74 / 103
【後日談2】トロワ・メートル
13.そこに、ふたりのメートル
しおりを挟む
甲斐師匠、『フレンチ十和田』でギャルソンとして復帰しても、そつなく勤めていく。
始業前には葉子とアルコール類の支度をして、ホールでは控えめにしつつ、部下でもあったメートル・ドテルの蒼を支え、若いシェフ・ド・ランの神楽君のことも、そっとさりげなくサポート。
神楽君と共に今後シェフ・ド・ランのふたりは『チーフ』と呼ばれることになった。
でも、甲斐チーフの愛称は、いつのまにか『お師匠さん』になりつつもある。
ホールスタッフからも、厨房の料理人たちからも、あっという間に信頼を得ていた。
葉子もだった。毎日、甲斐チーフから繰り出されるワインの話に徐々に夢中になっていく。
本日もワインカーブにて、あの立ち飲み用丸テーブルを挟んで、ワインを選んでいく。
今日も北海道産のワインのボトルを手に、甲斐チーフがラベルを眺めつつ、なにやら思い馳せているようだった。
「北海道のワイン用葡萄ですが、以前は耐寒性があるドイツ種が多かったですね。温暖化のせいでしょう、フランス種も増えてきました。そのうちにシチリア種も入ってくるかもしれませんね……。今後が楽しみな反面、これまで世界のワインを支えてきたフランスの畑が心配になります」
「そういえば、北海道も私が子供のころより、雪が少なくなったなと感じることがあります。それでもまだ多いですけれど……。夏の気温もあがったように思えます」
その温暖化による変化は、まだ雪が多い北国にいる葉子でも、最近はよく感じるようになったのは確かだった。函館で揚がる漁獲の種類にも変化が出ている。それはワインもおなじということらしい。
「近年、ついに伝統あるブルゴーニュのワイナリーが、畑を確保するために、函館に進出してきています。世界の適する候補地から、畑の移住地に函館を選んだのです。温暖化により『神に愛された土地』とまで言われたブルゴーニュの畑でさえ、いままでの品質を保つ収穫がままならなくなり、もう判断を迫られている状態です。品種を変えるか、品種を開発するか、土地を移すかなど。ですから、もしかすると、いずれ、この函館近郊の畑が世界のワインを生み出していくかもしれません。お父様がこだわっていることが活かされる時がくるかもしれない」
もういままで語られてきたワインでは通用しなくなるかもしれないと、甲斐チーフが眉間にしわを寄せ、険しくなっていく。
「そんな意味でも、ソムリエも気候の変動と畑の情報を知ることも大事になってきます。心の隅に常に留めておいてください」
つまりは常に情報に敏感になって、常に勉強だと葉子にいいたいのだろう。肝に銘じて強く頷く。
「それでは、本日も準備をいたしましょう」
甲斐チーフと共に、本日のアペリティフメニューと、ワインリストの最終決定をして、また二人一緒に銘柄を探す。
立ち飲みのテーブルにそのボトルを置いて、さらに確認。その後は、どのワインをどのように冷やすか、どの温度でお出しするかという確認もしておく。
その時に、また『甲斐レクチャー』が始まった。
「桐生、あるいは、篠田から、ワインの適温というのを教わりましたか」
「はい。赤ワインは常温でとよく耳にすることがあるけれど、いまそこにいる場所の常温がよいとは限らず、季節や地方によって差がある。本来は14度~18度」
「そう。ただし、赤ワインも様々、風味によって使い分けると良いでしょう。軽い飲み口の赤ワインなら一時間ほど冷やすのも良いです。白ワインは二、三時間冷やしますが、繊細な風味のものは逆に一時間のみで、美味しく飲める銘柄もあります。ワインクーラーにて氷で冷やす場合と、冷蔵庫に寝かせて冷やすのとはまた時間が異なります。そこはそれぞれの方法の時間と、温度で覚えておくと良いでしょう。では、四時間以上、しっかり冷やしておきたいものはなんですか」
もう残っているものと言えばひとつだけ。
「シャンパンやスパークリングワインです」
「あとひとつ」
赤ワイン、白ワイン、シャンパンとスパークリングワイン。他に? 葉子は首を傾げたが、聞かれたのなら答えがあるのだろうと、一生懸命に考えた。
そこでハッと、在りし日の秀星との試飲を思い出す。
「デザートワインです」
「そのとおりです。誰に教わりましたか」
「桐生給仕長です」
「きちんと教えていたんだね。……そうか……」
葉子よりも先に、甲斐チーフのほうが哀しげに眼差しを翳らせた。
秀星が、葉子に託したものを感じ取っているようだった。
「そのデザートワインは、貴腐ブドウでしたか」
「はい。小樽産 2004年でした」
「数年ぶりに小樽で貴腐ブドウが採れた年だね」
「なのに。辛口だったんです。それが印象的でした。さらに桐生給仕長は、甘いだけではない風味を感じるようにと二度テイスティングの指示がありました」
「なるほど。その時に、桐生はデザートワインとして他になにか伝えていましたか」
