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東京・江田島編 GW
第九話 初日から色々と疲れました
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篠塚さんの唇が首筋から鎖骨へと這うのを感じながら私は何だかとても落ち着かない気分になっていた。こんなふうに肌と肌を触れ合わせて抱き合うのは初めてのことじゃないのに、こんなにも気恥ずかしい気分になるのはまだ明るいからというのもあるけど久し振りだからってのもあるのかもしれない。
「どうした?」
落ち着かない気分のまま肩のあたりを撫でていた私の指が気になったのか、篠塚さんが顔を上げた。
「ちょっと恥ずかしいかなって」
「そうなのか?」
「篠塚さんはそんなことない?」
「まったく」
即答だ。
「じゃあ聞くが、一体どういうことで恥ずかしいんだ?」
「どういうことでって具体的には特に何がってのはないんだけど……」
「恥ずかしがることなんてないだろ? こんなに綺麗な体をしてるのに」
篠塚さんがそう言いながら大きな手で胸を包み込むとその指先で胸の先端をゆっくりと撫でた。途端に痺れるような疼きが体の奥で湧き上がってくる。私の顔を見てそれを察した篠塚さんが満足げに笑って、それから急に何やら吟味するような目つきになった。
「な、なに見てるの?」
「離れている間に汐莉の体で変わったところはあるかなって見てる」
「そんなジロジロ見ないでってば、余計に恥ずかしくなるから」
「なにも今初めて見られてるわけじゃないだろ? それに俺は汐莉の体の隅々までもう知り尽くしてるんだぞ、それこそ触れていないところは無いってぐらいに」
そう言いながら更に探るような目で私のことを見続ける。
「それとこれとは話が違うんだってば。ねえ、篠塚さんてば、聞いてる?」
「このあたりは前より引き締まったよな。やっぱり護身術と筋トレをやっているお蔭じゃないのか?」
しばらくして篠塚さんが触れてきたのはまさかの二の腕。ん? ちょっと待って。
「ねえ。ってことは前はそのへんがプヨプヨしてると思ってた?」
「引き締まったって言ってるだけなんだが」
ってことは前は引き締まってなかったってことだよね? 自分でも気にはなってたんだよ。今の仕事はデスクワークが殆どであまり腕の筋肉を酷使することなんてないし、日常で持つ重たいものと言っても資料の束か牛乳パックぐらいなんだもの。なんとなくプヨプヨしている二の腕を半袖の季節が来るまでになんとかしたいなって思ってはいたんだ。
「自分以外の人に言われると結構ショック」
「だからそんなこと言ってないだろ?」
「でも前と比べて引き締まったってことはそういうことなんじゃないの?」
「そうなのか?」
私の言葉に篠塚さんは意味が分からんって顔をしている。これは男の篠塚さんには理解できないことなのかもしれない。だけど私にとってはかなり切実。せっかく引き締まったって言われたんだもの、これからはもっと筋トレに励んでプヨプヨに戻らないように気をつけなきゃ。
「お稽古の回数が減った分は筋トレで頑張る」
「あまり引き締まった体になってもらっても俺としては困るんだがな」
「そうなの?」
「今の汐莉の抱き心地が最高で俺は気に入っているんだから」
そう言うと篠塚さんはベッドと私の体の間に手を滑り込ませてきた。背中から腰、お尻へと両手が滑るように移動していく。
「このままの抱き心地でいてくれると嬉しいんだがな」
「それってプヨプヨ……?」
「そんなことは言ってないだろ? 俺は逆にもう少しこの辺に肉がついてもいいんじゃないかと思ってる」
しばらくお尻のあたりでとどまっていた手がゆっくりと前へと回り込んできて下腹部を撫でた。それだけで体がピクリと反応してしまう。私の体は次に来るものがもう分かっているから自然と篠塚さんを受け入れる態勢になっていた。
「相変わらず感じやすい体で何より」
篠塚さんは嬉しそうな笑みを口元に浮かべると私の足の間に体を落ち着かせる。そして私の目を真っ直ぐ見詰めて悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「今更ここで饅頭とか実は他に土産があるとか言わないよな?」
「言っていいの?」
「ダメに決まってる」
