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06. 旅人と言霊能力
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「キシャアァーーーッ!!」
異常とも言えるこの事態にデカい蛇の魔物は考える時間さえ与えてくれなかった。
その長い体躯を利用して体当たりしてきた蛇の魔物。
体長約30メートルというだけあって攻撃範囲は広い。
太くて長い体躯をしなやかに動かして私へと迫る。その速度は巨体に似合わぬほど俊敏だ。
全く予想してなかった状況に若干頭が混乱していたせいで僅かに反応が遅れた。
どうにか鞘ごと剣を持って盾代わりにして防ごうとするも相手の威力が凄まじく、そのまま横へと吹っ飛ばされてしまう。
咄嗟に受け身を取ったので大事には至らなかったものの、剣で受け止めてなかったらやばかった。
だって考えてもみなよ。太さ約5メートルで体長約30メートルの蛇がチーター並みの速さでその巨体を生身の人間に叩きつけたんだぞ?
剣という名のガードがなかったら骨が何本折れてたことやら。
「シャァーーー!!」
一撃で沈める気満々だったんだろう。
私がピンピンしてることに苛立って目を三角にしている。
はっ。ざまぁ。
生身の人間でもな、やるときゃやるんじゃあ!
……衝撃がキツくて剣持ってた手ちょい震えてるけど。
でも今の攻撃は私の頭を冷めさせるには充分役に立ったぜ。
とりあえず、なんの前触れもなく突然魔物が出現した現象については後回しだ。
今やることはひとつ。
この蛇野郎をぶちのめすことだ!
「シャーーーッ!!」
さっきからシャーシャーうるっせぇよ。
猫の威嚇かよ。
蛇が猫の物真似しても可愛くねぇぞ。
あれ?猫の威嚇の声って蛇のシャーを真似たんだっけ?
まぁどっちでもいいや。
ブォンッと巨体さながらの空気を切り裂く音が間近で聞こえ、今度こそきちんと反応して回避。
図体でかいし、そのわりに俊敏だし、攻撃当たったら下手すりゃ重傷だけど、油断さえしなけりゃ回避はできる。
ただ私の攻撃が通るか否かで言ったら……通らないな。
あの表面の鱗はミスリルよりも硬い。
ミスリル製の頑丈な剣使っても剣の方がダメージを負う。
だというのに、そこら辺の武器屋で適当に見繕っただけの安物の剣が通用する訳ないじゃん。
私としても長いこと一緒に旅してきた相棒をこんなとこで駄目にしたくないし、剣を使って倒すのは得策じゃないや。
安物っていっても長く使ってると愛着沸くんだよ。
安物の剣ってすぐ壊れるイメージだけど、丁寧に手入れしてやればいつまでも使えるのさ。
でも私が持ってる武器って剣だけだし……となると素手?
いやいや無理無理。アカンてそれは。
ミスリルより硬い鱗ぞ?
剣の方にダメージくる鱗ぞ?
ワンパンでアウトだわ。
「キシャアーッ!!」
攻撃を避けられてばかりでいい加減腹が立ったのか、下半身を主軸に攻撃していた蛇の魔物だがここで頭を振りかぶってきた。
真正面に迫ってきたそれを横に跳んで回避するが、しつこく私を追いかけてくる。
大口開けて牙を剥き出しに迫るその顔は一言で言うならキモい。
何度も不規則に後ろや横に跳んでるのにしっかりついて来やがる。
ついて来んでええっちゅうねん。
さてどうしようかしら。
剣は駄目、素手は当然駄目。
ならもう能力に頼るしか手はない。
一撃で殺れるなら問題ないけど、そうじゃない場合はかえって危なくなる。
ただでさえ狂暴なのに、中途半端に攻撃が通ると怒り心頭になって更に俊敏になるからね。
これ以上速く動かれると私でも対処が難しい。
蛇の魔物は一撃必殺。これ常識。
頑丈さが取り柄の魔物相手だとどうしても能力頼りになるな。
一瞬だけフォルス帝国の方に視線を巡らせる。
幸いにも結構距離があるため問題はなさそうだ。
平原にも私以外の人間は視界に入ってこない。
これなら大丈夫かな?
