35 / 35
第三十五話 問題は解決したもよう
しおりを挟む
まあそんなわけで、ここ数日は鎌倉さんと浜岡さんが不在になることが増えた。公園で何が起きているのはすごく気になったけど、公園に近寄るなと言われていたせいもあって、私には情報がまったく入ってこない。というか、一般職員にはまったく経過報告はなかった。
「今どうなっているのか、神様は知らないんですか?」
パソコン前でまったりとお茶を飲んでいる神様に質問をする。
「わしも管轄外じゃからのう。じゃが、公園の整備工事はまだ再開されておらんようじゃな」
「てことは、現在進行形で鎌倉さんと浜岡さんはお仕事中と」
「まあそういうことじゃ」
そこへ浜岡さんが帰ってきた。
「あ、お帰りなさい、浜岡さん」
「ただいま。もー、これ見てよ、ひどくない?」
そう言って自分の肩をさす。そこは白く汚れていた。
「どうしたんですか、それ」
「事務所前でカラスにやられた。これのクリーニング代、出るかなあ……」
油断したなあとブツブツ言いながら、浜岡さんは課長のデスクへと向かう。浜岡さんとしゃべったのは五日ぶりだ。それまでは、なんとなく避けられているような気がしていた。今ああやって話しかけられたってことは、もしかして公園の件は解決したんだろうか?
「あれって、公園のカラスのしわざですかね?」
「カラスの最後っ屁かもしれんの」
そして浜岡さんから遅れること三時間。鎌倉さんが帰ってきた。
「お帰りなさい、鎌倉さん」
「ただいま。あ、羽倉さん、もういつもの通勤ルートに戻っても大丈夫だからね」
「そうなんですね。良かったです、なにげに遠回りで面倒だったんですよ」
鎌倉さんは私の言葉にニコニコしながら、浜岡さんと同じく課長のデスクへと向かう。ここ数日は鎌倉さんも私のことを、というか他の一般職員のことをなんとなく避けていた。こうやって声をかけてくれたということは、やはり問題は解決したということなんだろう。
「鎌倉さんは最後っ屁攻撃、くらってなかったですね」
「相手にも強い弱いがわかるからのう」
「浜岡さんが弱いって判断されたんですか?」
「鎌倉さんと比べてじゃがの」
比較対象が鎌倉さんならしかたないのかもしれないけれど、浜岡さんがちょっと気の毒と思わないでもない。
「通勤ルート、本当に戻しても大丈夫なのかな。明日から浜岡さんより弱い私が、カラスの攻撃対象になったりして……」
季節外れではあるけれど、公園前は日傘でもさして歩こうかと考える。
「最後っ屁じゃから明日からは心配ないじゃろ」
「なるほど」
とりあえず傘だけは用意しておこう。
「どうやら解決したみたい。公園の噴水は残ることになったそうよ」
課長に呼ばれていた榊さんが戻ってきた。
「残ることになったってことは、最初は違ったんですか?」
「管理の問題で撤去する予定になってたんですって」
「やっぱり噴水の神様が今回のことの中心だったんですね」
「そうみたいね」
水の上でフワフワと浮いていたお人形。やはりあれが神様だったのだ。
「噴水が残って万々歳なのに、浜岡さんは最後っ屁攻撃をくらっちゃったのか」
浜岡さんからしたら、とんだとばっちりかもしれない。
「カラスなりの意趣返しだったのかな」
作業をする人達もハトやスズメに襲われていたみたいだし。
「やっぱりとばっちり感はんぱない」
そう呟いてから笑ってしまった。ま、浜岡さんからしたら笑い事じゃないんだろうけど。
+++++
