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生まれた村はお祭り騒ぎ

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 お客さま。
 胸を張るリュリュナは大変かわいいが、その説明はさすがにどうだろう。そう思ったユンガロスだったが、一家にとっては十分だったらしい。
 リュリュナの家族は蝋燭の弱弱しい明かりのなかでもわかるほどわっと顔を輝かせた。

「まあ、お客さま!」
「母さん、いちばんきれいな布はどこだ。敷物がわりにしてもらおう」
「お湯わかそう。えっと、なにか煮出す葉っぱあったかな」

 リュリュナと同じ緑の髪からとがり耳を突き出させた母親が、おっとりと手を合わせてうれしそうな声をあげる。
 うろうろと歩き出したのは、小柄ながらもずんぐりとした身体をしたリュリュナの父親だ。
 頭のうえのうさぎ耳をぴんと立ててきょろきょろきょろする少年は、リュリュナよりわずかに背が高いが弟らしい。
 
 小声ながらも口々に言っていそいそと動きはじめる一家の様子に、ユンガロスはうっかりほほえんで見つめたくなる気持ちを抑えながら声をかける。

「いいえ、お構いなく。ただ、ひと晩の宿だけ貸していただけると嬉しく思います」

 一家を落ち着かせるためにも、寝ている子を起こさないためにもことさら静かに言ったユンガロスのことばを受けて、さっそく動き出したのはリュリュナの弟であるルトゥだ。
 さっと板間に上がると、子どもが寝ているままの敷布団を引きずって部屋のすみにおいやる。そのとなりに敷いてあった空の布団を板間の真ん中に移動させて、きっちりと敷きなおしたのはリュリュナの両親だった。
 狭い板間の真ん中に敷かれた布団を手で示して、ルトゥとリュリュナがにっこり笑う。

「さあ、こちらをどうぞ!」

 笑顔がよく似た姉弟が、うす明かりのなかでもわかるほど輝く笑顔で言った。
 うっかり素直に従いたい思いにかられるユンガロスだったが、こほん、とひとつ気持ちを落ち着けて部屋のなかを見回した。

「お気持ちはたいへんありがたいのですが、その布団はご尊父とご母堂が使っていらっしゃったのではありませんか?」

 ゆらゆらと揺れる蝋燭に照らされた板間には、子どもが寝ている布団のほかにはいま示された布団しか見あたらない。通常であれば、来客用の布団なりが出てくるところだが、リュリュナの両親は当然のようにすでに敷いてあった布団を差しだした。
 これの意味するところを考えて、ユンガロスはじんわりと頭が痛いような気がしてくる。

「ああ、申し訳ない! 確かに、さっきまでわたしらが寝てた布団だが」
「ごめんなさいね。我が家にはこれっきりしかお布団がないものだから。明日になったら、村長の家に行って借りてきますから」
「ぼくが表ではたいてくる。姉ちゃんは、板間を拭いといてくれる?」
「任せて、ルトゥ! 待っててくださいね、ユングさん!」

 眉間を抑えて目を閉じたユンガロスをどう勘違いしたのか、リュリュナの一家はあわあわと動き出した。布団を抱えたルトゥが戸口に向かおうとするのに、ユンガロスは手のひらを向けて少年を止める。

「いいえ、それには及びません。おれが気になったのは、おれが布団をお借りしてはあなたがたの寝床が無くなるのではないか、ということです」

 そう告げると、リュリュナたち一家の顔が明らかにほっとゆるむ。それぞれに年齢が異なり性別も違うと言うのに、一家の浮かべる表情がとても似ているため、ユンガロスまでついつられてほほがゆるんでしまう。

「なんだ! そんなこと。わたしらは別に、布にくるまって板間に転がれば寝られるから。なあ?」
「ええ、ええ。なんて心優しいお客さまでしょう。屋根と壁があれば、わたしたちにはじゅうぶんなんですよ」
「ルオンさんから服をもらうために布団を渡したときだって、くっついて寝れば寒くなかったから。気にしないで」
「そうです、そうです。お布団が無いなんてよくあることなんですよ、ユングさん」

 リュリュナ一家がのほほんと笑顔で交わす会話に、ユンガロスの顔が引きつった。
 明るく話すリュリュナたちの顔に嘘や虚勢は見えない。彼らは本心で言っているのだろう、ということがうかがえる。
 山のずいぶんと深いところまでやってきたせいだろう、このあたりは陽が落ちるとまだずいぶん冷える。だというのに、布団が無いのはよくあることなどと言って笑う彼らの姿に、ユンガロスは黙ってくるりと背を向けた。

「あ、あれ? ユングさん?」

 リュリュナが目をぱちくりしている間に、背負って来た大荷物に向かったユンガロスは、手早く荷をほどくと大きな巻物のようなものを取りだした。小山のような荷物の半分を占めていたものだ。
 リュリュナよりも太い巻物を肩にかついだユンガロスは、そのまますたすたと家のなかに戻ると板間の空いた箇所に巻物を下ろす。

「それ、なんですか?」

 きょとんと見つめる一家の前で、ユンガロスが巻物を軽く転がした。
 ごろんと転がった巻物は、板間で広がってその姿を明らかにする。

「あ、お布団だ」
「そうです。村の方々への土産に、と持ってきたものですが、ひとあし早くリュリュナさんのご家族に使っていただきましょう」

 にこ、と笑ったユンガロスは、何枚も重ねて巻かれていた布団の束から二枚を手に取り板間に敷く。残りを元のようにくるりと巻いて荷物の山に戻したユンガロスは、真新しい布団をしげしげと眺めているリュリュナの両親と弟の背をそっと押した。

「さあ、どうぞ使ってみてください」

 やさしいが、有無を言わさぬ強さで背中を押された一同が板間に上がる。
 そろりそろりと布団を囲んだリュリュナの一家だったが、布団のうえに乗る前にリュリュナの母親がはたと声を上げた。

「まあ、こんなにすてきなお布団があるなら、お客さまに使っていただきましょう!」
「ああ、そうだな! それがいい。頂きもので申し訳ないが、間違いなく我が家でいちばん上等の布団だ」
「二枚あるから、お客さまと姉ちゃんが使ったらいいよ」
「え? おおきな布団だから、ルトゥもいっしょに入ろうよ」

 わいわいきゃっきゃと盛り上がり、そのまま古い布団に戻ろうとするリュリュナの両親をユンガロスが引き留める。

「いいえ、こちらの布団はどうぞみなさまで。許していただけるのであれば、おれはいつも使われている布団を貸してもらいたいです。リュリュナさんがどのような暮らしをしていたのか、身をもって知りたいのです」

 にっこり笑顔でユンガロスが言うと、一同は「お客さまがそんなにも言うのなら」と首をかしげながらも納得したようだった。
 リュリュナはちいさい妹たちと寝たいと希望したため、リュリュナの両親と弟がユンガロスの持ってきた布団に収まり、ユンガロスは願ったとおり古い布団に横になった。
 それぞれが布団に入ったところで蝋燭を消し、互いに小声で「おやすみなさい」とあいさつをして眠りについたのだった。
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