「だったら聞かなきゃいいのに」
「これまでの経験から確認しておいた方が良い気がしただけだ」
そう言うと篠塚さんはゆっくりと私の中へと入ってきた。久し振りに受け入れる篠塚さんの体。熱くて硬いものが体を満たしていく。さっきまでは気恥ずかしい気分でいっぱいだったのにいざこうやって体をつなげるとホッとするというか嬉しさでいっぱいになるというか、とにかく幸せ。やっと篠塚さんのところに戻ってこれたって感じ。
奥までしっかりと満たされたところで篠塚さんの手が私の頬を撫でてくる。
「辛くないか?」
「うん、大丈夫」
篠塚さんの問い掛けに頷くと両腕をその広い背中に回した。
「あ……」
「なんだ?」
「篠塚さん、このへんの筋肉、増えてるかも?」
私の手が触れているのは肩甲骨のあたり。記憶にあるよりずっと硬い筋肉に覆われているような気がする。さっきは気づかなかったけど肩とか腕とかも太くはなってないけど筋肉が増えた感じがしないでもない。
「基礎課程とは言えあれこれ厳しい訓練は普通にあるからな。念の為に言っておくがこの状態で今から俺の体を隅々まで調べたいとか言うなよ?」
「ダメ?」
「ダメに決まってる。今はこの部分だけの確認だけで我慢しろよ?」
どの部分?なんて聞くまでもなく“その部分”が体の中で動き始めてそれ以外のことは頭の中から抜け落ちていった。
+++
それからどれぐらい経ったか窓から見える空は夕焼け色に染まっていた。綺麗な茜色だな都会の夕焼けとはやっぱり違うな~なんて眺めつつ、篠塚さんと抱き合いながら心臓の鼓動が元の早さにおさまるのを待っていると何か聞こえたような気がして首を傾げる。
子どもの声? それとも野良猫? ほら、また。気になって私に体を預けている篠塚さんの肩をツンツンと突いた。
「どうした?」
「なんか今、聞こえなかった?」
「なにが?」
体を起こした篠塚さんと顔を見合わせながらじっと息を潜めていると再びその“声”が聞こえてきた。これは子どもの声でも野良猫の鳴き声でもない。これはもしかして……。
「篠塚さん、これって、そのぅ……」
篠塚さんも直ぐに声の正体が分かったらしくニヤッと笑った。
「あー、アダルトビデオを大音量で見ているわけじゃないのなら俺達と同じことをしているヤツがいるってことだな。しかも真下の部屋で」
「え、真下?!」
私は声が聞こえただけで何処からするなんてさっぱり分からなかったけれど、篠塚さんは音の発生源がどこかまで分かったらしい。しかも真下の部屋とか。
「まったく仕方がないヤツだな。御近所さんのよしみで知らせてやるか」
「知らせるってどうやって?」
まさか電話するとかベランダから聞こえてるぞ~って声をかけるとかそんな感じ? それってお互いに気まずくない? 少なくとも私はそんなこと言われたら転げ回って悶絶するぐらい恥ずかしいしイヤだな。そりゃエッチしている最中の声を聞かれるのはもっと恥ずかしいしイヤだけど。
「手っ取り早く知らせてやる」
篠塚さんはニヤニヤしながら体をずらすと手を床にのばしてコンコンとリズムをつけて強めに床を叩いた。すると声がピタリと止まる。そしてしばらくすると微かにベランダ側で手摺か何かを叩く金属音がして、窓を閉めているらしいカラカラカラという音がした。
「問題はこれで解決」
「えっと……今のってモールスか何か?」
「ああ。声が丸聞こえだぞって教えたら、そりゃすまんって返事が返ってきた」
「そう、なの」
「これなら相手がモールスを知らない限り何かしらの生活音としか思わないだろうから、声を聞かれたと分かって気まずい思いをしなくても済むだろ?」
「なるほど」
それなりに相手の人のことを気遣っての「手っ取り早く知らせる」だったのねとちょっと感心した。だけどそれとは別にちょっと気になってきたことがある。
「ねえ、もしかして私達のこともあっちに聞こえてた、とか?」
「さてどうだろうな。汐莉はそれほど大騒ぎしてなかったし音はたいてい上に抜けていくから下の連中は気がつかなかったんじゃないか? それにここは角部屋で隣の部屋は高月で今は不在。ってことはよほど大騒ぎしなければ大丈夫だと思うんだが。なんならどこまで騒いだら隣近所に聞こえるか試してみるか?」
そう言ってニヤッと笑った篠塚さんの顔が超怖い。
「そんなこと試さなくてもいいから!」
「じゃあ念のために明日にでも下のやつに確認しておくか?」
