俺の彼女は中の人

鏡野ゆう

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本編

第二十七話 疲れている場合ではないらしい

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「御両親への挨拶はいつが良いかな。俺は航海訓練に出てしまったらなかなか戻って来れないし、入港中の今ならそれなりに時間が取れるんだけど」

 今のところ二週間程度は護衛艦の一般公開に合わせて港に留まる予定らしい。あくまでも予定は未定ってやつらしいけど現時点ではそんな感じということみたい。

「うちの両親は都庁勤めだから土日が助かりますけど佐伯さんのお休みの予定は?」
「次の週末は明後日か、確かその日は無理だけど次の週なら……」

 私の上に覆いかぶさるようにしていた佐伯さんがベッドサイドに手をのばそうとして体を動かすと、その動きで私の中に留まっていたまだ少し硬いままの彼のものが奥へと入り込んできた。やっと落ち着いてきたところだったのに急な動きで中を押し広げられて体がヒクリと震える。

「やっ、動かないで……!」
「そんなこと言ったってカレンダー見なきゃはっきりしないだろ?」
「今、分かってて動いたでしょ?!」

 その問いかけにニヤリと少しだけ黒い笑みを浮かべて何のことかな?とか言いながらわざとらしく腰を動かしてくる。言ってることとやってることが違うんですが! 今日だって一日中マツラー君は炎天下のもとで頑張って活動してお疲れ気味だから自宅に戻る筈だったのに、何故かまたここに泊まることになっちゃったし貴方と違って私は公務員とは言え事務方なんだから少しは休ませて欲しいですよ、佐伯さん。もしもし、聞いてますか?

「なかなか一緒にいられないんだ、一緒にいるときぐらい杏奈さんと少しでもくっついていたいんだから仕方ない」
「だからって毎回こんなふうにくっついていたら私の体がもちません! やあ、もう駄目だからっ、動かないでってばっ」

 エッチをすることが嫌なわけじゃないけど、くっついていたいなら一緒に並んで座ってテレビを見るとかそういうノンビリとした時間を過ごすのだって有りでしょ? こんな風に人のことをベッドに縛りつけるだけがくっつくってことじゃないと思うの。それに、これってくっつくというより繋がってるっていうやつ? それなりに離れていても上手くやっていけていると思う私達だけど“くっつく”に関しては私と佐伯さんの間に見解の相違ってやつが存在しているみたい。

 そんなことを考えながら佐伯さんの肩を軽く叩いて抗議すると溜息を一つついて体を離してくれた……と安心したらいきなりうつ伏せにされてて腰を掴まれる。もしかして私が叩くのを防ぐ為に体勢を変えさせただけとか?! もしかして今日もお行儀の良い海の男さんは港の何処かで転がっているとか?! やっぱり見解の相違についてはちゃんと話し合わなきゃ駄目な気がしてきた……。

「ちょっと佐伯さん!!」
「俺に任せて杏奈さんは大人しく横になっていれば良いじゃないか」
「そういう問題?!」
「そういう問題。まあこの場合はうつ伏せってやつだけど」
「それ絶対におかし、いっ」

 もう無理って頭は思っていても体っていうのは意外と欲望には疲れ知らずみたいで、腰を持ち上げられて熱い高まりが奥まで入り込んでくるとあっと言う間にその気になってしまったみたい。ああもう、明日もマツラー君で頑張らなきゃいけないのに私の体ってば簡単にその気になっちゃって……。明日の仕事、ちゃんと出来るか自信が無い……。

「ほらね?」
「何がほらねなんですかっ」

 自分のことを包み込む感触が変わったのに気が付いたのか佐伯さんはちょっと得意げに笑った。そしてゆっくりと前後に動きじめる。

「杏奈さんの体は正直で大変宜しいですってこと」
「佐伯さんが自分の気持ちに正直すぎるんですっ、駄目ですスタンプものですよっ」
「ここで駄目ですスタンプ持ち出す? 正直なのは良い事だろ?」

 正直なのは良いことだけどそれだって時と場合によりけりだと思うのよね。だけど中を探るようにしてゆったりと動く彼のもののせいで思考が散漫になってしまってちゃんと反論したいのに出来そうにない。体の相性が良すぎるのも考えものかも。

「もう、佐伯さんがこんなにエッチな人だとは思わなかった……あっ」

 佐伯さんが動きを早めるとさっきより深いところを強く突かれて声が思わず声が漏れてしまった。そんな私の様子にこの体位って何となく男の征服欲を満たすものがあるよねとか言って笑っている。もう本当に佐伯さんてばエロい! 無駄にエロい!! 紳士的な制服姿やちょっと可愛い表情を知っているせいか余計に今のエロさが際立っている気がする!!

