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事件です!
第二話
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「こんにちは、南山夫人」
セルナさんと藤堂さんのお蔭でなんとか献立が決まり、ホッとしながら自宅に戻ろうとしたところで、職員専用の通用口から入ってきた男性に声をかけられた。
「あら、山崎一尉。制服じゃないから、一瞬わからなかったわ。今日は非番だと思っていたんだけれど、違っていたかしら?」
「自分は休みの日なんですが、警備スタッフの様子を見に来たんですよ。今朝から、彼らだけの警備体制に入りましたから。引き継ぎなどがスムーズにいっているか、その様子を見ておこうと思いまして」
「心配性なのね」
真面目な彼らしい言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「念には念を入れておきませんと。彼等の勤務態度は、大使館職員の安全にかかわることですから」
さらに生真面目な顔つきで答える彼。彼の名前は山崎信也。大使館の防衛駐在官をつとめている、陸上自衛隊の一等陸尉だ。
ここ最近の彼の仕事の一つが、大使館と大使公邸を警備する民間警備会社スタッフ達の教育だった。国が違うとその気質も違ってくる。そんな彼らに、日本式の警備態勢を教えるのはかなり難しいらしく、在外公館警備対策官と共同で取り組んでいる案件だった。
そしてその警備スタッフが、山崎一尉の手を離れて独り立ちをするらしい。
「自衛隊とは違うから、苦労したでしょう?」
「ほとんどが軍隊経験者と警察経験者で知識的には問題ないんですが、難しいのは集中力を持続させることですね。自分達の気のゆるみが職員の命にかかわることだと、頭に叩き込むのが難しかったです。彼らはこの国の治安に、慣れてしまっていますから」
そこで山崎一尉は、私と立ち話をしている現実に我にかえったようだった。
「ああ、申し訳ありません、お時間をとらせてしまって」
「いいのよ。私も今から帰るところだから。やっとメニューが決まったの」
「ああ、来週の夕食会ですね」
私がなんのことを言ったのかすぐにわかったらしく、ニッコリと微笑む。
「こちらこそ呼び止めてしまってごめんなさいね。警備の人達の仕事ぶり、ちゃんと見てきてあげて」
そう言って外に出ようとしたところで、呼び止められた。
「南山夫人、お急ぎですか? もしかして今から診療所のほうへ?」
「ん? 今日は診療所もお休みだから、まっすぐ自宅に戻るところよ。どうして?」
山崎一尉の質問に、首をかしげる。
「それでしたら、少しの間お待ちになっていてください。自分が自宅までお送りします」
「いいのよ、そんなことしなくても。あなたもお休みなんでしょ?」
「このあたりは治安は良いほうですが、安心はできませんから。それに自分も、確認をいくつかするだけですぐに戻るつもりでいます。今日は車で来ていますので、お急ぎでないのでしたら、待っていてください」
「本当に良いの?」
「はい。執務室横の控室で、お待ちになっていてください。こちらが終わり次第、お迎えにあがります」
今日は週末。大使館には裕章さんを含め、何人かの職員が出てきているけれど、基本的にはお休みで関係者がやってくることはない。だから執務室の横にあるお客様用の控室にいても、誰かと鉢合わせする心配はなかった。
「そう? だったらお言葉に甘えて、送っていただくことにするわ。じゃあ、あっちの部屋で待っていますね。私のことは気にせず、慌てずしっかりチェックしてきてね」
「わかりました。では」
敬礼をしてその場を離れる山崎一尉。
「私服なのに、敬礼することは忘れないのね……」
一尉の背中を見送りながら、そんなことをつぶやいてしまった。そこへ裕章さんが向こうから歩いてくる。私が立っているのを見て、驚いた顔をした。