そして次の日、いつもの通勤ルートに戻した私は公園前を通った。公園では作業をする人達がすでに集まっていて、機材を公園に運び込んでいる。こころなしか頭上を気にしているのは、きっとハトやスズメの攻撃を警戒してのことだ。
―― 気持ちはわかるかな…… ――
カラスの鳴き声が響いた。おじさん達はギョッとなって頭上を見上げる。公園を見下ろせる電線にカラスがとまっていた。
―― もしかしてあの子、浜岡さんにウンチを落としたカラス君だったり? ――
見上げていたらカラスと目があった。
「あ、やばいんじゃ?」
歩くスピードをあげてその場を離れる。少し離れた場所で上を見上げた。
「いる~~」
カラスが電線にとまってこっちを見下ろしている。あの子、絶対に浜岡さんにウンチを落としたカラスだ。
「も~~浜岡さんがウンチになんて食らうから~~!」
カラスは結局、事務所まで私についてきた。玄関でもう一度見上げると「カァ」と元気よく声をあげ、そのまま飛び去っていった。
「は~~良かった、ウンチ落とされなくて……」
やれやれと安堵しながら事務所に入る。
「おはようございます~~! あ、浜岡さーん、私、朝からカラスにストーキングされたんですけど!」
「え、それ俺のせい?」
朝のコーヒーを飲んでいた浜岡さんが顔をあげた。
「だってあのカラス、絶対に浜岡さんに白いのを落とした子ですよ。まだ攻撃する機会を狙ってるのかも」
「マジかー……クリーニング代、バカにならないんだけどなあ」
そう言いながらため息をつく。
「もし万が一、私があのカラスにウンチを落とされたら、クリーニング代は浜岡さんに請求しても良いんですか?」
「え、なんで俺?」
「だってそうなったら、私、完全にもらい事故ですし」
「俺だって被害者なんだけどなあ……」
「どうした? またカラス?」
お茶を飲みながら事務所内をうろうろしていた課長が、私達に声をかけてきた。
「そうなんですよ。カラスが公園からずっとついてきたんです。絶対に浜岡さんを探してるんだと」
「そりゃ困ったヤツに好かれちゃったね、浜岡君。ご愁傷様」
「もっと可愛い動物に好かれたい……」
「カラスもよく見ると可愛いよ」
「それは課長がフンを落とされてないからですよ」
そんなわけで浜岡さんの災難はもう少し続きそうだ。
浜岡さんのことはともかく、公園問題は無事解決ということになった。実際のところ、課長が土木事務所にどんな貸しを作ったのか、それから鎌倉さんと浜岡さんがどんなことをしたのか、その辺のことはまったくわからないままだけど。
「今どうなっているのか、神様は知らないんですか?」
パソコン前でまったりとお茶を飲んでいる神様に質問をする。
「わしも管轄外じゃからのう。じゃが、公園の整備工事はまだ再開されておらんようじゃな」
「てことは、現在進行形で鎌倉さんと浜岡さんはお仕事中と」
「まあそういうことじゃ」
そこへ浜岡さんが帰ってきた。
「あ、お帰りなさい、浜岡さん」
「ただいま。もー、これ見てよ、ひどくない?」
そう言って自分の肩をさす。そこは白く汚れていた。
「どうしたんですか、それ」
「事務所前でカラスにやられた。これのクリーニング代、出るかなあ……」
油断したなあとブツブツ言いながら、浜岡さんは課長のデスクへと向かう。浜岡さんとしゃべったのは五日ぶりだ。それまでは、なんとなく避けられているような気がしていた。今ああやって話しかけられたってことは、もしかして公園の件は解決したんだろうか?