「とりあえず、もう一ラウンド頑張ってみようか」
「と、とりあえずって……挨拶をいつにするかって話、途中!」
「さっきカレンダーを見ようとしたのに杏奈さんが文句を言うから中断したんだろ?」
「それは佐伯さんのせい! あぁ……んっ、もうっ」

 こちらの言い分を聞いてくれる気なんてさらさらないようで。どんどん激しくなっていく動きにシーツを掴んで耐えるしかなかった。これはもう気がしてきたじゃなくて絶対に話し合わなきゃ駄目だと思う……。

+++

「今週末は当直で駄目だけど来週ならちょうど土曜日が休みになってたかな。ちなみに俺達幹部は一週間に一回ぐらいのペースで当直があるんだ。多分、杏奈さんと会う時はそれを利用して時間を取っているから頻繁な感じがするかもしれないね。ローテーションに関しては洋上訓練に出ている時以外は夜勤がある職業とそれほど変わらないと思うよ。……杏奈さん聞いてる?」
「……」

 私がグッタリしているの分かっている筈なのに佐伯さんてば意地悪だ。

「杏奈さーん?」
「もう佐伯さんとはしばらく会いたくないです。こんなこと続いたら私、絶対に壊れちゃうもの」
「あのさ。お言葉だけどたまにしか会えないからこういう状況なわけで、ずっと一緒だったらここまで酷くないと思うよ。俺だって人間なわけだし」
「信じられない」
「そんなに辛かった?」

 佐伯さんはちょっとだけ心配そうな声で私の体を撫でてきた。そうやって撫でてもらうのは気持ち良くて好きだけどエッチはしばらくお預けにしたい気分。無理、ぜーったいに無理。こんなことを続けていたら体がもちません。

「もう無理ですからね」
「分かってるよ。俺だってさすがに今夜は寝ないと」

 だけどその前にシャワーを浴びないとさすがにねと言われてそのまま抱っこしてお風呂場に連れていてもらった。もうこの距離を歩けないなんて一体どういうこと? たまに女の子向けの恋愛小説でエッチの後゛で“生まれたばかりの小鹿のように足がガクガクして立てない”なんて表現が出るたびにそんな大袈裟なって笑っていた過去の自分に言ってあげたい。それ、大袈裟でも何でもないからって。

「明日が最終日なんだよね、マツラー君は」
「明日は何が何でも家に帰りますからね」
「分かってるよ、ちゃんと送っていくから」

 佐伯さんは穏やかな笑みを浮かべているけどダメダメ、誤魔化されないから。お付き合いを始めて一年も経てば私だってその笑みに騙されないぐらいの目を持つことが出来るんですからね。

「佐伯さんが泊まるのも無しですから!」
「おや、それは残念。夕方からの仕事だから泊まれると思ったのに」
「当直に備えて自分の家で寝て下さい、一人で」

 きっぱりはっきり私が言うと佐伯さんはちょっとだけガッカリした表情をして見せた。ダメダメダメダメ、そんな私好みの可愛い顔してもダメなものはダメなんですからね!!


+++++


「マツラー君、元気ないねー、どうしたのー?」

 小さいお友達に声をかけられて慌ててシャキッとした姿勢をとる。昨日は前日よりも早く寝ることが出来たけどここ二日間のせいでやっぱり普段の週末以上に疲労感が半端ない。そんな私とは正反対に佐伯さんは今朝も相変わらず超御機嫌な元気モードで出勤していったのが物凄く納得いかない。

「マツラー君も暑くて夏バテなんだよ、きっと。だから外で遊ぶ時はちゃんと帽子をかぶって水を飲まないと駄目なんだぞ?」

 その子のお父さんが説明している。まだ七月で本格的な夏はこれからだというのにマツラー君は既に夏バテ認定とかどうなの? それにマツラー君がグッタリしているのはお日様のせいではなく、あそこに停泊している一般公開中の護衛艦に乗っている大きなお兄さんのせいなんですけどねーと佐伯さんが乗っている護衛艦を指さしたい気分になる。……そんなこと小さいお友達に言っても分からないか。

