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 張り合うふたりをよそに、踊るように立ち上がったイソトマの胸がふるるんと揺れる。
 弾む足取り(弾んでる部分は各自想像のこと)でソテツの背後を取った。
 シュバ、と目にも留まらぬはやさで手にした何かをソテツの体にあてる。俺に見えたのは白い残像だけ。

「んんんんん~、白い肌を活かした純白のお衣装、たまりませんわぁ!」
「そう? じゃあ着ちゃう~」

 頬を染めてもだえるイソトマが差し出した服に目をやり、ソテツがへらりと笑った。
 かと思えばシュル、と胸元のリボンを引っ張って落とす。

「ひゃあ! えっちぃ!」

 ためらいもなく着ている服を脱ぎ始めたソテツに俺の口からは少女のような悲鳴が漏れた。
 けれど次の瞬間にはジョンがどこからか出した白い布がぶわりと広げられ、ソテツの姿を覆い隠す。
 両目を覆った俺の手、無駄でした?

 そう思ったのは一瞬。
 目を覆う指の隙間から見ていた俺は、気がついてしまった。
 白い布に細い肢体の影が映っていることに。

 華奢な身体からスルリと布が落ち、いっそう細さを際立たせるくびれのなめらかさ。服の上からでは少年と見紛うほどの胸が作る、ささやかな隆起。

(見えないことで想像力がかきたてられ、余計にエロく感じるマジック!)

 燃えたぎる気持ちのままに拳をにぎりかけて、俺はハッと気がついた。

「……ネイ、何を考えておる?」

 冷ややかな魔王さまボイスと、美少女のじっとりとした視線が俺に向けられている。
 淡い黄色の瞳が温度をなくし、冬の空に浮かぶ月のように冴え冴えと俺を捕らえている。これすなわち、命の危機。

「な、ナニモカンガエテマセンヨ?」
「ほう? そのわりに不埒な視線が一点に集中していたようだがなあ?」
「あははははははは! ナニヲオッシャイマスカー」

 冷や汗が止まらない。
 美少女+無表情+静かな怒気=魔王級の恐ろしさ。あ、この美少女魔王さまでしたわ。先代の。納得の怖さ。

 息をするのもはばかられるレベルでそわっそわしていると、不意に明るい声が冷気を吹き飛ばす。

「ん、良いね!」

 ソテツの声と同時にパサと布を消すジョン。
 手品か、と突っ込む余裕は俺には無かった。

「は……やば……俺、天才じゃね?」

 思わず口をついた自画自賛。
 いやでもそれも仕方ないよな、と納得しちゃうレベルでソテツと服がマッチしている。

 華奢な白い肌をさらに引き立てる純白のブラウス。エリから胸元にかけて贅沢にフリルを重ねたおかげで細い首をなお細く、頼りなさげに見せている。
 ノースリーブに仕立てたために剥き出しとなった腕は、飾り気がないからこそすらりとした形の良さが際立っていた。

 ズボンがまた良い。
 ブラウスが体のラインに沿うように作られているのに対して、ズボンはウエスト周り以外ボリュームを出すように作られている。そこから伸びる太ももが一層か弱く見えるし、幾重にも重ねられた布が生み出す優美な曲線が中性的なソテツに女性的なやわらかさを加えていた。
 愛らしい膝小僧から続く脚に巻き付けられた白いリボンが、解いて裸足の指先を拝みたくなる気持ちをくすぐりまくる。

 そして最高であり最良であり、最強なのがブラウスの丈だ。

 なんせ肌がチラリとしているのだ。
 全身すべて白いため初見では気づかないのだが、清楚な白ブラウスとキュッとしまったウエストの間、近づいてようく見れば柔らかな肌が見えている。
 身動きすればより大胆に露わになるだろう肌に、きっと聴衆の目は釘付けだろう。

 今まさに、視線を絡め取られた俺を前にしてソテツは満足げに「ふっふーん」と笑う。

「似合うでしょ、最高でしょ。素材が良いからねぇ」
「はい。さすがは我が始祖」

 スッと膝を折り頭を下げたのはジョンだ。
 これまでの態度は丁寧でこそあったけれどけっこう無礼なものだった彼だが、今は正しくソテツを敬う信徒の姿勢を見せていた。その様は全身全霊でソテツを信奉し、彼女が望むならば命をも差し出すだろうと思わせるほど。

 無防備にさらされた彼のうなじを見下ろして、ソテツはにんまりと楽しげに笑う。

「まあまあ見られるようになったな。それならば我のの隣に並べても悪くはないか」

 マグノリアが「ふん」と鼻を鳴らす横でイソトマが自分の体を抱きしめて身悶えている。

「はあああああ! マグノリア様を着飾ることができるだけでなく、ソテツ様のお召し物まで仕立てたられるなんてぇ。そのうえお二人とも疼いてしまうほどおかわいらしいだなんて……! さあさあ、王都の酒場へ戻って『コンサート』というものをいたしましょう!」
「え、やだよ」

 浮かれきったイソトマの言葉をソテツがいとも簡単に切って捨てる。

「僕、そんなちっちゃな舞台じゃやらないよ」

 ぷん、とそっぽを向いたソテツに、マグノリアが「ほう?」と怖い声をあげた。

「ネイが提案しイソトマが仕立てた衣服を身につけておいて、我らに加勢しないなどと。いくら始祖でも……」
「もー、しないなんて言ってないでしょ。やるならでっかく、って言ってるの!」

 腰に手を当てて薄い胸を張るソテツは妙に自信満々で、俺はうっかり満員の東京ドームの中央で歌い踊るマグノリアとソテツの幻影を見てしまった。

「大きい舞台……満員の観衆に向けて手を振るふたり……巨大なスクリーンに映し出された姿を誰もが見上げ、熱狂するひととき……!」

 熱気までも感じられる妄想にぶるりと身震いする。

「それ採用!」

 パチン、と指を鳴らしたソテツの声でハッとしたときには、彼女の背中にバサリと白い翼が生えていた。ふわふわの羽毛ではない、コウモリめいてすらりとした翼だ。いかにも魔族めいているけど、白いからか禍々しさはない。

「おお、すげえ。羽だ。さすがは異世界!」
「良いでしょー。これで飛べるんだよ」

 バサ、と軽く羽ばたくのに合わせてソテツの身体がふわりと浮かぶ。
 明らかに鳥やコウモリとは羽ばたき方が違うのに浮かんでいるのは、何かしらの魔法が働いてるんだろう。

「おー! すげえ! 飛べるのか! 堕天使系アイドルってのもありだなっ」
「ええー? 堕天使ってなにさぁ、堕天使って。まあいいや」

 ソテツがむう、とむくれたのはほんの一瞬。すぐににっこり笑った彼女が俺の手をつかむ。

「空の旅、させてあげるよ」
「えっ?」

 驚く俺の耳に、吐息といっしょにささやきが吹き込まれる。

「投影魔術を教えてもらいに、ちょっと出かけよう」
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