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第三章 どうせなら楽しもうと思う

51 甘く、深く、忘れられぬ夜 ☆

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 裸のまま、ベッドから降りていくユージーンを目で追う。

(……あんまり筋肉が無くてほっそりしているのに、結構力あるんだよな……ところで、どうしたんだろう)

 不思議に思いながら、その後ろ姿を見ていたノアだったが、壁際の棚の中から何かを取り出し戻って来る時には慌てて目を逸らした。
 最後までしていないとはいえ、肌を合わせ、裸の姿も見せあっているが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

(目のやり場が……見たいけど、見れない……)

「ノア」
「は、はいっ!」

 返事の声が上ずってしまい恥ずかしくなりながら、ユージーンの顔だけを見るように努める。

「口を開けて」
「口?」
「そう」

 何か手に持っているが、それを見ようとすると色々な所も見てしまいそうで、ノアは言われた通り口を開けた。

「これを舐めて」
「ん? アメ?」

 喋るのが大変になるくらいの、大きめのアメ玉が口の中に入れられた。

「こりぇ、にゃに?」
「少しだけ、媚薬が入っているアメだそうだ」
「びっ?」

 驚き目を見開くノアの髪を撫で、こめかみに唇を押し当ててからユージーンは「大丈夫」と笑った。

「ほんの少しだ。少し酔ったような感じになり、痛みを感じにくくなる程度だそうだから、安心して」
「ん」

 そう言われて大人しく舐めている間に、ユージーンは蜜蝋製のロウソクに火を灯し、部屋の照明を消した。
 薄暗い部屋が、蜜蝋の甘い香りで満たされていく。

(俺が明るいと恥ずかしくて嫌だって言ったら、蜜蝋ロウソク用意してくれたんだよな。これ、前見たときすっげー高くてびっくりしたんだけど……甘やかされてるな、俺)

 ガラス製の小瓶を持ってベッドの上に戻ったユージーンが、ノアに向かって手を差し伸べた。

「さあ、おいで」
「ん……」
 
 膝立ちの状態でベッドの上を進んでいくと、アメで片方の頬を膨らませたノアを見て、ユージーンが笑う。

「可愛い。チルルのようだ」
「こうしておかなきゃ、話せないんだよ」

(チルルって、リスみたいなヤツだよな)

 そんな事を思い出しながら、ユージーンの太腿を跨いで抱きつく。恥ずかしいが、それでもこれが一番抵抗のない姿勢という事で落ち着いた。

(四つん這いになってとか、仰向けで身体を折ってとか……見られるって事がもう無理なんだよ、恥ずかしいんだよ! 知識はいっぱいあるけど、いや、あるからこそ、実践は覚悟がいるんだよ!)

 瓶の蓋が開けられる音がし、コポリ、と液体が立てる音と、甘い香りが漂ってくる。

「んっ……」

 香りの良いオイルを纏った指に谷間を撫でられ、ノアはギュッと目を瞑り、ユージーンの首に両手を回して抱きついた。この後しばらくの間はもう、ユージーンに身を委ねる事しかできない。
 上下されていた指がその場所を捉え、ゆるゆると撫でる。そしてゆっくりと侵入を始めると、ノアはユージーンの肩に口を押し付けて声を抑えた。

「……いつも言っているが……声を気にする必要はないんだぞ? 対策済みだ」
「俺が、恥ずかしいのっ」
 
 すぐに声を堪える事ができなくなる事はこれまでの経験で充分理解しているが、それでも、理性が働いているうちはできるだけ声を抑えようとしてしまう。

「ノアがそうしたいのなら、それでいいが」

 オイルのおかげで痛みなく入り込み、ゆっくりと動かされていた指がそのうちもう一本増え、中を探るように うごめく。

(あーまた、俺の弱いところ攻められる……いや、俺だけじゃなく誰でもか。だってあれだろ? 前立腺の)

「ああっ」

 今まさに考えていた所を刺激され、ノアは堪らず声を上げた。

「あ……ユージー……そこはっ」
「ここが、いいのだろう?」
「いい、けどっ、良くないっ! 我慢、できなくなる、からっ」
「我慢なんてする必要ない。さあ」

 抱き合っている身体の間に手が差し込まれ、前も同時に愛撫される。

「ああっ! ちょっ……ダメ、だって! そんなんされたらっ」
 
 思わず逃げ出しそうになり、密着した身体の間に隙間が出来たとき、

「んっ!?」

 口の中に、甘くトロリとしたものが溢れ、ノアは慌ててそれを飲み込んだ。しかし、突然の事だったので、口の端から零れてしまう。

(このアメ、中に液体入ってたんだ! 甘っ! 喉カッとする! めっちゃ強い酒、てか、ポーションか!)

