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本編
第三十三話 佐伯ご夫妻の初めての夜
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「やっと二人っきりになれた」
ホテルにとってあった部屋に入った途端に圭祐さんがホッとした様子で呟いた。式や披露宴の最中にはまったくそんな様子を見せなかったけれど、なんだかんだと上司の人や先輩の神様がいたせいで緊張していたらしい。首や肩を回しながら制帽と上着を脱いでクローゼットのハンガーにかけている。
「お疲れ様。肩が凝ったならマッサージ、してあげるけど?」
腕をグリグリと回している様子を見ながら提案してみると圭祐さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そんなことより俺は杏奈さんのことを全身マッサージしたいかな」
「……それ、マッサージとは言わないんじゃ?」
「まあ、そうとも言う」
そう言いながら圭祐さんは私の前に立つと髪を飾っているお花を一輪ずつ抜き始めた。もう! せっかくしてあげようと思っていたのに私の提案はスルー?
「ずっと我慢してたんだ。申し出はありがたいけどそっちよりこっちが先」
お花とピンを次々と抜いていくとそれを手にちょっと困惑した顔をする。
「こんなにあれやこれや刺して頭は痛くなかったのか?」
「まあ確かにやってもらっているのを見ている時は針山になった気分だったかな。だけど上手な人がしてくれたから特に痛くはなかったわよ」
「へえ、男の俺には理解できないよ、こんなにピンをたくさん刺していたなんて」
「花嫁が綺麗のなる為の試練みたいなものかも」
「確かに式の時の杏奈さんは綺麗だったよ。もちろん今もだけどね」
残っているピンはもう無いかな?と念入りに調べて見つけ損ねたものがないことを確認した圭祐さんはちょっと満足げな顔をして頷いた。
「あの、圭祐さん?」
「ん?」
ピンとお花、それから私が外したネックレスとイヤリングをドレッサーの前に置いてあった陶器のトレーに入れた圭祐さんがこっちを見る。
「分かってはいると思うけど、明日から新婚旅行だから……」
「うん?」
「そのぅ……お手柔らかに?」
「んー……」
どうしてそこで非常に不本意ですって気持ちが丸分かりな顔をするのかな。
「夫婦になって初めての夜なのに?」
「それはそうだけど明日の朝、動けなかったら困るじゃない?」
「誰が?」
「私が! ねえ、聞いてる?」
「ちゃんと聞いてるよ」
話の途中だっていうのに圭祐さんは私のドレスを見ながらこれは何処から脱がせたら良いのかな?なんて首を傾げながら呟いている。本当に私の言ってること聞いてる?
「珍しいね。このドレス、後ろがファスナーじゃなくてボタンなんだ。これは俺が手伝わないとさすがに杏奈さん一人では脱げないよね。っていうか、そういうことを狙ったデザインなのかな? 杏奈さんもそれで選んだ?」
「ま、さ、か!」
そういう訳じゃなくてデザインが気に入ったこのドレスがたまたまボタンだっただけ。最初はファスナーの方が良いかしらって悩んで他にないか探してはみたものの、どうしてもこれ以上に気に入ったものを見つけられなかったのだ。だから今夜のことなんて全然考えてなかった。
「でも……手伝ってもらわないと確かに無理だからお願いできる?」
「喜んで」
圭祐さんが後ろにまわってボタンを外し始める。
「あ、その前に上から羽織るものが欲しいかな」
「却下」
「え、ちょっと……」
「下に身に着けているものもちゃんと見せてもらわないと。今日の為に全部そろえたんだろ?」
「誰からそんなこと?」
「何となく勘で言ってみただけなんだけど当たりか。それは楽しみだ」
まあドレスの下のインナーはそれほど派手派手しいものじゃなくて、どちらかと言えば体のラインを綺麗に見せるのが主な役割なわけでデザインはレースがワンポイント付いている程度のシックな感じのもの。だいたいドレスが白だから黒とか赤なんて身に着けられないし期待されるほどの艶めかしいものじゃないんだけどな。
そう言ったら夏服の時の俺達と同じだねって圭祐さんが笑った。海上自衛官さん達も白い夏服の時は柄物のトランクスは厳禁らしい。そう言えば圭祐さんは兄貴が持っているような柄物や派手な色物を普段から穿いてなかったような。
