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 わずかに目を細めた美少女は、ケルベロスの頭(右)をなでながら元魔王を名乗る。そこへ。

「マグノリアさま」

 ひたり、と耳を撫でるような声が聞こえたかと思えば、美少女の後ろにお姉さまが現れた。
 お姉さまだ。誰がなんと言おうとお姉さまだ。
 青紫色という変わった色の髪をゆるく結い上げたお姉さまは、目のやり場に困る豊満なボディをぴっちりとした黒い衣装に包んでいる。
 たわわな胸もくびれた腰も、むっちりした太ももや肉付きのいいお尻もすっぽりと黒い布に覆われているというのに、そのエロさは少しも隠せていない。

 そう、エロい。
 このお姉さま、めちゃめちゃエロい。露出が少ないからこそ隠された布の下の肉感がわかるというか、隠されているからこそ見えない箇所について思いを馳せてしまうというべきか。

 見ちゃいけないような気がして視線を逸らしてしまうのに、やっぱり見たくなってついつい横目で見てしまう。そんなえっちなお姉さまだ。
お姉さまの豊満なボディも気になるが、一見清楚な黒い服の後ろでちらつく尻尾がとても気になる。

 そう、尻尾だ。
 あの妖艶なお姉さまもたぶん人外なんだけど、今はそんな細かいことはどうでもいい。
 問題は尻尾なのだ。
 細くてつるりとしていて、先っぽがハート型になった尻尾が、静かに立つお姉さまの後ろでゆらゆら揺れている。

 あれは、そう。サキュバスとかそういう、エッチな悪魔の尻尾だ。そうに違いない。
 しかしあの尻尾、どうやって外に出しているのか。こっちを向いて立つお姉さまの背なかが見えないのが悔しくてたまらない。
 ふらふら揺れる尻尾はどう見ても腰のした、いや尻の谷間の付け根から生えている。そんな尻尾が外気に触れて怪しく揺れているということは、だ。

 ①服に見えている黒いものはサキュバスの体毛的なもので、実はお姉さまは何もまとっていない。

 ②身体をぴっちりと覆い隠し一見清楚に見える服だが、実は後ろから見ると尻尾の部分に穴が開いている。

 ③魔法っぽい力でどうにかしてる。
 俺が考える限りで三つの選択肢があるが、俺としては②を推したい。

 ①もいい。こんなエロい身体のお姉さまが実は全裸で何食わぬ顔をして野外にいると想像するだけで俺は幸せになれる。興奮する。
 だが、それでもあえて②であってほしい。前から見ると清楚、後ろに回ればえっち。つまり一度で二度おいしい。②であってほしいと思うのは、健全な男子高校生としての願いだ。

「イソトマ。察知してきたか」
「ええ、陛下より知らせを頂戴したのです。間もなく陛下もいらっしゃいますわ」

 美少女に仕える妖艶なお姉さま。控えめに言って最高です。
 美少女に名前を呼ばれたお姉さまはうっとりと微笑む。細められた目元に長いまつげが影を落として、それだけでなんだかドキドキしてしまう。
 さすがはサキュバス(予想)。
 感心したところで、俺は大変なことに気が付いてしまった。
 身じろぎに合わせてたゆん、と揺れる豊かなお胸から目が離せない。見てはいけないと純情な俺の心が叫ぶけれど、お姉さまの魔力(推定)に吸い寄せられた俺の視線は、胸の頂に釘付けだ。
 たぶん、というかきっと、このお姉さまノーブラだ……!

「着ているのにエロいなんて……っ」

 耐えきれずうめけば、お姉さまが「あら」と俺を見た。美少女に向けていた顔をわずかに傾けて、発動される美女の流し目。

 即死です。
 これは即死魔法です。俺が断定する。根拠はこの鼻からほとばしる熱い想いだ。

 桃色の瞳ってえっちじゃないですか!

 噴き出る鼻血が大地を染める。俺の脳内が緊急事態。ビーッビーッ『総員戦闘配置につけ! 緊急事態だ!』『隊長、ダメです! 脳からの指令が来ていません!』『くそっ、脳がやられたか! せめて出血を止めるんだ!』『無理ですっ、本体の興奮が収まりません! きれいなお姉さまが微笑みながら近寄ってきて、あっ、うわ、ああぁーーーー!』

「わたくし、あえて肌を隠すことで感じられる美を尊ぶのですわぁ。あなた、わかってくださるのね?」
「イエスッ、マム!」

 男、矢島ネイ。たとえ鼻血を噴いていようとも、最高の敬礼をしてみせる! それが漢だ!

「ふふ、かわいらしい方」

 イソトマお姉さまがくすりと笑って、つい、と俺の首元に顔を寄せる。
 俺は真っ赤だ。間違いない。夕陽を浴びているわけではない。お姉さまの谷間(黒き衣で完全防備)が俺の胸に触れそうで触れないドキドキ感と、お姉さまの優美な鼻先が俺の首筋に近づく気配があるのとで体温が急上昇しているせいだ。氷河期の氷もパリンと割れちゃうレベルで熱い。地球温暖化が促進したら俺のせいだ。申し訳ない。

 あっそんな、すんって! お、お姉さまが俺のにおいを! 俺の首に顔を寄せてにおいを嗅いでいるっ! そんなぁ!
 俺、死ぬのかもしれない(本日二回目の臨死体験)。

「ハジメテの香り……イイ匂い……」
「はぁん!」

 ぷっくりとつややかな唇から、吐息交じりの声がこぼれて俺の耳をくすぐった。

 いい匂いなのはお姉さまのほうですが!? 俺なんてただの男子高校生ですし! 香水なんておしゃれアイテム、よくわかんないから持ってもいないですし! いやでも臭いって言われるよりよっぽどいいですけど、でも、待って! 俺さっきまでそこで伏せしてる良い子の巨大なワンコに咥えられてたよね! ってことはよだれ臭いのでは!? 腹のあたりの服がじっとり張り付いてるのを感じるってことは、獣のよだれがばっちりついているのでは!

「異界のモノですわね、この方」
「やはりか。魔力とは異なるなにかをまとっておったのでな。異界の落ちこぼれであったか」

 そわそわと体臭(俺のじゃないよ! 俺の体についた獣臭さとか、そういうアレね!)を気にする俺をよそに、美少女とお姉さまが何やら話している。
 話の内容はよくわからないけど、もれ聞こえた単語に俺はがっくりとひざをついた。俗に言うorzだ。

「落ち、こぼれ……!」

 そりゃまあ、俺は勉強は中の下。運動も中の下。特技と聞かれて思い浮かぶものはなく趣味はと聞かれれば「アイドルを応援することです!」という具合に女子にモテない残念な男ですけど。
 顔は可もなく不可もないと評され(byクラスのオシャレ女子)、身長は高すぎず低すぎず平均的をこよなく愛し、体重は標準よりやや軽めで誇れるほどの筋肉も持たない男ですけど?

 でも、だからといって美少女のくちから直接「落ちこぼれ」って言われるなんて……さすがにそれをご褒美と思えるほど、俺は上級者じゃ無かったみたいだ。
 心が折れた。ひざと手のひらだけでなく頭まで地面についてしまいそうだ。

 今気がついたけど、足元はやわらかな芝生で覆われている。まめに手入れされてるのか、長すぎてちくちくすることもないし良い芝なんだろう。いっそここで寝てしまおうかな。
 落ちこぼれは落ちこぼれらしく、地べたに這いつくばるのがお似合いなんだ。
 ああ、お花がきれいだな。

「ふふ……落ちこぼれ……ふふふふ……」
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