 溢れた液体を拭おうと手の甲を口の端にもっていったが、ユージンがその手を捉え、握り締めてしまう。

「んーっ!」

 割れたアメがまだ残っているため、口を閉じたまま抗議の声を出すノアの口の端を、ユージーンの舌が舐めた。そして、そこから流れてしまった蜜を、あご、喉、胸へと舐めとっていく。そして、最後に唇に戻ると、閉じた唇をこじ開け舌を潜り込ませ、カラカラとアメの破片を転がした。

「……甘いな」
「……中に液体入ってるなんて……割れてびっくりしたんだけど」
「私も知らなかった」

 ムーッと頬を膨らませるノアのうなじを撫でながら、ユージーンは笑った。

「……どうだ? 媚薬は」
「なんか……少しフワフワする感じがするかも」
「そうか……どうする? ここで止めてもいいのだぞ?」

 瞳を覗き込んで尋ねるユージーンに、ノアははっきりと言った。

「止めない。最後まで、して」
「……わかった。それじゃあここからは、めてと言われても止まれない可能性があるからな」
「言わないし!」
「フッ……そうか」

 綺麗な笑みを浮かべたユージーンがノアの背中に腕を回し、ゆっくりとベッドに横たえる。
 両の足を開かれ、膝裏を抱えられ、ノアはギュッと目を瞑った。
 指で充分に解かされた入口に、指とは明らかに違うものがあてがわれるのを感じて正直恐くなるが、深呼吸を繰り返して平常を装う。

「さっきは止まれないかもと言ったが、辛かったら言ってくれ」

 そう言葉をかけ、ユージーンがゆっくりと腰を進める。
 オイルのおかげですんなりと入ったと思ったが、それは本当に最初だけで。

「んんっ……」

 圧倒的なその質量に、ノアは我慢しきれずに呻き声を漏らしてしまった。

「ノア、止めるか?」
「や、だ……止めないで、大丈夫、だから」

(……大丈夫、大丈夫、これまでちゃんと慣らしてきたんだから……)

 自分に言い聞かせ、中を押し広げながら 挿入はいってくる熱の塊を受け入れる。

「……だいたい、挿入はいった……大丈夫か?」

(これでだいたい? 全部じゃねーのかよっ!)

 若干ショックを受けながら、それでもノアは目を閉じたままコクコクと頷いた。
 無意識のうちに息を止めてしまっていたせいで、苦しいしクラクラする。

「すこ、少し、このままで……慣れる、まで……」
「ああ、わかった」

 深呼吸を繰り返し、どうにか今の状態には耐えられるようになって目を開けると、苦しそうに目を閉じ、唇をきつく結んでいるユージーンの顔が、長い銀色の髪の中に見えた。

(はあっ! ユージーン!)

 その顔がこれまで見た中でも特別に艶っぽくて、ドクンと胸が高鳴る。

「つっっ……ノア、締め付けるな」
「えっ? えっ?」
「―――っ!」
「えーっ! いやっ、俺っ、そんなつもりじゃ!」

 ユージーンの切なげな表情と言葉に、更に反応して自然と締め付けてしまったらしいノアは、慌てて心を落ちつけようと、深呼吸を繰り返していると、

「…………ハ――ッ」

 どうにか波を乗り越えたユージーンが、大きく息を吐いた。

「………少し、動いても?」
「いいよ、うん、大丈夫」

 許可を得て、ユージーンがゆっくり腰を動かす。
 引き抜かれ、再び挿入いれられ、最初は苦しいだけだったのが、だんだんと苦しさの中に快楽が混ざり、そして苦しさ自体が悦楽となる。

「ああ……ユージーン、ユージーン」

 熱に浮かされたように名前を呼ばれ、腕を掴まれ、ユージーンの動きも早く、大きくなっていく。

「あっ! あっ! あっ! あっ!」

 打ち込まれる快楽にノアは声を上げ、その声にユージーンは昂ぶる。

「あっ! んっ! んっ! もおっ!」
「ノアっ!」

 強く、最奥まで押し込まれ、目の奥が真っ白になって達したノアを強く強く抱きしめ、ユージーンもその奥に、欲望を注ぎ込んだ。
 





 目を覚ますと、目の前に銀髪の美しい寝顔があり、ノアはギョッとした。

(……綺麗すぎて、心臓に悪い……)

 ドキドキする心臓を宥め、明るくなりつつある部屋の中、ユージーンの顔を見つめた。

(まつ毛、長っ! 鼻、高っ! 美人は寝てても美人だな。……昨日はこの唇で、どこもかしこもキスされて……おっと、思い出したらダメだ!)