「前に借りた健人さんのトランクスなんて最たるものだよ。あんなのを夏にはいたらちょっと困ったことになるよ」
「ちょっとどころか凄く困ったことになりそう」
白い制服のズボンから不死鳥さんやパンダさんが透けて見えるのはちょっといただけない……いや、かなりいただけない。
ボタンが全て外れて足元に落ちそうになるドレスを慌てて前で押さえていると、圭祐さんが肩の辺りにキスをしてきた。今日までドレスを着た時に痕が見えたら困るからってキスも甘噛みも禁止って言い渡しておいたから我慢できなくなったらしい。ドレスの中に手を滑り込ませてきたけど身に着けていたビスチェに気がついてちょっと不満げな声を漏らしている。
「これはいただけないね、杏奈さん」
「そう? ドレスを着た時に綺麗なラインが出るようにって配慮されたものなんだけれど。あ、ちなみに下のペチコートはドレスが足に纏わりついて歩きにくくならないようにって配慮ね」
「だけどそれを脱がせる花婿への配慮はなされていないみたいだね。ホックの数が物凄いことになってるし」
「それも誰かに外してもらわないと駄目かも……」
「了解しました、奥様」
何やら後ろでブツブツ言いながら外しているのがおかしい。考えてみればたくさんのホックを外すなんてこと、普段の生活ではないものね。っていうか脱がせる花婿のための配慮って何?
「大丈夫?」
「不器用じゃないから心配しなくてもいいよ……はい、OK」
「ありがとう、なんだかホッとした」
「花嫁って大変だな、こんなものを着ていたのか」
「これでも随分と……ちょっと圭祐さんっ」
私の体をクルッと半回転させて自分の方に向かせた。その拍子にドレスを押さえていた手が離れてドレスもビスチェも足元にストンと落ちてしまう。
「お預けはここまで」
「お預けってそんなに……」
勤務地だって変わらなかったからこの前のお休みの時に新居にお泊りしたじゃない?って聞いたら、それはそれこれはこれなんだとか。そしてキスをされてうっとりしている間にベッドに運ばれていた。だけどやっぱりドレスのことがちょっと気がかり。
「ね、ドレス、あのまま床に脱ぎっぱなしはやっぱり良くないと思うの」
「そう?」
「うん。ほら、あれね、レンタルじゃなくて買ったものでしょ? で、綺麗にクリーニングして残しておいて、将来は娘の為に可愛いワンピースに仕立て直すとか、そういうことをしたいかなーって。だから大事に扱わないと……圭祐さん?」
何だかちょっと変な顔の圭祐さんに戸惑って言葉を切った。どうしたのかな? ちょっとどころかかなり様子がおかしいかも。何でそんな顔をして私のことを見ているの?
「杏奈さん」
「はい?」
「それって今夜は頑張りましょうってこと?」
「頑張る?」
「今の、早く子供が欲しいってことなのかなと思ったんだけど」
「そりゃ早く赤ちゃんは欲しいけど、ちょっと圭祐さんっ、ドレス! それと圭祐さんまだ制服のまま!」
さっそく始めようとしたので慌てて静止する。覆いかぶさってきた圭祐さんは不満げに顔を上げて軽く舌打ちをしてきた。
「そこで舌打ちしないの!」
「はいはい。なんだか奥さんになった途端に強権を発動中だね、杏奈さん。もしかして俺って尻に敷かれる運命なのかな」
私の上から降りた圭祐さんはベッドの横で白い塊になっているドレスとインナーを拾い上げてそれをクローゼットへと持っていった。ハンガーにドレスをかけてから暫くその場を離れずにいるので何をしているんだろうってちょっと首を傾げて伺う。
「なんだかさ、俺の制服と杏奈さんのウエディングドレスがこうやって並んで吊り下げられているのって良い眺めだよな」
「そう?」
「うん」
ベッドに戻ってくると圭祐さんはその場で自分のシャツとスラックスを脱ぎ始めた。こういう時の間っていつになっても落ち着かない。ドキドキしながら圭祐さんが裸になるのを見ていると彼がニッコリと微笑んだ。
「俺の体にグッときた?」
「ちょっとだけ」
「そりゃ残念。もっと鍛えないと駄目かな俺」
そんなことを言いながらベッドに上がるとキスをしてくる。そしてその手はいつものように優しく私の体を撫でてくれていた。それだけで私の方はその気になってしまうんだから相性って本当に怖い。