「あれって、公園のカラスのしわざですかね?」
「カラスの最後っ屁かもしれんの」
そして浜岡さんから遅れること三時間。鎌倉さんが帰ってきた。
「お帰りなさい、鎌倉さん」
「ただいま。あ、羽倉さん、もういつもの通勤ルートに戻っても大丈夫だからね」
「そうなんですね。良かったです、なにげに遠回りで面倒だったんですよ」
鎌倉さんは私の言葉にニコニコしながら、浜岡さんと同じく課長のデスクへと向かう。ここ数日は鎌倉さんも私のことを、というか他の一般職員のことをなんとなく避けていた。こうやって声をかけてくれたということは、やはり問題は解決したということなんだろう。
「鎌倉さんは最後っ屁攻撃、くらってなかったですね」
「相手にも強い弱いがわかるからのう」
「浜岡さんが弱いって判断されたんですか?」
「鎌倉さんと比べてじゃがの」
比較対象が鎌倉さんならしかたないのかもしれないけれど、浜岡さんがちょっと気の毒と思わないでもない。
「通勤ルート、本当に戻しても大丈夫なのかな。明日から浜岡さんより弱い私が、カラスの攻撃対象になったりして……」
季節外れではあるけれど、公園前は日傘でもさして歩こうかと考える。
「最後っ屁じゃから明日からは心配ないじゃろ」
「なるほど」
とりあえず傘だけは用意しておこう。
「どうやら解決したみたい。公園の噴水は残ることになったそうよ」
課長に呼ばれていた榊さんが戻ってきた。
「残ることになったってことは、最初は違ったんですか?」
「管理の問題で撤去する予定になってたんですって」
「やっぱり噴水の神様が今回のことの中心だったんですね」
「そうみたいね」
水の上でフワフワと浮いていたお人形。やはりあれが神様だったのだ。
「噴水が残って万々歳なのに、浜岡さんは最後っ屁攻撃をくらっちゃったのか」
浜岡さんからしたら、とんだとばっちりかもしれない。
「カラスなりの意趣返しだったのかな」
作業をする人達もハトやスズメに襲われていたみたいだし。
「やっぱりとばっちり感はんぱない」
そう呟いてから笑ってしまった。ま、浜岡さんからしたら笑い事じゃないんだろうけど。
+++++
そして次の日、いつもの通勤ルートに戻した私は公園前を通った。公園では作業をする人達がすでに集まっていて、機材を公園に運び込んでいる。こころなしか頭上を気にしているのは、きっとハトやスズメの攻撃を警戒してのことだ。
―― 気持ちはわかるかな…… ――
カラスの鳴き声が響いた。おじさん達はギョッとなって頭上を見上げる。公園を見下ろせる電線にカラスがとまっていた。
―― もしかしてあの子、浜岡さんにウンチを落としたカラス君だったり? ――
見上げていたらカラスと目があった。
「あ、やばいんじゃ?」
歩くスピードをあげてその場を離れる。少し離れた場所で上を見上げた。
「いる~~」
カラスが電線にとまってこっちを見下ろしている。あの子、絶対に浜岡さんにウンチを落としたカラスだ。
「も~~浜岡さんがウンチになんて食らうから~~!」
カラスは結局、事務所まで私についてきた。玄関でもう一度見上げると「カァ」と元気よく声をあげ、そのまま飛び去っていった。
「は~~良かった、ウンチ落とされなくて……」
やれやれと安堵しながら事務所に入る。
「おはようございます~~! あ、浜岡さーん、私、朝からカラスにストーキングされたんですけど!」
「え、それ俺のせい?」
朝のコーヒーを飲んでいた浜岡さんが顔をあげた。
「だってあのカラス、絶対に浜岡さんに白いのを落とした子ですよ。まだ攻撃する機会を狙ってるのかも」
「マジかー……クリーニング代、バカにならないんだけどなあ」
そう言いながらため息をつく。
「もし万が一、私があのカラスにウンチを落とされたら、クリーニング代は浜岡さんに請求しても良いんですか?」
「え、なんで俺?」
「だってそうなったら、私、完全にもらい事故ですし」
「俺だって被害者なんだけどなあ……」
「どうした? またカラス?」
お茶を飲みながら事務所内をうろうろしていた課長が、私達に声をかけてきた。
「そうなんですよ。カラスが公園からずっとついてきたんです。絶対に浜岡さんを探してるんだと」
「そりゃ困ったヤツに好かれちゃったね、浜岡君。ご愁傷様」
「もっと可愛い動物に好かれたい……」
「カラスもよく見ると可愛いよ」
「それは課長がフンを落とされてないからですよ」
そんなわけで浜岡さんの災難はもう少し続きそうだ。
浜岡さんのことはともかく、公園問題は無事解決ということになった。実際のところ、課長が土木事務所にどんな貸しを作ったのか、それから鎌倉さんと浜岡さんがどんなことをしたのか、その辺のことはまったくわからないままだけど。
3
お気に入りに追加
339
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
猫と幼なじみ
鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。
ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。
※小説家になろうでも公開中※
青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -
鏡野ゆう
キャラ文芸
特別国家公務員の安住君は商店街裏のお寺の息子。久し振りに帰省したら何やら見覚えのある青い物体が。しかも実家の本堂には自分専用の青い奴。どうやら帰省中はこれを着る羽目になりそうな予感。
白い黒猫さんが書かれている『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
とクロスオーバーしているお話なので併せて読むと更に楽しんでもらえると思います。
そして主人公の安住君は『恋と愛とで抱きしめて』に登場する安住さん。なんと彼の若かりし頃の姿なのです。それから閑話のウサギさんこと白崎暁里は饕餮さんが書かれている『あかりを追う警察官』の籐志朗さんのところにお嫁に行くことになったキャラクターです。
※キーボ君のイラストは白い黒猫さんにお借りしたものです※
※饕餮さんが書かれている「希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々」、篠宮楓さんが書かれている『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』の登場人物もちらりと出てきます※
※自サイト、小説家になろうでも公開中※
タロウちゃんと私達
鏡野ゆう
キャラ文芸
『空と彼女と不埒なパイロット』に登場した社一尉と姫ちゃん、そして羽佐間一尉と榎本さんがそれぞれ異動した後の某関東地方の空自基地。そこに残されたF-2戦闘機のタロウちゃん(命名は姫ちゃん)に何やら異変が起きている模様です。異動になった彼等の後を任されたパイロットと整備員達が遭遇したちょっと不思議なお話です。
『空と彼女と不埒なパイロット』に引き続き、関東方面の某基地にF-2戦闘機が配備されたという架空の設定になっています。
横浜で空に一番近いカフェ
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
大卒二年目のシステムエンジニア千晴が出会ったのは、千年を生きる妖狐。
転職を決意した千晴の転職先は、ランドマークタワー高層にあるカフェだった。
最高の展望で働く千晴は、新しい仕事を通じて自分の人生を考える。
新しい職場は高層カフェ! 接客業は忙しいけど、眺めは最高です!
ローリン・マイハニー!
鯨井イルカ
キャラ文芸
主人公マサヨシと壺から出てきた彼女のハートフル怪奇コメディ
下記の続編として執筆しています。
「君に★首ったけ!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/771412269/602178787
2018.10.16ジャンルをキャラ文芸に変更しました
2018.12.21完結いたしました
僕の主治医さん
鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。
【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
こちら京都府警騎馬隊本部~私達が乗るのはお馬さんです
鏡野ゆう
ライト文芸
ここにいるおまわりさん達が乗るのは、パトカーでも白バイでもなくお馬さんです。
京都府警騎馬隊に配属になった新米警察官と新米お馬さんのお話。
※このお話はフィクションです。実在の京都府警察騎馬隊とは何ら関係はございません※
※カクヨム、小説家になろうでも公開中※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
源氏に平家ですかね(笑)
そうなんですよね。
忙しいってゴミ増えますよね。
車の後部にお城みたいなシールがあって何処で買えるのか訪ねたら、知り合いから『アレは車に突っ込まれるから、貼らないように。あと着けてる車を見つけたら車間距離気持ち多めに開けなさい』と言われました。
関東の方が分かるかな?(笑)
続き楽しみです。
感想ありがとうございます!
留守居役は凸凹コンビみたいにしてみました。
神様達、お出かけ前で浮かれてたのか、忘れちゃってたんですかねー
町内の老人会の旅行みたいな感じで出かけたっぽいです(笑)
そんなシールが( ゚д゚)!!
自衛隊……ブルーインパルスの神様とか戦車の神様とかいるかな?
護衛艦に猫神様がいるぐらいなので、戦車やブルーにもいそうです!
Σ(;・ω・)ダイエットの神様はいますか?
ダイエットにくわしいヘルスメーターの神様はいるかもしれません( ^ ^ ♪