あんまし使いたくないんだけど……致し方ない。
蛇の魔物の攻撃を回避しながら口元を覆う黒い布を取る。
結び目がしゅるりと解けて、隠していた口が露になる。
おいロイド・フォルスよ。
お前私に聞いたよな? 声が出せないのかって。
私はその問いに喋れないと伝えた。
“声が出せない”ではなく“喋れない”。
声帯に異常を来して声を失っているのではなく、ただ単に喋ることができないだけなのだと。
お前はこの言葉遊びに気付いたかい?
多少距離があっても能力が発動するみたいだけど、流石にこの距離で心の声キャッチするのは無理があるだろう。
これはただの私の独り言だ。
だからあいつが私の能力を直に見ることもなければ、今の説明を聞くこともない。
もし私の能力の正体に気付いたら、まず間違いなく国に取り込もうとするだろうけど。
そうなったらロイド・フォルスとの取引を反故にしてでもフォルス帝国とさよならするさ。
国に縛られる気は更々ない。
取り込むつもりなら、どんなにオイシイ環境でも捨てざるを得ない。
砂煙を上げながら勢いをつけて足を止め、後ろを振り返る。
ずっと回避に努めていた私が唐突に止まったことに驚く蛇の魔物だったが、私が諦めたとでも思ったのかすぐに捕食者の目を称えて襲い掛かった。
私と蛇野郎の距離はどんどん短くなる。
そうだ。来い。
もっと……もっと近くに。
舌舐めずりして唇を湿らせて今か今かと待ち構える。
その距離あと1メートルを切ったところで、口を開いた。
『眠れ』
小さな声だった。
ギリギリ蛇の魔物に聞こえてるかいないかというほどの、とても小さな声。
けれどその小さすぎる声は充分すぎるほどにその力を発揮した。
私が言葉を紡いだ直後、蛇の魔物の瞳からまるで灯火を掻き消すように生き物としての光がすっと消えたのだ。
私を喰おうと大口を開けたまま倒れてくる巨体をひらりと跳んでかわす。
私が地に足を着けていた場所を蛇野郎の頭が素通りし、どしぃんっと地響きを起こして巨体は倒れ伏す。
動く気配はない。
あまりにも距離が近かったから突進してきた勢いを殺しきれなかったけど、良かったー。どうにか限界まで惹き付けることができて。
私の能力は強すぎるうえに制御が難しいから、限界まで近付いてくれないと使えないんだよね。
その証拠にホラ。
眠れって言っただけで息絶えてるよ。
眠りは眠りでも永遠の眠りだ。
能力の名称は『言霊使い』。
私の能力は主に放った単語に従って目的の現象を引き起こす。
例えば『燃えろ』と言えば燃えるし、『凍れ』と言えば凍る。そういう能力だ。
これだけ聞くと一言一言単語を放つだけで世界を意のままにできる便利能力と思えるが、そんな良いもんじゃない。
なにせ、効果範囲や対象物が指定できないのだ。
しかも声の大きさに比例して効果範囲が広がるし。
今回なんて眠れって言っただけで永遠の眠りに誘いざなっちゃったからな?
あんっだけ小さく小さく声抑えてたのにこの速効性。この威力。
普通の人が話すときの声量で能力を使おうものならどれだけの被害が出るか……ああ考えたくもない。
頭を抱えてため息を吐きそうになったがぐっと堪え、素早く黒い布で口元を隠す。
この黒い布も、亜空間鞄をくれたやつに作ってもらったものだ。
私の能力は放った声がそのまま言霊能力になってしまうので、意図的に能力を使うとき以外では声は出してはいけない。
だがあまり長いこと声を出さずにいると声帯が機能しなくなる恐れがある。
そこで、長時間声を出さなくとも声帯の機能がきちんと正常に働くように調整するための道具がこの黒い布って訳だ。
この布にはもうひとつ特殊加工がされてて、万が一声が出てしまっても黒い布が吸収して能力を霧散する……つまり、声を出したつもりでも実際は声が出てない状態になるのだ。
でも声帯はきちんと機能してる。素晴らしい。
こんな素晴らしい道具を作っちゃうなんてマジあいつパネェ。
次会ったときに礼言っとこう。
蛇野郎の死体は後で兵士に運んでもらおう。
ホワイトシープみたく切り刻んで亜空間鞄に入れようにも刃が通らないならそれも無理だし、兵士に頼るしかないや。
こいつの鱗は防具にも武器にも使えるからね。捨てるには勿体ない。
じゃあ鱗を剥がした蛇はどうするかって?
