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83. 色々と衝撃的

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「魔物を増やす罠はあれど、その逆は考えつかなかったな……」

「当然です。脅威となる魔物が増えれば人々の恐怖を煽り混乱を招きますが、魔物が少なくなれば多くの人が安心して生活できます。度が過ぎれば経済に悪影響が出るなど露ほども考えないでしょう」

 国王の独り言めいた発言にケイオス宰相が応える。
 今までにない発想に驚き、暫し考え込んでいた国王が再び俺に視線を戻した。

「効果が表れるのはいつ頃だ?」

「順調に事を運んでいればもうすでに効果が出始めています。ファラダス王国の領土の大半が魔物のいない安全な地域になるのに1ヶ月くらいかかりますね」

 安全と言えば聞こえは良いが、その実経済をストップさせる悪魔の所業である。

 端から見たら可愛らしい笑顔でいけしゃあしゃあと言い放つ俺。
 ……何故だろう。思わず気を許してしまいそうな天使の微笑みを浮かべたはずなのに、まるで世界を手玉に取った魔王を見るような目で見られた。ヒヨコ相手にそんな目しないでほしい。

「じわじわ追い詰める戦法か……」

「逃げ道なくないか?なんてえげつない……」

「あちらが可哀想に思えてくるな……」

 え、なんでそんなドン引きしてるの?効果は真逆だけど向こうと同じ手段を取っただけなのに。
 微妙に納得いかない中、国王が口を開いた。

「あちら側に有利な状況と見せかけて、経済を封鎖するか……灸を据えてやるには充分な措置だな。これでしばらくは大人しくなるだろう。他にはないか?」

「そうですね……あとは、俺が製作した魔道具は他国での販売を禁じました」

「そういえばお主、魔道具を作っているのだったな。商人に文句言われなかったのか?」

「アネスタでよくお世話になった商人を始め、関係者には了承を得ていますので」

「Sランク商人のグレイル・リーバーか。彼が了承したのなら他の商人は何も言えないな」

 えっ?グレイルさん、Sランクだったの!?
 かなりのやり手だからランクも高いだろうなぁとは思ってたけど、まさか世界に片手で数える程度しかいない稀少なSランク商人だったとは……
 俺、結構凄い人の家に泊まってたんだな。

「知ってたなら教えてくれても良かったのに……」

 思わず小声でルファウスに抗議する。ルファウスもグレイルさんのことを知っていたし、Sランク商人だって分かってたはず。
 なんで教えてくれなかったのか。

「あの好好爺然とした狸爺のことをか?ハッ、冗談言うな」

 俺の抗議を鼻で笑われた。
 ルファウス、お前グレイルさんになんか恨みでもあんの?

「しかし、妙だな……抜け目のないあの男なら賢者とその身内の異常性に気付き次第こちらに報告しそうなものだが……」

 不思議そうに首を傾げて何事かを呟いた国王だが、やがてかぶりを振って話を戻した。

「王都にも、お主の魔道具は少しずつ流れてきておる。とても画期的で飛ぶように売れていると噂で持ちきりだ。それが他国で売れないとなれば、元凶のファラダス王国への風当たりは強くなるだろう」

 幾重にも罠を張り巡らせたので、これ以上追い詰めなくてもいいか。流石にあちらさんも反省するだろうよ。

 ファラダスは確かに獣人嫌いな国だが、国王はとても慎重な性格らしく、今回の出来事を主導したり見過ごしたりはしないだろうとのこと。
 世界トップクラスの軍事国家に無謀な戦いを挑むくらいなら玉座を息子に明け渡す方が百倍マシだと言いそうなほどこの国と事を構えるのを良しとしないのだとか。
 なので、今回の件はどこぞの馬鹿貴族の独断だろうという結論に。この世界では基本、隠蔽魔法の使い手は貴族お抱えらしいので。

 話は褒美に関することへと移り変わる。

「欲しいものがあれば何なりと申してくれ」

 うーん、そう言われてもなぁ……
 平民が国王から褒美をもらうなら大金か爵位と相場が決まっている。しかしどちらも俺にとっては魅力を感じない。
 金には困ってないし、褒美でもらわなくても自力で稼げる。
 爵位に至ってはそんなめんどくさいものこっちから願い下げだ。向こうも爵位は渡したくなさそうだしな。

 あれだ、地雷をわざわざ囲い込んでうっかり自爆したら目も当てられないって感じの。賢者を爵位で縛り付けるのはリスクが高すぎると判断したのだろう。
 それに、賢者の意思に反することはしちゃ駄目って法律があるからな。俺が望まない限り爵位は転がってこない。

 俺自身が欲しいものといったらもちろん素材だが、自力で採取した方が鮮度が良いのでそれも却下。
 あと何かあったかな……ああ、そうだ。

「では、土地を下さい」

「土地……?それは構わないが、何故?」

 家族全員王都に引っ越すからだと伝えると納得顔の国王。

「ああ、ノンバード族は子を産みやすいのだったな。40匹くらいか?」

「いえ、300匹以上です」

「そうかそうか、30匹以上か」

「いえ、その十倍です。30ではなく300匹以上です」

 謁見の間に再び沈黙が落ちる。
 国王と宰相はとても遠い目をしていた。

 そりゃそんな目にもなりますよね。平均で30~40匹くらいなのに、何をどうやったら三桁突破したんだって話ですよね。
 原因が自分なだけに微妙に目を逸らす俺。

 長いため息のあと「今すぐは無理だ。後日改めて渡そう」と少し疲れた様子で国王が言った。2度も土地を買うヒヨコってのもかなりレアではなかろうか。
 少々申し訳なさが募る中、国王は改まって真剣な表情に。
 その視線は真っ直ぐルファウスに向けられていた。