「いいえ。まだ私が給仕を始めて2年目だったと思います。ワインに慣れることを始めたばかりだったかと」
「その銘柄はいまここにありますか」
「ありません。数本しかなく、桐生給仕長が勤めている間に、すべてお客様に提供いたしました」
何故かそこで、甲斐チーフが黙り込んだ。そして考え込んでいる。目線が優しいおじいちゃんから、元メートル・ドテルだった時にそうだったと思えるような、鋭い視線をカーブへと馳せている。
「その時……。十和田さんは、その貴腐ワインをどう感じましたか」
「最初の一口は、飲む前に教えてもらっていたように、とても甘いものでした。ですが辛口だと桐生に示されてから、もう一度意識して口に含むと、甘さのあとにくどさがなくスッキリとした切れ味と後味がありました。フロマージュでチーズをお召し上がりになるオーダーをされたお客様以外に向けて、これならデザートワインとしてではなく、ポワソンや貝類をつかったアミューズ、オードブルにも出せる。実際に桐生給仕長はそうして提供していました」
「何故、食前のアペリティフやデザート前にチーズを食するフロマージュ、それらに適したデザートワインになりうるはずなのに、料理にも合わせられる切れ味があったかわかりますか」
わからなかった。印象に残っていて、秀星と試飲した思い出深い一品というだけで、ソムリエになろうなんて露ほども思っていなかった葉子には、ただただ不勉強なものにしかならない。
だが知らないことに対しても、興味を持たなかったことに対しても、甲斐チーフはなんの言及もしなかった。
「では。世界三大貴腐ワインはなにかわかりますか」
「ひとつは、シャトー・ディケム……。申し訳ありません、これしかわかりません」
言及はしなかったが、甲斐チーフは小さくため息をひとつ、落とした。
「ですよね。シャトー・ディケムがいちばん有名だと思います。しかし、シャトー・ディケムがどのようにして『シャトー・ディケム』か答えられますか」
「いいえ……。銘柄として知っているだけです」
そこでも甲斐チーフは、しばし黙って、葉子を見ているだけだった。
それしかわからないのか、それとも、どれだけ知らないかを判断しているのかわからない目だった。それはやはり、仕事人の目つきで、葉子はこの沈黙の間、非常に緊張することに。
「仕方ありません。このレストランには国産のワイン、特に道内産のものを主としていること、元は個人経営でもあって、お料理の予算からも限られたものしか置かれておりませんからね。触れる機会も少ないことでしょう」
このような田舎のオヤジがやっているレストランだから、知らなくて仕方がないと言われているのかと思い、葉子の心が沈んでいく……。
だがそうではなかった。甲斐チーフが続ける。
「ですが。このワインカーブですら、十和田シェフの信念が窺えます。北海道の食材には、北の大地で育った葡萄で作られた『ワイン』を、同じ土、風、太陽、水、すべての調和を同じ土地のものでマリアージュをしたいという理想を掲げているからです。ひいては、ご自分が生まれた土地に誇りを持っているからなのでしょう。すでに評価を得ている世界のブランドも若干数取り入れていますが、本心は、この北海道という土地のものを知ってほしいという願い。それが伝わってきます。このワインカーブからも。そして、ワイナリーの作り手と手を取り合って、生産を素材を支えていく。そんな絆も見えます。その意思を、サービスを担当する桐生も篠田も引き継いでいる。私もそう感じていますし、ここにお勤めの間は私もその想いに応えたいと思っています。素晴らしい信念をお持ちのシェフです」
沈んだ気持ちが、ぱあっと一気に晴れやかになり、葉子は笑顔で、自分より背が高い甲斐チーフを見上げる。
「それは私も同じです。娘だからというのもありますが、十和田シェフのこだわりは、私も一緒にこだわっていきたいです」
「親孝行ですね」
険しい目をしていたのに、途端に、いつもの甲斐おじいちゃまの優しい笑みに崩れた。
現役時代は蒼が恐れるほど厳しいお人だっただろうに。いまは肩の力を抜いた働き方を心得ているようだった。でも時に見せる厳しい目つきが、まだまだ葉子には畏れ多いものだ。
「北海道のワインも徐々に歴史が積み重なってきました。また温暖化により、世界のワインのための葡萄畑は、北限がさらに北へと移動しはじめ、以前は寒冷地ということで栽培を避けられてきた北海道ですが、気温上昇により今後の北海道の葡萄畑の性質が注目されています。作り手も増えてきました。様々なワインを知ることがソムリエの勉強です。ですが、お父様のように頑固とも言える『プライド』を、ソムリエとして自分だけの『こだわり』を持ち、フレンチ十和田の持ち味を、葉子さんには作ってもらいたいと、年寄りは思っています」
もう葉子はドキドキしていた。頬は熱く高揚しているのが自分でもわかる!