そんなもん食糧の足しにするに決まってんじゃん。
こいつの肉、クッソ硬い鱗からは想像もできないくらい柔らかくて美味しいんだー。
薄切りにして火で軽く炙って薄味のタレにつけて食べるのがツウな食べ方だぜ。
同じく薄切りにして茹でたやつを香草とドレッシングでさっと混ぜてサラダにしてもいい。
私の中のグルメランクではSなのだ。むふふ。
鱗は全部国にやる。その代わり肉を寄越せ。
私一人じゃ食べきれないから三分の二くらいロイド・フォルスに譲ってやるけど、残りはきっちり貰います。
討伐したの私だし、それくらいいいよね。
さて、解体後の蛇の一人議論はここまでにして。
問題はこいつが現れた経緯だ。
魔物も生き物だから、近付いてきたら気配で分かるはず。
知能なんてほぼ持ち合わせてない魔物が気配を遮断するなんて芸当は到底不可能。
それなのになんの前触れもなくいきなり目の前に現れた。
そのとき一瞬だけ魔物が現れる直前の場所に空間が歪んでたような気もする。
先も言った通り、魔物も生き物だ。
個体数を増やすには交配して子を成さないといけない。
交配なしに突然新たに出現するなんてあり得ない。
断言しよう。
これは明らかに自然現象じゃない。
誰かが故意にこの状況をつくったということだ。
やれやれ、ため息が出るよ。
喧嘩売られるようなことした覚えないってのに。
……いや待てよ。これはむしろご褒美では?
美味い肉をわざわざ用意してくれたんだぞ?ご褒美と言わずして何と言う!?
うおおおお有り難ぇぇぇ!!
ありがとう!私に喧嘩売った見知らぬ人!
この恩は忘れないよ!
異常とも言えるこの事態にデカい蛇の魔物は考える時間さえ与えてくれなかった。
その長い体躯を利用して体当たりしてきた蛇の魔物。
体長約30メートルというだけあって攻撃範囲は広い。
太くて長い体躯をしなやかに動かして私へと迫る。その速度は巨体に似合わぬほど俊敏だ。
全く予想してなかった状況に若干頭が混乱していたせいで僅かに反応が遅れた。
どうにか鞘ごと剣を持って盾代わりにして防ごうとするも相手の威力が凄まじく、そのまま横へと吹っ飛ばされてしまう。
咄嗟に受け身を取ったので大事には至らなかったものの、剣で受け止めてなかったらやばかった。
だって考えてもみなよ。太さ約5メートルで体長約30メートルの蛇がチーター並みの速さでその巨体を生身の人間に叩きつけたんだぞ?
剣という名のガードがなかったら骨が何本折れてたことやら。
「シャァーーー!!」
一撃で沈める気満々だったんだろう。
私がピンピンしてることに苛立って目を三角にしている。
はっ。ざまぁ。
生身の人間でもな、やるときゃやるんじゃあ!
……衝撃がキツくて剣持ってた手ちょい震えてるけど。
でも今の攻撃は私の頭を冷めさせるには充分役に立ったぜ。
とりあえず、なんの前触れもなく突然魔物が出現した現象については後回しだ。
今やることはひとつ。
この蛇野郎をぶちのめすことだ!
「シャーーーッ!!」
さっきからシャーシャーうるっせぇよ。
猫の威嚇かよ。
蛇が猫の物真似しても可愛くねぇぞ。
あれ?猫の威嚇の声って蛇のシャーを真似たんだっけ?