「式の前には体に痕をつけるのNGとか言われて我慢していたんだから今夜は思う存分かまわないよね?」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言うと私の返事を待たずにあちらこちらにキスをしたり軽く咬んだり。特に胸は念入りに指で愛撫してまるで本当に食べてしまうんじゃないかって思うぐらい舌と歯で食まれてしまった。身に着けていた最後の一枚が取り去られると圭祐さんは私の足の間に腰を押し付けてくる。
もちろん今夜は避妊の措置はしていない。一度だけ何もつけない状態で圭祐さんが私の中に入ってきたことはあったけどあの時は本当にそれだけだったし、今夜みたいに最初から薄い膜に隔たれることなく繋がれるというのはやっぱり特別な気がする。それはきっと夫婦になって初めて愛し合うってことに加えて子作りを意識しているからなのかも。
「?」
直ぐにでも入ってくるのかなと思っていたらゆっくりと熱くなったものを擦り付けてくるだけでそれ以上進んでこようとはしない。
「圭祐さん?」
「本当にこのままで構わない? 杏奈さんだって仕事をしているだろ? 仕事を続けたいなら俺は待っても良いんだから」
マツラーは杏奈さんが中の人をしないと納得しない子供達もいるみたいだし?と首を傾げる。確かに同じマツラー君なのに中の人が違うだけで“この子は本物のマツラー君じゃない”とか言い出す子もいるらしく、どうしてそんなことを言われるのか未だに謎。最近ではそのことを重要視したバイト君がマツラー君心得なんてものを作っているようで、その心得の基準がどうやら私のようなのよね。ますます謎なんだから。
「私は直ぐにでも圭祐さんとの赤ちゃんが欲しいって思ってるから」
「そう? じゃあこのまま続けても?」
「うん」
私が頷くと同時にゆっくりと硬いものが中へと入り込んできた。一番奥まで辿り着いたことろで圭祐さんが息をはいて私の頬を撫でる。
「辛くない?」
それはいつも最初に尋ねてくる言葉。私が小柄だから今でも自分が傷つけないか心配らしくって今でも必ず聞いてくるのだ。圭祐さんが私のことを傷つけたことなんて一度も無いのに。
「大丈夫」
「そう。辛かったら言って」
そう言うと圭祐さんは私のことを愛し始めた。何だか避妊してないと感じ方も違うのかいつもより圭祐さんのことをはっきりと感じることが出来るような気がする。圭祐さんは?って尋ねてみたら彼も同じみたい。やっぱり薄ピタでも有ると無しとじゃ全然違うのねって呟いたら、こんな時に何てことを言うんだいって笑いながらも呆れられてしまった。そしてそういう余計なことを考えないようにしないとねといつもの黒い笑みを浮かべて動き始めて、その言葉通り、私は余計なことを全く考えられない状態にされてしまったのだった。
それからどれくらい経ったのか一瞬だけ気が遠くなりかけた後、低い呻き声が耳元で聞こえて体の奥がいつもとは違うもので満たされた。その感触に彼の体に回していた腕に自然と力が入って自分から体を押しつけると、顔を上げた圭祐さんが満足げな笑みを浮かべて私のことを見下ろしてくる。
「お手柔らかにって言ったのは杏奈さんの方なのに。分かった、奥様がそう仰るならもう少し頑張りましょうか」
「私、何も言ってないっ、待ってったら」
まだ落ち着けていない状態なのに再び圭祐さんのものが動き始めた。
「まだいったばかりなのにっ、あんっ、駄目だったらっ」
「杏奈さんの体はもっと欲しいって言ってるよ?」
「うそっ、絶対に休ませてって言ってるっ」
「またまた御冗談を」
何度も突き上げられて否応なしに今下りてきたばかりの高みへと再び押し上げられていく。ベッドがきしむ音と圭祐さんの熱い息遣い、そして体内を激しく穿つ熱い塊。
「やぁっ、そこだめっ」
いつもより深いところに圭祐さんのものが入り込んできて余りの快感に悲鳴をあげてしまった。最初は痛みで声をあげたのか心配していたみたいだけど、そうじゃないと分かるとそのまま奥深くに入り込んだまま激しく体を動かし続ける。どんどん激しくなる動きに私は彼にしがみつくしかなかった。
それから何度も高みに押し上げられ息も絶え絶えになった私は圭祐さんの顔を見上げる。
「け、圭祐さん、私……っ、もうっ」
「杏奈さん、俺のこと愛してる? 全部、受け取ってくれる?」
圭祐さんの言葉にただ頷くだけしか出来なかったけど彼はそれで満足だったらしくて、一段と奥深くに自身を押しつけてくると再び熱いものを私の中に放った。
体の奥に圭祐さんが放ったものを感じながら半ば放心状態の私は、彼に抱いて運んでもらってお風呂に入った。さすがにスイートルーム、バスルームもなかなか豪勢な感じで二人で入ってもゆったりと足がのばすことができる。圭祐さんはお湯につかりながらぐったりと凭れ掛かっている私の下腹部を優しく撫でた。
「もしかして本当にできたかもね」
「どうして?」
「なんだかね、杏奈さんの中に新しい命を吹き込んだって達成感みたいなものがあるから。あ、いま男の馬鹿な妄想だと思ったろ?」
ちょっと憤慨したような口調で言うと笑いながら私の耳たぶを軽く咬んだ。
「ううん、そんなことないよ。私もね、なんだかちょっと特別な感じがしたの。もちろん避妊しないで愛し合ったのが初めてだからってのもあるのかもしれないけど、ここに圭祐さんがくれたものがもう来ているような気がするもの」
撫でている手に自分の手を重ねるとお尻の下で何ピクリと反応するものが。え、もう元気になったとか?! さすがに私はもう無理だから……。
「そんな可愛いこと言ったら我慢できなくなるだろ? お手柔らかには何処へ?」
「今も健在ですが」
ちょっと真面目な口調で言ってみる。
「明日の飛行機、夜の便にして良かったな」
「なに言ってるの、もう無理ですからね。それに夜にしたのは明日、ホテルをチェックアウトした後に色々としなきゃいけないことがあるからで……」
「諸々のことは杏奈さんのお母さんとうちのお袋でしておくから二人はそのまま空港に行けって話だったんだけど俺の聞き間違い?」
「それ、いつ、誰から?」
「昨日、披露宴が終わった時に婆様から。ああ、俺のことを良く御存知でって感激したんだけど違うのかなあ」
お婆ちゃまときたら……。先輩な神様もだけど本当に亀の甲より年の劫は恐ろしい。私、この佐伯家の婆孫タッグには勝てそうにありません。
ホテルにとってあった部屋に入った途端に圭祐さんがホッとした様子で呟いた。式や披露宴の最中にはまったくそんな様子を見せなかったけれど、なんだかんだと上司の人や先輩の神様がいたせいで緊張していたらしい。首や肩を回しながら制帽と上着を脱いでクローゼットのハンガーにかけている。
「お疲れ様。肩が凝ったならマッサージ、してあげるけど?」
腕をグリグリと回している様子を見ながら提案してみると圭祐さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そんなことより俺は杏奈さんのことを全身マッサージしたいかな」
「……それ、マッサージとは言わないんじゃ?」
「まあ、そうとも言う」
そう言いながら圭祐さんは私の前に立つと髪を飾っているお花を一輪ずつ抜き始めた。もう! せっかくしてあげようと思っていたのに私の提案はスルー?
「ずっと我慢してたんだ。申し出はありがたいけどそっちよりこっちが先」
お花とピンを次々と抜いていくとそれを手にちょっと困惑した顔をする。
「こんなにあれやこれや刺して頭は痛くなかったのか?」
「まあ確かにやってもらっているのを見ている時は針山になった気分だったかな。だけど上手な人がしてくれたから特に痛くはなかったわよ」
「へえ、男の俺には理解できないよ、こんなにピンをたくさん刺していたなんて」
「花嫁が綺麗のなる為の試練みたいなものかも」
「確かに式の時の杏奈さんは綺麗だったよ。もちろん今もだけどね」
残っているピンはもう無いかな?と念入りに調べて見つけ損ねたものがないことを確認した圭祐さんはちょっと満足げな顔をして頷いた。
「あの、圭祐さん?」
「ん?」
ピンとお花、それから私が外したネックレスとイヤリングをドレッサーの前に置いてあった陶器のトレーに入れた圭祐さんがこっちを見る。
「分かってはいると思うけど、明日から新婚旅行だから……」
「うん?」
「そのぅ……お手柔らかに?」
「んー……」
どうしてそこで非常に不本意ですって気持ちが丸分かりな顔をするのかな。
「夫婦になって初めての夜なのに?」
「それはそうだけど明日の朝、動けなかったら困るじゃない?」
「誰が?」
「私が! ねえ、聞いてる?」
「ちゃんと聞いてるよ」
話の途中だっていうのに圭祐さんは私のドレスを見ながらこれは何処から脱がせたら良いのかな?なんて首を傾げながら呟いている。本当に私の言ってること聞いてる?