そう、こうして教わってきたんだもの。
甲斐師匠と秀星がすごく重なる。一辺倒の知識だけを伝えるような教え方ではなく、『お父様が』と、このお店だからこその『指針』を忘れずに、そこを軸に教育してくれる『情』を感じずにはいられない。
そんな教え方。秀星さんと一緒だ。もうそれだけで……。
宿題を出された。『世界三大貴腐ワインについて調べてくること』。
甲斐チーフも葉子の『メートル』だ。メートルは『師匠』の意味もある。
秀星、蒼、甲斐チーフ。三人目の師匠。葉子の三人の師匠。
始業前には葉子とアルコール類の支度をして、ホールでは控えめにしつつ、部下でもあったメートル・ドテルの蒼を支え、若いシェフ・ド・ランの神楽君のことも、そっとさりげなくサポート。
神楽君と共に今後シェフ・ド・ランのふたりは『チーフ』と呼ばれることになった。
でも、甲斐チーフの愛称は、いつのまにか『お師匠さん』になりつつもある。
ホールスタッフからも、厨房の料理人たちからも、あっという間に信頼を得ていた。
葉子もだった。毎日、甲斐チーフから繰り出されるワインの話に徐々に夢中になっていく。
本日もワインカーブにて、あの立ち飲み用丸テーブルを挟んで、ワインを選んでいく。
今日も北海道産のワインのボトルを手に、甲斐チーフがラベルを眺めつつ、なにやら思い馳せているようだった。
「北海道のワイン用葡萄ですが、以前は耐寒性があるドイツ種が多かったですね。温暖化のせいでしょう、フランス種も増えてきました。そのうちにシチリア種も入ってくるかもしれませんね……。今後が楽しみな反面、これまで世界のワインを支えてきたフランスの畑が心配になります」
「そういえば、北海道も私が子供のころより、雪が少なくなったなと感じることがあります。それでもまだ多いですけれど……。夏の気温もあがったように思えます」
その温暖化による変化は、まだ雪が多い北国にいる葉子でも、最近はよく感じるようになったのは確かだった。函館で揚がる漁獲の種類にも変化が出ている。それはワインもおなじということらしい。
「近年、ついに伝統あるブルゴーニュのワイナリーが、畑を確保するために、函館に進出してきています。世界の適する候補地から、畑の移住地に函館を選んだのです。温暖化により『神に愛された土地』とまで言われたブルゴーニュの畑でさえ、いままでの品質を保つ収穫がままならなくなり、もう判断を迫られている状態です。品種を変えるか、品種を開発するか、土地を移すかなど。ですから、もしかすると、いずれ、この函館近郊の畑が世界のワインを生み出していくかもしれません。お父様がこだわっていることが活かされる時がくるかもしれない」
もういままで語られてきたワインでは通用しなくなるかもしれないと、甲斐チーフが眉間にしわを寄せ、険しくなっていく。
「そんな意味でも、ソムリエも気候の変動と畑の情報を知ることも大事になってきます。心の隅に常に留めておいてください」
つまりは常に情報に敏感になって、常に勉強だと葉子にいいたいのだろう。肝に銘じて強く頷く。
「それでは、本日も準備をいたしましょう」
甲斐チーフと共に、本日のアペリティフメニューと、ワインリストの最終決定をして、また二人一緒に銘柄を探す。
立ち飲みのテーブルにそのボトルを置いて、さらに確認。その後は、どのワインをどのように冷やすか、どの温度でお出しするかという確認もしておく。
その時に、また『甲斐レクチャー』が始まった。
「桐生、あるいは、篠田から、ワインの適温というのを教わりましたか」
「はい。赤ワインは常温でとよく耳にすることがあるけれど、いまそこにいる場所の常温がよいとは限らず、季節や地方によって差がある。本来は14度~18度」
「そう。ただし、赤ワインも様々、風味によって使い分けると良いでしょう。軽い飲み口の赤ワインなら一時間ほど冷やすのも良いです。白ワインは二、三時間冷やしますが、繊細な風味のものは逆に一時間のみで、美味しく飲める銘柄もあります。ワインクーラーにて氷で冷やす場合と、冷蔵庫に寝かせて冷やすのとはまた時間が異なります。そこはそれぞれの方法の時間と、温度で覚えておくと良いでしょう。では、四時間以上、しっかり冷やしておきたいものはなんですか」
もう残っているものと言えばひとつだけ。
「シャンパンやスパークリングワインです」
「あとひとつ」
赤ワイン、白ワイン、シャンパンとスパークリングワイン。他に? 葉子は首を傾げたが、聞かれたのなら答えがあるのだろうと、一生懸命に考えた。
そこでハッと、在りし日の秀星との試飲を思い出す。
「デザートワインです」
「そのとおりです。誰に教わりましたか」
「桐生給仕長です」
「きちんと教えていたんだね。……そうか……」
