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第二十八話 神様お休み中 2
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「燃やすって、そんな簡単に言いますけど、燃えるモノなんですか? そこに捨てられてるのって」
「だって今、カエルと猫も言ったろ? 火の神様に燃やしてもらうって」
思わず納得しかけてから「いやいや待って」となった。井戸の中で暴れているのは、ただのポイ捨てされたゴミではなく(というか、そもそもゴミは暴れないから!)、神様的なレベルのゴミなのだ。いくら特殊技能持ち職員の浜岡さんでも、そう簡単に燃やせるはずがない。
「それは神様だからでしょ? 浜岡さんはどこから見ても人間じゃないですか」
「そこが特殊技能持ち職員の、すごいところなんだよ~。ダテに毎月、特殊技能手当をもらってるわけじゃないんだよ~」
浜岡さんは偉そうにふんぞり返ってみせる。
「へー……そうなんですかー……」
「だから棒読みはやめようね、羽倉さん。今からちゃんと説明するから。まずは、これ」
顔をしかめつつ、上着の内ポケットから折りたたまれた白い紙を出した。
「いくら特殊技能持ちとは言え、そう簡単にあれこれできるわけじゃないんだ。羽倉さんが言うように、僕はただの人間だからね。もちろんできる人もいるけど、そういう人達は日本でも、片手ぐらいの数しかいない」
浜岡さんは片手で指を三本たてる。つまり、あれこれ何でもできる日本人は、三人しかいないということらしい。
「ちなみに鎌倉さんは、この三本指には含まれていないからね」
「え、そうなんですか?」
「それでも俺達に比べると、段違いにあれこれできる人だけどね。そんなわけで普通の特殊技能持ちの職員は、たいてい補助的な道具を使う。それがこれ」
「もしかしてそれ、お札?」
浜岡さんが手に持っている、何も書かれていない白い紙に視線を戻す。
「もしかしなくてもお札。一見なにも書かれていないただの紙だけど、そこいらで手に入るお札とは、効力のレベルが違う代物だ。ちなみにこれは、火の神様の力を宿したお札だから、その手のものはひっじょーによく燃える」
「ひっじょーにってことは……あそこで暴れているゴミもってことですね」
井戸の上でバタバタしているものを指さす。
「そのとおり。ちなみに、風の神様や水の神様のお札もあるよ」
浜岡さんはポケットからライターを取り出した。
「そのライターも特別製なんですか?」
期待しつつ質問をする。単なるライターに見えるけど、実はどこかの古い神様が宿っているライターとか?
「これはそのへんで売られてる、使い捨ての百円ライターだよ」
「えー……」
神様の力を宿したお札に火をつけるのが、そのへんで売られている百円ライターだなんて。ちょっとどころか、かなりガッカリだ。
「もっと高価なライターを使うものかと思ってましたよ……っていうか、高価なライターを使ってくださいよ~~」
「俺はタバコを吸わないから、これで十分なんだよ。喫煙者の先輩達は、もっと高級なライターを使ってるよ。しかもかなり年季が入ったやつ。あれぐらい古いモノなら、そのうち付喪神化するんじゃないかなあ」
誰かのライターを思い浮かべたらしく、浜岡さんはニヤニヤと笑う。
「それから、お札は特殊技能持ちの職員が使わないと効力を発揮しない。羽倉さんが火をつけても、普通に燃えるだけなんだよ」
「へえ……誰でも使えるわけじゃないんだ」
『説明は後でするでござるよ!』
『さっさと燃やすでおじゃる!」
フタと一緒にバタバタと上下に激しく揺れながら、とうとうカエルと招き猫が声をあげた。
「ああ、そうだった。羽倉さん、そっちに行って、カエルと猫と一緒にフタを押さえていてくれるかな」
「良いですけど、だいじょうぶなんですよね? 私達、燃えたりしませんよね?」
「僕をなんだと思ってるのさ。これでも国家公務員だよ?」
「浜岡さんがお坊さんでも神主さんでも神父様でも、心配なものは心配ですよ。なにか異変が起きたら、すぐに逃げますから」
今の状態だって十分に異変が起きているけれども。
「信用ないなあ……」
「たとえ浜岡さんが三本指の一人でも、心配ですから!」
恐る恐るバタバタと暴れるフタを押さえこむ。こちらの恐怖を感じ取ったのか、フタがさらに激しく暴れだした。
「なんか、ますます暴れてるんですけど! こんな状態で、よく二匹だけで押さえてたもんですよ!」
『まったくでござる!』
『そろそろ限界でおじゃる――!!』
『すまぬ~~出遅れた~~』
のんきな声とともに背後から黒い影が飛んできて、フタの上にドスンと降り立った。現れたのは……どう見ても狸の置物だった。
―― また変なのが現われた! ――
『おぬし、なにをしておったのだ!』
『まったくでおじゃる!』
『すまぬ~~寝坊じゃ~~』
狸は激しく揺れながらガハハッと笑った。いきなりの出現にあせったが、どうやらカエルと招き猫のお知り合いらしい。
『助っ人がいるではないか~~良かったの~~』
『良くないでござる!』
『留守居役として恥でおじゃる!!』
押さえるのが三匹に増えても、フタはおとなしくなりそうにない。
「あの、浜岡さん! さっさと燃やしちゃってくださいよ、この中のゴミ!!」
「はいはい、少々お待ちを」
浜岡さんはノンビリとそう答え、ライターでお札に火をつけた。火がつくと同時に、それまで真っ白だった表面に模様が浮き上がる。そして浜岡さんは、フタの上で飛び跳ねている三匹に目をやった。
「じゃあ、これを井戸の中に入れるので、合図したらフタを開けてくれるかな」
『承知でござる』
『承知でおじゃる』
『承知したよ~~』
まるで今まで何度も同じことをしていたように、私を除く三匹と一人は息を合わせ、フタを動かし火のついたお札を井戸に放りこむ。とたんにフタが激しく上へ向かって跳ねだした。
「はい、しっかり押さえて!」
「こんなの無理です――!!」
「ガンバレガンバレ~~」
「てか、なんでそこで笑いながら立ってますかね?! 普通、一緒に押さえませんか?!」
その場で私達に声援らしきものを送っている相手をにらむ。
「俺まで両手をふさいだら、不測の事態が起きた時に困るじゃないか。まあ、笑ったのは申し訳ないけど」
「不測の事態とか……!!」
そんなことが起きるかもしれないのに、資格持ちじゃない自分にこんなことをさせるなんて、あまりにもあんまりじゃ?!と言いかけたところで、ドンッというかボンッというか派手な音がして、地面が大きく震えた。そしてフタが吹き飛び、真っ黒な煙が立ちあがる。
「うっわ、昔の機関車なみの煙が出たねえ」
「浜岡さん、笑い事じゃない~~!」
『煙が真っ黒でござる!』
『誰じゃ、燃えないゴミまで放り込んだのは!
『分別されていないゴミのせいで、みんな、煤まみれだね~~』
煙のせいで、その場にいた全員が激しくせき込んだ。
「分別してないせいで大変なことになったね」
煙が薄らいできたところで、浜岡さんは肩の煤をはらいながら、苦笑いをする。
「神様のゴミも分別が必要とか、もうシャレになりませんよ……」
ブツブツ言いながら、自分の服をチェックをした。あっちこっちに煤がついて、せっかくの服が黒い水玉模様で台無しだ。
「これ、普通の洗濯とクリーニングで落ちるんですか?」
「ここまで凄いの初めてだけど、だいじょうぶだと思うよ。いつも普通に洗濯してるし、俺」
「だったら良いんですけど……」
家の洗濯機を使うのに抵抗を感じてしまう。八百万ハロワ近くのコインランドリーを利用しようか。あそこなら、私にも見える神様が常駐しているかもしれないし。
『そのほうらが来てくれて助かったでござるよ。ゴミはちゃんと燃え尽きたようでござるし』
『ああ、立ち去る前に煤をはらうでおじゃるよ。よけいなモノまで混じっておったし、普通の人間には障りがあるでおじゃる』
『燃やしてくれたお礼に、僕らがはらってあげるよ~~』