「それもしなくていいから!」
っていうかここに滞在中は下の人と顔を合わせないように祈っておこう。篠塚さん達男連中はたいして気にしていないようだけど声を聞いてしまった私にとってはかなり気まず事案なんだから。
+++++
そして次の日の朝、グッタリした気分で顔をしかめながら起きた私は篠塚さんに思いっ切り笑われた。
「もう、笑いごとじゃないのに~~」
「まったく汐莉、どんだけ運動不足なんだよ」
「そういう問題じゃないと思うんだけどなあ」
もう、本当に篠塚さんてば本当に手加減を知らない人だから笑えない。あの後もずっとベッドから出してもらえなかったし夕飯なんてそれ夜食でしょ、みたいな状態になっちゃったし。おやつにお饅頭を食べてなかったら私、飢え死にしていたかもしれない。寝る前にお風呂に入れたことが奇跡だよ、まったく。
「そのわりには喜んで抱かれていたじゃないか」
「それは……」
「それは?」
ニヤニヤと笑っているのにムカついて枕を投げつけた。
そりゃね、自分だけが気持ちよければいいなんていう自分勝手なことをしないで私のことをも気持ちよくさせてくれたのは非常に素晴らしいと思う。でも!! やっぱり物事には限度ってものがあるの思うんだ。いくらなんでも何時間もずっと繋がりっぱなしなんて有り得ない。
しかも私の方は下に人がいると判明してから最中の声が聞こえないようにって変なところが気になっちゃって仕方が無かったし。本当に色々な意味で滞在初日からぐったり疲れました!!
「元気そうな篠塚さん見てたらますますムカついてきた」
そうなんだよ、一番腹が立つのはそこなんだよね。私は起きた途端にグッタリなのに篠塚さんてば全然元気なんだもの。それどころか超絶ご機嫌絶好調状態ってやつ。本当にムカつくったらありゃしない。
「なんだよ、だったら今日は一日休んでるか?」
「やだ。絶対にてつのくじら館に行く。それから護衛艦の見学も! でも出掛ける前に朝ご飯は食べたい。朝ご飯は篠塚さんが用意してください。私、そんな元気はないから」
「分かった分かった、朝飯は俺が作る、な。やっておくから好きなだけ時間をかけて出掛ける準備をしてくれ」
クスクスと笑いながらキッチンに行ってしまう篠塚さんの背中に思いっ切りアッカンベーをした。
「……まあ朝からいきなりエッチで起こされなかっただけマシかな」
そんなことで判断しちゃう私もかなり篠塚さんに毒されているような気がしないでもない、かな……。
「どうした?」
落ち着かない気分のまま肩のあたりを撫でていた私の指が気になったのか、篠塚さんが顔を上げた。
「ちょっと恥ずかしいかなって」
「そうなのか?」
「篠塚さんはそんなことない?」
「まったく」
即答だ。
「じゃあ聞くが、一体どういうことで恥ずかしいんだ?」
「どういうことでって具体的には特に何がってのはないんだけど……」
「恥ずかしがることなんてないだろ? こんなに綺麗な体をしてるのに」
篠塚さんがそう言いながら大きな手で胸を包み込むとその指先で胸の先端をゆっくりと撫でた。途端に痺れるような疼きが体の奥で湧き上がってくる。私の顔を見てそれを察した篠塚さんが満足げに笑って、それから急に何やら吟味するような目つきになった。
「な、なに見てるの?」
「離れている間に汐莉の体で変わったところはあるかなって見てる」
「そんなジロジロ見ないでってば、余計に恥ずかしくなるから」
「なにも今初めて見られてるわけじゃないだろ? それに俺は汐莉の体の隅々までもう知り尽くしてるんだぞ、それこそ触れていないところは無いってぐらいに」
そう言いながら更に探るような目で私のことを見続ける。
「それとこれとは話が違うんだってば。ねえ、篠塚さんてば、聞いてる?」
「このあたりは前より引き締まったよな。やっぱり護身術と筋トレをやっているお蔭じゃないのか?」
しばらくして篠塚さんが触れてきたのはまさかの二の腕。ん? ちょっと待って。
「ねえ。ってことは前はそのへんがプヨプヨしてると思ってた?」
「引き締まったって言ってるだけなんだが」
ってことは前は引き締まってなかったってことだよね? 自分でも気にはなってたんだよ。今の仕事はデスクワークが殆どであまり腕の筋肉を酷使することなんてないし、日常で持つ重たいものと言っても資料の束か牛乳パックぐらいなんだもの。なんとなくプヨプヨしている二の腕を半袖の季節が来るまでになんとかしたいなって思ってはいたんだ。