葉子よりも先に、甲斐チーフのほうが哀しげに眼差しを翳らせた。
秀星が、葉子に託したものを感じ取っているようだった。
「そのデザートワインは、貴腐ブドウでしたか」
「はい。小樽産 2004年でした」
「数年ぶりに小樽で貴腐ブドウが採れた年だね」
「なのに。辛口だったんです。それが印象的でした。さらに桐生給仕長は、甘いだけではない風味を感じるようにと二度テイスティングの指示がありました」
「なるほど。その時に、桐生はデザートワインとして他になにか伝えていましたか」
「いいえ。まだ私が給仕を始めて2年目だったと思います。ワインに慣れることを始めたばかりだったかと」
「その銘柄はいまここにありますか」
「ありません。数本しかなく、桐生給仕長が勤めている間に、すべてお客様に提供いたしました」
何故かそこで、甲斐チーフが黙り込んだ。そして考え込んでいる。目線が優しいおじいちゃんから、元メートル・ドテルだった時にそうだったと思えるような、鋭い視線をカーブへと馳せている。
「その時……。十和田さんは、その貴腐ワインをどう感じましたか」
「最初の一口は、飲む前に教えてもらっていたように、とても甘いものでした。ですが辛口だと桐生に示されてから、もう一度意識して口に含むと、甘さのあとにくどさがなくスッキリとした切れ味と後味がありました。フロマージュでチーズをお召し上がりになるオーダーをされたお客様以外に向けて、これならデザートワインとしてではなく、ポワソンや貝類をつかったアミューズ、オードブルにも出せる。実際に桐生給仕長はそうして提供していました」
「何故、食前のアペリティフやデザート前にチーズを食するフロマージュ、それらに適したデザートワインになりうるはずなのに、料理にも合わせられる切れ味があったかわかりますか」
わからなかった。印象に残っていて、秀星と試飲した思い出深い一品というだけで、ソムリエになろうなんて露ほども思っていなかった葉子には、ただただ不勉強なものにしかならない。
だが知らないことに対しても、興味を持たなかったことに対しても、甲斐チーフはなんの言及もしなかった。
「では。世界三大貴腐ワインはなにかわかりますか」
「ひとつは、シャトー・ディケム……。申し訳ありません、これしかわかりません」
言及はしなかったが、甲斐チーフは小さくため息をひとつ、落とした。
「ですよね。シャトー・ディケムがいちばん有名だと思います。しかし、シャトー・ディケムがどのようにして『シャトー・ディケム』か答えられますか」
「いいえ……。銘柄として知っているだけです」
そこでも甲斐チーフは、しばし黙って、葉子を見ているだけだった。
それしかわからないのか、それとも、どれだけ知らないかを判断しているのかわからない目だった。それはやはり、仕事人の目つきで、葉子はこの沈黙の間、非常に緊張することに。
「仕方ありません。このレストランには国産のワイン、特に道内産のものを主としていること、元は個人経営でもあって、お料理の予算からも限られたものしか置かれておりませんからね。触れる機会も少ないことでしょう」
このような田舎のオヤジがやっているレストランだから、知らなくて仕方がないと言われているのかと思い、葉子の心が沈んでいく……。
だがそうではなかった。甲斐チーフが続ける。
「ですが。このワインカーブですら、十和田シェフの信念が窺えます。北海道の食材には、北の大地で育った葡萄で作られた『ワイン』を、同じ土、風、太陽、水、すべての調和を同じ土地のものでマリアージュをしたいという理想を掲げているからです。ひいては、ご自分が生まれた土地に誇りを持っているからなのでしょう。すでに評価を得ている世界のブランドも若干数取り入れていますが、本心は、この北海道という土地のものを知ってほしいという願い。それが伝わってきます。このワインカーブからも。そして、ワイナリーの作り手と手を取り合って、生産を素材を支えていく。そんな絆も見えます。その意思を、サービスを担当する桐生も篠田も引き継いでいる。私もそう感じていますし、ここにお勤めの間は私もその想いに応えたいと思っています。素晴らしい信念をお持ちのシェフです」
沈んだ気持ちが、ぱあっと一気に晴れやかになり、葉子は笑顔で、自分より背が高い甲斐チーフを見上げる。
「それは私も同じです。娘だからというのもありますが、十和田シェフのこだわりは、私も一緒にこだわっていきたいです」
「親孝行ですね」
険しい目をしていたのに、途端に、いつもの甲斐おじいちゃまの優しい笑みに崩れた。
現役時代は蒼が恐れるほど厳しいお人だっただろうに。いまは肩の力を抜いた働き方を心得ているようだった。でも時に見せる厳しい目つきが、まだまだ葉子には畏れ多いものだ。