まぁどっちでもいいや。
ブォンッと巨体さながらの空気を切り裂く音が間近で聞こえ、今度こそきちんと反応して回避。
図体でかいし、そのわりに俊敏だし、攻撃当たったら下手すりゃ重傷だけど、油断さえしなけりゃ回避はできる。
ただ私の攻撃が通るか否かで言ったら……通らないな。
あの表面の鱗はミスリルよりも硬い。
ミスリル製の頑丈な剣使っても剣の方がダメージを負う。
だというのに、そこら辺の武器屋で適当に見繕っただけの安物の剣が通用する訳ないじゃん。
私としても長いこと一緒に旅してきた相棒をこんなとこで駄目にしたくないし、剣を使って倒すのは得策じゃないや。
安物っていっても長く使ってると愛着沸くんだよ。
安物の剣ってすぐ壊れるイメージだけど、丁寧に手入れしてやればいつまでも使えるのさ。
でも私が持ってる武器って剣だけだし……となると素手?
いやいや無理無理。アカンてそれは。
ミスリルより硬い鱗ぞ?
剣の方にダメージくる鱗ぞ?
ワンパンでアウトだわ。
「キシャアーッ!!」
攻撃を避けられてばかりでいい加減腹が立ったのか、下半身を主軸に攻撃していた蛇の魔物だがここで頭を振りかぶってきた。
真正面に迫ってきたそれを横に跳んで回避するが、しつこく私を追いかけてくる。
大口開けて牙を剥き出しに迫るその顔は一言で言うならキモい。
何度も不規則に後ろや横に跳んでるのにしっかりついて来やがる。
ついて来んでええっちゅうねん。
さてどうしようかしら。
剣は駄目、素手は当然駄目。
ならもう能力に頼るしか手はない。
一撃で殺れるなら問題ないけど、そうじゃない場合はかえって危なくなる。
ただでさえ狂暴なのに、中途半端に攻撃が通ると怒り心頭になって更に俊敏になるからね。
これ以上速く動かれると私でも対処が難しい。
蛇の魔物は一撃必殺。これ常識。
頑丈さが取り柄の魔物相手だとどうしても能力頼りになるな。
一瞬だけフォルス帝国の方に視線を巡らせる。
幸いにも結構距離があるため問題はなさそうだ。
平原にも私以外の人間は視界に入ってこない。
これなら大丈夫かな?
あんまし使いたくないんだけど……致し方ない。
蛇の魔物の攻撃を回避しながら口元を覆う黒い布を取る。
結び目がしゅるりと解けて、隠していた口が露になる。
おいロイド・フォルスよ。
お前私に聞いたよな? 声が出せないのかって。
私はその問いに喋れないと伝えた。
“声が出せない”ではなく“喋れない”。
声帯に異常を来して声を失っているのではなく、ただ単に喋ることができないだけなのだと。
お前はこの言葉遊びに気付いたかい?
多少距離があっても能力が発動するみたいだけど、流石にこの距離で心の声キャッチするのは無理があるだろう。
これはただの私の独り言だ。
だからあいつが私の能力を直に見ることもなければ、今の説明を聞くこともない。
もし私の能力の正体に気付いたら、まず間違いなく国に取り込もうとするだろうけど。
そうなったらロイド・フォルスとの取引を反故にしてでもフォルス帝国とさよならするさ。
国に縛られる気は更々ない。
取り込むつもりなら、どんなにオイシイ環境でも捨てざるを得ない。
砂煙を上げながら勢いをつけて足を止め、後ろを振り返る。
ずっと回避に努めていた私が唐突に止まったことに驚く蛇の魔物だったが、私が諦めたとでも思ったのかすぐに捕食者の目を称えて襲い掛かった。
私と蛇野郎の距離はどんどん短くなる。
そうだ。来い。
もっと……もっと近くに。
舌舐めずりして唇を湿らせて今か今かと待ち構える。
その距離あと1メートルを切ったところで、口を開いた。
『眠れ』
小さな声だった。
ギリギリ蛇の魔物に聞こえてるかいないかというほどの、とても小さな声。
けれどその小さすぎる声は充分すぎるほどにその力を発揮した。
私が言葉を紡いだ直後、蛇の魔物の瞳からまるで灯火を掻き消すように生き物としての光がすっと消えたのだ。
私を喰おうと大口を開けたまま倒れてくる巨体をひらりと跳んでかわす。
私が地に足を着けていた場所を蛇野郎の頭が素通りし、どしぃんっと地響きを起こして巨体は倒れ伏す。
動く気配はない。
あまりにも距離が近かったから突進してきた勢いを殺しきれなかったけど、良かったー。どうにか限界まで惹き付けることができて。
私の能力は強すぎるうえに制御が難しいから、限界まで近付いてくれないと使えないんだよね。
その証拠にホラ。
眠れって言っただけで息絶えてるよ。
眠りは眠りでも永遠の眠りだ。
能力の名称は『言霊使い』。
私の能力は主に放った単語に従って目的の現象を引き起こす。
例えば『燃えろ』と言えば燃えるし、『凍れ』と言えば凍る。そういう能力だ。
これだけ聞くと一言一言単語を放つだけで世界を意のままにできる便利能力と思えるが、そんな良いもんじゃない。
なにせ、効果範囲や対象物が指定できないのだ。
しかも声の大きさに比例して効果範囲が広がるし。
今回なんて眠れって言っただけで永遠の眠りに誘いざなっちゃったからな?