「あれ? 雛子さん、まだ帰ってなかったのかい? 沢崎君から、メニューが決まったって報告を受けたんだけどな」
「帰るつもりだったんだけど、山崎一尉が送ってくださるんですって」
そう答えて、山崎一尉の背中を指でさす。
「そういうことか。そのほうが良いね」
裕章さんも、山崎一尉が送ってくれることに賛成のようだ。
「執務室の横の部屋、使わせてもらっても良い?」
「かまわないよ。ああ、もう電話もかかってこないから、執務室を使ってくれてかまわないよ。あそこならコーヒーも飲めるし」
「そう? だったらそうしようかしら。裕章さんも飲む?」
「そうだね。お願いしようかな」
それからしばらくして、二人でのんびりとコーヒーを飲んでいると、執務室のドアが遠慮がちにノックされた。
「どうぞー、入っても問題ないよ」
裕章さんが返事をすると、ドアが開いて山崎一尉が顔を出す。一尉は私の顔を見てホッとした様子だ。
「やはりこちらでしたか」
「あ、そうだった! 控室で待ってるって言ったのよね、私! ごめんなさい、すっかり忘れてた!」
もしかして建物内を探し回らせてしまったかしら?と申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさいね、あちらこちら探させちゃったかしら?」
「いえ。執務室の隣なので、もしかしたらと真っ先にノックしましたから」
「本当にごめんなさい」
「じゃあ山崎一尉、うちの奥さんをよろしく頼むね」
「了解しました」
山崎一尉は裕章さんの言葉に、自衛官らしい真面目な顔をしてうなづく。
「じゃあ、雛子さん、また夜に自宅で」
「カップ、片づけておいてくれる?」
「わかってるよ。もしかして、その程度のこともできない男だって思われてる?」
悲しそうな顔をしてみせたけど、その口調はどこか楽しげだ。
「それは失礼しました。では南山大使、私のマグカップの後片づけをお願いしますね」
「そのぐらいお安い御用ですよ、南山夫人」
私達夫婦のやり取りを見ていた山崎一尉が、おかしそうに笑った。
+++++
「奥様と大使は、本当に仲がよろしいんですね」
大使館のゲートから出て、最初の信号で止まったところで、山崎一尉が私に話しかけてきた。
「それぞれの両親によると、私達は昔からあまり進歩していないんですって」
両親や裕章さんの同僚さん達から、子供達の前ではもう少し、大人として振る舞いなさいとよく言われている。これでも十分に大人らしく振る舞っているつもりなんだけど、周囲からするとまだまだらしい。
「そうなんですか? 自分からしたら、理想のおしどり夫婦だと思いますが」
「すぎたるは及ばざるがごとし、なんですって」
その言葉に、山崎一尉が笑う。
「ですが、円満なのは良いことじゃないですか。なにか秘訣でも?」
「どうかしらね。そういうことは、あまり気にしたことはないけど。ただ、主人はあまり出世に興味がない人だから、省内のギスギスした空気に染まることもなく、呑気に暮らせているんだと思うわよ?」
「なるほど。それはなんとなく理解できます」
「自衛隊でも、そういうのがあるのよね?」
「ええまあ、それなりに?」
山崎一尉は防衛大学出身。陸自の幹部の一人で、その頂点は陸上幕僚監部の陸幕長であり、統合幕僚監部の幕僚本部長だ。彼らの間でもきっと、私達にはわからない出世レースが、繰り広げられているんだろう。
まだ若いのに遠い国の大使館での事務官を任された彼は、これからきっと偉くなっていくに違いない。それが、本人の望むものかどうかは別として。
「ああ、そう言えば。奥様はお元気?」
「はい、おかげさまで。ずいぶんとお腹が大きくなってきましたよ」
山崎一尉には奥さんがいる。ただ、私と違って奥さんは日本に残っていた。そしてその奥さんは今、彼の子供をお腹に宿しているのだ。
「残念ね、出産に立ち会えないなんて」
「まあ、しかたがないですね。地球の裏側ですし、産気づいたと聞いても、簡単には駆けつけられない距離ですから」
ハンドルを握りながら、悲しげな溜め息をついた。
「でも……子供はもう少し先だと思っていたので、うれしいプレゼントですよ。同期達からはどんな命中率だよって、散々からかわれましたが。ああ、その……すみません」
話している相手が女の私だと気がついて、慌てて口ごもる。
「いいのいいの、気にしないで。お友達の言いたいこともわかるわ。チャンスは逃がさないってやつよね」
「ええ、あの、はい、その通りです」
山崎一尉の顔が、少しだけ赤くなった。
「初めてのお子さんだものね。そばにいたいっていう気持ちはわかるわ」
「奥様はどうだったんですか? 三人いらっしゃるんですよね?」
「私? 私が子供達を産んだ時は、三人とも日本にいる時だったのよ。それこそ計画的よ。自衛官からすると、けっこうな命中率ってやつなのかしら?」
「えーと、なんと言えばよいのやら……」
なんとも言えない微笑みを浮かべている。
「とにかく、なんだかんだ言っても、日本国内が安心できるってことね。どんなに熱意があるお医者さんでも、医療後進国ではどうにもならないことって、たくさんあるのよ」
「それで奥様は、現地の医療活動に、積極的に参加されているんですか?」
「私達でできることなんて、たかが知れているけれどね」
ただ、裕章さんは私が動きやすいようにと『現地にいる邦人の医療環境の向上のため』という、もっともらしい理由を作ってくれた。そのほうが、霞が関の頭の固い人達にも認められやすいから、と言って。その結果、現地の人達の医療環境が向上するのは〝ちょっとしたボーナス〟なんだそうだ。
ほんと、これで出世に興味がないなんて、嘘みたいでしょ?
「それと、診療所で仕事をしていれば、かた苦しい大使館の行事から逃げられるでしょ? 大事なのはそこなの。これ、秘密よ?」
山崎一尉は私の言葉に、おかしそうに笑った。
セルナさんと藤堂さんのお蔭でなんとか献立が決まり、ホッとしながら自宅に戻ろうとしたところで、職員専用の通用口から入ってきた男性に声をかけられた。
「あら、山崎一尉。制服じゃないから、一瞬わからなかったわ。今日は非番だと思っていたんだけれど、違っていたかしら?」
「自分は休みの日なんですが、警備スタッフの様子を見に来たんですよ。今朝から、彼らだけの警備体制に入りましたから。引き継ぎなどがスムーズにいっているか、その様子を見ておこうと思いまして」
「心配性なのね」
真面目な彼らしい言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「念には念を入れておきませんと。彼等の勤務態度は、大使館職員の安全にかかわることですから」
さらに生真面目な顔つきで答える彼。彼の名前は山崎信也。大使館の防衛駐在官をつとめている、陸上自衛隊の一等陸尉だ。
ここ最近の彼の仕事の一つが、大使館と大使公邸を警備する民間警備会社スタッフ達の教育だった。国が違うとその気質も違ってくる。そんな彼らに、日本式の警備態勢を教えるのはかなり難しいらしく、在外公館警備対策官と共同で取り組んでいる案件だった。
そしてその警備スタッフが、山崎一尉の手を離れて独り立ちをするらしい。
「自衛隊とは違うから、苦労したでしょう?」
「ほとんどが軍隊経験者と警察経験者で知識的には問題ないんですが、難しいのは集中力を持続させることですね。自分達の気のゆるみが職員の命にかかわることだと、頭に叩き込むのが難しかったです。彼らはこの国の治安に、慣れてしまっていますから」
そこで山崎一尉は、私と立ち話をしている現実に我にかえったようだった。
「ああ、申し訳ありません、お時間をとらせてしまって」
「いいのよ。私も今から帰るところだから。やっとメニューが決まったの」
「ああ、来週の夕食会ですね」
私がなんのことを言ったのかすぐにわかったらしく、ニッコリと微笑む。
「こちらこそ呼び止めてしまってごめんなさいね。警備の人達の仕事ぶり、ちゃんと見てきてあげて」
そう言って外に出ようとしたところで、呼び止められた。
「南山夫人、お急ぎですか? もしかして今から診療所のほうへ?」
「ん? 今日は診療所もお休みだから、まっすぐ自宅に戻るところよ。どうして?」
山崎一尉の質問に、首をかしげる。
「それでしたら、少しの間お待ちになっていてください。自分が自宅までお送りします」
「いいのよ、そんなことしなくても。あなたもお休みなんでしょ?」
「このあたりは治安は良いほうですが、安心はできませんから。それに自分も、確認をいくつかするだけですぐに戻るつもりでいます。今日は車で来ていますので、お急ぎでないのでしたら、待っていてください」
「本当に良いの?」
「はい。執務室横の控室で、お待ちになっていてください。こちらが終わり次第、お迎えにあがります」
今日は週末。大使館には裕章さんを含め、何人かの職員が出てきているけれど、基本的にはお休みで関係者がやってくることはない。だから執務室の横にあるお客様用の控室にいても、誰かと鉢合わせする心配はなかった。
「そう? だったらお言葉に甘えて、送っていただくことにするわ。じゃあ、あっちの部屋で待っていますね。私のことは気にせず、慌てずしっかりチェックしてきてね」
「わかりました。では」
敬礼をしてその場を離れる山崎一尉。
「私服なのに、敬礼することは忘れないのね……」
一尉の背中を見送りながら、そんなことをつぶやいてしまった。そこへ裕章さんが向こうから歩いてくる。私が立っているのを見て、驚いた顔をした。
「あれ? 雛子さん、まだ帰ってなかったのかい? 沢崎君から、メニューが決まったって報告を受けたんだけどな」
「帰るつもりだったんだけど、山崎一尉が送ってくださるんですって」
そう答えて、山崎一尉の背中を指でさす。
「そういうことか。そのほうが良いね」
裕章さんも、山崎一尉が送ってくれることに賛成のようだ。
「執務室の横の部屋、使わせてもらっても良い?」
「かまわないよ。ああ、もう電話もかかってこないから、執務室を使ってくれてかまわないよ。あそこならコーヒーも飲めるし」
「そう? だったらそうしようかしら。裕章さんも飲む?」
「そうだね。お願いしようかな」
それからしばらくして、二人でのんびりとコーヒーを飲んでいると、執務室のドアが遠慮がちにノックされた。
「どうぞー、入っても問題ないよ」
裕章さんが返事をすると、ドアが開いて山崎一尉が顔を出す。一尉は私の顔を見てホッとした様子だ。
「やはりこちらでしたか」
「あ、そうだった! 控室で待ってるって言ったのよね、私! ごめんなさい、すっかり忘れてた!」
もしかして建物内を探し回らせてしまったかしら?と申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさいね、あちらこちら探させちゃったかしら?」
「いえ。執務室の隣なので、もしかしたらと真っ先にノックしましたから」
「本当にごめんなさい」
「じゃあ山崎一尉、うちの奥さんをよろしく頼むね」
「了解しました」
山崎一尉は裕章さんの言葉に、自衛官らしい真面目な顔をしてうなづく。
「じゃあ、雛子さん、また夜に自宅で」
「カップ、片づけておいてくれる?」
「わかってるよ。もしかして、その程度のこともできない男だって思われてる?」
悲しそうな顔をしてみせたけど、その口調はどこか楽しげだ。
「それは失礼しました。では南山大使、私のマグカップの後片づけをお願いしますね」
「そのぐらいお安い御用ですよ、南山夫人」
私達夫婦のやり取りを見ていた山崎一尉が、おかしそうに笑った。
+++++