「北海道のワインも徐々に歴史が積み重なってきました。また温暖化により、世界のワインのための葡萄畑は、北限がさらに北へと移動しはじめ、以前は寒冷地ということで栽培を避けられてきた北海道ですが、気温上昇により今後の北海道の葡萄畑の性質が注目されています。作り手も増えてきました。様々なワインを知ることがソムリエの勉強です。ですが、お父様のように頑固とも言える『プライド』を、ソムリエとして自分だけの『こだわり』を持ち、フレンチ十和田の持ち味を、葉子さんには作ってもらいたいと、年寄りは思っています」
もう葉子はドキドキしていた。頬は熱く高揚しているのが自分でもわかる!
そう、こうして教わってきたんだもの。
甲斐師匠と秀星がすごく重なる。一辺倒の知識だけを伝えるような教え方ではなく、『お父様が』と、このお店だからこその『指針』を忘れずに、そこを軸に教育してくれる『情』を感じずにはいられない。
そんな教え方。秀星さんと一緒だ。もうそれだけで……。
宿題を出された。『世界三大貴腐ワインについて調べてくること』。
甲斐チーフも葉子の『メートル』だ。メートルは『師匠』の意味もある。
秀星、蒼、甲斐チーフ。三人目の師匠。葉子の三人の師匠。
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
花好きカムイがもたらす『しあわせ』~サフォークの丘 スミレ・ガーデンの片隅で~
市來茉莉(茉莉恵)
キャラ文芸
【私にしか見えない彼は、アイヌの置き土産。急に店が繁盛していく】
父が経営している北国ガーデンカフェ。ガーデナーの舞は庭の手入れを担当しているが、いまにも閉店しそうな毎日……
ある日、黒髪が虹色に光るミステリアスな男性が森から現れる。なのに彼が見えるのは舞だけのよう? でも彼が遊びに来るたびに、不思議と店が繁盛していく
繁盛すればトラブルもつきもの。 庭で不思議なことが巻き起こる
この人は幽霊? 森の精霊? それとも……?
徐々にアイヌとカムイの真相へと近づいていきます
★第四回キャラ文芸大賞 奨励賞 いただきました★
※舞の仕事はガーデナー、札幌の公園『花のコタン』の園芸職人。
自立した人生を目指す日々。
ある日、父が突然、ガーデンカフェを経営すると言い出した。
男手ひとつで育ててくれた父を放っておけない舞は仕事を辞め、都市札幌から羊ばかりの士別市へ。父の店にあるメドウガーデンの手入れをすることになる。
※アイヌの叙事詩 神様の物語を伝えるカムイ・ユーカラの内容については、専門の書籍を参照にしている部分もあります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夢の国警備員~殺気が駄々洩れだけどやっぱりメルヘンがお似合い~
鏡野ゆう
ライト文芸
日本のどこかにあるテーマパークの警備スタッフを中心とした日常。
イメージ的には、あそことあそことあそことあそこを足して、4で割らない感じの何でもありなテーマパークです(笑)
※第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます♪※
カクヨムでも公開中です。
透明な僕たちが色づいていく
川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する
空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。
家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。
そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」
苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。
ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。
二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。
誰かになりたくて、なれなかった。
透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。
表紙イラスト aki様
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -
設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる