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もしかして俺、ヒロイン枠ですか?

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 っていう展開から目を覚ましたら、絶体絶命のピンチになってる、とかって思うじゃん?

 見知らぬ場所で目覚めて、あたりを見回すと牢屋だったり、敵に囲まれてたりさあ。セオリーだよね。
 ところがどっこい、モブの場合はそういうセオリーが働かないみたいだ。

 確かに目を覚ましたのは見知らぬ場所だったけど、牢屋とは程遠いふつうの部屋。いや、ふつうよりちょいお高そうな部屋かも。
 寝かされてたベッドに天蓋、っていうの? なんかテントみたいな布が下がってるし。室内でこんな屋根つける意味はわかんないけど、なんか豪華な感じがする。

「あー……これって助けを求めて良い場面? それとも変に騒いだら俺の勘違いでした、ってなるやつ?」

 どっちだろう。
 ひとりきりになると、ついあれこれ考えてしまうからひとりはきらいだ。
 こういうときはスマホで暇なやつを探したり、SNSでとりとめなくぽろぽろとつぶやいて誰かにかまってもらって気を紛らわしたいのに。

 この世界にはそんな相手がひとりもいない。

 俺が困って悩んでいても「どうしたんだよ」と声をかけてくれる家族はいないし、馬鹿を言い合える気安い友だちもいない。テンション上げて空元気を全開にしていても、それに気がつく相手なんていやしない。

「なんて言ったら、バチが当たるよなあ……」

 俺はラッキーなほうなんだ。
 知らない場所にやってきて、出会ったのが親切なひとたちで。そう、親切なんだよ。

 ロータスはあれこれ教えてくれるし、助けが必要なときには呼んでくれと不思議アイテムをくれた。けど俺はロータスを呼べない。

 だってロータスの優先順位は魔王としての責務のほうがうえだから。

 そんなの当然だって、わかってる。
 今日会ったばっかりの他人と、これまでずっといっしょに暮してきたひとたちの暮らしのどっちを優先するかなんて考えなくたってわかる。

 けど、いざロータスに助けを求めたときに後回しにされたら俺は馬鹿みたいに傷つくだろう。
 
 イソトマもやさしいけど、でも彼女の最優先はどう考えたってマグノリアだ。
 俺とマグノリアの両方がピンチになったら、イソトマは敬愛する元魔王さまを取るだろう。そこに俺の存在が入り込む余地はない。すこしはあってほしいけど、でも、たぶんない。

「マグノリアは……」

 マグノリアはどうだろう。良い王さまだったのだと聞くけれど。
 それがイコール良いひとにつながるわけがないことくらい、俺でもわかる。

 俺のために命を投げ出す選択肢を見せた理由は何だろう。この地の平和を代償に帰れると伝えてきたのはなぜだろう。

 わからない。
 ほんの短い付き合いのなか、表情が変わりにくくことば数も多くない彼女のことは、まだわからないでいた。

「超絶クールな美少女の思考回路なんて、俺にはわかんねえよ」

 ふざけてつぶやいてみるけれど、茶化そうにも相手は自分の心だ。そうそう簡単に茶化されてなんかくれない。

「……あー、ひとりになるんじゃなかった」

 周りに誰かいれば、ふざけて騒いで不安をもみ消すことができたのに。
 ひとりきりになったせいで、考えてもどうしようもないことばかりが浮かんでは消えてもくれず、容赦なく胸の底にたまっていく。

 誰にも寄りかかれない現状で、その重みはひどく苦しい。
 こらえきれず頭を抱えて、うつむき目を閉じる。

 明らかに異様な世界だと主張してくる景色が目に入らないこの状況もよくない。変にいつもの暮らしが懐かしい気になって、俺の弱気を焚きつける。

「あー……いっそ牢屋に入れられて鎖につながれ、見るからに大ピンチとかなら良かったのに」

 視界を閉ざしたせいで胸の重みがいっそうはっきりと感じられて、無意味なぼやきをもらしたとき。
 ぱさ、と衣擦れの音が聞こえた。

「牢屋に入りたいの?」
「いやいや、入りたいわけないじゃん。っていうか、牢屋あるの?」

 もたもたと起き上がりながら聞けば、ベッドのすぐそばに立つそいつの形のいい唇がふにゃりと歪む。

「あるよー。そこそこの歴史がある建物だからねえ。聞きたい? 牢屋にまつわるこわーい話。僕に緊縛趣味はないから、お話してる間に鎖も持ってきてもらおっか」

 そして近くにいたのは敵……かどうかはまだわからないけど、あからさまな敵意を向けられることもなく会話してるのが今の状況です。

「いや、鎖はいらない。牢屋もノーサンキューです。それより、あんた誰」
「僕? うーんとねえ、最近の呼び名はソテツだよ!」
「ソテツ」
「そ!」

 ソテツこと美少年めいた美少女がへらりと笑う。一見美少年なんだけどさ、俺にはわかる。この子はボーイッシュな女の子だ。たよりない首の細さがそう告げている。
 え、胸の膨らみとかじゃないのかって? 無いもので判断できるわけないだろう。無いものは無いのだから。

 ひとり、脳内トークを繰り広げていると薄い身体が俺の隣にぎし、と腰かけた。

「便宜上そう名乗ってるだけで、呼び名は決まってないからねー。何なら好きなように呼んでくれてもいーんだよ」

 こんな軽い会話をしてる相手だけど、こいつはたぶん俺をさらったやつ。

 だけど、起き抜けにへらっと笑われて相手を警戒できるほど、殺伐とした世界に暮らしてこなかった俺はふつうに会話を繰り広げている。
 ふたり並んでベッドに腰かけて、友だちみたいに話しているのは、たぶんちょっとだけ異世界に心細さを感じていたせい。

「で、君はなに?」

 へらへらと顔を緩めながら聞かれて、俺は首をかしげた。ていうか、絵みたいにきれいな顔なのに笑い方が残念だなあ。

「なにって?」

 つられて緩めた顔は、俺を凝視する美しい瞳にぶつかって固まった。

「おかしいんだ。君は人族だろう? だから魔力を内包していない。なのに、その身体から魔術の香りがするんだ」

 じい、と向けられた視線はひどく熱心で、けれどまったく熱がこもらない。

 その目を俺は知っている。見たことがある。
 幼児が、はじめて目にする虫に向けるそれだ。
 興味がある。けれど好意的な感情はかけらも持ち合わせていない。ただ観察する対象として、玩具として見る目だ。

「知った香りだ。だけど、ほんのかすかに知らない香りもある。数えるのも嫌になるほど生きてきたなかで、生きたままその香りをまとったモノを僕ははじめて見たよ。君はなに? 答えられる? 僕が満足できる答えをくれる?」

 やっぱり俺をさらったのこいつで確定だわ。
 だって目がまじで怖いもん。
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