「珍しいね。このドレス、後ろがファスナーじゃなくてボタンなんだ。これは俺が手伝わないとさすがに杏奈さん一人では脱げないよね。っていうか、そういうことを狙ったデザインなのかな? 杏奈さんもそれで選んだ?」
「ま、さ、か!」
そういう訳じゃなくてデザインが気に入ったこのドレスがたまたまボタンだっただけ。最初はファスナーの方が良いかしらって悩んで他にないか探してはみたものの、どうしてもこれ以上に気に入ったものを見つけられなかったのだ。だから今夜のことなんて全然考えてなかった。
「でも……手伝ってもらわないと確かに無理だからお願いできる?」
「喜んで」
圭祐さんが後ろにまわってボタンを外し始める。
「あ、その前に上から羽織るものが欲しいかな」
「却下」
「え、ちょっと……」
「下に身に着けているものもちゃんと見せてもらわないと。今日の為に全部そろえたんだろ?」
「誰からそんなこと?」
「何となく勘で言ってみただけなんだけど当たりか。それは楽しみだ」
まあドレスの下のインナーはそれほど派手派手しいものじゃなくて、どちらかと言えば体のラインを綺麗に見せるのが主な役割なわけでデザインはレースがワンポイント付いている程度のシックな感じのもの。だいたいドレスが白だから黒とか赤なんて身に着けられないし期待されるほどの艶めかしいものじゃないんだけどな。
そう言ったら夏服の時の俺達と同じだねって圭祐さんが笑った。海上自衛官さん達も白い夏服の時は柄物のトランクスは厳禁らしい。そう言えば圭祐さんは兄貴が持っているような柄物や派手な色物を普段から穿いてなかったような。
「前に借りた健人さんのトランクスなんて最たるものだよ。あんなのを夏にはいたらちょっと困ったことになるよ」
「ちょっとどころか凄く困ったことになりそう」
白い制服のズボンから不死鳥さんやパンダさんが透けて見えるのはちょっといただけない……いや、かなりいただけない。
ボタンが全て外れて足元に落ちそうになるドレスを慌てて前で押さえていると、圭祐さんが肩の辺りにキスをしてきた。今日までドレスを着た時に痕が見えたら困るからってキスも甘噛みも禁止って言い渡しておいたから我慢できなくなったらしい。ドレスの中に手を滑り込ませてきたけど身に着けていたビスチェに気がついてちょっと不満げな声を漏らしている。
「これはいただけないね、杏奈さん」
「そう? ドレスを着た時に綺麗なラインが出るようにって配慮されたものなんだけれど。あ、ちなみに下のペチコートはドレスが足に纏わりついて歩きにくくならないようにって配慮ね」
「だけどそれを脱がせる花婿への配慮はなされていないみたいだね。ホックの数が物凄いことになってるし」
「それも誰かに外してもらわないと駄目かも……」
「了解しました、奥様」
何やら後ろでブツブツ言いながら外しているのがおかしい。考えてみればたくさんのホックを外すなんてこと、普段の生活ではないものね。っていうか脱がせる花婿のための配慮って何?
「大丈夫?」
「不器用じゃないから心配しなくてもいいよ……はい、OK」
「ありがとう、なんだかホッとした」
「花嫁って大変だな、こんなものを着ていたのか」
「これでも随分と……ちょっと圭祐さんっ」
私の体をクルッと半回転させて自分の方に向かせた。その拍子にドレスを押さえていた手が離れてドレスもビスチェも足元にストンと落ちてしまう。
「お預けはここまで」
「お預けってそんなに……」
勤務地だって変わらなかったからこの前のお休みの時に新居にお泊りしたじゃない?って聞いたら、それはそれこれはこれなんだとか。そしてキスをされてうっとりしている間にベッドに運ばれていた。だけどやっぱりドレスのことがちょっと気がかり。
「ね、ドレス、あのまま床に脱ぎっぱなしはやっぱり良くないと思うの」
「そう?」
「うん。ほら、あれね、レンタルじゃなくて買ったものでしょ? で、綺麗にクリーニングして残しておいて、将来は娘の為に可愛いワンピースに仕立て直すとか、そういうことをしたいかなーって。だから大事に扱わないと……圭祐さん?」
何だかちょっと変な顔の圭祐さんに戸惑って言葉を切った。どうしたのかな? ちょっとどころかかなり様子がおかしいかも。何でそんな顔をして私のことを見ているの?