「週末は婚約者殿と水入らずで過ごす予定なの?」

 テントに戻って休憩中のマツラー君の横に立った武藤さんがさり気無く尋ねてきた。

「まさか! 私だって週末ぐらいゆっくり休みたいです……わーーっ、そういう意味じゃなくて!」

 そう答えてからその言葉の意味するところがどういうことかってことに気付いてジタバタする羽目に。子供からはマツラー君が新しいダンスしてるよーとか言われちゃうしそれもこれも佐伯さんのせい。

「あらあら、精力的な相方を持つと大変ね」
「と、とにかくですね、来週末はうちの両親に挨拶しに行く予定なんですよ。何事も無ければ」
「なるほど。ってことは来年の今頃には佐伯夫人になってるわけだ、マツラー君は」
「マツラー君は男の子ですよ……」

 皆もしかしてマツラー君のウエディングドレス姿を期待している訳じゃないよね? 今更だけど本気で心配になってきた。

「それで?」
「それでとは?」
「彼の御両親への御挨拶」
「ああ。それはお盆休みに行くことになりそうです。佐伯さんの実家は京都なので、あっちに行くには事前の移動許可が必要なんだそうです。だから次の休みの時に日帰りでってな訳にはいかないみたいで。まあそれだって何事も無ければって話なんですけど」

 全てにおいて“何事も無ければ”という前提がつくのがなかなか大変なところだ。もちろんそうそう有事になることは無いんだろうけど災害等はいつ何処で起きるか分からないものね。

「国内の移動もままならないだなんて自衛官さんってのも大変ね」
「ですね、私も初めて知ってビックリです」

 お休みに申請が必要なのは私と同じだからそれほど驚くこともなかったけれど、遠方に行く時、しかも国内でも個別に申請が必要だなんて知らなかった。もちろん海外に行くなら申請は当然のことで、ただの地方公務員の私には分からない制約が色々とあるみたい。国防のお仕事って本当に大変だなって思う。

「だけど彼は海に出ていてる時間の方が長いんでしょ? 式の日取りはともかく、式の準備やそういうのを立原さん一人であれこれするのは大変なんじゃ? それに京都ってことは何だか色々としきたりとかに煩そうな親戚も多そうな感じだし」
「んー……そうなんですよねえ」

 マツラー君が短い手で考える人のポーズをとる。

「あ、でも、佐伯さんが言うには御実家の皆さんはそういうお仕事に就いている人が多いので大変さはよく理解しているから大丈夫だよってことです。うちの両親と相談してからにはなりますけど、多分、佐伯さんのお母さんがこちらに出てきてくださるのではないかって話です」

 私の言葉に武藤さんが小さくワオッと呟いて鼻にシワを寄せた。

「結婚前から姑と二人っきりにされるのはちょっと怖いわね。立原さんもお母さんを連れて行った方が安心な気がする」
「怖いこと言わないで下さいよ。ただでさえ京都の人ってことで会うの緊張しているのに」

 ほら、ぶぶ漬けの話とか色々と京都の人の“いけず”っぷりは有名だから。佐伯さんと一緒に行く時もどんな服装にしたら良いのかとかどんな手土産を持っていたら良いのかって今から頭が痛い。なのでこの週末にでも母親に相談するつもり。少なくとも何年間も都庁の秘書課に勤めている人だからきちんとした答えを聞かせてくれるんじゃないかなって頼りにしているのだ。

「これから忙しくなりそうね、マツラー君だけじゃなくて中の人も」
「ですねえ……」
「大丈夫よ、そういう事情があるんだもの、ちゃんと中の人のことは考えるから。何ならバイト君をこちらに回しても良いんだから。仕事も広報も大事だけどプライベートが第一だから」

 だけどその前に、と武藤さんさが付け加える。

「手始めにあそこの集団をさばくことから始めないと駄目かもね」

 武藤さんが指さした方に体を向けてマツラー君の目から覗いてみれば、また制服の集団さん。考えてみれば昨日は仕事だけど今日はお休みって人だっているんだものね、その人達がやって来てもおかしくはない。それに先頭にいるのはどう見ても寺脇さん御一家だし。

「マツラー君ハ怖イオ兄サン達トハオ喋リシタクアリマセン。小サイオ友達ノ方ガ良イデス」
「頑張れ、マツラー君」
「頑張リタクナイデス~」

 そんな訳で今日もマツラー君は海のお兄さん達に囲まれてしまった。そして何故かマツラー君は船乗りさんの人気者なんていう不思議な謎設定が付くことになってしまったのだ。


+++


 【今日のマツラー君のお写真】
 海の日イベント会場:何故か今日も海上自衛官さん達と一緒です。
 今日は金曜日でカレーの日。マツラー君もカレーは大好きです。
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