が胸に響いた。もう、私は異世界にいる。新たな「夢」を私は、追いかけるのだろうか。未知の世界での新しい日々が始まろうとしているのを、私は確かに感じていた。
リリーはあのまま、私が落ち着くことを優先し、私に対する詮索もせずに立ち去ってくれた。
広辞苑程度の分厚い本をめくり始めれば、もう止まらなかった。
エーテルとは生命エネルギーであり、それをエネルギー源として動くエーテルギア――機械の記述が目を引く。
新しい技術、新しい世界。初めてテレビに触れた日のように、唐突に世界が広がっていく感覚に身震いがする。
夜、窓の外を眺めると、月の光を浴びた青い天空の城が空に浮かぶ、その絵に、息を呑む。
迎えた翌朝、軽い運動をしていたら、リリーからお誘いを受けた。「お加減よければ、少し街を散策してみませんか?」と。
今の私にとって、情報こそが最優先だ。彼女の誘いに「ありがとう」と答える。笑顔が抑えきれなかった。
「これは‥」
病院を一歩出れば石造りの建物が並び、そこかしこに歯車や蒸気管が組み込まれている。空には蒸気船が浮かび、異世界に来たことを強く感じさせる。
「今日は中央街にいきましょうか。ここから歩いて30分ぐらいです。もし疲れてきたらバスやメトロにしましょう。ブランチのおすすめはパンケーキですが、橘さんは甘いものはお好きですか」
「ええ、嫌いではないです。」
花の香りがする歩道の脇を宙に浮いている車が走っている。そんな並木道をリリーと会話しながら歩いていると、ふと、視線を感じる。ショーウィンドウに映された私が、私を見つめ返してきた。それは随分と若い私だった。
元の世界の家族や友人たちと顔を思い出す。もう、会えないことが実感として襲ってきた。それは、本当に、寂しかった。
見上げた空には、ゆったりと浮かぶ蒸気船や機械仕掛けの鳥が飛び交い、私はどこか、途方にくれてしまった。ひとり、時間と世界に取り残され、私が私であることを誰も知らないと、ガラスに写った私に心で溢した。
「どうですか、クロックタウンは?」とリリーが誇らしげに問いかけてきた。私がこの街に驚き、言葉がでないと思われたのだろう。事実、私はしばらく言葉が出ず、ただ頷くしかなかった。
下っ腹に力を込めて、改めて見返せば、この街は機械と人々が共存し、それがまるで自然のように調和している。リリーが誇らしげなのは当然だろう。
「まるで街全体が生き物のようです」
「そうなんです。この街が特に豊かなのは、近くに世界樹があるからなんですよ」
そのまま、話が途切れそうで視線を彷徨わせると黄色い水仙の花が咲いているのが見えた。思わず「この花は水仙ですね?」と尋ねると、リリーは微笑んだ。
「ええ。水仙には『夢を追いかける』という意味があります。橘さんも、ここエルヴァニアの我が街クロックタウンで新しい夢を見つけられるかもしれませんね」
その言葉が胸に響いた。もう、私は異世界にいる。新たな「夢」を私は、追いかけるのだろうか。未知の世界での新しい日々が始まろうとしているのを、私は確かに感じていた。
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