「自分以外の人に言われると結構ショック」
「だからそんなこと言ってないだろ?」
「でも前と比べて引き締まったってことはそういうことなんじゃないの?」
「そうなのか?」
私の言葉に篠塚さんは意味が分からんって顔をしている。これは男の篠塚さんには理解できないことなのかもしれない。だけど私にとってはかなり切実。せっかく引き締まったって言われたんだもの、これからはもっと筋トレに励んでプヨプヨに戻らないように気をつけなきゃ。
「お稽古の回数が減った分は筋トレで頑張る」
「あまり引き締まった体になってもらっても俺としては困るんだがな」
「そうなの?」
「今の汐莉の抱き心地が最高で俺は気に入っているんだから」
そう言うと篠塚さんはベッドと私の体の間に手を滑り込ませてきた。背中から腰、お尻へと両手が滑るように移動していく。
「このままの抱き心地でいてくれると嬉しいんだがな」
「それってプヨプヨ……?」
「そんなことは言ってないだろ? 俺は逆にもう少しこの辺に肉がついてもいいんじゃないかと思ってる」
しばらくお尻のあたりでとどまっていた手がゆっくりと前へと回り込んできて下腹部を撫でた。それだけで体がピクリと反応してしまう。私の体は次に来るものがもう分かっているから自然と篠塚さんを受け入れる態勢になっていた。
「相変わらず感じやすい体で何より」
篠塚さんは嬉しそうな笑みを口元に浮かべると私の足の間に体を落ち着かせる。そして私の目を真っ直ぐ見詰めて悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「今更ここで饅頭とか実は他に土産があるとか言わないよな?」
「言っていいの?」
「ダメに決まってる」
「だったら聞かなきゃいいのに」
「これまでの経験から確認しておいた方が良い気がしただけだ」
そう言うと篠塚さんはゆっくりと私の中へと入ってきた。久し振りに受け入れる篠塚さんの体。熱くて硬いものが体を満たしていく。さっきまでは気恥ずかしい気分でいっぱいだったのにいざこうやって体をつなげるとホッとするというか嬉しさでいっぱいになるというか、とにかく幸せ。やっと篠塚さんのところに戻ってこれたって感じ。
奥までしっかりと満たされたところで篠塚さんの手が私の頬を撫でてくる。
「辛くないか?」
「うん、大丈夫」
篠塚さんの問い掛けに頷くと両腕をその広い背中に回した。
「あ……」
「なんだ?」
「篠塚さん、このへんの筋肉、増えてるかも?」
私の手が触れているのは肩甲骨のあたり。記憶にあるよりずっと硬い筋肉に覆われているような気がする。さっきは気づかなかったけど肩とか腕とかも太くはなってないけど筋肉が増えた感じがしないでもない。
「基礎課程とは言えあれこれ厳しい訓練は普通にあるからな。念の為に言っておくがこの状態で今から俺の体を隅々まで調べたいとか言うなよ?」
「ダメ?」
「ダメに決まってる。今はこの部分だけの確認だけで我慢しろよ?」
どの部分?なんて聞くまでもなく“その部分”が体の中で動き始めてそれ以外のことは頭の中から抜け落ちていった。
+++
それからどれぐらい経ったか窓から見える空は夕焼け色に染まっていた。綺麗な茜色だな都会の夕焼けとはやっぱり違うな~なんて眺めつつ、篠塚さんと抱き合いながら心臓の鼓動が元の早さにおさまるのを待っていると何か聞こえたような気がして首を傾げる。
子どもの声? それとも野良猫? ほら、また。気になって私に体を預けている篠塚さんの肩をツンツンと突いた。
「どうした?」
「なんか今、聞こえなかった?」
「なにが?」
体を起こした篠塚さんと顔を見合わせながらじっと息を潜めていると再びその“声”が聞こえてきた。これは子どもの声でも野良猫の鳴き声でもない。これはもしかして……。
「篠塚さん、これって、そのぅ……」
篠塚さんも直ぐに声の正体が分かったらしくニヤッと笑った。
「あー、アダルトビデオを大音量で見ているわけじゃないのなら俺達と同じことをしているヤツがいるってことだな。しかも真下の部屋で」
「え、真下?!」
私は声が聞こえただけで何処からするなんてさっぱり分からなかったけれど、篠塚さんは音の発生源がどこかまで分かったらしい。しかも真下の部屋とか。