 体の奥がゾクッとし、ユージーンと少し距離を開けようとノアがモゾモゾ動いたとき、小さく呻き声を上げ、ユージーンがゆっくりと目を開けた。

「……ノア……」

 離れようとしていたのに引き寄せられ、足を絡められてしまったが、

「いっった!?」
「……?」

 体に痛みが走り思わず声を上げたノアを、驚いて見つめるユージーン。

「……どう、した……ああ!」

 寝起きでぼんやりとしていた表情が、パッと変わる。

「痛いのだな?」
「だ、大丈夫。急に動いたからで」
「いや、無理するな」

 何度か一緒に朝を迎え、寝起きが悪いと知ったユージンが、サッとベッドから降りるのを驚いて見ていると、

「さあ、飲んで」

 棚から取ってきたポーションを差し出された。

「え? いやいいよ、そんな、ポーション飲むほどじゃない」
「いや、飲んだ方がいい」
「いいって。もったいない」
「もったいなくない。これはノアの為に用意した物だから」
「俺の為に?」
「ああ、そうだ」

 そう言われ、頭を撫でられ、嬉しくてたまらない。

「アメもだけど……俺の為に、色々用意してくれてたんだ……」
「当然の事だろう」
「当然の事じゃないよ、ありがとう。でも、甘やかしすぎだよ、俺の事」
「? 甘やかしている?」
「うん。めちゃくちゃ、大切にされてる……」
「確かに、大切にはしている。だが決して、甘やかしてはいない。訓練中など特にな」
「あー、それはまあ、そうだけど……」

 訓練中の指導は厳しく、ユージーンの部屋を訪ねる時も同僚達から「また説教で呼び出されたのか? 大変だなぁ」「頑張れよ」と、心から同情した顔で言われる。

(まあ、そう思ってもらってた方が、都合がいいんだけど)

「とにかく、甘やかしているわけではないから、早くポーションを飲め」
「あ、うん……」

 再び差し出され、ノアはポーションを受け取り、蓋を開けかけたが、

「……あの……ポーション、もうちょっと様子見てから飲むよ」
「まだそんな事を……早く飲んだ方がいいだろう」
「いや、でも……」
「でも?」
「う~~~……」

 ノアはしばらく唸っていたが、はっきり理由を言わなければ納得してもらえないと腹をくくった。

「あの、さ! ちょっと痛いけど我慢できないほどじゃないし、それにその……痛い方が、ホントにユージーンと最後までしたんだって、思えるから……」
「……えっ?」
「だ、ってさ! ユージーンが魔法でキレイにしてくれたから、身体もベタベタしてないし、ベッドもサラッとして気持ちいいし、いつも通りで……でも、身体が痛いから、夢じゃなくて本当だったんだって思える……だから、それをもう少し味わっていたくて……いや、少ししたら飲むけどねっ!」

 真っ赤になりながらそう話すノアに、ユージーンは片手を額にあて、首を横に振った。

「……もう……どうすればいいんだ? どうしてノアはそうなんだ」
「へっ? わっ! いててっ!」

 抱きしめられ、驚くし痛いしで、ノアは声を上げたが、ユージーンはそれを無視してギューッと抱きしめる。

「そんな事を言われたら、可愛いし愛おしいし嬉しいし、どうしていいかわからなくなる」
「と、とりあえず離して安静にしておいてくれれば」
「無理だ。離すなんてできない。ポーションを飲まないのはノアの希望なのだから、我慢しろ」
「え? ちょっとちょっと!」
「大丈夫、無理をさせるつもりはない」
 
 そう言うと、ユージーンはノアを包むように抱きしめ、一緒にベッドに横になった。

「ノア、食事は昼まで我慢できるか?」
「え? うん」
「それならば、もうひと眠りしよう。私も昨晩の余韻を、じっくり味わっていたい」
「ん……わかった」

 そうして二人は肌を合わせ、互いの体温を感じながら、幸せな気持ちで目を閉じた。





☆ 次回、エピローグです。
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