「杏奈さん」
「はい?」
「それって今夜は頑張りましょうってこと?」
「頑張る?」
「今の、早く子供が欲しいってことなのかなと思ったんだけど」
「そりゃ早く赤ちゃんは欲しいけど、ちょっと圭祐さんっ、ドレス! それと圭祐さんまだ制服のまま!」
さっそく始めようとしたので慌てて静止する。覆いかぶさってきた圭祐さんは不満げに顔を上げて軽く舌打ちをしてきた。
「そこで舌打ちしないの!」
「はいはい。なんだか奥さんになった途端に強権を発動中だね、杏奈さん。もしかして俺って尻に敷かれる運命なのかな」
私の上から降りた圭祐さんはベッドの横で白い塊になっているドレスとインナーを拾い上げてそれをクローゼットへと持っていった。ハンガーにドレスをかけてから暫くその場を離れずにいるので何をしているんだろうってちょっと首を傾げて伺う。
「なんだかさ、俺の制服と杏奈さんのウエディングドレスがこうやって並んで吊り下げられているのって良い眺めだよな」
「そう?」
「うん」
ベッドに戻ってくると圭祐さんはその場で自分のシャツとスラックスを脱ぎ始めた。こういう時の間っていつになっても落ち着かない。ドキドキしながら圭祐さんが裸になるのを見ていると彼がニッコリと微笑んだ。
「俺の体にグッときた?」
「ちょっとだけ」
「そりゃ残念。もっと鍛えないと駄目かな俺」
そんなことを言いながらベッドに上がるとキスをしてくる。そしてその手はいつものように優しく私の体を撫でてくれていた。それだけで私の方はその気になってしまうんだから相性って本当に怖い。
「式の前には体に痕をつけるのNGとか言われて我慢していたんだから今夜は思う存分かまわないよね?」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言うと私の返事を待たずにあちらこちらにキスをしたり軽く咬んだり。特に胸は念入りに指で愛撫してまるで本当に食べてしまうんじゃないかって思うぐらい舌と歯で食まれてしまった。身に着けていた最後の一枚が取り去られると圭祐さんは私の足の間に腰を押し付けてくる。
もちろん今夜は避妊の措置はしていない。一度だけ何もつけない状態で圭祐さんが私の中に入ってきたことはあったけどあの時は本当にそれだけだったし、今夜みたいに最初から薄い膜に隔たれることなく繋がれるというのはやっぱり特別な気がする。それはきっと夫婦になって初めて愛し合うってことに加えて子作りを意識しているからなのかも。
「?」
直ぐにでも入ってくるのかなと思っていたらゆっくりと熱くなったものを擦り付けてくるだけでそれ以上進んでこようとはしない。
「圭祐さん?」
「本当にこのままで構わない? 杏奈さんだって仕事をしているだろ? 仕事を続けたいなら俺は待っても良いんだから」
マツラーは杏奈さんが中の人をしないと納得しない子供達もいるみたいだし?と首を傾げる。確かに同じマツラー君なのに中の人が違うだけで“この子は本物のマツラー君じゃない”とか言い出す子もいるらしく、どうしてそんなことを言われるのか未だに謎。最近ではそのことを重要視したバイト君がマツラー君心得なんてものを作っているようで、その心得の基準がどうやら私のようなのよね。ますます謎なんだから。
「私は直ぐにでも圭祐さんとの赤ちゃんが欲しいって思ってるから」
「そう? じゃあこのまま続けても?」
「うん」
私が頷くと同時にゆっくりと硬いものが中へと入り込んできた。一番奥まで辿り着いたことろで圭祐さんが息をはいて私の頬を撫でる。
「辛くない?」
それはいつも最初に尋ねてくる言葉。私が小柄だから今でも自分が傷つけないか心配らしくって今でも必ず聞いてくるのだ。圭祐さんが私のことを傷つけたことなんて一度も無いのに。
「大丈夫」
「そう。辛かったら言って」
そう言うと圭祐さんは私のことを愛し始めた。何だか避妊してないと感じ方も違うのかいつもより圭祐さんのことをはっきりと感じることが出来るような気がする。圭祐さんは?って尋ねてみたら彼も同じみたい。やっぱり薄ピタでも有ると無しとじゃ全然違うのねって呟いたら、こんな時に何てことを言うんだいって笑いながらも呆れられてしまった。そしてそういう余計なことを考えないようにしないとねといつもの黒い笑みを浮かべて動き始めて、その言葉通り、私は余計なことを全く考えられない状態にされてしまったのだった。