「まったく仕方がないヤツだな。御近所さんのよしみで知らせてやるか」
「知らせるってどうやって?」
まさか電話するとかベランダから聞こえてるぞ~って声をかけるとかそんな感じ? それってお互いに気まずくない? 少なくとも私はそんなこと言われたら転げ回って悶絶するぐらい恥ずかしいしイヤだな。そりゃエッチしている最中の声を聞かれるのはもっと恥ずかしいしイヤだけど。
「手っ取り早く知らせてやる」
篠塚さんはニヤニヤしながら体をずらすと手を床にのばしてコンコンとリズムをつけて強めに床を叩いた。すると声がピタリと止まる。そしてしばらくすると微かにベランダ側で手摺か何かを叩く金属音がして、窓を閉めているらしいカラカラカラという音がした。
「問題はこれで解決」
「えっと……今のってモールスか何か?」
「ああ。声が丸聞こえだぞって教えたら、そりゃすまんって返事が返ってきた」
「そう、なの」
「これなら相手がモールスを知らない限り何かしらの生活音としか思わないだろうから、声を聞かれたと分かって気まずい思いをしなくても済むだろ?」
「なるほど」
それなりに相手の人のことを気遣っての「手っ取り早く知らせる」だったのねとちょっと感心した。だけどそれとは別にちょっと気になってきたことがある。
「ねえ、もしかして私達のこともあっちに聞こえてた、とか?」
「さてどうだろうな。汐莉はそれほど大騒ぎしてなかったし音はたいてい上に抜けていくから下の連中は気がつかなかったんじゃないか? それにここは角部屋で隣の部屋は高月で今は不在。ってことはよほど大騒ぎしなければ大丈夫だと思うんだが。なんならどこまで騒いだら隣近所に聞こえるか試してみるか?」
そう言ってニヤッと笑った篠塚さんの顔が超怖い。
「そんなこと試さなくてもいいから!」
「じゃあ念のために明日にでも下のやつに確認しておくか?」
「それもしなくていいから!」
っていうかここに滞在中は下の人と顔を合わせないように祈っておこう。篠塚さん達男連中はたいして気にしていないようだけど声を聞いてしまった私にとってはかなり気まず事案なんだから。
+++++
そして次の日の朝、グッタリした気分で顔をしかめながら起きた私は篠塚さんに思いっ切り笑われた。
「もう、笑いごとじゃないのに~~」
「まったく汐莉、どんだけ運動不足なんだよ」
「そういう問題じゃないと思うんだけどなあ」
もう、本当に篠塚さんてば本当に手加減を知らない人だから笑えない。あの後もずっとベッドから出してもらえなかったし夕飯なんてそれ夜食でしょ、みたいな状態になっちゃったし。おやつにお饅頭を食べてなかったら私、飢え死にしていたかもしれない。寝る前にお風呂に入れたことが奇跡だよ、まったく。
「そのわりには喜んで抱かれていたじゃないか」
「それは……」
「それは?」
ニヤニヤと笑っているのにムカついて枕を投げつけた。
そりゃね、自分だけが気持ちよければいいなんていう自分勝手なことをしないで私のことをも気持ちよくさせてくれたのは非常に素晴らしいと思う。でも!! やっぱり物事には限度ってものがあるの思うんだ。いくらなんでも何時間もずっと繋がりっぱなしなんて有り得ない。
しかも私の方は下に人がいると判明してから最中の声が聞こえないようにって変なところが気になっちゃって仕方が無かったし。本当に色々な意味で滞在初日からぐったり疲れました!!
「元気そうな篠塚さん見てたらますますムカついてきた」
そうなんだよ、一番腹が立つのはそこなんだよね。私は起きた途端にグッタリなのに篠塚さんてば全然元気なんだもの。それどころか超絶ご機嫌絶好調状態ってやつ。本当にムカつくったらありゃしない。
「なんだよ、だったら今日は一日休んでるか?」
「やだ。絶対にてつのくじら館に行く。それから護衛艦の見学も! でも出掛ける前に朝ご飯は食べたい。朝ご飯は篠塚さんが用意してください。私、そんな元気はないから」
「分かった分かった、朝飯は俺が作る、な。やっておくから好きなだけ時間をかけて出掛ける準備をしてくれ」
クスクスと笑いながらキッチンに行ってしまう篠塚さんの背中に思いっ切りアッカンベーをした。
「……まあ朝からいきなりエッチで起こされなかっただけマシかな」
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