そう言いながら三匹が取り出したのは、どこから見てもドラッグストアで売られている掃除用のハタキだった。
―― え、はらうって、それで……? ――
「だって今、カエルと猫も言ったろ? 火の神様に燃やしてもらうって」
思わず納得しかけてから「いやいや待って」となった。井戸の中で暴れているのは、ただのポイ捨てされたゴミではなく(というか、そもそもゴミは暴れないから!)、神様的なレベルのゴミなのだ。いくら特殊技能持ち職員の浜岡さんでも、そう簡単に燃やせるはずがない。
「それは神様だからでしょ? 浜岡さんはどこから見ても人間じゃないですか」
「そこが特殊技能持ち職員の、すごいところなんだよ~。ダテに毎月、特殊技能手当をもらってるわけじゃないんだよ~」
浜岡さんは偉そうにふんぞり返ってみせる。
「へー……そうなんですかー……」
「だから棒読みはやめようね、羽倉さん。今からちゃんと説明するから。まずは、これ」
顔をしかめつつ、上着の内ポケットから折りたたまれた白い紙を出した。
「いくら特殊技能持ちとは言え、そう簡単にあれこれできるわけじゃないんだ。羽倉さんが言うように、僕はただの人間だからね。もちろんできる人もいるけど、そういう人達は日本でも、片手ぐらいの数しかいない」
浜岡さんは片手で指を三本たてる。つまり、あれこれ何でもできる日本人は、三人しかいないということらしい。
「ちなみに鎌倉さんは、この三本指には含まれていないからね」
「え、そうなんですか?」
「それでも俺達に比べると、段違いにあれこれできる人だけどね。そんなわけで普通の特殊技能持ちの職員は、たいてい補助的な道具を使う。それがこれ」
「もしかしてそれ、お札?」
浜岡さんが手に持っている、何も書かれていない白い紙に視線を戻す。
「もしかしなくてもお札。一見なにも書かれていないただの紙だけど、そこいらで手に入るお札とは、効力のレベルが違う代物だ。ちなみにこれは、火の神様の力を宿したお札だから、その手のものはひっじょーによく燃える」
「ひっじょーにってことは……あそこで暴れているゴミもってことですね」
井戸の上でバタバタしているものを指さす。
「そのとおり。ちなみに、風の神様や水の神様のお札もあるよ」
浜岡さんはポケットからライターを取り出した。
「そのライターも特別製なんですか?」
期待しつつ質問をする。単なるライターに見えるけど、実はどこかの古い神様が宿っているライターとか?
「これはそのへんで売られてる、使い捨ての百円ライターだよ」
「えー……」
神様の力を宿したお札に火をつけるのが、そのへんで売られている百円ライターだなんて。ちょっとどころか、かなりガッカリだ。
「もっと高価なライターを使うものかと思ってましたよ……っていうか、高価なライターを使ってくださいよ~~」
「俺はタバコを吸わないから、これで十分なんだよ。喫煙者の先輩達は、もっと高級なライターを使ってるよ。しかもかなり年季が入ったやつ。あれぐらい古いモノなら、そのうち付喪神化するんじゃないかなあ」
誰かのライターを思い浮かべたらしく、浜岡さんはニヤニヤと笑う。
「それから、お札は特殊技能持ちの職員が使わないと効力を発揮しない。羽倉さんが火をつけても、普通に燃えるだけなんだよ」
「へえ……誰でも使えるわけじゃないんだ」
『説明は後でするでござるよ!』
『さっさと燃やすでおじゃる!」
フタと一緒にバタバタと上下に激しく揺れながら、とうとうカエルと招き猫が声をあげた。
「ああ、そうだった。羽倉さん、そっちに行って、カエルと猫と一緒にフタを押さえていてくれるかな」
「良いですけど、だいじょうぶなんですよね? 私達、燃えたりしませんよね?」
「僕をなんだと思ってるのさ。これでも国家公務員だよ?」
「浜岡さんがお坊さんでも神主さんでも神父様でも、心配なものは心配ですよ。なにか異変が起きたら、すぐに逃げますから」
今の状態だって十分に異変が起きているけれども。
「信用ないなあ……」
「たとえ浜岡さんが三本指の一人でも、心配ですから!」