それからどれくらい経ったのか一瞬だけ気が遠くなりかけた後、低い呻き声が耳元で聞こえて体の奥がいつもとは違うもので満たされた。その感触に彼の体に回していた腕に自然と力が入って自分から体を押しつけると、顔を上げた圭祐さんが満足げな笑みを浮かべて私のことを見下ろしてくる。
「お手柔らかにって言ったのは杏奈さんの方なのに。分かった、奥様がそう仰るならもう少し頑張りましょうか」
「私、何も言ってないっ、待ってったら」
まだ落ち着けていない状態なのに再び圭祐さんのものが動き始めた。
「まだいったばかりなのにっ、あんっ、駄目だったらっ」
「杏奈さんの体はもっと欲しいって言ってるよ?」
「うそっ、絶対に休ませてって言ってるっ」
「またまた御冗談を」
何度も突き上げられて否応なしに今下りてきたばかりの高みへと再び押し上げられていく。ベッドがきしむ音と圭祐さんの熱い息遣い、そして体内を激しく穿つ熱い塊。
「やぁっ、そこだめっ」
いつもより深いところに圭祐さんのものが入り込んできて余りの快感に悲鳴をあげてしまった。最初は痛みで声をあげたのか心配していたみたいだけど、そうじゃないと分かるとそのまま奥深くに入り込んだまま激しく体を動かし続ける。どんどん激しくなる動きに私は彼にしがみつくしかなかった。
それから何度も高みに押し上げられ息も絶え絶えになった私は圭祐さんの顔を見上げる。
「け、圭祐さん、私……っ、もうっ」
「杏奈さん、俺のこと愛してる? 全部、受け取ってくれる?」
圭祐さんの言葉にただ頷くだけしか出来なかったけど彼はそれで満足だったらしくて、一段と奥深くに自身を押しつけてくると再び熱いものを私の中に放った。
体の奥に圭祐さんが放ったものを感じながら半ば放心状態の私は、彼に抱いて運んでもらってお風呂に入った。さすがにスイートルーム、バスルームもなかなか豪勢な感じで二人で入ってもゆったりと足がのばすことができる。圭祐さんはお湯につかりながらぐったりと凭れ掛かっている私の下腹部を優しく撫でた。
「もしかして本当にできたかもね」
「どうして?」
「なんだかね、杏奈さんの中に新しい命を吹き込んだって達成感みたいなものがあるから。あ、いま男の馬鹿な妄想だと思ったろ?」
ちょっと憤慨したような口調で言うと笑いながら私の耳たぶを軽く咬んだ。
「ううん、そんなことないよ。私もね、なんだかちょっと特別な感じがしたの。もちろん避妊しないで愛し合ったのが初めてだからってのもあるのかもしれないけど、ここに圭祐さんがくれたものがもう来ているような気がするもの」
撫でている手に自分の手を重ねるとお尻の下で何ピクリと反応するものが。え、もう元気になったとか?! さすがに私はもう無理だから……。
「そんな可愛いこと言ったら我慢できなくなるだろ? お手柔らかには何処へ?」
「今も健在ですが」
ちょっと真面目な口調で言ってみる。
「明日の飛行機、夜の便にして良かったな」
「なに言ってるの、もう無理ですからね。それに夜にしたのは明日、ホテルをチェックアウトした後に色々としなきゃいけないことがあるからで……」
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「それ、いつ、誰から?」
「昨日、披露宴が終わった時に婆様から。ああ、俺のことを良く御存知でって感激したんだけど違うのかなあ」
お婆ちゃまときたら……。先輩な神様もだけど本当に亀の甲より年の劫は恐ろしい。私、この佐伯家の婆孫タッグには勝てそうにありません。
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叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
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