あんっだけ小さく小さく声抑えてたのにこの速効性。この威力。
普通の人が話すときの声量で能力を使おうものならどれだけの被害が出るか……ああ考えたくもない。
頭を抱えてため息を吐きそうになったがぐっと堪え、素早く黒い布で口元を隠す。
この黒い布も、亜空間鞄をくれたやつに作ってもらったものだ。
私の能力は放った声がそのまま言霊能力になってしまうので、意図的に能力を使うとき以外では声は出してはいけない。
だがあまり長いこと声を出さずにいると声帯が機能しなくなる恐れがある。
そこで、長時間声を出さなくとも声帯の機能がきちんと正常に働くように調整するための道具がこの黒い布って訳だ。
この布にはもうひとつ特殊加工がされてて、万が一声が出てしまっても黒い布が吸収して能力を霧散する……つまり、声を出したつもりでも実際は声が出てない状態になるのだ。
でも声帯はきちんと機能してる。素晴らしい。
こんな素晴らしい道具を作っちゃうなんてマジあいつパネェ。
次会ったときに礼言っとこう。
蛇野郎の死体は後で兵士に運んでもらおう。
ホワイトシープみたく切り刻んで亜空間鞄に入れようにも刃が通らないならそれも無理だし、兵士に頼るしかないや。
こいつの鱗は防具にも武器にも使えるからね。捨てるには勿体ない。
じゃあ鱗を剥がした蛇はどうするかって?
そんなもん食糧の足しにするに決まってんじゃん。
こいつの肉、クッソ硬い鱗からは想像もできないくらい柔らかくて美味しいんだー。
薄切りにして火で軽く炙って薄味のタレにつけて食べるのがツウな食べ方だぜ。
同じく薄切りにして茹でたやつを香草とドレッシングでさっと混ぜてサラダにしてもいい。
私の中のグルメランクではSなのだ。むふふ。
鱗は全部国にやる。その代わり肉を寄越せ。
私一人じゃ食べきれないから三分の二くらいロイド・フォルスに譲ってやるけど、残りはきっちり貰います。
討伐したの私だし、それくらいいいよね。
さて、解体後の蛇の一人議論はここまでにして。
問題はこいつが現れた経緯だ。
魔物も生き物だから、近付いてきたら気配で分かるはず。
知能なんてほぼ持ち合わせてない魔物が気配を遮断するなんて芸当は到底不可能。
それなのになんの前触れもなくいきなり目の前に現れた。
そのとき一瞬だけ魔物が現れる直前の場所に空間が歪んでたような気もする。
先も言った通り、魔物も生き物だ。
個体数を増やすには交配して子を成さないといけない。
交配なしに突然新たに出現するなんてあり得ない。
断言しよう。
これは明らかに自然現象じゃない。
誰かが故意にこの状況をつくったということだ。
やれやれ、ため息が出るよ。
喧嘩売られるようなことした覚えないってのに。
……いや待てよ。これはむしろご褒美では?
美味い肉をわざわざ用意してくれたんだぞ?ご褒美と言わずして何と言う!?
うおおおお有り難ぇぇぇ!!
ありがとう!私に喧嘩売った見知らぬ人!
この恩は忘れないよ!
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