恐る恐るバタバタと暴れるフタを押さえこむ。こちらの恐怖を感じ取ったのか、フタがさらに激しく暴れだした。
「なんか、ますます暴れてるんですけど! こんな状態で、よく二匹だけで押さえてたもんですよ!」
『まったくでござる!』
『そろそろ限界でおじゃる――!!』
『すまぬ~~出遅れた~~』
のんきな声とともに背後から黒い影が飛んできて、フタの上にドスンと降り立った。現れたのは……どう見ても狸の置物だった。
―― また変なのが現われた! ――
『おぬし、なにをしておったのだ!』
『まったくでおじゃる!』
『すまぬ~~寝坊じゃ~~』
狸は激しく揺れながらガハハッと笑った。いきなりの出現にあせったが、どうやらカエルと招き猫のお知り合いらしい。
『助っ人がいるではないか~~良かったの~~』
『良くないでござる!』
『留守居役として恥でおじゃる!!』
押さえるのが三匹に増えても、フタはおとなしくなりそうにない。
「あの、浜岡さん! さっさと燃やしちゃってくださいよ、この中のゴミ!!」
「はいはい、少々お待ちを」
浜岡さんはノンビリとそう答え、ライターでお札に火をつけた。火がつくと同時に、それまで真っ白だった表面に模様が浮き上がる。そして浜岡さんは、フタの上で飛び跳ねている三匹に目をやった。
「じゃあ、これを井戸の中に入れるので、合図したらフタを開けてくれるかな」
『承知でござる』
『承知でおじゃる』
『承知したよ~~』
まるで今まで何度も同じことをしていたように、私を除く三匹と一人は息を合わせ、フタを動かし火のついたお札を井戸に放りこむ。とたんにフタが激しく上へ向かって跳ねだした。
「はい、しっかり押さえて!」
「こんなの無理です――!!」
「ガンバレガンバレ~~」
「てか、なんでそこで笑いながら立ってますかね?! 普通、一緒に押さえませんか?!」
その場で私達に声援らしきものを送っている相手をにらむ。
「俺まで両手をふさいだら、不測の事態が起きた時に困るじゃないか。まあ、笑ったのは申し訳ないけど」
「不測の事態とか……!!」
そんなことが起きるかもしれないのに、資格持ちじゃない自分にこんなことをさせるなんて、あまりにもあんまりじゃ?!と言いかけたところで、ドンッというかボンッというか派手な音がして、地面が大きく震えた。そしてフタが吹き飛び、真っ黒な煙が立ちあがる。
「うっわ、昔の機関車なみの煙が出たねえ」
「浜岡さん、笑い事じゃない~~!」
『煙が真っ黒でござる!』
『誰じゃ、燃えないゴミまで放り込んだのは!
『分別されていないゴミのせいで、みんな、煤まみれだね~~』
煙のせいで、その場にいた全員が激しくせき込んだ。
「分別してないせいで大変なことになったね」
煙が薄らいできたところで、浜岡さんは肩の煤をはらいながら、苦笑いをする。
「神様のゴミも分別が必要とか、もうシャレになりませんよ……」
ブツブツ言いながら、自分の服をチェックをした。あっちこっちに煤がついて、せっかくの服が黒い水玉模様で台無しだ。
「これ、普通の洗濯とクリーニングで落ちるんですか?」
「ここまで凄いの初めてだけど、だいじょうぶだと思うよ。いつも普通に洗濯してるし、俺」
「だったら良いんですけど……」
家の洗濯機を使うのに抵抗を感じてしまう。八百万ハロワ近くのコインランドリーを利用しようか。あそこなら、私にも見える神様が常駐しているかもしれないし。
『そのほうらが来てくれて助かったでござるよ。ゴミはちゃんと燃え尽きたようでござるし』
『ああ、立ち去る前に煤をはらうでおじゃるよ。よけいなモノまで混じっておったし、普通の人間には障りがあるでおじゃる』
『燃やしてくれたお礼に、僕らがはらってあげるよ~~』
そう言いながら三匹が取り出したのは、どこから見てもドラッグストアで売られている掃除用のハタキだった。
―― え、はらうって、それで……? ――
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