「此度の件、スタンピードの予知と関係しているか?」

 なんでいきなりスタンピード?と思ったが、全くの無関係とは言いきれないか。
 オークもアントも、発見が遅れればスタンピードになり得る脅威だった。たまたま早期発見して殲滅できたから良かったものの、一歩間違えば他の魔物も巻き込んで街へと侵攻していたかもしれない。
 ……あれ?じゃあ素材取り放題イベントを自らぶち壊したってこと?そ、そんな……

 地味にショックを受けている中、ルファウスは父親によく似た美貌を国王へと向ける。

「無関係とは言えませんが、スタンピードの原因になり得たのはアントの件だけではありません」

「……どういうことだ?スタンピードの原因は複数あったということか?」

「賢者フィードが元々住んでいたウルティア領で家族を鍛えるためにと魔法の練習場にしていた場所がありまして、魔素が異様に増加していました。通常ならばまず現れないBランク以上の魔物が蔓延っており、いつ魔物の大群が形成されてもおかしくない状況でした」

 えっ?そんな喜ばしい……じゃない、危険な状態だったの?

「魔物は?」

「私が討伐致しました。魔素の量も平均値に戻っています」

「そうか。ご苦労だった」

 ホッとした様子で息子を労った国王は再び俺へと視線を戻し、「魔法の練習するのは構わんがもう少し考えて行動してくれ」とやんわりお小言を頂戴してしまった。すみません。気をつけます。

「スタンピードの脅威が消え失せた今、賢者の存在を公にしない理由はない。今回お主を呼び出した目的のひとつがこれだ。賢者フィードよ、お主の存在を公表してもよいか?」

 アネスタ以外に俺の存在があまり広まっていなかったのはスタンピードの予知が関係していたか。どちらも国にとって脅威だし、混乱の種になる。だから伏せていたんだな。

「ひとつ懸念材料が。俺の存在を公表することでノンバード族全体に悪影響を及ぼす可能性はありますか?」

「ないな」

 俺の心配をあっさり否定された。

「むしろ、かえって手を出せなくなるぞ。万が一賢者の身内を害すれば賢者の怒りを買うからな。そんな命知らずなことをする阿呆はそうそう居らん。ノンバード族のみならず、我が国の民を拐って人身売買する者共に一泡吹かせるいいチャンスだ」

 腹黒い笑みを浮かべる国王。
 そうか……ノンバード族の悪評ばかり耳にするから忘れがちだけど、他国では獣人そのものが奴隷同然の扱いをされるんだったな。
 人身売買されるのはノンバード族だけじゃない。他の種族も人間の標的なのだ。
 同族のことばかり心配していたが、余裕があれば他の種族も気にかけておかないとな。

「それを聞いて安心しました。公表しても良いですよ」

 変に目立つ行為はしたくないのだが……うちの家族、ひいてはノンバード族のためだ。羞恥心とかはドブに捨てよう。


 概ね話が纏まったので謁見が終わり、堅苦しい空気から解放されたところでルファウスに抱き抱えられた。

「面白いものを見せてやろう」

 むぅ。やっとレルム達とわちゃわちゃできるーって内心浮かれていたのに。
 ちょい不機嫌になりつつも、珍しくルファウスがうきうきしていたので付き合ってやることにした。

 ルファウスは隠蔽の魔道具を起動して自身と俺の存在を隠す。
 道中すれ違う使用人に見つかることなく、忍び足で向かった先は国王の執務室だった。

「勝手にこんなところまで忍びこんだらまずいんじゃ……」

「静かに。もうすぐ来るぞ」

 無人の執務室に、つい先程謁見したばかりの国王と宰相が入ってくる。そして扉を閉めた瞬間、国王が膝から崩れ落ちた。

「ルファウスの目が冷たいぃぃ!見たかケイオス!?また一段と冷ややかな目をしていたぞ!まるで虫の死骸を見るような目を!私そこまであの子に嫌われてたのか!?」

「陛下、声を抑えて下さい。外に聞こえます。ルファウス様の氷の眼差しはいつものことでしょう」

「向けられるのが私だけなんだが!?ケイオス相手だと普通なのに何故私相手ではあんな塩対応なんだぁぁぁ!!」

「陛下、立って下さい。汚れます。公式の謁見だったのですからフレンドリーな対応を求める方が間違ってます。それより今は賢者とその身内のことについて考えなければいけません」

「賢者のことも考えないといけないが息子の反抗期の方が一大事なんだよぉぉぉ!!」

 何あのコント。

「ふっ……くく……っ」

 ルファウスさん、声を押し殺しながら腹抱えて爆笑してらっしゃる!

「な?面白いだろ?」

 笑いすぎて浮かんだ涙を拭って指を差す黒ウサギ。
 ルファウスの父親への態度は反応見て面白がっているだけだったらしい。

 ……この鬼畜!

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