「奥様と大使は、本当に仲がよろしいんですね」
大使館のゲートから出て、最初の信号で止まったところで、山崎一尉が私に話しかけてきた。
「それぞれの両親によると、私達は昔からあまり進歩していないんですって」
両親や裕章さんの同僚さん達から、子供達の前ではもう少し、大人として振る舞いなさいとよく言われている。これでも十分に大人らしく振る舞っているつもりなんだけど、周囲からするとまだまだらしい。
「そうなんですか? 自分からしたら、理想のおしどり夫婦だと思いますが」
「すぎたるは及ばざるがごとし、なんですって」
その言葉に、山崎一尉が笑う。
「ですが、円満なのは良いことじゃないですか。なにか秘訣でも?」
「どうかしらね。そういうことは、あまり気にしたことはないけど。ただ、主人はあまり出世に興味がない人だから、省内のギスギスした空気に染まることもなく、呑気に暮らせているんだと思うわよ?」
「なるほど。それはなんとなく理解できます」
「自衛隊でも、そういうのがあるのよね?」
「ええまあ、それなりに?」
山崎一尉は防衛大学出身。陸自の幹部の一人で、その頂点は陸上幕僚監部の陸幕長であり、統合幕僚監部の幕僚本部長だ。彼らの間でもきっと、私達にはわからない出世レースが、繰り広げられているんだろう。
まだ若いのに遠い国の大使館での事務官を任された彼は、これからきっと偉くなっていくに違いない。それが、本人の望むものかどうかは別として。
「ああ、そう言えば。奥様はお元気?」
「はい、おかげさまで。ずいぶんとお腹が大きくなってきましたよ」
山崎一尉には奥さんがいる。ただ、私と違って奥さんは日本に残っていた。そしてその奥さんは今、彼の子供をお腹に宿しているのだ。
「残念ね、出産に立ち会えないなんて」
「まあ、しかたがないですね。地球の裏側ですし、産気づいたと聞いても、簡単には駆けつけられない距離ですから」
ハンドルを握りながら、悲しげな溜め息をついた。
「でも……子供はもう少し先だと思っていたので、うれしいプレゼントですよ。同期達からはどんな命中率だよって、散々からかわれましたが。ああ、その……すみません」
話している相手が女の私だと気がついて、慌てて口ごもる。
「いいのいいの、気にしないで。お友達の言いたいこともわかるわ。チャンスは逃がさないってやつよね」
「ええ、あの、はい、その通りです」
山崎一尉の顔が、少しだけ赤くなった。
「初めてのお子さんだものね。そばにいたいっていう気持ちはわかるわ」
「奥様はどうだったんですか? 三人いらっしゃるんですよね?」
「私? 私が子供達を産んだ時は、三人とも日本にいる時だったのよ。それこそ計画的よ。自衛官からすると、けっこうな命中率ってやつなのかしら?」
「えーと、なんと言えばよいのやら……」
なんとも言えない微笑みを浮かべている。
「とにかく、なんだかんだ言っても、日本国内が安心できるってことね。どんなに熱意があるお医者さんでも、医療後進国ではどうにもならないことって、たくさんあるのよ」
「それで奥様は、現地の医療活動に、積極的に参加されているんですか?」
「私達でできることなんて、たかが知れているけれどね」
ただ、裕章さんは私が動きやすいようにと『現地にいる邦人の医療環境の向上のため』という、もっともらしい理由を作ってくれた。そのほうが、霞が関の頭の固い人達にも認められやすいから、と言って。その結果、現地の人達の医療環境が向上するのは〝ちょっとしたボーナス〟なんだそうだ。
ほんと、これで出世に興味がないなんて、嘘みたいでしょ?
「それと、診療所で仕事をしていれば、かた苦しい大使館の行事から逃げられるでしょ? 大事なのはそこなの。これ、秘密よ?」
山崎一尉は私の言葉に、おかしそうに笑った。
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